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第51話 『ネズミにご用心』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第51話
『ネズミにご用心』




「えっと、あなた達こそ、なんなんですか。突然……」



 女性は一歩、私達から離れるように下がると、懐から拳銃を取り出した。そして弾があることを確認すると、地面に向けて発砲する。



「質問をしているのは私達だ!!」



 怖い。すごく怖い。化けネズミの次は武器も持った集団だ。



「僕達は除霊の依頼できたんです!! 地下から物音がすると依頼があったんです!!」



「除霊……。ふん、そんなもの信じられるか。なら、変わったものを見せてみるんだな」



 証拠を見せろと言われても、リエは私の力が姿を表すことはできない。そうなると方法は……。



 私は腰を曲げて頭に乗っているのものを前に突き出す。



 中佐や囲んでいる人々は黒猫に何か起こるのかと注視する。



「俺とミーちゃんは見せ物じゃねー!!!!」



「猫が喋ったァァァ!!」



 黒猫が喋ったことに驚き、両手を上げて驚く人々。中佐は黒猫に顔を近づけると、指先で黒猫のほっぺたを突く。



「なぜ、猫が……。ジャパニーズ魔女か!!」



 中佐達が不思議な猫と一緒にいる私に興味を持つ。私は胸を張って



「いいえ、私は霊能力者よ」



「ほ、本当に霊能力者がいるなんて……」



 黒猫のおかげで信じてもらえたようだ。しかし、すぐには解放してもらえない。隊員の一人が無線で仲間に連絡をとり、駅員に本当に除霊の依頼があったのは確認を取る。



 確認をしている間、私達は怪しいものを持っていないか、持ち物の確認をされる。
 その時、あるものが発見された。



「中佐……これって…………」



 私が受け取ったネックレスを発見し、奪い取ると中佐はそれを確認する。



「どこでこれを手に入れた」



「道中でネズミの化け物に襲われて、逃げてる時にピッケルを持った人に渡された……」



「本当か?」



「はい」



 中佐はネックレスに付いている文字の彫られた四角い装飾品を撫でる。



「中佐、信じるんですか?」



「信じはしない。だが、これが我々の元に戻ってきたのは事実だ」



 中佐はネックレスを部下に渡し、大切に保管させる。



「ピッケルの人物と言っていたな。まさか、リュウか?」



「リュウ?」



 私は首を傾げる。あの時は必死だったし、名前を聞く余裕なんてなかった。



「知らないなら良い」



 ムッとした顔で無愛想な返事をする中佐。そんな中佐に無線を終えた部下が報告をした。



「除霊の依頼はどうやら事実のようです。事情はこちらで説明しました。どうします?」



「そうか。なら、解放しろ」



 やっと私達の拘束が解除された。とはいえ、捕まっていたのは私と楓ちゃんだけだ。
 リエは見えていないし、黒猫は可愛がられていた。



 中佐は私達に背を向けると、目線を合わせずに



「ついて来い。君たちを保護する」






 中佐達に案内され通路を進む。さっきの道からほぼ一本道だが、途中で無人の地下駅を通り過ぎた。
 そして駅を抜けて五分ほど歩くと、線路の奥に脱線して止まっている電車が止まっていた。



 車輪が線路から大きく外れており、前の方の車両は横転している。しかし、彼らのいる後ろの車両はほぼ無傷であり、そこを彼らは活用していた。



「ここが我々の拠点だ。まずはオヤ…………。大佐に会ってもらおうか」



 無線ですでに事情は話してあるようで、拠点内にいる人達は道を開けて通してくれる。



「レイ。こいつらの格好……」



 頭の上にいる黒猫が耳元で呟く。



「ええ、テレビとかで見る軍隊みたいね」



「自衛隊か? だが、それにしては……」



「外国人が多いよね。それも特定の国ってより他国から集めた感じ? 色んな人いるし……」



 中佐達もそうだが、彼らは軍隊ぽい服を着ており、武器も持っている。人種も様々でまとまりがない。



 私と黒猫が小声で話していると、その声が聞こえたのか、中佐が無言で睨みつけてくる。
 私達はその蛇のような鋭い眼差しに怯えてしまい、身体を縮こます。



 後ろの車両から五号車目の車両に着くと、中佐はしまっている扉をノックする。



「大佐、例の一般人を連れてきました」



「入れ」



 本来なら自動ドアのはずの扉を、両手で力一杯に引っ張って開ける。
 中佐は私達に中に入るように促し、背中を叩いて押し込んだ。ちょっとでも戸惑えばすぐに背中を引っ叩かれて、ヒリヒリと熱のような痛みを感じる。



「よく来てくれた」



 車両の中は改造されており、元々あったであろう椅子や手すりは撤去され、ホワイトボードと資料の並べられた本棚がずらりと並ぶ。
 そして扉の向かい側には机に肘を置き、立派な髭を携えた黒人男性が座っていた。



「霊宮寺くんと坂本くん、それと……猫のチャーリー」



「誰がチャーリーだ!! タカヒロとミーちゃんだ!!」



「そうだったな。それと……幽霊の嬢ちゃんだな」



 大佐の視線は私の横でふわふわと浮いているリエに向く。中佐は目を細めて凝らしているが、見えないようだ。



「リエが見えるんですか?」



 私が尋ねると大佐は背もたれに寄りかかる。



「モヤが見える程度。はっきりとは見えてない」



「親父…………。大佐、霊感があったんですか? 初耳です」



「イザベラ。職務中は大佐と呼べと言ったよな」



「大佐。職務中は中佐をつけることをお忘れなく……」



 中佐の鋭い眼差しには大佐も怖気付いている様子だ。



「イザベラ中佐には言ってなかったが、ほんの少し、そうほんの少しだけ見える。だが、職務に影響があるレベルじゃない」



 大佐は親指と人差し指の距離で、その影響の距離感を表現する。



「だから伝えてはいなかったんだ」



 納得はしてないようだが、反論する気もないようで中佐は黙って部屋の端に移動した。
 大佐は背もたれから背中を離すと、両肘を机につけて指を組ませる。そして私達の顔を見た。



「さてとまずは私の紹介をしようか。私はジェイコブ・マーティン。この部隊の指揮をしているものだ。君達、例の怪物に会ったんだってな」



「はい……」



 例の怪物。恐らくはあの巨大ネズミのことを言っているのだろう。
 私達が頷くと大佐は一度頷き。



「大変だったろう。よく逃げ切れたな」



「助けてもらって……ですけどね」



「それでも奴らは凶暴だからな。すでに我々は仲間を何人も失った……」



 大佐が仲間のことを思って、目を瞑る。そんな中、中佐はさっき私から奪い取ったネックレスを手に持って大佐の元に行く。



「大佐、これを……。彼らが持っていたものです」



「これは……。マルクの……」



 ネックレスを受け取った大佐は、ネックレスに彫られた文字を指でなぞる。



「よく戻ってきた……」



 大佐は独り言を呟いた後、ネックレスを中佐に返し、私達に目線を合わせる。



「あれを届けて入れたこと、感謝するよ」



「……私達は渡されただけですけどね…………」



「さて、まずはあの生物がなんだったのか、君たちに説明しよう」



 大佐は机に伏せられていた書類を表にして、私たちに見える位置に動かす。その様子を見ていた中佐は焦り出し、机の上に飛びついて書類を隠した。



「何をしてるんですか!! これは世間に発表していないもの、これを知られては……」



 焦る様子の中佐とは対照的に、大佐は冷静に机に飛びついた中佐を片手で持ち上げて引き剥がす。



「彼らは奴らに襲われたんだ。まずは安心させることが優先だ」



 背中の服を掴まれて、猫のように持ち上げられた中佐は、手足を動かして暴れる。
 中佐の身長は175前後で、筋肉質な体をしている。そんな人間を軽々と持ち上げ、殴られたり蹴られたりしているのに大佐は微動だにしない。



「ならば、せめて彼らに外でこのことを口外しないように口止めをしてからでも!!」



「そんなことをして本当に意味があるか? このことは外で言いませんと書いた紙にサインをさせるのか? 書類上の約束だ、俺は信じられないな」



「だとしても、書かせるべきです!! 地上でパニックが起こる可能性を減らすためにも!! そうすれば、地上の政府機関に言い訳が立つ!」



 中佐と言い合いになり、大佐は眉間に皺を寄せると、中佐を持ち上げて投げ飛ばした。
 中佐の身体は宙を舞い、ホワイトボードを押し倒して壁に激突する。



「それで口を滑らせたものを始末するのか!! そんな方法を続けていてもいつかはバレるぞ」



 鬼のような怖い顔で大佐が怒鳴りつける。倒れたホワイトボードを退かし、壁に手をつきながら中佐は立ち上がる。



「それでもそのいつかを遅らせられるのならば…………」



 投げ飛ばされて痛いはずなのに、それでも反論をしようとする中佐。その様子にさらに顔を赤くして噴火しそうな大佐がジリジリと中佐に近づく。



 今にも殴り合いが始まりそうな状態。私は二人を止めるため、手を振るわせながら上げた。



「あ、あの~、言わなければ良いんですよね……。言わないので、そこまでで…………」



 その後、二人は喧嘩を止め、少し話し合いをした後、大佐の命令通りに書類を書くことはなく話を聞けることになった。



 中佐は壁に寄りかかり、投げられた時に痛めた腕に包帯を巻く。大佐が説明を始めても文句を言わずに、その場で見守る。



「では改めて。あの巨大ネズミ。あれを我々はギガンズと呼んでいる」



 大佐は机にある書類を私たちに見せる。そこにはモノクロの写真に、巨大なネズミの姿が写っていた。



「ギガンズは地底の世界からやってきた訪問者だ。富士の樹海、南極の海底洞窟、そしてこの地下道。いくつもの箇所からギガンズを発見し、彼らは何かを守っていることも分かった」



 ネズミの写真の横にはワニや蛇のような写真が収められている。
 その写真の動物もあのネズミのように巨大なのだろう。



「だが、安心して欲しい。それを研究しているのが私達、シュトレンだ。最新の装備、最新の機器を揃えて、ギガンズに対抗している。だから地上へ出ることはない」



 かなりの自信があるようで、大佐の声が大きくなっていく。



「君達をこれから地上まで連れて行く。我々がいるとはいえ、もう二度とここには入らないようにした方が身のためだ」



 大佐が話し終えて、これから地上まで連れ出して来れるという話になった。
 もう来ないようにと念を押されたが、言われなくても二度と来たくはない。



 大佐が地下鉄の地図を取り出して、ルートを説明しようとしてくれた時、近くで大きな爆発音がした。
 そして電車が大きく揺れる。



 爆発の音で耳がキーンとして耳鳴りがする。私達は音にびっくりして楓ちゃんの後ろに隠れる。



「何が起きた!?」



 中佐が扉を開けて外の様子を確認に向かう。中佐が扉から顔を出すと、私達がやってきた地下道の方が赤い光に包まれていた。



「大佐、中佐!! 大変です!!」



 爆発の起きた場所から一人の兵士が走ってくる。兵士は息を切らせながら報告をする。



「や、奴らが攻めてきました!!」



「なんだと!? なぜ突然!!!!」



 地下道に銃声と爆音が響き渡る。室内にいる大佐は中から兵士に問いかける。



「戦況はどうなってる?」



「かなり厳しい状態です……」



「そうか……。特殊甲冑部隊を出動させろ!!」



 大佐は声を張り上げて司令を出す。



「か、甲冑部隊をですか!!」



 兵士と中佐は目を見開き、驚きの表情を見せる。



「この人達を安心させるためにも我々が奴らを蹂躙するところを見せようじゃないか。それに理由はともあれ、攻めてきたのなら好都合。エネルギー切れを気にせずに、全力で最新装備を使える」






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