上 下
56 / 105

第56話 『鬼ごっこタイム』

しおりを挟む
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第56話
『鬼ごっこタイム』




「愛が足りないとこうなっちゃう。でも、私信じてるから、皆んな私に愛があるって!!」



 ランランがそう言った後、左右と後ろ。ステージのある場所以外の壁が動き出し、奥につながる通路が現れる。



「それじゃぁ、開始するよ~!! スタット!!」



 ランランが指パッチンをすると、画面が切り替わり時間が表示される。そして、



「巨人が動き出したぞ!?」



「こっちに来る!! 助けてくれー!!」



 ステージの前の方にいたファン達を襲い始めた。



「ほ、本気なのか…………………逃げ、逃げろォォォォォ!!!!」



 一人が現れた通路に逃げ込むと、流れるように次々と左右、そして後ろにある通路へと逃げ始める。



「お姉さんも逃げましょう!!」



 高校生カップルが私の手を引っ張って、右の通路へ走り出す。私と黒猫はカップルにつけられて巨人から離れる。



 巨人はまだ残っている人々を片っ端から追いかけているようで、まだこちらに来る様子はない。
 しばらく通路を走り続けて、巨人のいる部屋が見えなくなったところで足を止めた。



「お姉さん、大丈夫ですか?」



「はぁはぁはぁ……だい、ジョウブ…………」



 息を切らしている私の背中を、彼女さんは摩ってくれる。



「あなた達、体力あるのね……」



「僕達陸上部ですから。走るのには自信があるんです!!」



 だから息も切らさないし、走るのも早いんだ。
 鬼ごっこ有利じゃん!!



 だいぶ息が整い、楽になってきた。私が休憩している間、カップルの二人は同じ方向へと逃げてきた数名と状況の話し合いをしていた。
 話し合いに参加しても良かったが、その前に私はある疑問を黒猫に聞く。



「さっきあのデカいの悪霊って言ってたよね」



「ああ、あの霊力。悪霊だ」



「なんでランランの言うこと聞いてるの? 悪霊って仲良くなれるの?」



 私の疑問に黒猫は首を振る。



「じゃあなんで……」



「さぁな。悪霊は霊力の集合体。生命エネルギーを求めて食らうだけの存在だ。それを操る手段を奴らは持ってるってことだ」



 黒猫は何か気づいているようで、気になるようなことを口にしたが、それを聞く前にカップルの二人が私のことを呼ぶ。



「お姉さんも来て話に参加してください。今後についてです」






 カップルに呼ばれ、私は話し合いのメンバーに参加する。私の含め、八人の人々がそこには集まっており、全員が右の通路に逃げ込み、早い段階で足を止めたもの達。
 多くのものは通路の奥や元の場所に戻ってしまっており、この場に留まっていたのはこのメンバーだけだった。



 話し合いを進んでいるようで、私が喋らなくても勝手に話が進んでいく。



「ランランちゃんがあんなことするなんて……俺は信じねーぞ!!」



「その話はさっき終わっただろ。今はどうやって帰るかだ」



「スペードとかのマークを集めるって言ってましたよね。どこにあるんでしょう」



「なぁ、トランプのマークを集めて鬼から逃げるって……これ…………」



 そしてファンの一人があることを口にした。



「配信でやってたゲームじゃね?」



「ああ、それ俺も思ってた……」



 一人が口にすると、次々と、



「私も……」



「僕も……」



 と。それは私も同様だ。私も今日の配信を見ていた。その時にやっていたゲームが、これと似た鬼ごっこゲームだった。
 マップや鬼、プレイヤー数など所々は違うが、トランプのマークを集めるところや、鬼に捕まったらゲームオーバーのところも似ている。



「じゃあ、ランランちゃんの言う通り、家に帰るためには四つのマークを集めないといけないんですね……」



 私は集まった人達の周囲を探索して、例のマークを探し始める。
 ここは学校のような場所で、通路の左右には扉があり、音楽室や理科室のような専門の部屋などが設置されている。



 そのような部屋を探索していき、3部屋目のロッカーの中で、



「あ、これ。ハートのマークですよ!!」



 私達はやっと一つのマークを探し出すことができた。



「これだけ広い場所だ。一つ見つけられただけでもラッキーだった」



「ああ、ゲームのように同じ模様が複数あるのかもしれないな」



 ハートマークを見つけ、一安心した私達だったが、通路に出ると足音がこちらに近づいてきていることに気づいた。



「何か着てませんか?」



「うん、足音のような……」



 最初に気づいたのはカップルの二人。そしてその足音に最も近くにいた主婦が叫び声を上げた。



「鬼だァァァァ………………っ!?」




 叫び声が途中で止まり、何かが潰れる音が響く。鬼の接近により私達は散り散りになり、逃げ始めた。



 私は走りながら独り言を呟く。



「なんで最近走ってばっかりなのよ……」



 化けネズミに追われ、さらには巨人に追われる。なんでこんな短期間で逃げ回らないといけないことばかり、起こるのだろう。



「文句を言ってないで走れ~。鬼はそこまで来てるぞ~」



 頭の上で後ろの様子を報告してくる黒猫。今すぐに自分で走れと、走らせたいがそんな余裕もなく。必死に走り続ける。



 やがて体力的な限界を感じた私は、近くにあった部屋に入る。そこは更衣室であり、ロッカーの並ぶ部屋だった。



 適当なロッカーを選び、私は中に隠れる。



「こんなところに隠れて大丈夫なのか?」



「はぁはぁ、このまま逃げてても追いつかれるでしょ…………なら、隠れるしかないのよ」



 ロッカーに隠れてすぐ部屋の扉が開き、何者かが入ってくる。その足音は重たく、歩くたびにロッカーが上下する。



「もしかして……」



「鬼だな」



 巨人は部屋の中に逃げてきたものがいないか、探し回る。そして私達の隠れているロッカーの前で足を止めた。



「見つかった?」



 巨人はナタを振り上げると、ロッカーに突き刺した。
 しかし、刺したのは私たちのいるロッカーの隣のロッカー。そして刺したロッカーの蓋ごと、中にいた人物を引っこ抜いた。



「や、やべでぇぇ」



 隣のロッカーに隠れていたのは、一緒にハートのマークを見つけた中年男性。中年男性の腹をナタが貫通し、白目を剥いている。



 巨人はナタを振り回すと、蓋と男性を投げ飛ばし、部屋を出て行った。
 巨人が姿を消し、私達はやっとロッカーから出れた。



「行ったみたいね……」



「ああ、だがコイツは……」



 黒猫はナタで突き刺された男性に目をやる。すでに意識はなく、回復の見込みもない。



「この人……。元の場所に帰ったら生き返るのかな?」



「それはないな。ここはゲームの世界じゃない。現実だ、例えゲームをクリアしたとしても……」



「……そう、なのね」



 男性を置いて私達は更衣室を出る。通路も悲惨な状態で、肉片が散らばっていた。



「あ!! あれって!!」



 鬼にやられた人たちの中に、私はあるものを発見した。



「ハートのマーク……。持ってた人やられちゃったのね……」



 落ちていたのはハートのマーク。みんなで発見したものだが、拾った人がやられてしまったらしい。私は手を伸ばし、ハートを取ろうとする。



「待て!!」



 そんな私は黒猫が止めた。黒猫は身を乗り出すように、前身に身体を動かす。それにより頭の前方に体重がかかり、首がコキっと曲がりそうになる。



「何よ……」



 私は首に力を入れて耐える。これを続けていれば、首マッチョになってしまう。



「そのマーク。脱出には関係なさそうだ」



 黒猫が元の位置に戻り、ちょっと楽になる。



 黒猫が乗ってることに慣れてきていた私は、首が太くなってないか。心配になり、首に手を触れて確認する。


 なんだか太くなってる気もするが……。



「おいレイ!! 聞いてるか!!」



 ショックを受けている私に黒猫が話しかけてくる。



「なによ」



 不機嫌気味に答えると、黒猫は少し困った顔をしたが、話を進めた。



「まずレイ。お前はここがどこか知ってるか?」



「え? あー、どっかの異世界?」



「違う。まぁ合ってるとも言えるが。ここは霊力で囲われた現実の建物だ」



「え!? そうなの!!」



 私が驚いている中、黒猫は説明を続ける。



「どういうつもりか分からないが、あのランランって奴。複数人の協力者と結託してこのゲームを始めたらしい」



「複数人の協力者?」



「俺の霊感じゃ詳しくは分からないが、この建物全体を霊気が囲ってる霊気は、ランランのものじゃない。……後は」



 黒猫は拾わなかったハートのマークを、尻尾で見るように示す。



「このマークには霊力の糸が紐づけられてる。それも悪霊にな。このマークを持ってくれば、悪霊がやってくる。そういう仕組みになってるんだ」



「え!? それじゃあ、四つ集める前に……!!」



「絶対に捕まる。このゲームは元々クリアできないように作られてたんだ」



 黒猫の説明を聞いた私は怒りが湧き上がり、地面に足をつけてジタバタする。



「なによ、何が愛のゲームよ!! クリアさせる気がないんじゃない!! 文句言ってやる!!」



 私は勢い任せにそんなことを口にするが、実際にその気はない。
 ランランの元に行っても悪霊が現れるかもしれないし、文句を言ったからと言ってどうなるってわけじゃない。
 しかし、そんな私の言葉に、



「ああ、そうしよう」



 黒猫は賛同した。



「え!? 本気なの」



「本気だ。お前は冗談混じりで言ったんだろうが、そうするしか今は手がない」



「でも行っても、鬼が来るかも……」



「確かに来るだろうな。だが、その前に決着をつければ良い。俺に策がある」









 黒猫に説得された私は通路を歩き、一番最初にいたフロアを目指していた。
 途中で高校生カップルの彼女と再会したが、彼氏と逸れてしまい、探している様子だった。だいぶ錯乱している様子だったので、一緒にいたかったが黒猫に置いて行くように説得され、彼女さんとは離れた。



 しばらく歩き、一番最初にいたフロアに戻った。
 フロアは悲惨な状態であり、鬼の被害にあった人達が転がっている。



 私はそんな中を歩いていき、ステージの前に立った。



「ランラン。私達を元の場所に戻しなさい」



 そしてステージでニコニコしているランランに話しかける。



「なーんで? 私は皆んなとゲームしてるだけだよ~?」



「こんなゲームでファンが楽しむと思ってるの?」



「ん~? ランランはみんなの愛を感じられれば良いの。そんなこと~わかーんなーい」



 このまま話していても意味がないと判断した私は、ステージに両手をつき、舞台に登ろうとする。



「あー、登っちゃダメだよ~。そんなことすると」



 私が片足を舞台に上げたところで、ドスドスと足音が聞こえてくる。



「鬼を呼んじゃうよー」



 そして通路からナタを持った巨人がやってきた。



「悪霊!? ど、どうしよう!!」



 強行手段に出ようとすれば、鬼を呼ばれる。予想通りの展開だ。



「レイ、今だ!! 俺とミーちゃんを投げろ!!」



「分かってるよ!!」



 私はステージに登るのをやめると、悪霊がここまでたどり着く前に、黒猫をある場所に向かって投げた。



 それはここに連れてこられたときの最初の被害者。そして本当のランランの中の人……。



 投げられた黒猫は、肉片の下に隠れている人物の手から、七色に輝く石を奪い取った。



「よぉ、久しぶりだな」



 黒猫は石を咥え、奪い取った人物に向かって話しかける。
 石が黒猫に渡ると、悪霊は足を止めてその場で座り込む。これで悪霊に襲われることはなくなった。



「ネコ!? なんでネコが喋って……いや、なんで私のことが!!!!」



 石を取られ、肉片の中から立ち上がり姿を現す。その人物は……。



「タカヒロさんの予想通り、姿を現したね。加藤さん!!」



 私たちの事務所に依頼に来た加藤さんだった。
 加藤さんが姿を現すと、ステージ上のランランは霧になって姿を消した。



 石を咥えた黒猫は私の元に戻ってきて、私の頭に乗ると、石を私に預けた。



「なんで私がランランの中の人だと……」



 加藤さんは私たちのことを睨みつけ、疑問を投げる。私は説明する気がないため、頭を前に突き出し、黒猫に説明するように促した。
 面倒そうに尻尾を振っていた黒猫だが、諦めて説明を始める。



「悪霊を操る手段。どんな方法かは知らなかったが、悪霊ほど強力な霊体を操作するんだ、強力な霊力がいる。それに離れた距離からじゃ、その霊力も送りきれない。なら、悪霊を操る霊能力者はこのゲーム会場にいる。そういう考えに至った」



「だとしても、私だとは分からないだろ」



「ああ、確かに霊力を持たないのは事務所で知ってた。だが、そんな人間がここに来たら霊力を持ってるんだ。そりゃ、怪しいよな」



 黒猫は私の持つ石に目線を向けた。



「ねぇ、タカヒロさん。これってどうやって使うの? 私にはただの石にしか見えないんだけど」



「ん、そうだな……。せっかくだし」



 黒猫は私の肩まで降りると、私の手にある石を肉球で触った。すると、座り込んでいた悪霊が動き出し、加藤さんに近づいていく。



「なっ!? なっ!? やめてくれ!!」



「霊力を増大させ、悪霊に送ってる……? いや、もう少し複雑か……」



 黒猫は悪霊を操ると、加藤さんを捕まえさせて拘束した。捕まえた加藤さんにナタを近づけると、



「さてと目的とかを知りたいところだが、それはコイツの兄貴に任せるとするか。皆んなを元の場所に帰してもらおうか」



「それは私にはできない!! ここに連れてきたのも、この場所を仕切ってるのも、私じゃないんだ!!」



「ならソイツに頼むんだな。そうしないと……」



 まるで悪役のような脅しをやる黒猫。そんな中、加藤さんの胸ポケットにある携帯電話が鳴り出した。
 黒猫は「出ろ」と命令し、携帯電話の音量を上げさせ、私たちにも聞こえるようにする。



「加藤ォ、どうやらしくじったようだなァ」



「すみません……」



「まぁ、ソイツは仕方がないさァ。なんたってそこにいるのは国木田の悪霊を倒した女だからなァ」



「…………そんな!?」



「しかし、魔道具を盗まれるのは許し難い失態だァ」



 その言葉が聞こえてすぐ、事態が動いた。



「え!?」



「いつの間に!!」



 それは一瞬の出来事? いや、時間など経っていない。突如、加藤さんの背後にシスターが現れると、加藤さんの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。



「ぶはぁっ!?」



 加藤さんは何が起きたのかも分からず、ただやられるがまま地面を見つめる。
 一度だけではなく、何度も地面に叩きつけてやがて加藤さんは意識を失った。



 加藤さんを肩に抱えると、シスターは私と黒猫のことを冷たい目で睨む。
 その瞳に怖気付き、私達は一歩退いた。



「それも……返してもらう」



 シスターが小さな声で呟くと、私の持っていた石がいつも何かシスターの手の中に移動していた。



「おい、何やってんだ!!」



「私は何もしてないよ!!」



 シスターは薄ら笑いでやってやったぜって表情をすると、ピースをして、



「……じゃ」



 今度は加藤さんと悪霊を連れて消えてしまった。そして残った携帯電話のみ、まだ通話は続いており、声が聞こえてきた。



「おォっと。霊宮寺君、そして猫君。どうやら今回も我々の負けのようだァ。君達の望み通り、君達とそこにいるファン達は元の場所に戻そう」



「お前達は何者なんだ!!」



「それは時期に分かるさ」



 私と黒猫は携帯電話に近づき、電話の相手が誰なのかを知ろうとする。しかし、



「え!? ここは!!」



 電話に手を伸ばした時、私達の目の前にテレビ画面が映し出された。



「…………事務所」



 私達は帰ってきていた。気づいた時にはすでに事務所にいたのだ。



「……もう霊力も感じない。どうなってるんだ」



「戻ってきたの……。テレビ、テレビをつけるのよ!! 配信はどうなったの!?」



 私は急いで配信をつけ直す。しかし、配信はすでに終了しており、コメントを見ることはできなかった。
 だが!!



「待て、関連動画!! 俺達と同じ体験をした人の動画が上がってるぞ!!」



 黒猫が関連動画でランランについての動画を発見した。その動画では気づいたらおかしな空間におり、ゲームのような体験をしたと話していた。
 そしてコメントでも同様のことが書かれている。



「ふぁぁあ、レイさん……タカヒロさん、何騒いでるんですか?」



 ソファーで腕を伸ばしてリエが起き上がる。



「今まで寝てたの!?」



「はい? どうしたんですか?」



「私達が大変だった間……アンタは…………」






しおりを挟む

処理中です...