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第84話 『秘密結社』
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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第84話
『秘密結社』
今日も平和にうとうとと……。事務所のソファーで寛いでいると、楓ちゃんが黒猫を抱いてやってきた。
「おいレイ。俺と楓はこれからちょっと出かけてくる。留守番頼んだぞ」
「あら、アンタが外に出るって珍しいじゃない?」
普段はミーちゃんの安全のために、私達と出る時以外は家の中にいる黒猫が今日は出かけてくると言った。
「前に襲ってきた連中いるだろ。アイツらについて幸助に調べてもらってたんだ。んで、情報が出てな。直接話したいんだってよ」
「僕は師匠の付き添いです!!」
襲ってきた連中というのは、ランランやシスター達のことだ。彼らに狙われるようになり、警戒を強めた黒猫は京子ちゃんや幸助ちゃんの力を借りて色々調べていたようだ。
「じゃあ、気をつけて行ってくるのよ」
「おう!」
「はーい!」
黒猫と楓ちゃんを見送ると、リビングでテレビを見ていたリエが叫ぶ。
「レイさ~ん、ちょっと来てください!!」
「なーにー?」
呼ばれたので早歩きでリビングに戻る。リビングでは私がいたはずのソファーを奪い取り、堂々と寝そべっているリエがテレビを見ていた。
「レイさん、これ! この事件の場所近くないですか?」
「んー? あー、そうね」
テレビではここ数ヶ月で起きた連続行方不明事件について取り上げられていた。確かに近くであるため近くだと答えたが、事件が起きている範囲は数駅まで先まで含まれており、私達の住む街も入ってはいるものの、実際の現場は何駅か先だ。
「犯人は捕まったの?」
「いえ、まだ見たいですよ。というか、現在進行中で事件は起きています。私達も気をつけないとですね」
「気をつけるって私はともかく、幽霊のアンタは大丈夫よ~」
「それもそうですね!!」
私達は二人して笑っていると、玄関のチャイムが鳴らされた。
「楓さん達忘れ物でもしたんでしょうか?」
「さぁ? 依頼人かもしれないし出てくるね」
私はもう一度玄関へと向かう。
扉の先にいるのは楓ちゃん達か、それとも依頼人か。
急かすようにチャイムが再び鳴らされる。
「はーい。今開けますよー」
私が扉を開けると、そこには見覚えのある人物がいた。
いつもと変わらない服装、仕草。しかし、表情だけは違った。暗く、瞳には光がない。そんな顔に私は心配になり声をかける。
「ねぇ、何があったの? どうしたのよ、スキ………………っ」
唐突の出来事に私の思考は止まる。馴染みがあり、信頼していた人物に突如殴られ、私は気を失った。
「…………」
目が覚めると、私は自室のベッドで横になっていた。
「起きたか、レイ」
そして目覚めた私の視界にはベッドの隣で椅子を出して座っている楓ちゃんと、その隣の化粧台の上で座っている黒猫が映る。
「何があったの?」
私はベッドで身体を起こしてその場で座る。人の部屋に入り込んでいる二人のことは後で怒るとして、今は何が起こったのかを知りたい。
「リエが誘拐された」
リエが!? っと叫びそうになったが、私はその声を押し留めた。前にも同じことはあった。それにシスターに立って狙われてたんだ。また誘拐されてもおかしくはない。
しかし、…………私はテレビを見ていた時、あることを口にした。それがフラグになってしまったのかもしれないと、後悔する。
「んでだ。レイ」
黒猫は化粧台から私の座っているベッドへ飛び移る。そして堂々と座ると、両手で勢いよくベッドを叩いた。
「今回もリエを助けにいくんだよな!!」
黒猫は力強く問いかけてくる。そこまで強く言われると、私はちょっと怖くなる。だが、
「当然じゃない!!」
この前のようになるのは嫌だ。今回は絶対に助け出すんだ。
「そう聞けて安心した」
「でも、どこに連れてかけたの? 前と同じ廃墟?」
「違う。同じところを拠点にする馬鹿がどこにいる」
「じゃあどこなのよ?」
私が聞くと、黒猫はベッドから降りて廊下へ出る。言葉にはしないが付いて来いってことだろう……。
私と楓ちゃんは顔を合わせた後、二人で黒猫の後をついていく。黒猫はリビングに行くと、廊下の正面にある窓から外を覗き込んだ。
「あそこに見える大きなビルがあるだろ?」
「あー、夏頃にできたビルね。貴重な看板があって気持ち悪い……」
半年前くらいに凄まじい速さで建築が始まり、あっという間に出来上がった高層ビル。そのビルの正面には緑色の三角形に目玉の描かれた看板が立て付けてあるのだ。
「あれが奴らの本拠地だ」
「え? 本拠地? 支部とかじゃなくて…………」
「本拠地だ」
リエを誘拐した主犯。いわばラスボスがご近所にいた。
黒猫はビルを見ながら、話を続ける。
「幸助と調べて分かった。彼らはアルターと言い、秘密結社と呼ばれている。国木田 治、加藤 正村、関 フウカ…………そしてフェリシア・アルカード。他にも数名、組織のメンバーが分かった」
流石は探偵。そんなことまで調べられたんだ。私が感心していると、玄関の方から声が聞こえてくる。
「行くならさっさと行こうぜ」
声の聞こえた方を振り向くと、ジャージ姿の黒髪ロングの女性が木刀を持って立っていた。
「京子ちゃん!? なんで!?」
「前のテレポートシスターのとこに乗り込むんだろ、私も同行する」
私が驚く中、京子ちゃんは木刀を振り回して、
「幽霊っ子が誘拐されたんだろ。そこのヘンテコ猫から聞いた」
「事務所に戻ったタイミングで鉢合わせたんだ。彼女は霊能力者でもかなりの実力を持つ、心強い助っ人だ」
確かに京子ちゃんがいれば心強い。しかし、巻き込んでしまって良いのだろうか……。
「本陣はすぐそこだ。今回こそ、リエを助けるぞ」
黒猫は力強く、決意の籠った言葉を放った。
私は大きなリュックを背負い、事務所を出る。そんな私の姿に楓ちゃんに抱かれた黒猫は目を細めて睨む。
「なんだよ、その荷物……」
「色々準備してた」
「旅行に行くんじゃないんだぞ!!」
「分かってるよ!!」
このリュックの中にはもしもの時のアイテムを色々詰め込んできた。何かあったら使えるはずだ。
「まぁ、良い。さっさと行くぞ」
黒猫は楓ちゃんから私の頭に乗り移り、さっさと行けと頭を叩く。
「急かすなら人の頭に乗らないでよ」
「俺はここが一番落ち着くんだよ!」
「私は嫌なのよ!!」
文句を言うが、どうせ降りないから諦めてそのまま行くことにする。事務所のある建物を出て、目的のビルへ向かっている最中、楓ちゃんは私の耳元に口を寄せると、
「レイさん。ちょっと……」
そう言って黒猫に聞こえないように話しかけて来た。黒猫は気になるようだが、頭の上にいるため下手に動けず、耳を向けることしかできていない。
「なによ?」
「リエちゃんが連れ去られてから僕達が戻って、本当はすぐ向かおうとしたんですけど、レイさんを放っておくことは出来ないって師匠が言って………………なんか、レイさんのことを警戒しているみたいなんですけど、何かあったんですか?」
「えー?」
そう言われても、
「心当たりはないけど……」
タカヒロさんに警戒されるようなことなんてあっただろうか。
「そうですか。ないならないで良いんです、リエちゃんがいなくなってから、師匠、なんだかレイさんを監視してるみたいだったので」
「監視?」
理由を直接黒猫に聞くべきだろうか。いや、聞くことができる雰囲気じゃなかったから、楓ちゃんは私に聞いて来たんだ。
なんだろうと考えていると、
「着いたぞ」
頭に乗っている黒猫が正面を見て呟いた。
私達の正面。そこには最近できたばかりの新しいビルが建っていた。そしてそのビルの入り口には、緑色の三角形に目のマークが描かれた看板が飾ってある。
「警備員はいないみたいね」
入り口には警備員らしき姿は見当たらない。なら、今が入るチャンスか……。
私達は正面入り口から侵入する。中は3階まで繋がった吹き抜けのロビーが広がっており、表面には本来受付嬢がいるようなカウンターが置いてある。
しかし、受付嬢や警備員らしき人物は見当たらず、施設内に人の気配はない。
「本当にここにリエがいるの?」
流石に誰もいなさすぎて不安になる。
だが、京子ちゃんは天井を見上げると、目を見開いて、
「いや、あの幽霊っ子はここにいる。私の霊感で感じ取れた、この上、5階にいるぞ」
っと、特殊能力持ちっぽい台詞を吐いた。流石は本物の霊能力者、これだけの距離があっても力を感じ取れるとは……。
うん、うん、本当は私もできるんだよ。本気を出してないだけ!!
「じゃあ、エレベーターで登りましょ。その方が早いよ」
私は受付の右側にあるエレベーターのボタンを押す。しかし、
「動かない…………」
エレベーターは動く気配がない。ということは、
「よぉし、レイ、階段だ!!」
「あんたは頭から降りて言いなさい!!」
階段から登ることになってしまった。吹き抜けになっている三階までは連続している階段で簡単に登れた。しかし、四階で私達は足を止める。
「階段が……ない?」
同じ階段では四階までにしか上がれなかった。近くの壁にビルの地図が飾られており、それを見るとそこには建物の反対側に五階へ行ける階段がある様子。
「なにそれ、めんどくさ!?」
私はビルの作りにうんざりしながら、五階へ行ける階段を目指して、四階のフロアを進むことになった。
道中にオフィスがいくつも並んでいるが、どこも人の気配はない。これだけ広いオフィスだというのに、誰もいないということは今日は休みということなのか?
っと、オフィスの並ぶ廊下を抜けると、休憩ができる大広間へ出た。そしてそこには、
「坊主と先生?」
そこには頭がツルツルなほど光っている坊主と、ザ・学校の先生というスーツに国語の教科書、そしてチョークを持った男がいた。
二人の男性は私達がここにやってくるのを分かっていたかのように、部屋の中央で立っている。
先生は国語の教科書を閉じると、私達を一瞥する。
「早乙女 京子に、仲間の女二人と猫一匹。佐天門さんの言った通りだ」
先生はそう言って隣にいる坊主へ目線を向ける。坊主はシワシワな顔をしているが、腰は曲がっていない。先生の言葉に坊主の目線は鋭くなる。
「わしの能力を疑っておるのか、若造……。擦り潰して鳥の餌にしてやっても良いんだぞ」
「おぉ、怖い怖い。それで佐天門さん。あなたは誰をお相手しますか?」
「そうじゃなぁ」
坊主はシワシワの指で、
「わしは早乙女と……そこの青髪の子を相手するかの」
京子ちゃんと楓ちゃんを指した。
指名を言った坊主に、先生はやれやれと肩をすくめる。
「欲張りですね」
「関島先生。あんたじゃあの二人は荷が重いからじゃよ。こっちが負担を背負うじゃ、そこのオマケくらいは片付けるんじゃよ」
「はいはい」
話し合いが終わったようで、坊主と先生は左右に分かれる。私達を分断して相手しようということか。
…………うん、私だけじゃ絶対負ける!!
あの坊主も強そうだけど、京子ちゃんだけでもなんとかなるはずだ。せめて楓ちゃんはこっちに……。
私が隣にいる楓ちゃんに助けを求めようと口を開いた時。
先生は手に半透明の球体を乗せる。そして、
「発動」
そう呟きながら、その球体を握りつぶした。すると、私と先生がいる地面だけが揺れ始める。
そして一瞬の瞬きのうちに…………。
「楓……ちゃ…………ん!?」
私と黒猫。そして先生だけが存在する、半径30メートルの真っ白で何もない空間に、私達は転移した。
「やられてーー!! 私達だけで隔離されたーー!!!!」
私と黒猫だけの絶望的な戦力で、密室に閉じ込められてしまった。
著者:ピラフドリア
第84話
『秘密結社』
今日も平和にうとうとと……。事務所のソファーで寛いでいると、楓ちゃんが黒猫を抱いてやってきた。
「おいレイ。俺と楓はこれからちょっと出かけてくる。留守番頼んだぞ」
「あら、アンタが外に出るって珍しいじゃない?」
普段はミーちゃんの安全のために、私達と出る時以外は家の中にいる黒猫が今日は出かけてくると言った。
「前に襲ってきた連中いるだろ。アイツらについて幸助に調べてもらってたんだ。んで、情報が出てな。直接話したいんだってよ」
「僕は師匠の付き添いです!!」
襲ってきた連中というのは、ランランやシスター達のことだ。彼らに狙われるようになり、警戒を強めた黒猫は京子ちゃんや幸助ちゃんの力を借りて色々調べていたようだ。
「じゃあ、気をつけて行ってくるのよ」
「おう!」
「はーい!」
黒猫と楓ちゃんを見送ると、リビングでテレビを見ていたリエが叫ぶ。
「レイさ~ん、ちょっと来てください!!」
「なーにー?」
呼ばれたので早歩きでリビングに戻る。リビングでは私がいたはずのソファーを奪い取り、堂々と寝そべっているリエがテレビを見ていた。
「レイさん、これ! この事件の場所近くないですか?」
「んー? あー、そうね」
テレビではここ数ヶ月で起きた連続行方不明事件について取り上げられていた。確かに近くであるため近くだと答えたが、事件が起きている範囲は数駅まで先まで含まれており、私達の住む街も入ってはいるものの、実際の現場は何駅か先だ。
「犯人は捕まったの?」
「いえ、まだ見たいですよ。というか、現在進行中で事件は起きています。私達も気をつけないとですね」
「気をつけるって私はともかく、幽霊のアンタは大丈夫よ~」
「それもそうですね!!」
私達は二人して笑っていると、玄関のチャイムが鳴らされた。
「楓さん達忘れ物でもしたんでしょうか?」
「さぁ? 依頼人かもしれないし出てくるね」
私はもう一度玄関へと向かう。
扉の先にいるのは楓ちゃん達か、それとも依頼人か。
急かすようにチャイムが再び鳴らされる。
「はーい。今開けますよー」
私が扉を開けると、そこには見覚えのある人物がいた。
いつもと変わらない服装、仕草。しかし、表情だけは違った。暗く、瞳には光がない。そんな顔に私は心配になり声をかける。
「ねぇ、何があったの? どうしたのよ、スキ………………っ」
唐突の出来事に私の思考は止まる。馴染みがあり、信頼していた人物に突如殴られ、私は気を失った。
「…………」
目が覚めると、私は自室のベッドで横になっていた。
「起きたか、レイ」
そして目覚めた私の視界にはベッドの隣で椅子を出して座っている楓ちゃんと、その隣の化粧台の上で座っている黒猫が映る。
「何があったの?」
私はベッドで身体を起こしてその場で座る。人の部屋に入り込んでいる二人のことは後で怒るとして、今は何が起こったのかを知りたい。
「リエが誘拐された」
リエが!? っと叫びそうになったが、私はその声を押し留めた。前にも同じことはあった。それにシスターに立って狙われてたんだ。また誘拐されてもおかしくはない。
しかし、…………私はテレビを見ていた時、あることを口にした。それがフラグになってしまったのかもしれないと、後悔する。
「んでだ。レイ」
黒猫は化粧台から私の座っているベッドへ飛び移る。そして堂々と座ると、両手で勢いよくベッドを叩いた。
「今回もリエを助けにいくんだよな!!」
黒猫は力強く問いかけてくる。そこまで強く言われると、私はちょっと怖くなる。だが、
「当然じゃない!!」
この前のようになるのは嫌だ。今回は絶対に助け出すんだ。
「そう聞けて安心した」
「でも、どこに連れてかけたの? 前と同じ廃墟?」
「違う。同じところを拠点にする馬鹿がどこにいる」
「じゃあどこなのよ?」
私が聞くと、黒猫はベッドから降りて廊下へ出る。言葉にはしないが付いて来いってことだろう……。
私と楓ちゃんは顔を合わせた後、二人で黒猫の後をついていく。黒猫はリビングに行くと、廊下の正面にある窓から外を覗き込んだ。
「あそこに見える大きなビルがあるだろ?」
「あー、夏頃にできたビルね。貴重な看板があって気持ち悪い……」
半年前くらいに凄まじい速さで建築が始まり、あっという間に出来上がった高層ビル。そのビルの正面には緑色の三角形に目玉の描かれた看板が立て付けてあるのだ。
「あれが奴らの本拠地だ」
「え? 本拠地? 支部とかじゃなくて…………」
「本拠地だ」
リエを誘拐した主犯。いわばラスボスがご近所にいた。
黒猫はビルを見ながら、話を続ける。
「幸助と調べて分かった。彼らはアルターと言い、秘密結社と呼ばれている。国木田 治、加藤 正村、関 フウカ…………そしてフェリシア・アルカード。他にも数名、組織のメンバーが分かった」
流石は探偵。そんなことまで調べられたんだ。私が感心していると、玄関の方から声が聞こえてくる。
「行くならさっさと行こうぜ」
声の聞こえた方を振り向くと、ジャージ姿の黒髪ロングの女性が木刀を持って立っていた。
「京子ちゃん!? なんで!?」
「前のテレポートシスターのとこに乗り込むんだろ、私も同行する」
私が驚く中、京子ちゃんは木刀を振り回して、
「幽霊っ子が誘拐されたんだろ。そこのヘンテコ猫から聞いた」
「事務所に戻ったタイミングで鉢合わせたんだ。彼女は霊能力者でもかなりの実力を持つ、心強い助っ人だ」
確かに京子ちゃんがいれば心強い。しかし、巻き込んでしまって良いのだろうか……。
「本陣はすぐそこだ。今回こそ、リエを助けるぞ」
黒猫は力強く、決意の籠った言葉を放った。
私は大きなリュックを背負い、事務所を出る。そんな私の姿に楓ちゃんに抱かれた黒猫は目を細めて睨む。
「なんだよ、その荷物……」
「色々準備してた」
「旅行に行くんじゃないんだぞ!!」
「分かってるよ!!」
このリュックの中にはもしもの時のアイテムを色々詰め込んできた。何かあったら使えるはずだ。
「まぁ、良い。さっさと行くぞ」
黒猫は楓ちゃんから私の頭に乗り移り、さっさと行けと頭を叩く。
「急かすなら人の頭に乗らないでよ」
「俺はここが一番落ち着くんだよ!」
「私は嫌なのよ!!」
文句を言うが、どうせ降りないから諦めてそのまま行くことにする。事務所のある建物を出て、目的のビルへ向かっている最中、楓ちゃんは私の耳元に口を寄せると、
「レイさん。ちょっと……」
そう言って黒猫に聞こえないように話しかけて来た。黒猫は気になるようだが、頭の上にいるため下手に動けず、耳を向けることしかできていない。
「なによ?」
「リエちゃんが連れ去られてから僕達が戻って、本当はすぐ向かおうとしたんですけど、レイさんを放っておくことは出来ないって師匠が言って………………なんか、レイさんのことを警戒しているみたいなんですけど、何かあったんですか?」
「えー?」
そう言われても、
「心当たりはないけど……」
タカヒロさんに警戒されるようなことなんてあっただろうか。
「そうですか。ないならないで良いんです、リエちゃんがいなくなってから、師匠、なんだかレイさんを監視してるみたいだったので」
「監視?」
理由を直接黒猫に聞くべきだろうか。いや、聞くことができる雰囲気じゃなかったから、楓ちゃんは私に聞いて来たんだ。
なんだろうと考えていると、
「着いたぞ」
頭に乗っている黒猫が正面を見て呟いた。
私達の正面。そこには最近できたばかりの新しいビルが建っていた。そしてそのビルの入り口には、緑色の三角形に目のマークが描かれた看板が飾ってある。
「警備員はいないみたいね」
入り口には警備員らしき姿は見当たらない。なら、今が入るチャンスか……。
私達は正面入り口から侵入する。中は3階まで繋がった吹き抜けのロビーが広がっており、表面には本来受付嬢がいるようなカウンターが置いてある。
しかし、受付嬢や警備員らしき人物は見当たらず、施設内に人の気配はない。
「本当にここにリエがいるの?」
流石に誰もいなさすぎて不安になる。
だが、京子ちゃんは天井を見上げると、目を見開いて、
「いや、あの幽霊っ子はここにいる。私の霊感で感じ取れた、この上、5階にいるぞ」
っと、特殊能力持ちっぽい台詞を吐いた。流石は本物の霊能力者、これだけの距離があっても力を感じ取れるとは……。
うん、うん、本当は私もできるんだよ。本気を出してないだけ!!
「じゃあ、エレベーターで登りましょ。その方が早いよ」
私は受付の右側にあるエレベーターのボタンを押す。しかし、
「動かない…………」
エレベーターは動く気配がない。ということは、
「よぉし、レイ、階段だ!!」
「あんたは頭から降りて言いなさい!!」
階段から登ることになってしまった。吹き抜けになっている三階までは連続している階段で簡単に登れた。しかし、四階で私達は足を止める。
「階段が……ない?」
同じ階段では四階までにしか上がれなかった。近くの壁にビルの地図が飾られており、それを見るとそこには建物の反対側に五階へ行ける階段がある様子。
「なにそれ、めんどくさ!?」
私はビルの作りにうんざりしながら、五階へ行ける階段を目指して、四階のフロアを進むことになった。
道中にオフィスがいくつも並んでいるが、どこも人の気配はない。これだけ広いオフィスだというのに、誰もいないということは今日は休みということなのか?
っと、オフィスの並ぶ廊下を抜けると、休憩ができる大広間へ出た。そしてそこには、
「坊主と先生?」
そこには頭がツルツルなほど光っている坊主と、ザ・学校の先生というスーツに国語の教科書、そしてチョークを持った男がいた。
二人の男性は私達がここにやってくるのを分かっていたかのように、部屋の中央で立っている。
先生は国語の教科書を閉じると、私達を一瞥する。
「早乙女 京子に、仲間の女二人と猫一匹。佐天門さんの言った通りだ」
先生はそう言って隣にいる坊主へ目線を向ける。坊主はシワシワな顔をしているが、腰は曲がっていない。先生の言葉に坊主の目線は鋭くなる。
「わしの能力を疑っておるのか、若造……。擦り潰して鳥の餌にしてやっても良いんだぞ」
「おぉ、怖い怖い。それで佐天門さん。あなたは誰をお相手しますか?」
「そうじゃなぁ」
坊主はシワシワの指で、
「わしは早乙女と……そこの青髪の子を相手するかの」
京子ちゃんと楓ちゃんを指した。
指名を言った坊主に、先生はやれやれと肩をすくめる。
「欲張りですね」
「関島先生。あんたじゃあの二人は荷が重いからじゃよ。こっちが負担を背負うじゃ、そこのオマケくらいは片付けるんじゃよ」
「はいはい」
話し合いが終わったようで、坊主と先生は左右に分かれる。私達を分断して相手しようということか。
…………うん、私だけじゃ絶対負ける!!
あの坊主も強そうだけど、京子ちゃんだけでもなんとかなるはずだ。せめて楓ちゃんはこっちに……。
私が隣にいる楓ちゃんに助けを求めようと口を開いた時。
先生は手に半透明の球体を乗せる。そして、
「発動」
そう呟きながら、その球体を握りつぶした。すると、私と先生がいる地面だけが揺れ始める。
そして一瞬の瞬きのうちに…………。
「楓……ちゃ…………ん!?」
私と黒猫。そして先生だけが存在する、半径30メートルの真っ白で何もない空間に、私達は転移した。
「やられてーー!! 私達だけで隔離されたーー!!!!」
私と黒猫だけの絶望的な戦力で、密室に閉じ込められてしまった。
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