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第E4話 『高校生の日常』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない? 番外編



著者:ピラフドリア



第E4話
『高校生の日常』




「はよー! 坂本」



「あ、おはよー!」



 楓が教室に入ると先に到着していた友人が机に座って本を読んでいた。



「何読んでるの?」



「ん、ジャンピース。萩村に借りたんだ」



「へぇ~、萩村君そういうの好きだよね」



 楓は自分の先にバッグを置いて友人の元へと向かう。



「どう? 面白い?」



「あー、イマイチわかんない。姉貴にも読めって言われたけど、俺にはなぁぁ」



「新田君は漫画より野球の中継聴いてる方が楽しそうだしね」



「そんなん当たり前だろ。昨日のワイスターズ見たか? あれは良かったぞ」



 嬉しくなった友人は漫画を閉じると、立ち上がり片足を上げるとボールを投げる感覚で漫画を投げた。



 漫画は回転して急カーブすると途中で九十度曲がり、教室の入り口の方へと飛んでいく。



 漫画が丁度扉に到着した時。扉が開いて一人の生徒が入ってきた。



「やべ!?」



「ぶっはぁっがぁ!?」



 顔面に漫画が直撃して生徒は倒れる。楓と友人は急いで生徒の元へと駆け寄った。



「す、すまん、萩村……」



「にぃぃぃだぁぁぁぁぁっ!!」



 萩村が新田に飛び掛かる。



「俺の漫画投げるんじゃねー!!」



「すまーん!! そんなつもりじゃなかったんだーー!!!!」






 朝礼を終えて一限前の休み時間。



「楓、ションベン行こーぜ」



 新田に声をかけられて楓は無言で立ち上がってトイレに向かう。



 並んで小をしていると新田が聞いてくる。



「一限なんだっけ?」



「確か古典」



「あー、林か。サボれるな……」



「……いや、サボっちゃダメでしょ」



 教室に戻ってくると、すでに先生がいて授業で読む文をずらっと黒板に書き出していた。
 5分程度でここまで書き切るのは凄いが、字は後半になるにつれて小さくなるし、下の方は潰れていて読めない。



 萩村は席に座って持ってきたゲーム機で遊んでいる。
 二人は萩村の元に行き、新田がゲームの画面を覗いた。



「また持ってきたのかよ。またオニギリに取り上げられるぞ」



「大丈夫だよ。林の授業だし、オニギリは一限見回り来ないから」



「てか、何やってるの?」



「厳選中……」



「そ、そうか……」



 ゲームについて聞いては見たが分からなかった新田は諦めて自分の席に帰って行った。
 新田が離れた後、萩村は楓に画面を見せる。



「坂本、こいつ可愛くね?」



 そう言って見せてきたのはスライムモンスター。目がくりっとしていて、丸っこい身体をしている。



「可愛いね!」



「でしょ! 坂本なら分かってくれると思ったよ。坂本ってなんのゲームやるんだっけ?」



「僕はそうだなぁ、スポーツゲームとかパーティーゲームかな」



 楓と萩村が話していると、黒板と睨めっこをしていた先生が振り向き、教卓を叩いた。



「もーすぐ、チャイムなるぞー、座って~座って~」



 先生は急かすが、生徒達はゴミを捨てに行ったり、教科書を取りに行ったり、ダラダラと動きながらチャイムが鳴ってから着席した。





 午前の授業が終わり、四時間目。制服を着替えた生徒達は校庭に出ていた。



「あっつぅ~」



 新田が上着を脱いで半裸で上着を団扇代わりにして仰ぐ。
 それを楓は横目で見る。



「逆にそんなに動いてたら暑いでしょ……」



 校舎から出てきて体育教師が笛を鳴らす。



「さっさと並べ」



 この先生が出てくるといつもはダラけている生徒達もテキパキと動いて並ぶ。



「今日はサッカーやるぞ」



 楓は新田達と集まり、チームを作る。1クラスで5チーム出来て、1チーム審判で残りの4チームで試合。15分の試合が終わるごとに、5チームで交代していくことになった。







 授業が終わり、教室で着替える。



「楓にパスすれば大体決めてくれるから楽だわぁ」



 新田はスプレーを使いまくり、その匂いで楓は鼻をつまむ。



「新田君、臭い……」



「あー、楓これ嫌いだったな。すまん」



 そう言いながら新田はスプレーを楓に向ける。楓は素早くしゃがんで避けた。



「はやっ!?」



「やめてよー!」



 二人が戯れていると、先に着替え終えた萩村が財布を持って二人を呼ぶ。



「俺、売店行ってくるけど。来るか?」



 新田はスプレーをバッグにしまうと、500円玉を萩村に投げた。



「じゃあついでに弁当買ってきて」



 萩村は500円を受け取ると、めんどくさそうな顔をするが、



「へーい」



 ポケットにお金を入れる。



「楓は?」



「僕はお弁当作ってきたから大丈夫」



 着替え終えた楓はバッグから弁当を取り出した。
 お弁当箱を開けると、色鮮やかで可愛いお弁当が出てきた。



「「お前は女子か!」」






 5時間目の世界史の授業。生徒達はご飯を食べた後ということもありうとうとしていた。



「ほらみんなハキハキする!」



 眼鏡をかけた女教師が教科書を叩いて生徒の目を覚まそうとする。しかし、あまり効果はない。



 黒板に書かれる文字を的確に楓は写していると、机の中にしまっていた携帯にメールが届く。



 先生にバレないように携帯を覗くと、メールは萩村からであり、内容は「これから寝るからノート後で写させて」というものだった。



「…………」



 楓は無言で携帯を奥にしまった。






 授業が終わり、帰りの準備を始める。



「坂本~、今日部活か?」



 帰りのホームルームが終わると、新田がバッグを背負って楓の元に来る。



「部活だけど軟式は休みなの?」



「ああ、顧問が三年の進路指導で来れないんだって。先輩も来れないから自主練」



「あー、先輩来ないって言ってたなぁ」



 楓達がそんな話をしていると、廊下から三年の先輩がやってきて楓を呼ぶ。



「坂本!」



「先輩?」



 楓が駆け寄って挨拶すると、



「今日部活休みな」



「え、水泳部も休みなんですか。三年居なくても大丈夫ですよ?」



「すまんな。二年の大会も近いのに。でも、先生に止められたんだ。うちの顧問過保護だろ」



「そうですよ……高校の先生よりも小学校の先生の方が向いてるんじゃないですか」



「ま、そういうこった。部活やるならチクる先生にはバレないようにやれよ~」



 そう言って先輩は教室から離れていった。



「どうするんだ、坂本」



 後ろで新田と萩村が待っている。いつの間にか二人で帰ることになってたらしい。



「僕も帰るよ。後で怒られたくないし」






 正門で屯っている生徒達を横切って、三人は坂を降って下校する。



「萩村、今日は自転車じゃないの?」



 普段は自転車を使っているが、今日は駐輪場に向かわない萩村に疑問を持った新田が聞く。



「朝パラパラ降ってたじゃん。車で送ってもらった」



「その程度で送ってもらうなよ……」



 坂を降りるとコンビニがあり、授業を終えた非常勤の先生が駐車場の前で休憩していた。
 楓達が礼をして前を通ると、先生が話しかけてくる。



「萩村、坂本…………えっと、に、新田じゃないか」



「先生、俺のこと忘れないでください!」



 落ち込んでいる新田。新田を放置して、楓はある物に気づく。



「あれ、先生、禁煙したはずじゃ……」



 すると先生は眉間に皺を寄せて皺を作り、ちょっと声のトーンを下げる。



「男にはな。やめられないことが三つある。恋と夢とタバコだ」



 格好をつける先生。そんな先生を三人の生徒は冷めた目で見つめる。









 しばらく歩くと地区が運営する体育館の前を通る。



「バスケしてく?」



 新田が中から聞こえてくるシューズの音に反応して、二人に聞く。



「僕、この後バイトがあるのでやめとく」



「俺もパス。この後、ネットで予定あるから」



 二人に断られて新田はしょげる。そのまま体育館を通り過ぎようとしたが、楓が立ち止まった。



「あ、ちょっとジュース買ってって良い?」



「おう」



 体育館の前にある自販機に立ち寄り、楓は小銭を入れる。
 楓が飲み物を買うのを待っている中、萩村は新田を呼ぶ。



「おい、おい見ろ」



「なんだよ」



 萩村の視線の先には近くにある女子校の生徒がいた。



「女子って良いよなぁ。



「だよなぁ」



「お前は姉ちゃんいるじゃん」



「いや、お前見たことないからじゃん。俺の姉ちゃん見たらショック受けるぞ。寝てるとき、姉ちゃんナポレオンフィッシュみたいな顔してんだぞ」



 二人がそんな話をしていると、ジュースを買った楓が嬉しそうに戻ってきた。両手には一本ずつペットボトルを持っていた。



 楓は持っているペットボトルのうち、一つを二人に向けて投げる。萩村がキャッチしようと手を伸ばすが、しくじりペットボトルは萩村の手に弾かれる。
 そんなペットボトルを新田がカバーてしキャッチした。



「なにこれ?」



「当たった」



 自販機の右中央にあるモニターには「777」と数字が並んでいた。



 どうやらおまけでもう一本貰えたようだ。



 ジュースを買い終えた三人は再び下校する。
 狭い歩道を縦になって進む。



 先頭を楓が歩き、その後ろを萩村、新田の順で進む。進んでいると新田が呟く。



「彼女欲しい……」



 小さな声だったため、車の音で聞こえず萩村だけが反応した。



「おすすめのアニメを教えるか?」



「現実の彼女だよ!!」



「まぁ分かるがな……」



 萩村は前にいる友人に目線を向ける。
 身長は低く、手足は細い。しかし、それを補うほどの整った顔つきをしている。



「アイツでどうだ?」



「やめろ!! 俺はあっちの世界には入りたくない!!」



 そう言いながら前方を歩く楓のお尻に目線を囚われる。



「見過ぎだバカ!」



 それに気づいた萩村が新田の頭を叩いた。流石にここまで騒ぐと楓も気づいて振り返る。



「どうしたの?」



「「なんでもない!!」」



 しばらく進んで公園の前に着くと、



「じゃ、僕はバイトがあるから、また明日!」



 楓はバイト先に向かって行った。残った二人はこのまま帰っても暇なため、公園で時間を潰す。



 ベンチで座り雑談をする。



「坂本バイト始めたよな。何やってるんだっけ?」



「知らね、コンビニじゃね」



「かなぁ…………んっぅ活だったりしてな」



 恥ずかしかったのか新田は言葉を詰まらせる。それを聞いた萩村は小馬鹿にしたような顔をする。



「なんだって? もう一回言ってみろよ~」



「やめろぉ」



「ほらほら」



「分かってんだろー」



 突っかかって絡んでいた萩村だが、突然冷静な顔になると、



「本当にそうだったりしてな。あいつモテるし」



「この前バスケ部の先輩に告られたってよ」



「そっちにモテちゃダメだろ」



 新田は楓から貰ったジュースを開けると、一口飲んでから隣に座る萩村に渡した。



「飲むか?」



「おう、サンキュ」



 萩村も受け取ってジュースを飲むと、近くの砂場で遊んでいた子供が2人のことを指差した。



「ママ~見て~、あの人達仲良いよ~、同じジュース飲んでる~」



 二人は飲んだものを吹き出した。






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