ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。

ピラフドリア

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第1話 『新世界へ』

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ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。



著者:ピラフドリア



第1話
『新世界へ』




「平山!! 絶対止めろよ!!」



 半袖半ズボンにランドセルを背負った友人が、もう一人の友人にドリブルで抜けられる。
 サッカーを蹴りながら、その少年は勢いよくサッカーボールをゴールに向かって蹴り飛ばした。



 向かってくるサッカーボール。俺は両手を広げて止める姿勢をとった。



「こぉぉぉおおおっい!!!!」



 しかし、サッカーボールは俺の顔面にぶつかった後、バウンドしてゴールへと入っていった。






「はぁ、朝から最悪だった……」



 俺はランドセルを背負いながら、今日の出来事をぼやく。



「まぁそんな日もあるさ! んじゃ、俺はこっちだから!!」



「おう!」



 サッカーボールを肩に挟み、友人と赤と白のコーンが目印の路地で分かれる。



 小学校の近くにする友人にサッカーボールを持ってきてもらい、ここ1週間はずっとサッカーボールをして遊んでいた。



 いつもならこの程度で疲れることはないが、今日は体育で校庭を何周も走らされ、それから日課のようになっていたサッカーをやったら、足が重たくヒリヒリする。
 重たい足を持ち上げて階段を登っていると、登り切った先に黒い円状の物が見える。



「ん?」



 俺は足を止めて、階段の先を見上げて凝視する。すると、その黒いものは不思議なことに宙に浮いており、平べったいことが分かった。



「なんだあれ?」



 俺は興味を持ち近づいていくと、何やら空中に固定された黒く平たい円盤。模様もなく、ただ黒い物体であるため見た目だけではなんなのか分からない。
 周りを見渡してみるが人の気配はない。



 まぁ、ドッキリならドッキリでやられてみようと思い、俺は思い切ってその黒い物体に触れてみることにした。すると、



「うわっ!? 手が!!」



 手が黒い物体の中に飲み込まれてしまった。薄い円盤のはずなのに、黒い物体の反対側には自分の腕が現れない。
 得体の知れない何かに吸収されている感覚で気持ち悪い。



 急いで腕を抜こうとするが、動けば動くほど深く飲み込まれていく。



「な、なんなんだよぉ!? 誰か、誰か助けてくれェェェェェェ!!」



 暴れれば暴れるほど、蟻地獄のように身体が飲み込まれていき、俺の身体は全て黒い物体の中へと消えていった。







 ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎






 視界に広がるは一面を覆う緑。自然豊かな森が俺を出迎えた。



「一体ここはどこなんだ……」



 さっきまで学校から自宅への道にある住宅街にいたはず。黒い物体に飲み込まれて、俺の身に何が起こってしまったのか。



「幻覚……ではないようだな。触れられる」



 近くの木の枝に触って、それが実際に存在するものだということを確かめる。
 感覚はあるし、夢ではなさそうだ。だが、ここはどこなのか。



「とにかく歩いてみるか? そしたらどっかに着くだろ」



 焦ってもしょうがないと心を落ち着かせ、楽観的に考えるようにしてまずは歩いてみることにした。
 森の中を進んでいくが、どこまで行っても森が続くだけ、一体この森はどこまで続いているのか。



 疲れて一度腰を下ろそうかと思った時。森の奥から叫び声と足音が聞こえてくることに気がついた。



 その叫び声から人がいるという喜びで、俺は両手を上げて叫ぶ。



「おーい!! ここだ、誰だー!!」



 だが、俺が叫んだのは失敗だった。その叫び声と足音が近づいてくる。そしてそれがなんなのかやっと分かった。



 走ってくるのは一人の人間と四足歩行の動物。人間はどんぐりみたいな髪型に松茸のような鼻をした少年。そしてその後ろを追っているのは、背中に巨大なキノコの生えた車サイズのイノシシだった。



 少年が木の隙間を通ってこちらへ走ってくるが、イノシシは木を押し倒して少年を追ってくる。



「うぉぉぉぁぁぁぁっ!! お助けーーーー!!!!」



「えぇえぇ!? 追われてるぅ!! てか、やっぱりこっちに来んな!!」



 少年が俺の方へと走ってきたことで、俺は少年と並走してイノシシから逃げることになってしまった。



「うぉおおおおっ、なんてことしやがんだ!!」



「君が呼ぶから来てやったのだ。ということで囮になれ!!」



「なるかバカ!!」



 少年と一緒になって走り続ける俺。イノシシは標的が増えたことでさらに興奮したのか、鼻息が荒くなる。



 もしもここで転んだりして、イノシシに追いつかれれば、ぺっちゃんこだ。車に轢かれたレベルで大怪我をする。



「このまま真っ直ぐ走れば、草原に出る!! そこはキャンプ地として有名な場所なのだ。誰かいるはず!!」



 少年が走りながらそんなことを口にする。それが真実かは分からないが、信じるしかない。きっとその草原には誰かいて助けてくれると!!



 俺達二人は森を向け、盛大にジャンプして草原へと踏み込んだ。
 森とは景色が一変し、地平線の彼方まで続く草原。そんな草原の中央に赤い旗が掲げられており、その近くに焚き火の跡があった。



「誰かいる、これで助かっ!?」



 迫ってきていたイノシシが、森の木を押し倒して草原へと突入する。旗の見えるのは草原の中央。どれだけ急いでもイノシシに追い付かれる方が早い。



「「もうだめだァァァァァ!!!!」」



 俺は見ず知らずの少年と抱き合い、悲鳴を上げた。ここで死ぬ、もう終わる。どこか分からない地で、巨大イノシシの突進されて死ぬんだァァァァァ!!!!



 しかし、次の瞬間、イノシシの動きが止まる。俺達のツノが擦れそうになったところでイノシシは前に進めなくなる。



 俺達はビビりながらもチャンスだと、腰が抜けて立てないながらも地を這いながらイノシシから距離を取る。
 二人して虫のようになって地面を這って進んでいると、前方に壁があり前に進めなくなった。



「ん?」



 俺達はその壁が何か確認するため、壁を見上げた。すると、それは壁ではなく人であることに気がつく。



「この程度の動物に追われるなんて。クズね」



 それは金髪の短髪に碧の瞳を持った女性の姿。その顔はテレビに映るどの女優よりも美しく、冷たい瞳がそのクールさを際立たせる。



「「なんて麗しい美女なんだ」」



 俺と少年の声がハモる。俺と同じように少年もこの美女の美しさに見惚れてしまっているようだ。
 そんな俺達を知ってか知らずか、美女は俺達を蹴り飛ばして退ける。そして動きの止まったイノシシの向き合った。



「まさか、こんなところで出会うなんてね」



 そう呟くと、美女は三十センチ程度の木の棒を取り出し、それをイノシシに向ける。



「丁度良いわね。私の鍛えた影魔法、試してみようじゃない」



 すると、美女の持つ木の枝から紫色の粒子が飛び散り、淡い光を放つ。
 イノシシの方を見ると、イノシシの足元の地面から黒い手が生えてきて、それがイノシシの両手両足を掴んでいる。イノシシの動きが止まったのは、この黒い手が原因だろう。



「このまま締め倒す」



 美女は低い声で宣言すると、黒い手がイノシシの身体を這い上がって、拘束していく。無数に黒い手が生えてくるが、よく見るとこの手はイノシシの影から生えているようで、日の当たっているところからは生えていない。



 イノシシの身体全体に黒い手が行き届くと、黒い手はイノシシの身体を締め始めた。動けないイノシシは暴れて抵抗するが、拘束から脱することはできず、やがて抵抗する力が弱っていく。
 そしてだんだんと力を失い、イノシシは力尽きて地面に突っ伏した。



 俺は何が起きているのか理解できず、ただ美女がイノシシを倒す姿を見ていた。



「あれは、魔法だ……」



 隣で同じように蹴り飛ばされた少年が、美女の使った技について口を出す。
 それはよくゲームで耳にする単語。しかし、実際にそれを口にする人に会うのは初めてだった。



「魔法……?」



「俺はまだ使えないが珍しいものじゃない。北の大陸じゃ日常生活の一部になってる……。だが、こんな高度な魔法を戦闘で使う奴は珍しい」



 その言葉に俺は口に溜まっていた唾を飲み込んだ。





 可能性としてはあった。あの黒い物体に飲み込まれてから、突然森に移動した。地球上のどこかへ飛ばされたということも考えられたが、それ以外の場所だってあり得る。
 銀河の果ての惑星か、空間を飛び越えた異世界か。



 昔から人が消えるということはあった。神隠しだってその一つだ。大勢の人間が一斉に消えることがある。そしてそれがもし、あの黒い物体が原因だったのなら……。





「なぁ、ここは魔法のある世界なのか?」



 俺は隣で腰を抜かしている少年に尋ねる。少年は目を半開きにして呆れた顔をする。



「何言ってんだ。さっき見ただろ」



「ふ、ふふ……フハハハハァッブハァっ!? ごほべほ…………」



 俺は無性に笑いたくなり、笑い出したは良いが勢いよく笑ったため、むせてしまう。



「おい何やってんだ?」



「いや、ちょっと興奮して……」



 そう、魔法。魔法がある世界にやって来たのか。その感動で鼓動が早くなる。



「お、おい、どうしたんだ……」



 隣にいる少年が俺の姿に驚いて心配する。



「はぁはぁ、魔法がある世界……魔法、魔法だァァァ!!!!」



「なんだコイツ!? 魔法って聞いた途端鼻血出して興奮してやがる!?」



 少年がドン引きしている。いや、少年だけじゃない、イノシシを倒した美女すら俺の姿にドン引きしている。



「おい、何引いてんだ、魔法だぞ魔法、これくらいの反応になるだろ!!」



「なるか!! 顔真っ赤にして鼻血吹き出す奴がどこにいる!!」



「ここにいる!!」



「威張るな!」



 しかし、魔法と聞いて興奮していたが、少しずつ落ち着いて来た。俺は腕で鼻血を拭き取り立ち上がる。



 そして真っ赤に染まった手で美女に近づいた。美女は俺が近づいていくと、顔を青くして後退る。しかし、そんな美女の逃げる方向へ素早く回り込んだ俺は、両手で美女の手を掴むと、



「俺に魔法を教えてくれ!!」



 そう叫んだ。しかし、美女の顔を見ると、



「ん? 白目剥いて気絶してる……」



 白目を剥いてアホ面で意識を失っていた。そんな美女は気絶しながらも、ブツブツと何か呟いている。



「血……血……………血が……………」



 どうやら鼻血を見たことで様子。しかし、俺はそんなことお構いなしに美女の身体を揺すると、



「魔法、魔法について教えてくれーー!!!!」



 っと、叫び続ける。必死に何度も叫ぶが、美女は意識を取り戻して、血を見てまた気を失ってを繰り返す。
 そんな様子を見て少年はさらに顔をひきつらせていた。



「魔法を魔法をォォォォォ……………」



 そんなことをしている中、森の方からドスンと地響きが聞こえて来た。そして木々から鳥が一斉に飛び立つ。



「あ、あぁぁぁぁあっ!?」



 少年が突然、奇妙な声を上げたと思ったら、口をパクパクさせて森の方を指差す。
 俺は少年が指している方向を見る。すると、



「な、なんじゃあれは…………」



 巨大な壁。都会の高層ビルよりも大きな柱が四本……。いや、あれは柱じゃない。四本の巨大な足。そしてその正体は、



「イノシシ……さっきのイノシシの親かァァァァァ!?」



 足だけで高層ビル四つ分くらいの太さと長さを持つ巨大なイノシシが、森の奥からこちらへやって来ていた。



 イノシシが鼻から息を吹き出せば、空を飛んでいた鳥は吹き飛ばされて地平線の果てまで飛んでいく。



 イノシシが歩くたびに、地面が揺れて木々が倒れる。そんなイノシシが俺達を目指して前進して来ていた。



 少年はビビりながらも



「おいそこの鼻血野郎その人にもう一回倒してもらうようにお願いしろ、このままだと僕達潰されるぞ!!」



「そうは言っても……」



 さっきから美女は気絶を繰り返している。イノシシには気づいているが、俺の血で意識を保つことができないらしい。



「「イノシシが来るゥゥゥゥゥゥ!!??」」



 イノシシの足が俺達の頭上に来て、太陽の光の光を遮断する。このまま足を下ろすだけで潰される。ぺっしゃんこのペラペラになる!!



「「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!?」」



 その時だった。



「情けないなぁ、まだ血がダメか。これじゃあどれだけ鍛えても一人前にはなれないぞ」



 頭上から声が聞こえる。俺と少年が見上げると、頭上の遥か上空に薄っすらと人影が見える。
 ローブを纏ったとんがり帽子の男。その上空にいる人物がさっきの声の正体だろう。



 上空にいる男は両手を前に突き出すと、その男の前方に炎の玉が出現する。最初はサッカーボール程度だった玉がどんどん大きくなり、あっという間に東京ドームサイズになった。



「さぁ、喰らうが親イノシシ!!」



 そしてそのイノシシに向けて、巨大な炎の玉を解き放った。炎の玉はイノシシにぶつかると大爆発。そして俺たちを潰そうとしていた足すらも吹き飛ばし、跡形もなく消滅された。



 それだけの衝撃があったというのに、俺達は吹き飛ばされることはなく、強い風は感じたがその場で止まることができた。



 超強力な魔法が放たれ、俺達は唖然と立ち尽くす中、上空にいたはずの男は一瞬で俺達の場所へと現れる。



 遠くて見えなかったが、近くで見ると高身長の髭面のおっさん。そして両手に傷があり、目が見えていないように見える。



「俺達がちょっと離れているうちに、調子に乗って、鼻血なんぞで気絶しおって…………」








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