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第2話 『見習い』

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ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。



著者:ピラフドリア



第2話
『見習い』




 イノシシをあっという間に倒したおっさん。彼が手を上にかざすと、突然上空に杖が現れる。その杖を掴むと、その上を美女と俺に向ける。



「ちょっと冷たいぞ」



 すると、男の手の前に水の塊ができて、その塊は破裂して俺達に水が振りかけられた。びしょびしょになった俺達だが、水をかけられたことで血が流れ落ちる。
 そしてそれによりやっと、



「テメェ、何してんのよ!!」



 美女が俺に掴み掛かってきた。美しい大人っぽい顔のせいか、怒っているとめっぽう怖い。



「そこまでにしてやれ、レジーヌ」



 俺の肩を鷲掴みにして今にも首を絞められそうになっていたが、魔法使いの男が美女を引き離してどうにか助かった。



「しかし、ウィンクさん。コイツのせいで私は!!」



「お前が血を見て気絶するのが悪いんだろ……そろそろ直せ、血を克服しろ……冒険者だろ」



 美女なのに気が強くて…………子供っぽい残念美人だ。口悪いし。



 魔法使いは頬を掻いて困った顔をすると、目が見えていないはずなのに的確に俺のいる位置に顔を向ける。



「はぁ、しかし、よくこんな森の奥に一般が入ってきたな……二人も」



 二人も……というのはもう一人の少年のことも指しているのだろう。
 と、そのもう一人の少年はというと、大口を開けて魔法使いを凝視していた。



「あ、あなたは……もしかして……。あの有名な冒険者パーティ、レイメイのウィンク・ハインドさんですか!?」



 少年がその名前を呼ぶと、魔法使いはニヤリと笑い少年の方へ振り向いた。



「いかにも私がウィンク・ハインドだ」



 その言葉に少年は目を輝かせる。



 俺は何の話をしているのか、ついて行くことができない。が、なんとなく単語単語で理解していた。
 ここがファンタジー世界であるのなら、この人はすごく有名な人達なんだろう。
 内容が分からなくても、それでも俺の心はワクワクして踊っていた。



 少年はキリッと立ち上がり、姿勢を良くすると頭を下げる。



「僕はエイコイ・ファンガスと言います。僕を、僕をあなたのパーティに入れてください!!!!」



 エイコイと名乗った少年は勢いよく言い放った。その言葉を聞き、俺も一歩前に出ると同じように頭を下げる。



「俺も!! 俺に魔法を教えてください!! 俺も魔法を使えるようになりたいです!!」



 この流れに乗ることにした。



 本来は少年よりも前に願い出ようとしていた。この魔法使いは漫画や小説で見た存在そのままだ。
 もしも、この世界に魔法があり、その魔法を使いこなせるようになったのなら、俺の目的が叶うかもしれない。



 俺と少年が頭を下げると、美女は舌打ちをする。



「アンタら何言ってんのよ。レイメイはアンタらクズが入れるようなパーティじゃないわよ。さっさと帰りなさい、シッシ!!」



「まぁまぁ、そう言うな。レジーヌ」



 魔法の杖を使い、足元を突きながら魔法使いは周囲の様子を確認すると、



「君達のように希望を持って入りたがる人は多くてね。でも大抵は長持ちはしない」



 魔法使いの言葉にエイコイは早口で答える。



「僕はすぐには諦めません!!」



 俺もその言葉に続く。



「俺も!! 魔法のためなら!!」



 そう、これはチャンスなんだ。このチャンスを簡単には諦める気は無い。



「そうは言ってもなぁ、俺一人じゃ決めきれん……」



 魔法使いは困った様子で頬を掻く。返答に困っていると、



「面白そうじゃァないか」



 頭上から男の声。見上げると、太陽に重なって黒い影が見える。そしてそれは徐々に大きくなっていく。というか、



「何かが落ちてくる!?」



 隕石のように落下してきたそれは、衝撃で辺りに土煙を巻き上げながら地面に着地した。



「ゴホゴホ……セルゲイ、あまり無茶な着地をするな……」



 魔法使いは魔法で風を起こし、周囲の土を払う。そして着地してきた存在がやっと分かった。
 それは人間。しかも2メートルある巨大にムキムキの肉体をしたマッチョな白い衣装に身を包んだ聖職者。



 口には葉巻を咥え、顎鬚を生やしたプリーストは俺達を見て大笑いした。



「オレはコイツらに度胸があるなら入れてやりたいな。だが、試験はやるがなァ」



「試験?」



 俺と少年が首を傾げていると、今度は森の中から白馬が飛び出してくる。その白馬の上には立派な鎧に身を包んだ銀髪の女騎士と、ゴーグルを頭に付けて背中に巨大なトンカチを二本も背負った女性が乗っている。
 白馬が俺達のいるところに駆け寄ると、馬の後ろに乗っていたゴーグルの女性がいち早く降りて、



「それは名案ですね!! アタシは仲間が増えて面白いアイテムを作れるなら嬉しいですけど、すぐに抜けられちゃったらアイテムちゃんと離れ離れになっちゃいますし」



 と、かなり細い身体をしているのに、巨大なトンカチを持った女性は、ワクワクしながら言う。



「お前はどうだ? ドミニク」



 魔法使いは確認するために白馬に乗る女騎士に尋ねる。女騎士は俺達のことなど身もせずに、どこか草原の先をずっと見つめ、



「好きにしろ。ワタシは関わらん」



 そう、素っ気なく言い張った。



 どうやらこれで全員のようで魔法使いは、杖を地面に突き刺すと、大口を開けて俺達に問う。



「どうだ? パーティに入りたいって言うなら、試験を受けてもらう。それでも構わないな!!」



「「はい!!」」



 こうして俺達は試験を受けることになった。








 魔法使いが杖を上に向けると、俺と少年の頭上に一枚の紙が現れて、俺達はそれを受け取る。
 そこにはリンゴのような果実のイラストが描かれてきた。



「この森にはポムポムと言われるこの森にしか生息しない果実だ。君達には日没までにそのポムポムを採取して俺の元へ持ってきてもらう」



 薬草採取の果実バージョン的なものだろうか。さっきのイノシシを倒して来いとかじゃなくて、少し安心する。



「それが出来たら、見習いという形だがうちのパーティとして歓迎しよう。しかし、日が昇っても戻ってこなかった場合は、失格とする。いいな」



「「はい!!」」



 俺達は勢いよく返事をする。そして早速二人で森の奥へと入っていった。







 森の奥へ入って数分。俺は少年に話しかける。



「そういえば君、なんていう名前なの? 二人して合格すれば同僚ってことでしょ、仲良くしようよ」



 俺が話しかけると、少年はそうだな。と言った後、木の根が段差になっているところに登り、俺より高い場所に行くと腰に手を当てて威張る姿勢になる。



「僕はエイコイ・ファンガス。いつの日か大金持ちになって、貴族に返り咲く者だ!!」



「そうか~エイコイって言うのか。よろしくな!」



「あれ、色々質問とかないのか!?」



「興味ない」



「え!?」



 なぜか勝手に驚いたエイコイは、木の根から滑り落ちて俺の前に転がってくる。頭にタンコブを作り目を回しているエイコイに俺は手を伸ばした。



「俺は平山 友(ひらやま ゆう)だ。よろしくな」



 俺が手を伸ばしたことに気づいたエイコイは、溜め息を吐くと、



「鼻血出してた時も思ったが、結構マイペースなやつだなぁ。まぁいっか。俺からもよろしく頼む、ユウ」



 俺は手を掴んだエイコイの腕を引っ張って立ち上がらせた。



 お互いの自己紹介も終え、俺達は一緒に森の中を探索する。



「それでエイコイ。ここってどこなんだ?」



「……お前、知らないでこの森に入ってたのかよ……。ここは腐海の森。並の冒険者じゃ近づかない、危険な森だ」



「そんな危険な場所なの!?」



 そんな危険な森の中に俺は居たのか……。いや、今も居るのか!!



 俺が聞いてもいないのに、エイコイは話を続ける。



「この森は寄生を得意とするモンスターが大量に生息している。さっきのイノシシもキノコに寄生されてたな」


 だから、背中に巨大なキノコが生えてたのか。
 てか、モンスターなんているのか。これは魔法のあるファンタジーに来ただけじゃなく、モンスターがいるとか、ワクワクが止まらない。
 早く魔法を覚えて、その力を試したい……。



 そのためにも、



「それじゃあ、ポムポムも寄生されてたりするのかな?」



「どうだろ? 僕もポムポムは初めて聞いたからね」



 二人で森の中を慎重に歩いていると、背後で木の枝が折れる音が聞こえた。俺はその音に反応して振り返るが、背後には何もいない。



「どうした? モンスターか?」



「いや、気のせいだった」


 何か後ろにいるのかと思ったが、何もいないようで俺達は再び進み始める。根の上を進んでいると、前方に何か発見した。



「ん、なんかいるぞ」



 俺が報告すると、エイコイは確認のため俺の前に出る。



「あれは陸エイだ。こっちから攻撃しなければ何もしてこない」



 俺もエイコイの陰から顔を出して、その陸エイという存在を確認する。それは平べったい魚のようなもので、本当にエイのような形をしている。
 地面に身体を埋めて隠れている様子だ。



 しかし、安全だと言ったエイコイだが、遠回りするように指示を出す。



「攻撃仕掛ければ襲ってこないが、ああやって地面に隠れてることがあるんだ。間違えて踏んだら、尻尾の針で襲ってくる。こっちから行こう」



 俺はあんな生物の生態なんて知らないし、ここは大人しくエイコイの指示に従って進む。陸エイのいるエリアをまわり道した俺達。
 今度は森の中でも不思議な、木と同じ高さのキノコが生えているエリアへと到着する。



「でっけーキノコ~」



 俺が見上げてキノコを見ていると、エイコイが俺に飛びつき、ハンカチで俺の口元を塞いだ。



「何すんだよ」



「このキノコの胞子を吸うな! コイツは生物に寄生するキノコだ。人間だろうがモンスターだろうがお構いなしに寄生する」



「怖っ!?」



「コイツに寄生された村人が村に帰って、村が滅んだって事例もある。人間の場合は気管に寄生するから、吸わないようにすれば大丈夫だ」



「そんなヤバいキノコなのか……」



 エイコイの説明を聞き、俺はエイコイのハンカチを借りて鼻と口を覆う。エイコイも首に巻いていたタオルで鼻と口を覆って、キノコ地帯を通過した。



 キノコのない地点まで到達し、俺はハンカチを外してはぁっと深く息を吐く。



「エイコイ、お前のおかげで助かったよ」



「そりゃ、どうも」



「しっかし、お前詳しいよな~。それとも普通はそんなもんなのか? 俺が知らなすぎるだけ?」



 俺はこんなヘンテコな森は聞いたことすらない。ここが俺の知らない世界だとしたら、俺が知らないのは当然だ。
 そして俺の常識が常識でない可能性の方がある。



「いや、……僕がちょっと知識があるだけかな」



 エイコイは頭に手を乗せて、ソワソワしながらそっぽを向いた。



「そうか、でもその知識は助かるよ」



 そんな話をしながら進んでると、またしても背後で草が揺れる音が聞こえてきた。
 その音は風なんかではない。何か物体が植物にぶつかり、擦れた音だ。



「おい、誰かいるのか!?」



 俺が後ろを向いて警戒すると、エイコイも何か違和感を感じていたのか、素早く振り向く。そしてカマリキのような謎の構えで後ろを警戒し始める。
 俺も何が来ても拳を握りしめ………………ずに、もしもの時は逃げられるようにしておく。



「ユウ。君が最初から感じていた気配は、気のせいじゃなかったみたいだね」



「やっぱり誰かいるよな……」



 しかし、どれだけ待っても何も出てこない。



「エイコイ、モンスターがいるって言ってたよな。モンスターがつけて隙を窺うってことはあるのか?」



「いる。もしも相手がそうなら、このまま探索を続けるのは危険だよ」



「…………そうか、ならどうしたらいい?」



「そんなの決まってるよ……」



 俺達は顔を合わせると、目を見合ってお互いの意見を確認するように頷き合った。そして、



「「全力で逃げろォォォォォ!!!!」」



 何かいそうな雰囲気の場所とは反対側に向かって、全力疾走で走り抜けた。












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