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サージュ村編
第4話 【天才魔法使いの本性】
しおりを挟む「久しぶりね。パト」
少女は“爽やかな笑顔“をパトに向ける。
「エリス!?」
彼女の名前は『エリス・グランツ』。
パトの幼馴染みであり、現在は村を出て、“オーボエ王国“にある【王立魔法学園】に“特待生“として在学している。
“王立魔法学園“とは“魔法使い“や“聖騎士“を目指す若者たちが通う“学校“であり、“並外れた魔力適性“と“魔法知識“が無ければ、入学する事ができない。
その中でも“特待生“として入学しているエリスは、一言で言うならば、『天才』。天から与えられた“才能“を持った『天才少女』なのである。
「今ね。“魔素“を“魔力“に変換する研究をしていて、天然の魔素が豊富にあるこの地域に研究に来たの……。それで、少しの間で良いんだけど、泊めてもらえないかな?」
エリスは手を合わせ、申し訳なさそうにお願いしてくる。
「らしいのよ~、久しぶりに会ったんだし、今はガオ君いないじゃない。部屋も“余ってる“でしょ?」
エリスから事情を聞いたのか、アマルも一緒に部屋を貸すようにせがむ。
「…………は、はい。分かりました」
パトは頭を掻き、断ることができず、渋々許可を出す。
「ありがとうね。パト」
許可を出すと、エリスはくるりと向きを変え、帽子を外して、アマルに頭を下げる。
「それじゃあ、アマルさん。道案内ありがとうございました。荷物の整理があるので、これで……」
「そうね。もっと喋りたい事もあるのだけれど、ここまで来るのにも疲れただろうしね~、それじゃあ、ゆっくり休んでね~」
アマルは手を振り、帰っていく。エリスはアマルに対して深く頭を下げ、見えなくなるまで、礼を続けた。
アマルが見えなくなってから、エリスは頭を上げ、パトを見る。
「それじゃあ、お邪魔するね」
「あ、ああ」
エリスは顔を上げ、パトに微笑む。パトは“戸惑い“ながら、返事をして家の中へと案内する。
エリスが扉を開け、家の中に入ると、エリスの顔が一瞬“緩んだ“が、中に人がいるのに気づき、すぐに笑顔を作る。
「あれ? お客さん?」
エリスはリビングに座るある女性の姿に気づく。
そしてその女性に対峙するかのように、向かい合った。
「初めまして、私はエリス・グランツ。“王立魔法学園“で魔法の研究をしている魔法使いよ。あなたは?」
エリスはそう言い、手を伸ばし、握手を求める。
「“ヤマブキ“デス」
しかし、ヤマブキは軽く自己紹介をしただけで、握手にも応じない。
“笑顔“を見せながら喋るエリスとは“対照的“に、ヤマブキは反応が無いわけではないが、表情も何一つ変えず、“愛想“を感じさせない。
「ふ~ん、ヤマブキさんって、言うんだ。よろしくね」
エリスはヤマブキの手を無理やり掴み、無理やり握手をさせる。ヤマブキはエリスにされるがままだが、抵抗する様子もない。
パトは問題がないならと、遠くから二人の様子を見守る。
握手を終えたエリスは一歩下がると、ヤマブキを下から上へ、ゆっくりと眺める。
珍しい服装に興味を持ったのかとパトは一瞬思ったが、そうではなかった。
何かに気づいた。いや、最初から気づいていたのだろう。ヤマブキが常人ではないということに。
一人で納得したエリスは、腰を落とし、座っているヤマブキに目線を合わせる。
「ヤマブキさん、あなたそれなりの“魔力“を持ってるのね。特にその胸に付いた“魔石“。……少し見せてもらって良いかな? “魔法使い“としては、その“魔石“に“興味“があるの」
突然のエリスの言葉にパトは止めに入ろうとする。だが、それよりも早くヤマブキは“拒否“した。
そしてエリスも拒否されることが“分かっていた“かのように、ヤマブキに軽く頭を下げて謝る。
「そうよね。ごめんね。会ったばかりなのに、“こんなこと“言っちゃって……」
エリスは軽く笑顔を見せ、場を和ませようとするが、ヤマブキは相変わらず表情一つ変えず“無反応“を貫いている。
自分から言い出したこととは言え、ここまで反応がないと、さすがのエリスも“お手上げなのか“。それとも何かを“探ってなのか“。言葉数が少なくなり、エリスのヤマブキを見る目は徐々に鋭くなっていく。
「……ふ、二人とも?」
二人の会話に緊張感が漂い始めたところで、パトは声を掛けようとするが、それと同時にエリスが立ち上がり、
「あ、そうだった。私、研究用のレポート書かないと行けないんだった。……パト、“部屋借りる“ね」
そのまま、逃げるようにパトの部屋へと入っていく。
「あ、エリス!!」
パトもそれを追いかけて部屋へと入る。
扉を閉め、ヤマブキの居ない、“二人“だけの空間になる。
誰の目も気にする必要がなくなった瞬間、エリスが“本性“を見せる。
「あー、もう疲れた~」
エリスは全身の力を抜き、ベッドに倒れ込む。
キリッと開いていた目は半開きになり、口は開きっぱなし、さっきまでの凛とした顔は綺麗さっぱり消えてしまった。
「あー、もー、めんどくさ~い」
エリスは荷物も何も整理せず、ベッドで寝返りを打ちながら、ゴロゴロとダラける。
これが『エリス・グランツ』の『本性』。普段は王立魔法学園に通う、“優等生“としてそれらしい態度を“偽っている“。
だが、“パトと二人“でいる時だけ、“超めんどくさがり“の、“だらけ屋“へと変貌する。
「エリス……せめて荷物だけは片付けてから寝てくれよ」
パトはエリスの持ってきた荷物を“手慣れた“様子で片付ける。
「良いじゃない。“いつも“の事でしょ」
エリスはよく学校を抜け出し、こうしてパトの元に訪れる。
王国に友人や頼れる知り合いがいないわけではないが、“本性“を曝け出し、全てを任せられる人は“パト“以外にはいない。
いつも“優秀な学生“として振る舞っているからこそ、“偽りの自分“に疲れた時は、それを意識しないで居られる“パト“の元に訪れるのだ。
エリスは寝っ転がりながら、横目で片付けをするパトを睨む。
「それで~、誰よ。あの女~」
女とはヤマブキについてだろう。
誰と言われても、先程自己紹介をしていた通りである。しかし、エリスが求めている答えが、そうでないと分かっているパト、語り出す。
「ヤマブキさんか……。ヤマブキさんは科学文明(アルシミー)の…………」
パトは一から説明しようとするが、エリスは寝返りを打ちながら、それを止める。
「あー、待った。めんどくさいから、関係する単語を並べて教えてー」
「え、……ああ、『ヤマブキさん』『科学文明(アルシミー)』『出会った』『助けられた』『居候』『頼まれる』」
パトは一瞬戸惑ったが、思い付く限りの単語を並べ、エリスに伝えると、エリスは小さく頷き、
「……うぅぅぅ~ん。だいたい分かったから、もう良いよ」
納得したようで、体を伸ばし、リラックスすると寝返りを打ち、目を瞑る。
いつもの事なのだが、パトはエリスに毎回驚かされる。
今ので理解できたとは思えないが、エリスなら理解できるのだろうと、パトは深く考えるのをやめる。
グチャグチャに入れられた荷物を入れ直したパトは、荷物を持って立ち上がる。
「ほら、エリス。立って」
「何よー?」
「俺の部屋なんだが、今、ヤマブキさんに貸してるんだ。すまないが、今回は父ちゃんの部屋で我慢してくれるか?」
そう、現在パトの部屋はヤマブキに貸している。
その為、使える部屋は、倉庫とリビング、そして父の部屋のみであるが、布団を敷けるのはガオの部屋しかないのだ。
春先は朝方が冷える。パトは布でも巻いて耐えれば良い。エリスには父のベッドを使ってもらおうと考えたのだが……。
パトの言葉を聞き、エリスは飛び起きる。そしてベッドの上で座ると、凄く嫌そうな顔をして全力で拒否する。
「嫌よ! そんなの!!」
「……いや、でも」
「絶対嫌よ!! だって…………あなたのお父さん、臭いじゃない!!」
まさかの理由に驚くパト。
「そんなことは……!!」
パトは否定しようと、両手を前に出すが、
「…………それは…………そうだが……」
否定できなかった。
「なら、あのヤマブキって子に、お父さんの部屋を貸せば、良いじゃない!!」
「ヤマブキさんはお客さんだぞ!! あの臭い部屋を貸すなんて…………ん?」
エリスが冗談半分でパトに提案した時。
キッチンの方から焦げ臭い匂いが流れ込んでくる。
「……何よ? この匂い……」
「まさか…………」
朝食の準備をしている途中に、エリスたちが訪ねてきたため、卵を焼きっぱなしだったことを思い出す。
「やばい!!」
パトはエリスを部屋に残して、急いでキッチンに向かう。
暖炉に置かれたフライパンからは、黒い煙が漂い、異臭を放っている。
「あちゃ~、やっちゃったな」
フライパンの中を覗くと、真っ黒に焦げた卵が出来ていた。
パトは頭を抑え、貴重な卵を無駄にしてしまったことを悔やむ。しかし、もうやってしまったことはやってしまったことだ。
「…………」
だが、この状況を防ぐことはできたはずだ。
パトは後ろを振り返り、ヤマブキを見る。
ヤマブキは椅子に座ったまま、ずっと動かずにいたようだ。
こんな状態になっているのに、何も行動を起こさなかったヤマブキに、パトは疑問と不信感を持つが、責任を押し付けるわけにはいかない。
料理中に目を離した自分が悪いと自分を責め、ヤマブキに頭を下げる。
「……す、すみません。すぐ作り直しますから……」
パトは焦げた卵を自身のお皿に盛り付け、新しい卵を割り、再び作り始める。
卵に火を通しながら、細かく砕き、塩胡椒で味をつける。
卵を焼いているうちに、パンをオーブンに入れ、焦げ目がつくまでじっくり焼く。
しばらく経ち、三つのパンが焼き上がった。
その上にスクランブルエッグを乗せ、さらにその上にケチャップをかける。
お皿に盛り付け、キャベツとトマトも一緒に乗せれば、完成。
スクランブルエッグトースト。
「よし、出来た」
パトはリビングにあるテーブルに出来上がった朝ごはんを置く。
「エリス!! 出来たよ!!」
パトが部屋で寛いでいるエリスに呼ぶ。すると、エリスはひょっこりと顔を出す。
「ん、朝ごはんね。ありがとう」
エリスは平然と席に座る。
パトはエリスに、朝ごはんが必要かどうか、聞いていないが、大抵エリスが訪ねてくる時は食べていない。
パトに作って貰えるからと、エリスはご飯を食べて来ないのである。
パトはコップを持ち、二人に聞く。
「二人とも、お茶と牛乳どっちが良い?」
エリスはテーブルに置かれた料理を見て、迷う事なく答える。
「牛乳でお願い」
それにつられるようにヤマブキも答える。
「私モ同ジデ、オ願イシマス」
パトは二つのコップに、牛乳を注ぎ、二人に渡す。
「はい」
「ありがとう」
「アリガトウゴザイマス」
パトがコップを渡すと、二人は礼を言い、牛乳を一口飲む。
二人とも口元に牛乳の跡が付いている。
「それじゃあ、食べようか」
パトが席に座ると、三人は食べ始めた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「そういえば、パト……」
半分ほど食べたところで、エリスはパンを皿に置き、パトの顔を見る。
「“モンスター大量発生“。何か“原因“は掴めたの?」
「いや、まだ何も……父ちゃんが“村長会議“で議題に出してるから、それで何か、発見があれば良いけど」
モンスター大量発生の件については、前々からエリスにも相談していた。
「そう、…………一応、私の方でも調べてみたんだけど。この辺りで“魔術“に関する話を聞いたことはある?」
「いや、俺は聞いた事ないな。しかし、それが“モンスター大量発生“と何か関係があるのか?」
「確実にとは言い切れないけど、“可能性“はある。この前来た時、この辺りでは珍しいモンスターまで出現したって言ってたよね」
「ああ、昨日は“ベアウルフ“を見た」
「“魔術“の中には、“召喚術“に近いものがあるらしいの。専門外だから詳しくは分からないけど、いくつか実例も残ってる」
「じゃあ、その“召喚術“で“モンスター“が大量発生している可能性があるのか…………ん、だとすると、魔術を使える、“魔術師“が村の近くにいることになるよな」
パトは椅子から飛び上がるように、立ち上がる。
その様子を見ながら、エリスは落ち着いた様子で牛乳を飲む。
「念のためもう一度言うけど、“可能性“の話だから。もしも、“召喚術“が使われているのなら、“魔術師“の存在は否定しようはない。でも、他の“原因“だって考えられる。“季節“や“時期“的な『自然的な現象』。王国の“魔道具工場“からの“排気魔素“などの『公害的な原因』。“可能性“はいくつも考えられる」
パトはエリスに言われ、現状何もすることができないことを改めて気づき、再び座り食べ始める。
「でも、出来る限り早めに“原因“を突き止めないとな。村の“結界“も弱くなってるし、結界を張り直したくても、張り直している間にモンスターに襲われる可能性がある以上、貼り直すのは困難」
“サージュ村“には村を覆う大きな“結界“が張られている。目には見ることができないが、“魔素“から生まれた“モンスタ“の侵入を防ぐ効果がある。
“70年前“、かなりの腕の“実力者“が張ったものらしく。“長い年月“の間、“結界“を張り直す必要はなかった。だが、さすがに“結界“も“弱まり“始めている。
その為、結界を貼り直したいのだが、70年前に貼られた結界はかなり“複雑“で、結界を貼り直すためには、かなりの時間がかかるようだ。
「……何か、手がかりはないのだろうか」
続く
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