世界最強の兵器はここに!?

ピラフドリア

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オーボエ王国編

 第17話  【失ったもの】

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 世界最強の兵器はここに!?17


 著者:pirafu doria
 作画:pirafu doria


 第17話
 【失ったもの】




「私がジョージ・フェリス。そして妻のアイリスだ」



 ジョージとアイリスが一礼する。



 それに続き、パトも急いで頭を下げる。



「は、初めまして! パト・エイダーと申します!!」



 パトは額に汗を垂らしながら、隣にいるヤマブキの姿を見る。



「……!?」



 そこには頭を下げるでもなく、ジョージ達の姿を見るでもなく。テーブルに出されたお菓子をパクパクと食べ続けるヤマブキがいた。



「ヤマブキさん!!」



 パトはヤマブキを止めると、頭を下げさせようとするが、ジョージがそれを止めた。



「まぁまぁ、彼女も何か失っているのだろう。謝らなくても良い。それにこちらが一方的に君たちに会いたくて招待したんだ。そこまで緊張しなくても良いよ」



 そう言うと、ジョージ達は部屋に用意されたソファーに腰をかける。



「座りたまえ」



 ジョージの言葉に従い、パトもヤマブキを連れてジョージ達の向かいのソファーに座る。



「すまない。ここまで登るのは大変だっただろう。本当なら転移魔法で登ることもできたのだが、少々面倒なことになっていてね」



 ジョージが言っているのは、この部屋に来るまでの階段のことだろう。
 転移魔法とは人物や物を特定の場所から移動させることができる魔法だ。おそらくは一回からこの回まで一瞬で移動できたと言うことだろう。だが、面倒なこととはなんだろうか。だが、王族の話でもあるので、下手に首を突っ込むことはしない方がいいだろう。


 どう返事をしようか、焦ったパトはテンパってしまう。



「い、いえ!! 足腰が鍛えられて良かったです!! ありがたいくらいですよ!!」



「そうか? なら今度から私も使ってみようかな。私は王族として剣術を習っているのだが、なかなか結果が出なくてな。階段を使う……明日、いや、今日からやるか」



 ジョージほそう言いながら、微笑む。



 なんだが、冗談……だと最初は思ったが、彼の表情を見ているとそんな気はしなくなる。



 彼は生まれつき体が弱く、才能にも恵まれていなかったと聞く。それでも人一倍努力し、今では優秀な次期国王候補の一人となっている。



「き、きっと、成果がで、でますよ」



「そうだな」



 そして彼から滲み出る優しさ。それには全くの裏表がない。そう感じるような言葉、表情、態度。
 そのせいだろうか。この皇子には不思議と心を許せてしまう。



 それに隣にいるアイリスという女性。彼女も言葉こそは発しないが、同じように笑みを浮かべ、優しい表情を作っている。



 なんだか、この二人は似ている。そう、思えるのだ。



「おっと、すまない。私は君たちももう少しお話をしていたいのだが、そう時間もない。早速本題に入らせてもらおう」



 ジョージはさっきまでの雰囲気とは一変し、真面目な表情になると、ヤマブキに目を向けた。



「彼女は何を失ったのか。教えてもらえるかな?」



「何を失った?」



 パトは思わず聞き返してしまう。



「君は知らないのか? いや、知らないのも当然か、これは私も最近知ったことだしな……」



 ジョージは独り言を呟くと、しばらく考え込み。アイリスと目を合わせた後、頷き合うと、パト達の方を向く。



「パト。君は終焉の物語を知っているかい?」



「え、あ、はい」



 終焉の物語。それは大昔から伝わる予言である。



 天界に住む神族によって伝えられたこの話の内容は世界の滅びを伝えた物語。そしてそれは天族からの、我々、人間がその滅びを避けるために、対策を講じろ。というメッセージでもあると言われている。



 話の内容は大雑把にこうだ。



 ある日、天界に住む一人の人間が、予言を見た。それは世界の滅びの姿。
 無色のエネルギーが、次々と世界を飲み込んでいく。夢を叶える大樹、夜のみの存在する毒の地、そして私たちの世界。



 そして滅びゆく世界に立つ、三人の姉妹。



「その滅びを避ける。そのために君の元にヤマブキ。そして私の元にアイリスが送られてきた」



「ヤマブキさんが……」



 パトは理解が追いつかず、その場でヤマブキを見る。だが、見たところでヤマブキは何かに応えることはしない。



「アイリスとヤマブキはこの世界の人間ではない」



「え!?」



「別の世界から送られてきた人間。君も少しは聞いたことがあるだろう」



 70年前に異界より送られてきた異世界人のことだろうか。
 70年も昔、突然として多くの異世界人がこの世界に現れた。その理由は謎が多いが、多くの者がこの世界に貢献し、様々な物を残していったと聞く。



「じゃあ、ヤマブキもですか?」



「ああ、そしてこれは70年ぶりの異世界人だ」



 70年ぶり、それまでは異世界人は送られてくることはなかった。



「それなら他にも……」



「詳しくは知らない。だが、一人知っている。エンドというアングレラ帝国の大賢者を務めている者だ。しかし、今は他の異世界人よりも大事なことがある」



「大切なことですか?」



「そう、ここから先は物語にはない。私の友人が調べた情報だ」



 物語にあった通り、予言を見た天族は、その預言が事実にならないために、その予言に映った三人の姉妹を恐れた。
 そしてある結論に辿り着いた。それがその三人の姉妹がこの世にいなければ、この予言は起こり得ない。



 その天族は権力を使い、同じ天族であり、悪名高い三姉妹が予言の人物ではないかと考え、そしてその姉妹の暗殺を計画する。
 しかし、それは失敗し、三姉妹は下界へと降りてくる。



 下界に降りることのできない天族は、その三姉妹の殺害を下界の者に託した。



 それがちょうど70年前。



 しかし、三姉妹も天族。天族の力は強大で普通の人間では手に負えない。
 それにこの時に天族の中で、断りの外の者でなければ、予言を打破することはできないのではないかという意見が出た。



 そのため、天族は異世界人に力を与え、討伐へと向かわせることにした。
 しかし、一人の異世界人が姉妹の見方をした。そして他の異世界人や仲間を連れ、天族に牙を向いたのだ。これによって、天族は大きな損害を受けてしまった。



 そして70年が経ち、牙を向かない異世界人を作るため、天族は力を蓄え、あることを行なった。
 それが鍵(ロック)。これは70年前の異世界人やその仲間達にも行われたもの。



 鍵(ロック)はあらゆるものに欠けることができる。



 それにより、アイリスとヤマブキにはかけたものがある。



「その鍵(ロック)をかけられたのが、アイリスは言葉なんだよ」



「言葉……ですか?」



「ああ、アイリスは喋ることができない。言葉を奪われてしまったんだ。酷い話だろ。三姉妹を倒したいためなのに、なぜ、アイリスから言葉を奪う必要があったのか」



 そう言われればそうだ。なぜ、ロックをかける必要があったのか。




「そしてそうとするなら、彼女も何かを失っているだろう」



「ヤマブキさんも……」



 だが、それをヤマブキは語ろうとはしない。パト達にはそれを知る方法はない。



「それにもう一つ、今回異世界人を送るにわたり、天族は少し変わったことをしているようだ」



 そう言うと、ジョージはパトとヤマブキを交互に見る。



「君達はお互いに同じ魂を持つもの。そして、その者を守るように天族は命令している」



 それを聞き、パトはヤマブキに初めて会った時のことを思い出す。



 ヤマブキはパトに会った時、平和プロジェクトと言っていた。そしてそれを行うために、パトを守る命令があると言葉にしたのだ。



「そういえば、ヤマブキもそんなことを……」



「これに何の意味があるのか……私にも分からない。だが、ヤマブキやアイリスはその命令に逆らえないように魔法をかけられている」



「魔法ですか!?」



「強力な魔法だ。どんな術者にもこれを解くことはできなかった。そして逆らった時に何が起きるのか……それも分からない」



 パトはヤマブキの方へ顔を向ける。



 ヤマブキはパトを守るためにと、出会ってからずっとそばにいた。それがなんのためなのかは分からなかった。
 しかし、今やっと理解することができたのだ。



「天族がなぜ、異界人に俺たちを守らせるのか、その理由は分からない。だが、一つだけ、私には分かっていることがある」



 ジョージは立ち上がると、窓の外を見つめる。



「私達には必ず試練が訪れる。その覚悟が必要だということを……」





 ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎




 パト達を帰らせた後、ジョージは妻のアイリスと共に紅茶を飲んでいた。



「アイリス。君は彼らについてどう思う?」



 ジョージはアイリスに言うと、お互いに見つめ合う。



 会話のできないアイリスだが、ジョージとだけは心を通じ合うことができた。



 それがお互いの惹かれあった理由でもあり、支え合える理由なのかもしれない。



「そうか。君もそう思うか……なら、いずれは私達と対立することもあるかもしれない……」



 ジョージは窓から外の風景を見下ろす。




 王国全体を見通せる絶景。ここからは王国の全てが見える。



「今は様子を見るとしよう」



 多くの人々が行き交う街。そこに小さく見える後ろ姿。いつしかその姿は人の波の中に呑まれ、見えなくなる。



 そんな見えなくなった背中を探しながら、ジョージはアイリスに呟いた。



「私は君に感謝してる。兄にも弟にも劣った私は自信を失っていた。だが、君がそれを取り戻させてくれた。必ず君の失ったものも取り戻してみせる。この私が……」






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