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オーボエ王国編
第16話 【オーボエ王国】
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世界最強の兵器はここに!?16
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第16話
【オーボエ王国】
「なんだい? アイリス、こんな時間に……?」
夜風に髪を靡かせ、女性は北を見つめていた。
「……そうか、来たんだね」
女を寒い夜風から守るように、風上に立った男は、同じように北を見た。
「招こう。一度話してみるべきだ。全てはそれから……」
男は着ていた上着を女性の方に掛ける。
「さぁ、戻ろう。夜風は冷える。温かいスープ用意した。一緒に飲もう」
⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎
エンザン達、熊の爪(オングル・ウルス)を警備隊に引き渡したパト達は、オーボエ王国へと入国した。
巨大な門を潜り抜けると、そこには笛のような細長い建物が、天に届くように立ち並んでいる。
「いつ見ても高いな……」
夕暮れだというのに、大通りには多くの人が入り混じり、出店も賑わっている。
そんな王国の様子を見ていたオルガがぽつりと呟いた。
「これがオーボエ王国か……。変わったな」
仮面越しに王国を見渡す。
「来たことがあったんですか?」
「ああ、昔に仲間と何度かな。だが、かなり王国の風景も変わったな」
オルガは70年も洞窟の中にいた。それだけの年月が経てば、王国の姿も大きく変わる。
それに数十年前に起きたオーボエ王国とフルート王国の戦争。それは急激に文明を進化させた。
現在王国の名物となっている細長の建物。それもここ数十年で文明が一気に発展したことにより、多く見られるようになった建物の一つだ。
「まぁ、一旦どこかで泊まりましょうか。早くしないと宿が混んでしまいます」
街を見渡していたオルガ達に、シーヴはそう言う。
「あれ? でも、エリスとシーヴは寮があるんじゃないか?」
宿を一緒に探してくれている二人に、パトは疑問を抱く。
王立学園の生徒には、学園内に寮が支給され、自由に泊まることができたはずだ。そのことを知っているパトは二人に尋ねる。
「いえ、それが今は規制が厳しく。この時間になると生徒でも学園内へと出入りが禁止されてるんです」
シーヴはそう答える。詳しい事情は分からないが、二人にも宿が必要なことがわかった。
「じゃあ、宿代は俺が出そう。買い出しは明日からだしな」
パトは父親から買い出しのために貰った多めに金貨を受け取った。そのため宿代くらいなら負担できる。
その後、近くにあった宿で、三人部屋を一つ、二人部屋を一つ借り、男女に分かれて泊まることになった。
宿は一部屋、銀貨2枚と格安だが、とても綺麗でベッドもふかふかだ。
⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎
翌日、宿をチョックアウトすると、エリスとシーヴは学園へ、パトとヤマブキ、オルガは買い出しに行くということで別れることになった。
「シーヴ。エリスのことを頼んだぞ」
「はい。ではエリス先輩行きましょう」
「えっと、やっぱり私は……」
「ほら!」
逃げようとするエリスをシーヴが捕まえ、学園へと引っ張っていく。
そんな光景を見送った後、パトは村から引っ張ってきた馬車で連れて、村から持ってきた作物や道具の売買のため、父の知り合いの行商人の店へと向かった。
村のことであるので、買取をしてもらっている間はヤマブキとオルガは自由にしていていいと言ったが、
「私ハパトヲ護衛スルトイウ任務ガアリマスカ」
「俺も手伝うぜ。一人よりも三人でやった方が良いだろ」
二人が手伝ってくれたおかげで、正午には買取の交渉と頼まれていた買い出しも終えることができた。
「これで全部だな」
パトは父親から貰った買い物リストと馬車の荷物をチェックし、全てあることを確認する。
「よし! 手伝ってくれて、ありがとうございます」
パトは二人に頭を下げて礼を言う。そして二人に一枚の金貨を見せる。
「何か欲しいものはありますか? 良かったら買いますよ」
二人のおかげで仕事を早く終わらせることもでき、想定よりもはるかに多くの金額を儲けることができた。
その分のお礼として何か欲しいものがあったら、買ってあげたいとパトは思っていたのだが、二人は首を振る。
「私ハ大丈夫デス」
「俺もだ。それにそれはお前の村のお金だろ。無駄遣いするなよ」
そう言い、二人は遠慮する。
オルガはそのように言ったが、パトとしては二人は既に村の一員である。
それに二人がいなければ、盗賊に襲われて村に辿り着くことすら、出来なかったかもしれないのだ。
どうしても何かお礼をしたかったパトは周りを見渡し、すぐ近くに出店があることを発見する。
「では、あれを食べましょう」
⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎
出店で買ったソフトクリームを手に、三人は公園のベンチで休憩を取っていた。
ヤマブキさんは抹茶味のソフトクリームを美味しそうに頬張っている。ここまで喜んでもらえると、なんだか嬉しいものだ。
最近分かったことなのだが、ヤマブキさんは基本的に無表情だ。しかし、甘い物を食べている時にはこうした可愛らしい表情を見せるのだ。
他にも洞窟でキャファールに襲われた時や、部屋で虫が出た時も、ヤマブキさんの普段は見せない焦りの姿があった。
俺は今までヤマブキさんを科学文明(アルシミー)の遺産だと思っていたが、最近そのことに疑問を感じ始めている。
なんというか、ヤマブキさんには人間らしさを無理やり抑え込まれている。いや、抑え込んでいる。そう感じることがあるのだ。
これは俺の知る科学文明(アルシミー)ではない。そう思い始めている。
「……パト」
一人チョコ味のソフトクリームを食べ終えたオルガが、真剣な声で呟く。
「何かいる……すぐそこの茂みに……」
そう言い、ベンチに座りながらも、すぐに動けるようにオルガは尻を浮かせている。
ヤマブキはソフトクリームを食べることに真剣で、気づいてはいない。
パトはオルガに言われた茂みに視線をやろうとするが、オルガに止められる。
「待て……気付いていないフリをしろ」
「なんで?」
「武器を持ってる。何が目的かは分からないが、俺たちを見張ってる」
武器を持ってる俺たちを見張っている?
パトはそれを聞き、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
何が起きているのかは分からない。だが、武器を持っている人物に見張られているのだ。もしかしたら命を狙われているのかもしれない。
そう考えると、だんだん怖くなってくる。
「落ち着け! 襲ってはこないと思うぞ」
「本当か?」
「ああ、襲ってはこないと思う。うん、きっと、そう、襲ってはこないんじゃないかな~」
「もう少し自信を持っていってくださいよ! てかなんでそう思うんですか?」
「勘」
「そりゃ~、自信はないですよね。まぁ、でも、落ち着かせようとしてくれたんですよね。ありがとうございます」
だが、なぜ見張られているのか、全く心当たりがない。人に恨まれるようなことはした覚えはない。だとしたら、なんなんだろう。
そう考えていると、例の茂みから一瞬光が見えた。
そしてそれと同時に、立派な剣を持った男が茂みから飛び出してきた。
男は剣をパトに振り下ろしてくる。パトは腰を抜かし、口を開け動けない。
その横にいたオルガはフードから鎌を取り出すと、男の首に刃を向けるが……。
男がパトの目を前で剣を止めたことにより、オルガも動きを止めた。
しばらくの沈黙の後、男は下がり、剣を腰にしまう。
「すまない。突然の無礼、失礼した」
男は深く頭を下げる。
「私の名はガルム・ウィーク。パト・エイダー様とお見受けしました」
パトは突然の出来事に、未だ固まって動けない。
「あの申し訳ございませんが、そちらのフードの方、武器を下げてもらえますか?」
まだ鎌を向けたままでいたオルガに向け、ガルムは武器を下げるようにお願いする。しかし、オルガは下げる様子はない。
「突然襲いかかってくるような輩の言うことを聞くと思うか?」
そう言われたガルムは納得したように首を振る。
「それはそうですな。申し訳ない。だが、私も我が主人と合わせるに相応しい人物が、それを確認したかったもので……」
ガルムは動けずにいるパトを見つめる。その表情には少し不安そうな雰囲気がある。
しばらく経ち、やっと心臓の動きが元に戻ってきたパトは、深呼吸をしてガルムに聞く。
「えっと、ガルムさんですよね。ど、どういったご用件でしょうか?」
「我が主人があなたと、そして…………」
そう言い、ガルムはソフトクリームを食べ終わったヤマブキに目線を向ける。
「あなた方お二人に、面会を求めています」
パトは首を傾げる。
このガルムという男には初めて会った。そして王国でのパトとの顔見知りは少ない。
その中の人物に、このガルムのような人間で呼び出しをするような人はいない。
「えっと、その、その人って誰ですか?」
パトの言葉に、ガルムはハッと気づく。
「そういえばまだ、お教えていませんでしたね」
ガルムは王国の中心にある巨大な建物を指す。
「我が主人の名はジョージ・フェリス。このオーボエ王国の第二皇子です」
⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎
高級な馬車に揺られ、パトとヤマブキは王国の中心部へと向かう。
オーボエ王国を収める王族フェリス家。彼らはマジー文明を作り上げた一族の生き残りであり、その中でも最も純血に近いと言われている。
そしてジョージ・フェリス。彼はこの国の第二皇子にして、第一皇子アルベルト以上の人気があり、国民からの信頼を厚い、優秀な皇子である。
そんな皇子が、小さな村の村人であるパトに用があるとはどういうことだろうか。
馬車に揺られながら、パトは何の話があるのだろうかと考える。
オルガには村の荷物を任せることになった。
パトと約束の件で少し揉めたようだが、無理矢理納得させたようだ。
しばらくして馬車は王国の中心にある小さな丘にたどり着く。
その丘の頂上には円柱の形をした建物が堂々と立っている。それがこの王国の城。「コンセール城」である。
普段なら白に入るどころか、近づくことすら許されない。しかし、その場にやって来た二人。
「こっちだ」
馬車が止まり、ガルムに連れられ城の中へと案内される。
純白の壁で出来た城は雪のように美しく、広場のように広い城内は開放感溢れている。
城内の人間は誰もが清楚な服装をし、二人はまさに場違いな状態である。
パトは城の雰囲気に圧倒されていると、場内から一人の男が猛スピードで近づいてくる。
「が、ガルム様!!」
男は汗だくで、城にいる人達と同じような服を着てはいるが、ヨレヨレになり汚れている。
「どうした? ワイゼ、またか?」
「はい。またベアリトス様が……ああ!! どこへ行ったのか!!」
よくあることなのだろうか。ガルムはため息をしながら、慣れたように言う。
「分かった。俺もこの客人をジョージ様の元へ案内してから探しに行こう」
「はい。助かります」
ワイゼは一礼すると、城の外へと走っていく。
その様子をを見送った後、パト達はガルムに案内され、凄まじく長い螺旋階段を登る。
オーボエ王国の建物は円柱形の物が多く、縦に長い。そのため上層に行こうとすれば、エグいほど長い階段を、登らなくてはならない。それは城でも同様である。
体を鍛えているパトであるが、この量の階段を登るのは初めてでへとへとである。それはヤマブキも同様のようだ。
しかし、王国の人間はその生活に慣れているのか、息の切らすことなく階段を登っていく。
窓の外から地上の人間が蟻と同じような大きさに見えるのようになった頃。
「ここだ」
ガルムが足を止め、やっと客室に着いたようだ。
「私は先程の通り、用がある。ここで失礼させてもらう」
客室にパト達を入れたガルムはすぐに出ていってしまう。
まだ皇子はいないようだ。
息は整ったが、緊張でパトは体を震わせる。
王族と会うことなんて滅多にない。それなのに突然招待された。パトの緊張感はマックスである。
部屋の中心にあるソファーで固くなっているパトの隣で、ヤマブキはお茶を啜る。この状態をヤマブキは理解しているのだろうか。
そうパトが思っていると、扉がノックされ、二人の人間が入ってくる。
一人は金の短髪に青色の王族衣装を見に纏う男性。それと褐色の肌に赤い眼鏡をかけた女性。
「初めまして、パト・エイダー君。そしてヤマブキ君。私がジョージ・フェリスだ」
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第16話
【オーボエ王国】
「なんだい? アイリス、こんな時間に……?」
夜風に髪を靡かせ、女性は北を見つめていた。
「……そうか、来たんだね」
女を寒い夜風から守るように、風上に立った男は、同じように北を見た。
「招こう。一度話してみるべきだ。全てはそれから……」
男は着ていた上着を女性の方に掛ける。
「さぁ、戻ろう。夜風は冷える。温かいスープ用意した。一緒に飲もう」
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エンザン達、熊の爪(オングル・ウルス)を警備隊に引き渡したパト達は、オーボエ王国へと入国した。
巨大な門を潜り抜けると、そこには笛のような細長い建物が、天に届くように立ち並んでいる。
「いつ見ても高いな……」
夕暮れだというのに、大通りには多くの人が入り混じり、出店も賑わっている。
そんな王国の様子を見ていたオルガがぽつりと呟いた。
「これがオーボエ王国か……。変わったな」
仮面越しに王国を見渡す。
「来たことがあったんですか?」
「ああ、昔に仲間と何度かな。だが、かなり王国の風景も変わったな」
オルガは70年も洞窟の中にいた。それだけの年月が経てば、王国の姿も大きく変わる。
それに数十年前に起きたオーボエ王国とフルート王国の戦争。それは急激に文明を進化させた。
現在王国の名物となっている細長の建物。それもここ数十年で文明が一気に発展したことにより、多く見られるようになった建物の一つだ。
「まぁ、一旦どこかで泊まりましょうか。早くしないと宿が混んでしまいます」
街を見渡していたオルガ達に、シーヴはそう言う。
「あれ? でも、エリスとシーヴは寮があるんじゃないか?」
宿を一緒に探してくれている二人に、パトは疑問を抱く。
王立学園の生徒には、学園内に寮が支給され、自由に泊まることができたはずだ。そのことを知っているパトは二人に尋ねる。
「いえ、それが今は規制が厳しく。この時間になると生徒でも学園内へと出入りが禁止されてるんです」
シーヴはそう答える。詳しい事情は分からないが、二人にも宿が必要なことがわかった。
「じゃあ、宿代は俺が出そう。買い出しは明日からだしな」
パトは父親から買い出しのために貰った多めに金貨を受け取った。そのため宿代くらいなら負担できる。
その後、近くにあった宿で、三人部屋を一つ、二人部屋を一つ借り、男女に分かれて泊まることになった。
宿は一部屋、銀貨2枚と格安だが、とても綺麗でベッドもふかふかだ。
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翌日、宿をチョックアウトすると、エリスとシーヴは学園へ、パトとヤマブキ、オルガは買い出しに行くということで別れることになった。
「シーヴ。エリスのことを頼んだぞ」
「はい。ではエリス先輩行きましょう」
「えっと、やっぱり私は……」
「ほら!」
逃げようとするエリスをシーヴが捕まえ、学園へと引っ張っていく。
そんな光景を見送った後、パトは村から引っ張ってきた馬車で連れて、村から持ってきた作物や道具の売買のため、父の知り合いの行商人の店へと向かった。
村のことであるので、買取をしてもらっている間はヤマブキとオルガは自由にしていていいと言ったが、
「私ハパトヲ護衛スルトイウ任務ガアリマスカ」
「俺も手伝うぜ。一人よりも三人でやった方が良いだろ」
二人が手伝ってくれたおかげで、正午には買取の交渉と頼まれていた買い出しも終えることができた。
「これで全部だな」
パトは父親から貰った買い物リストと馬車の荷物をチェックし、全てあることを確認する。
「よし! 手伝ってくれて、ありがとうございます」
パトは二人に頭を下げて礼を言う。そして二人に一枚の金貨を見せる。
「何か欲しいものはありますか? 良かったら買いますよ」
二人のおかげで仕事を早く終わらせることもでき、想定よりもはるかに多くの金額を儲けることができた。
その分のお礼として何か欲しいものがあったら、買ってあげたいとパトは思っていたのだが、二人は首を振る。
「私ハ大丈夫デス」
「俺もだ。それにそれはお前の村のお金だろ。無駄遣いするなよ」
そう言い、二人は遠慮する。
オルガはそのように言ったが、パトとしては二人は既に村の一員である。
それに二人がいなければ、盗賊に襲われて村に辿り着くことすら、出来なかったかもしれないのだ。
どうしても何かお礼をしたかったパトは周りを見渡し、すぐ近くに出店があることを発見する。
「では、あれを食べましょう」
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出店で買ったソフトクリームを手に、三人は公園のベンチで休憩を取っていた。
ヤマブキさんは抹茶味のソフトクリームを美味しそうに頬張っている。ここまで喜んでもらえると、なんだか嬉しいものだ。
最近分かったことなのだが、ヤマブキさんは基本的に無表情だ。しかし、甘い物を食べている時にはこうした可愛らしい表情を見せるのだ。
他にも洞窟でキャファールに襲われた時や、部屋で虫が出た時も、ヤマブキさんの普段は見せない焦りの姿があった。
俺は今までヤマブキさんを科学文明(アルシミー)の遺産だと思っていたが、最近そのことに疑問を感じ始めている。
なんというか、ヤマブキさんには人間らしさを無理やり抑え込まれている。いや、抑え込んでいる。そう感じることがあるのだ。
これは俺の知る科学文明(アルシミー)ではない。そう思い始めている。
「……パト」
一人チョコ味のソフトクリームを食べ終えたオルガが、真剣な声で呟く。
「何かいる……すぐそこの茂みに……」
そう言い、ベンチに座りながらも、すぐに動けるようにオルガは尻を浮かせている。
ヤマブキはソフトクリームを食べることに真剣で、気づいてはいない。
パトはオルガに言われた茂みに視線をやろうとするが、オルガに止められる。
「待て……気付いていないフリをしろ」
「なんで?」
「武器を持ってる。何が目的かは分からないが、俺たちを見張ってる」
武器を持ってる俺たちを見張っている?
パトはそれを聞き、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
何が起きているのかは分からない。だが、武器を持っている人物に見張られているのだ。もしかしたら命を狙われているのかもしれない。
そう考えると、だんだん怖くなってくる。
「落ち着け! 襲ってはこないと思うぞ」
「本当か?」
「ああ、襲ってはこないと思う。うん、きっと、そう、襲ってはこないんじゃないかな~」
「もう少し自信を持っていってくださいよ! てかなんでそう思うんですか?」
「勘」
「そりゃ~、自信はないですよね。まぁ、でも、落ち着かせようとしてくれたんですよね。ありがとうございます」
だが、なぜ見張られているのか、全く心当たりがない。人に恨まれるようなことはした覚えはない。だとしたら、なんなんだろう。
そう考えていると、例の茂みから一瞬光が見えた。
そしてそれと同時に、立派な剣を持った男が茂みから飛び出してきた。
男は剣をパトに振り下ろしてくる。パトは腰を抜かし、口を開け動けない。
その横にいたオルガはフードから鎌を取り出すと、男の首に刃を向けるが……。
男がパトの目を前で剣を止めたことにより、オルガも動きを止めた。
しばらくの沈黙の後、男は下がり、剣を腰にしまう。
「すまない。突然の無礼、失礼した」
男は深く頭を下げる。
「私の名はガルム・ウィーク。パト・エイダー様とお見受けしました」
パトは突然の出来事に、未だ固まって動けない。
「あの申し訳ございませんが、そちらのフードの方、武器を下げてもらえますか?」
まだ鎌を向けたままでいたオルガに向け、ガルムは武器を下げるようにお願いする。しかし、オルガは下げる様子はない。
「突然襲いかかってくるような輩の言うことを聞くと思うか?」
そう言われたガルムは納得したように首を振る。
「それはそうですな。申し訳ない。だが、私も我が主人と合わせるに相応しい人物が、それを確認したかったもので……」
ガルムは動けずにいるパトを見つめる。その表情には少し不安そうな雰囲気がある。
しばらく経ち、やっと心臓の動きが元に戻ってきたパトは、深呼吸をしてガルムに聞く。
「えっと、ガルムさんですよね。ど、どういったご用件でしょうか?」
「我が主人があなたと、そして…………」
そう言い、ガルムはソフトクリームを食べ終わったヤマブキに目線を向ける。
「あなた方お二人に、面会を求めています」
パトは首を傾げる。
このガルムという男には初めて会った。そして王国でのパトとの顔見知りは少ない。
その中の人物に、このガルムのような人間で呼び出しをするような人はいない。
「えっと、その、その人って誰ですか?」
パトの言葉に、ガルムはハッと気づく。
「そういえばまだ、お教えていませんでしたね」
ガルムは王国の中心にある巨大な建物を指す。
「我が主人の名はジョージ・フェリス。このオーボエ王国の第二皇子です」
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高級な馬車に揺られ、パトとヤマブキは王国の中心部へと向かう。
オーボエ王国を収める王族フェリス家。彼らはマジー文明を作り上げた一族の生き残りであり、その中でも最も純血に近いと言われている。
そしてジョージ・フェリス。彼はこの国の第二皇子にして、第一皇子アルベルト以上の人気があり、国民からの信頼を厚い、優秀な皇子である。
そんな皇子が、小さな村の村人であるパトに用があるとはどういうことだろうか。
馬車に揺られながら、パトは何の話があるのだろうかと考える。
オルガには村の荷物を任せることになった。
パトと約束の件で少し揉めたようだが、無理矢理納得させたようだ。
しばらくして馬車は王国の中心にある小さな丘にたどり着く。
その丘の頂上には円柱の形をした建物が堂々と立っている。それがこの王国の城。「コンセール城」である。
普段なら白に入るどころか、近づくことすら許されない。しかし、その場にやって来た二人。
「こっちだ」
馬車が止まり、ガルムに連れられ城の中へと案内される。
純白の壁で出来た城は雪のように美しく、広場のように広い城内は開放感溢れている。
城内の人間は誰もが清楚な服装をし、二人はまさに場違いな状態である。
パトは城の雰囲気に圧倒されていると、場内から一人の男が猛スピードで近づいてくる。
「が、ガルム様!!」
男は汗だくで、城にいる人達と同じような服を着てはいるが、ヨレヨレになり汚れている。
「どうした? ワイゼ、またか?」
「はい。またベアリトス様が……ああ!! どこへ行ったのか!!」
よくあることなのだろうか。ガルムはため息をしながら、慣れたように言う。
「分かった。俺もこの客人をジョージ様の元へ案内してから探しに行こう」
「はい。助かります」
ワイゼは一礼すると、城の外へと走っていく。
その様子をを見送った後、パト達はガルムに案内され、凄まじく長い螺旋階段を登る。
オーボエ王国の建物は円柱形の物が多く、縦に長い。そのため上層に行こうとすれば、エグいほど長い階段を、登らなくてはならない。それは城でも同様である。
体を鍛えているパトであるが、この量の階段を登るのは初めてでへとへとである。それはヤマブキも同様のようだ。
しかし、王国の人間はその生活に慣れているのか、息の切らすことなく階段を登っていく。
窓の外から地上の人間が蟻と同じような大きさに見えるのようになった頃。
「ここだ」
ガルムが足を止め、やっと客室に着いたようだ。
「私は先程の通り、用がある。ここで失礼させてもらう」
客室にパト達を入れたガルムはすぐに出ていってしまう。
まだ皇子はいないようだ。
息は整ったが、緊張でパトは体を震わせる。
王族と会うことなんて滅多にない。それなのに突然招待された。パトの緊張感はマックスである。
部屋の中心にあるソファーで固くなっているパトの隣で、ヤマブキはお茶を啜る。この状態をヤマブキは理解しているのだろうか。
そうパトが思っていると、扉がノックされ、二人の人間が入ってくる。
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