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オーボエ王国編
第30話 【奴隷との戦い】
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世界最強の兵器はここに!?30
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第30話
【奴隷との戦い】
アングレラ帝国の中心にある城。そこにある知らせが訪れる。
「侵入者が奴隷解放をしているようです」
情報を受け取った王のそばに付き添う女が告げる。
「そうか。それはお前の言っていた例の奴らか」
女は無言で頷いた。
「だが、奴隷解放か……。そうなると奴とぶつかることになるな」
「ああ、大賢者のジェイのことですか」
「いや、ジェイは忠義と復讐により力を得る。しかし、奴には欲がない。それに比べてアイツには俺にさえも噛みつこうとする欲を持っている」
どれほどの力か。見させてもらおうか。
観客のいない舞台で静かにゴングが鳴らされる。
ゴングと同時にいち早く動いたのはミリアである。
姿勢を低くし、二人に向かって走り出す。
その走る速さは風のように早く、エリスには到底真似できない動きである。
ミリアは腰にあるバックからナイフを取り出すと逆手に構える。
そして二人の目の前まで辿り着くと、姿を消した。
魔法陣を展開していたわけではない。エリスには見えないスピードで、ミリアは二人の背後に回り込んでいた。
ナイフで緑色の長髪の女性に攻撃を仕掛ける。
武器を持っているのはこの女性のみ。もう一人は素手の少女だ。先に仕留めるなら、こちらだと判断したのだろう。しかし、その判断は誤っていた。
ミリアは気がつくと、天井を見上げていた。身体は痺れるように動かない。
次の瞬間、背中に強い衝撃を受ける。そして自身になりが起こったのか理解した。
ミリアは後ろに吹き飛ばされていた。そして地面に倒れたのだ。
まだ揺れる視界の中、ミリアは誰にやられたのか確認するために周りを見渡す。
エリスは戦闘開始から未だ動いた気配はない。緑色の長髪奴隷も同様だ。
ならば、攻撃していたのは、ミリアを見下ろすように、格闘技の構えをしているピンク色の髪をした少女であろう。
遠くから見ていたエリスにも理解が追いついていなかった。
猛スピードで近づき、奇襲を仕掛けたミリア。あの奇襲に反応できたのは、この場で一人だけ、桃色の髪の少女だけだ。
驚く様子を見たフェスは笑いながら説明する。
「どうだ。俺様の自慢の奴隷は? そいつはモモナ・ファナと言ってな。希少な戦闘民族エル族の生き残りだァ~。エル族は魔力を常時、身体を流し肉体の強化を行う。これは魔法計算や固有魔法ではなく、特殊体質だ。これにどう勝つ?」
アングレラ帝国は魔法の使用が禁止されている。それは奴隷も同様だ。しかし、このような体質は魔法とは別と考えられている。
あちらは魔法を使ってこないから、問題はないと考えていたが、これは予想以上に辛い戦いかもしれない。
立ち上がろうとするミリアにそうはさせまいと、ピンク髪の奴隷は足を上げると、そのまま地面ごと蹴りつけた。
ミリアは寝っ転がった状態で、身体を回転させてどうにか回避する。蹴られた地面は砕け散り、少女の蹴りで穴が小さなできる。
ミリアは回避で精一杯で立て直すことができないらしい。それを気づいたエリスは助けに入ろうと杖を手にするが、彼女の前に緑色の神の奴隷が立ち塞がる。
緑髪の奴隷は両手で剣を握り行く手を遮る。その構えはまるで教科書に載っているように正確で、その構えだけで彼女の真面目な性格が滲み出る。
彼女は剣を震わせながら小さな声で、
「すまん。これも生きるためだ」
息苦しそうにしながら剣を振る。
その表情にエリスは同情するが、今はどうすることもできない。
エリスは背を向けて、剣から逃げる。
運動能力は高いわけではない。エリスの身体能力では普通では剣から逃れることはできなかっただろう。
しかし、緑髪の奴隷の剣はエリスの背中のすぐ横を通る。
だが、剣は一度だけではない。逃げるエリスを追うように追撃が加えられる。
緑髪の奴隷は一歩踏み込むと、もう一度を振り下ろす。今度の一撃はハズレない。確実に射程に入っている。
エリスは危険を感じ振り向くが、どうすることもできない。叫ぶ間もなく剣は向かってくる。
次の瞬間、緑髪の奴隷の頸に蹴りが入れられる。奴隷は力が抜けたように、前倒しに倒れるが剣は決して離さない。
奇襲攻撃を仕掛けたのは、先程までピンク髪の奴隷に追われていたミリアだ。
ミリアは追われるふりをしながら、転送魔法の魔法陣を用意し、緑神の奴隷の背後にテレポートしてきたのだ。
転送魔法でテレポートしたミリアは、素早く緑神の女性に蹴りを入れ倒した。
ピンク髪の奴隷は突然消えたミリアを探し、キョロキョロしている。
「助かった」
エリスは礼を言うが、ミリアは何も反応しない。
ピンク髪の奴隷はミリアを見つけ、仲間が倒されていることに気づき、衝撃を受ける。
だが、
「……問題ない。モモナ」
「……マリ…………」
緑髪の奴隷は何事もなかったように立ち上がる。
その姿にミリアは衝撃を受ける。
今の一撃は確実に敵の意識を奪っていた。殺す気はなかったが、数日は立ち上がれないほどの攻撃だ。
そんな攻撃を喰らっても、何事もなかったように立ち上がる女性にエリスは違和感を覚える。
女性からは微かな魔力を感じる。だが、魔法を使う仕草はなかった。
緑髪の奴隷は立ち上がると、エリス達から距離を取り、ピンク髪の奴隷のそばに寄る。
二人の奴隷は上にある観客席で見守るフェスを見る。
フェスはニヤニヤしてこの光景を見ていた。
その傍らには黒髪の少女の奴隷がいる。他の奴隷はフェスから離れた場所にいるのに、なぜあの少女だけフェスの側にいるのだろうか。
攻撃が効かなかったことは理解できないが、ミリアはこれで諦めたわけではないようだ。
腰を曲げて、前屈みの体制になる。
それを見たエリスも杖を強く握る。
この作戦において、この二人がフェスを倒せるか倒せないか。それが大きな効果を発揮する。
奴隷の大暴動が起これば、王国中が混乱に陥る。しかし、それが出来なければ、他の賢者や大賢者が集結し、エリス達だけではない。パト達も危険に晒される。
ゲームと言い、この余興を楽しんでいるところを見るにフェスは油断をしている。タイミングを見計らい。攻撃を仕掛けたい。
だが、そんなことは彼女達が許さない。
魔法が制限されたこの状態でも、かなりの実力を持っている。
建物の中ということもあり、エリスは強力な魔法を使えないし、使えば奴隷である彼女達も殺してしまう。
今は敵対をしているが、彼女達も奴隷にされた被害者。ゲームには勝っても、殺すわけにはいかない。
だから、フェスもこのゲームを提案したのだろう。奴隷を傷つけるわけにはいかない。だが、敵の奴隷は主人の命令に逆らえず、本気で攻撃をしてくる。
敵は二人とも近距離を得意とする格闘家と剣士。それに対してこちらは魔法使いと盗賊まがいの短刀使い。距離を詰められては先ほどのように不利になる。
「ミリア。あなた囮になりなさいよ」
エリスはそう提案するが、拒否される。
実際に魔法使いのエリスにとって、連携は重要である。
これが囮になる囮にならないの問題ではなく。前衛と後衛に分かれて、お互いがしっかりカバーしあうことが必要だ。
だが、先ほどの行動からしてミリアはエリスに協力する気はないように感じる。
後衛に魔法使いがいる場合、前衛は注意を惹きつけて後衛に攻撃が行かないようにしないといけない。
だが、ミリアは先ほど関係なしに突っ込んでいった。
一応は助けてはくれたが、あの調子ではいつやられてもおかしくはない。
こちらの連携は最悪だ。
エリスがどうしようか考えているうちに、奴隷の二人は動き出す。
緑髪の奴隷が戦闘にその後ろにピンク髪の奴隷が連なってくる。一列に列になっている理由はわからないが、何かの作戦だろうか。
緑髪の奴隷はピンク髪を守るようにして突っ込んでくる。エリスは近づかれないように距離を取ろうとする。
しかし、ミリアにそれを止められた。
「一度だけ。一度だけだ。協力しろ」
そう言うと、一人で敵へと走り出す。緑髪は冷静に剣を構えて、ミリアに狙いを定める。
ミリアが緑髪の射程距離に入り、剣が振り下ろされる。しかし、ミリアは魔法陣を展開するとその姿を消した。
そして緑髪の真上に現れる。だが、それを予想していたようにピンク髪が後ろから援護するため、ジャンプしようとした時。違和感に気がつく。
地面から足が離れない。そして地面から感じる冷気。
「ええ、私もアンタとの協力はもう勘弁よ」
エリスが魔法で地面を凍らせていた。凍った地面により二人は身動きが取れない。
おそらく奴隷二人の作戦は、緑髪が盾となりピンク髪がカバーすると言うものだったのだろう。
エリスには魔法を緑髪が受け止めて近づく。ミリアには先ほどのような奇襲をピンク髪がカバーする。
だが、二人で近くにいたことが仇となる。氷の魔法により二人は同時に身動きを封じられる。だが、これもミリアが二人の意思をエリスから遠ざけたことにより生まれた隙。
ミリアは緑髪の顔を蹴り飛ばした後、ピンク髪に飛びかかり短刀を首に向けた。
「これで試合終了だ」
蹴り飛ばされた緑髪は地面に倒れた後、すぐに助けに入ろうとしたが、立ち上がる前にエリスが杖を向けて威嚇した。
対戦相手の動きは封じられた。これで戦闘に勝ったのだ。
その様子を上から見ていたフェスは手を叩きながら笑う。
「見事見事。実に見事だ」
賢者であるフェスとの勝負に勝った。これで奴隷を解放することができる。
「さぁ、早く解放しなさい!」
エリスの言葉にフェスは笑顔で首を縦に振る。
「当然だ。奴隷は解放しよう」
思っていたよりも素直に言うことを聞くのだろうか。
その時、ミリアが動いた。
「待ちな。もうここまでだ」
ミリアはそう言うと右手を前に突き出し、何かを掴むようなポーズをした。
「ああ、試合は終わったぞ。お前たちの勝ちだ」
「そう、私たちの勝ち。そしてテメーの悪事の終わりだ」
するとミリアは腰のバックの中から小さな魔道具を取り出す。
それを見たフェスの笑いは止まり、動きは固まる。
「戦闘中にお前から盗んでおいた」
フェスは汗を流す。
そしてそれを上にあげて周りに見せびらかせる。
「これは首輪の爆破スイッチ。だから、やめろ。奴の言うことを聞く必要はない」
ミリアがそう言うと、後ろで何かが落ちる音がした。そしてフェスの近くにいる黒髪短髪の奴隷が魔法陣を出すと、魔法が解除されたようでその音の正体が分かった。
それは透明になっていた人。女性だ。彼女も首輪をつけられた奴隷のようだ。
そこでエリスは理解する。最初に首輪がつけられた時。なぜそれに気づくことができなかったのか。それは透明になっていたこの女性に首輪をつけられたから。
さらには戦闘中の回復もこの透明になる魔法で外から援護していた可能性が高い。
そして首輪の魔法は複雑な魔法計算が使われている。爆発の条件は帝国の外に出ること。しかし、フェスは自身の意思でも爆破できるような発言をしていた。
だが、それを行うには魔法計算が複雑になりすぎる。さらには帝国中の奴隷に首輪はつけられている。特定の人間だけ、爆破するのは無理に等しい。
それを補うために魔道具を使っていた。この魔道具を奪った今、帝国内で奴隷が爆破される可能性はない。
勝ちを喜ぶエリスの横で、ミリアは右手を突き出し、何かを掴むポーズを取る。そして手のひらに魔法陣を展開した。
「一つ。お前に聞きたい。なぜ、こんなことをした?」
ミリアはフェスに問う。フェスは丸い体で立ち上がる。
「俺様は王だ!! リュウガを倒し、俺は王になるんだ!! 貴様ら奴隷どもとは違う!! 俺様は偉いんだよ!!」
フェスは疲れたのか再び椅子に座る。地面はフェスの汗で湖のようになっている。
「だからどんなことをしても許されるんだ!! 俺様がルールだ!!」
それを聞いたミリアはため息を吐く。
「大人しく奴隷を解放するか?」
「するかよ!! 俺様はなぁ!!」
その時、フェスの動きが止まった。そしてミリアの魔法陣も消える。魔法の発動が終わったようだ。
ミリアの手の中にあるものを見たフェスは驚きの表情を浮かべる。
「それは…………俺……の」
口から血を出して、フェスは倒れるように死んだ。
「お前のような人間は、あの人の国の邪魔になる」
ミリアの手の中にはフェスの心臓が握られていた。
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第30話
【奴隷との戦い】
アングレラ帝国の中心にある城。そこにある知らせが訪れる。
「侵入者が奴隷解放をしているようです」
情報を受け取った王のそばに付き添う女が告げる。
「そうか。それはお前の言っていた例の奴らか」
女は無言で頷いた。
「だが、奴隷解放か……。そうなると奴とぶつかることになるな」
「ああ、大賢者のジェイのことですか」
「いや、ジェイは忠義と復讐により力を得る。しかし、奴には欲がない。それに比べてアイツには俺にさえも噛みつこうとする欲を持っている」
どれほどの力か。見させてもらおうか。
観客のいない舞台で静かにゴングが鳴らされる。
ゴングと同時にいち早く動いたのはミリアである。
姿勢を低くし、二人に向かって走り出す。
その走る速さは風のように早く、エリスには到底真似できない動きである。
ミリアは腰にあるバックからナイフを取り出すと逆手に構える。
そして二人の目の前まで辿り着くと、姿を消した。
魔法陣を展開していたわけではない。エリスには見えないスピードで、ミリアは二人の背後に回り込んでいた。
ナイフで緑色の長髪の女性に攻撃を仕掛ける。
武器を持っているのはこの女性のみ。もう一人は素手の少女だ。先に仕留めるなら、こちらだと判断したのだろう。しかし、その判断は誤っていた。
ミリアは気がつくと、天井を見上げていた。身体は痺れるように動かない。
次の瞬間、背中に強い衝撃を受ける。そして自身になりが起こったのか理解した。
ミリアは後ろに吹き飛ばされていた。そして地面に倒れたのだ。
まだ揺れる視界の中、ミリアは誰にやられたのか確認するために周りを見渡す。
エリスは戦闘開始から未だ動いた気配はない。緑色の長髪奴隷も同様だ。
ならば、攻撃していたのは、ミリアを見下ろすように、格闘技の構えをしているピンク色の髪をした少女であろう。
遠くから見ていたエリスにも理解が追いついていなかった。
猛スピードで近づき、奇襲を仕掛けたミリア。あの奇襲に反応できたのは、この場で一人だけ、桃色の髪の少女だけだ。
驚く様子を見たフェスは笑いながら説明する。
「どうだ。俺様の自慢の奴隷は? そいつはモモナ・ファナと言ってな。希少な戦闘民族エル族の生き残りだァ~。エル族は魔力を常時、身体を流し肉体の強化を行う。これは魔法計算や固有魔法ではなく、特殊体質だ。これにどう勝つ?」
アングレラ帝国は魔法の使用が禁止されている。それは奴隷も同様だ。しかし、このような体質は魔法とは別と考えられている。
あちらは魔法を使ってこないから、問題はないと考えていたが、これは予想以上に辛い戦いかもしれない。
立ち上がろうとするミリアにそうはさせまいと、ピンク髪の奴隷は足を上げると、そのまま地面ごと蹴りつけた。
ミリアは寝っ転がった状態で、身体を回転させてどうにか回避する。蹴られた地面は砕け散り、少女の蹴りで穴が小さなできる。
ミリアは回避で精一杯で立て直すことができないらしい。それを気づいたエリスは助けに入ろうと杖を手にするが、彼女の前に緑色の神の奴隷が立ち塞がる。
緑髪の奴隷は両手で剣を握り行く手を遮る。その構えはまるで教科書に載っているように正確で、その構えだけで彼女の真面目な性格が滲み出る。
彼女は剣を震わせながら小さな声で、
「すまん。これも生きるためだ」
息苦しそうにしながら剣を振る。
その表情にエリスは同情するが、今はどうすることもできない。
エリスは背を向けて、剣から逃げる。
運動能力は高いわけではない。エリスの身体能力では普通では剣から逃れることはできなかっただろう。
しかし、緑髪の奴隷の剣はエリスの背中のすぐ横を通る。
だが、剣は一度だけではない。逃げるエリスを追うように追撃が加えられる。
緑髪の奴隷は一歩踏み込むと、もう一度を振り下ろす。今度の一撃はハズレない。確実に射程に入っている。
エリスは危険を感じ振り向くが、どうすることもできない。叫ぶ間もなく剣は向かってくる。
次の瞬間、緑髪の奴隷の頸に蹴りが入れられる。奴隷は力が抜けたように、前倒しに倒れるが剣は決して離さない。
奇襲攻撃を仕掛けたのは、先程までピンク髪の奴隷に追われていたミリアだ。
ミリアは追われるふりをしながら、転送魔法の魔法陣を用意し、緑神の奴隷の背後にテレポートしてきたのだ。
転送魔法でテレポートしたミリアは、素早く緑神の女性に蹴りを入れ倒した。
ピンク髪の奴隷は突然消えたミリアを探し、キョロキョロしている。
「助かった」
エリスは礼を言うが、ミリアは何も反応しない。
ピンク髪の奴隷はミリアを見つけ、仲間が倒されていることに気づき、衝撃を受ける。
だが、
「……問題ない。モモナ」
「……マリ…………」
緑髪の奴隷は何事もなかったように立ち上がる。
その姿にミリアは衝撃を受ける。
今の一撃は確実に敵の意識を奪っていた。殺す気はなかったが、数日は立ち上がれないほどの攻撃だ。
そんな攻撃を喰らっても、何事もなかったように立ち上がる女性にエリスは違和感を覚える。
女性からは微かな魔力を感じる。だが、魔法を使う仕草はなかった。
緑髪の奴隷は立ち上がると、エリス達から距離を取り、ピンク髪の奴隷のそばに寄る。
二人の奴隷は上にある観客席で見守るフェスを見る。
フェスはニヤニヤしてこの光景を見ていた。
その傍らには黒髪の少女の奴隷がいる。他の奴隷はフェスから離れた場所にいるのに、なぜあの少女だけフェスの側にいるのだろうか。
攻撃が効かなかったことは理解できないが、ミリアはこれで諦めたわけではないようだ。
腰を曲げて、前屈みの体制になる。
それを見たエリスも杖を強く握る。
この作戦において、この二人がフェスを倒せるか倒せないか。それが大きな効果を発揮する。
奴隷の大暴動が起これば、王国中が混乱に陥る。しかし、それが出来なければ、他の賢者や大賢者が集結し、エリス達だけではない。パト達も危険に晒される。
ゲームと言い、この余興を楽しんでいるところを見るにフェスは油断をしている。タイミングを見計らい。攻撃を仕掛けたい。
だが、そんなことは彼女達が許さない。
魔法が制限されたこの状態でも、かなりの実力を持っている。
建物の中ということもあり、エリスは強力な魔法を使えないし、使えば奴隷である彼女達も殺してしまう。
今は敵対をしているが、彼女達も奴隷にされた被害者。ゲームには勝っても、殺すわけにはいかない。
だから、フェスもこのゲームを提案したのだろう。奴隷を傷つけるわけにはいかない。だが、敵の奴隷は主人の命令に逆らえず、本気で攻撃をしてくる。
敵は二人とも近距離を得意とする格闘家と剣士。それに対してこちらは魔法使いと盗賊まがいの短刀使い。距離を詰められては先ほどのように不利になる。
「ミリア。あなた囮になりなさいよ」
エリスはそう提案するが、拒否される。
実際に魔法使いのエリスにとって、連携は重要である。
これが囮になる囮にならないの問題ではなく。前衛と後衛に分かれて、お互いがしっかりカバーしあうことが必要だ。
だが、先ほどの行動からしてミリアはエリスに協力する気はないように感じる。
後衛に魔法使いがいる場合、前衛は注意を惹きつけて後衛に攻撃が行かないようにしないといけない。
だが、ミリアは先ほど関係なしに突っ込んでいった。
一応は助けてはくれたが、あの調子ではいつやられてもおかしくはない。
こちらの連携は最悪だ。
エリスがどうしようか考えているうちに、奴隷の二人は動き出す。
緑髪の奴隷が戦闘にその後ろにピンク髪の奴隷が連なってくる。一列に列になっている理由はわからないが、何かの作戦だろうか。
緑髪の奴隷はピンク髪を守るようにして突っ込んでくる。エリスは近づかれないように距離を取ろうとする。
しかし、ミリアにそれを止められた。
「一度だけ。一度だけだ。協力しろ」
そう言うと、一人で敵へと走り出す。緑髪は冷静に剣を構えて、ミリアに狙いを定める。
ミリアが緑髪の射程距離に入り、剣が振り下ろされる。しかし、ミリアは魔法陣を展開するとその姿を消した。
そして緑髪の真上に現れる。だが、それを予想していたようにピンク髪が後ろから援護するため、ジャンプしようとした時。違和感に気がつく。
地面から足が離れない。そして地面から感じる冷気。
「ええ、私もアンタとの協力はもう勘弁よ」
エリスが魔法で地面を凍らせていた。凍った地面により二人は身動きが取れない。
おそらく奴隷二人の作戦は、緑髪が盾となりピンク髪がカバーすると言うものだったのだろう。
エリスには魔法を緑髪が受け止めて近づく。ミリアには先ほどのような奇襲をピンク髪がカバーする。
だが、二人で近くにいたことが仇となる。氷の魔法により二人は同時に身動きを封じられる。だが、これもミリアが二人の意思をエリスから遠ざけたことにより生まれた隙。
ミリアは緑髪の顔を蹴り飛ばした後、ピンク髪に飛びかかり短刀を首に向けた。
「これで試合終了だ」
蹴り飛ばされた緑髪は地面に倒れた後、すぐに助けに入ろうとしたが、立ち上がる前にエリスが杖を向けて威嚇した。
対戦相手の動きは封じられた。これで戦闘に勝ったのだ。
その様子を上から見ていたフェスは手を叩きながら笑う。
「見事見事。実に見事だ」
賢者であるフェスとの勝負に勝った。これで奴隷を解放することができる。
「さぁ、早く解放しなさい!」
エリスの言葉にフェスは笑顔で首を縦に振る。
「当然だ。奴隷は解放しよう」
思っていたよりも素直に言うことを聞くのだろうか。
その時、ミリアが動いた。
「待ちな。もうここまでだ」
ミリアはそう言うと右手を前に突き出し、何かを掴むようなポーズをした。
「ああ、試合は終わったぞ。お前たちの勝ちだ」
「そう、私たちの勝ち。そしてテメーの悪事の終わりだ」
するとミリアは腰のバックの中から小さな魔道具を取り出す。
それを見たフェスの笑いは止まり、動きは固まる。
「戦闘中にお前から盗んでおいた」
フェスは汗を流す。
そしてそれを上にあげて周りに見せびらかせる。
「これは首輪の爆破スイッチ。だから、やめろ。奴の言うことを聞く必要はない」
ミリアがそう言うと、後ろで何かが落ちる音がした。そしてフェスの近くにいる黒髪短髪の奴隷が魔法陣を出すと、魔法が解除されたようでその音の正体が分かった。
それは透明になっていた人。女性だ。彼女も首輪をつけられた奴隷のようだ。
そこでエリスは理解する。最初に首輪がつけられた時。なぜそれに気づくことができなかったのか。それは透明になっていたこの女性に首輪をつけられたから。
さらには戦闘中の回復もこの透明になる魔法で外から援護していた可能性が高い。
そして首輪の魔法は複雑な魔法計算が使われている。爆発の条件は帝国の外に出ること。しかし、フェスは自身の意思でも爆破できるような発言をしていた。
だが、それを行うには魔法計算が複雑になりすぎる。さらには帝国中の奴隷に首輪はつけられている。特定の人間だけ、爆破するのは無理に等しい。
それを補うために魔道具を使っていた。この魔道具を奪った今、帝国内で奴隷が爆破される可能性はない。
勝ちを喜ぶエリスの横で、ミリアは右手を突き出し、何かを掴むポーズを取る。そして手のひらに魔法陣を展開した。
「一つ。お前に聞きたい。なぜ、こんなことをした?」
ミリアはフェスに問う。フェスは丸い体で立ち上がる。
「俺様は王だ!! リュウガを倒し、俺は王になるんだ!! 貴様ら奴隷どもとは違う!! 俺様は偉いんだよ!!」
フェスは疲れたのか再び椅子に座る。地面はフェスの汗で湖のようになっている。
「だからどんなことをしても許されるんだ!! 俺様がルールだ!!」
それを聞いたミリアはため息を吐く。
「大人しく奴隷を解放するか?」
「するかよ!! 俺様はなぁ!!」
その時、フェスの動きが止まった。そしてミリアの魔法陣も消える。魔法の発動が終わったようだ。
ミリアの手の中にあるものを見たフェスは驚きの表情を浮かべる。
「それは…………俺……の」
口から血を出して、フェスは倒れるように死んだ。
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