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Die13話 変貌

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飛んで来た刃は早すぎて残像が出る程では無くて避けられるよう安全性に考慮してか見切れる程に遅く見えた。たぶんセラちゃんの血の所為かな、よくある能力の継承的な?昨日飲んだ彼女の血で僕は普通の人間より強化されてるんじゃないかって気持ちがある。じゃなきな今無数の迫り来る硝子みたいな刃達を躱せる訳が無いし、1時間弱前の切断くんの路上攻撃だって普通攻撃を食らって僕はここに立っていない。
「あ!質問していいかな」華麗に…では無いが攻撃を避けながら僕は切断に話し掛ける。ニコニコしたセラちゃんが「切断くんも社会人なら顔隠して無いで話そうね」と煙の中に居る切断に人差し指を向ける。すると切断が出て来たのか煙がパッと何も元から無かったかのように一瞬で消えてしまった。切断が僕達を見ずに挙動不審な辺り自分が思っていたより早く僕達との間を遮断していた煙というカーテンが消えて驚いたのだろう。切断くんの顔は若くてパッと見では高校生みたいな顔をしていた。整った顔立ちで少し嫉妬した僕はセラちゃんと切断の目線の間に手を出して遮った。
「どうしたの、嫉妬?嬉しいけども。私のフィアンセは自信と余裕の無い男じゃないよね」と鼻で笑って僕の手を退ける。いつから僕は君の婚約者になったのだろう。
挙動不審の切断くんは正気に戻ったのか誰かに指示を受けたのか、僕達に向かってピースを向けて攻撃を開始した。ジャンケンのチョキから小さい氷片のような物が飛び出し僕達へ向かって飛んでくる間に大きく成長?したのか先程まで避けていた馬鹿デカい薄い切れ味の良い刃になっていた。刃はカッコイイんだけど、僕としては攻撃を繰り出す際の僕達に最初はグーのポーズからチョキを出して指から綺麗で当たれば死にそうな刃が飛ぶっていうのはちょっとビジュアル的に弱いと思う。もっと、こう…カッコイイ予備動作が有っただろうに何故その動きにしたんだろう。でも本人は自信満々にチョキ出てるし可哀想だから言わない方が良いかもしれない。なんなら高校生がひたすらに誰もいない場所でチョキを出して独りぼっちジャンケンをしていると思うと可愛くて泣けてくる。
「お前さぁ!その攻撃私達に見切られてる上にジャンケンのチョキ出すの滅茶苦茶小馬鹿臭いし高校生にもなって独りでジャンケンとかぼっちかよキメェなって緑お兄ちゃんが言ってるよ」
「言ってないねえ!!寧ろ言わないようにしようって心の中に留めたものにチクチク言葉足したねえ!!セラちゃんは学校では虐めっ子なのかな、僕は虐めっ子にトラウマ持ちだから今後の関係を改めなきゃいけないよ」
「そんなことは無い。私は緑お兄ちゃんと同じ虐めっ子に虐められてる可哀想な小学生美少女セラちゃんだよ。関係を改めたいの?恋人からフィアンセに?私の中でだけだと思ってたのに、本当に結婚してくれるの?私嬉しい!!」
「おいおい」と僕が頭を抱えるとセラちゃんが「まぁ結婚云々の大切な話は孤独弱々滑稽陰キャ高校生切断くんを消した後にしよう」と不敵な笑みを浮かべ僕に服を脱げと言う。何故此処で服を脱がなくてはならないのか僕には皆目見当もつかなかったが僕に出来ることは今セラちゃんの言う通りにしてこの場をやり過ごす他に無いから仕方無く服を脱いでセラちゃんに渡した。上裸に黒のスキニーを履いた僕と幼女改め美少女セラちゃんを今警察が見てしまったら、器物損壊とか住宅街を破壊に破壊し尽くした孤独弱々滑稽陰キャ高校生を差し置いて容赦無く何の弁明も出来ずに僕だけがお縄になりそうな状況だ。しかし僕は何時だって人生enjoy勢。上裸が何だ、ぱっつんぱっつんのスキニーを履いて何が悪い。僕は絶賛愛され中の自称フィアンセ、セラちゃんの通称フィアンセだ。これはセラちゃんの策なのだろう。何かきっと僕には到底思い付かない切断くん攻略方法なのだ。
「考え事してるところ悪いけど、緑お兄ちゃんが被害妄想?当たらない予知夢?を見てる間に服を破かれたから帰る時は警察に気を付けないとね」と破かれて2つに分かれた布切れを僕にニヤッと笑って見せ付ける。予知夢が現実になりそうだ。フラグなんて建てなければよかったと回収の未来が既に見えてしまった者達は誰もが思う。
「俺の攻撃がそんなものに防げr」
「黙れ小僧、私と夫の蜜語を邪魔するな。黙って待っていればいいものを、死に急いだな」
今日初めて出した声なのか、ずっと喉の調子を整えていたのか分からないが勇気を振り絞った切断くんの声は緊張の所為か裏返り、何なら折角話そうとしたのにセラちゃんが遮ってしまった。もう可哀想とかじゃなくて僕の中学時代と重なって同情すらしてしまう。
セラちゃんの雰囲気が一瞬で変わった。僕をニコニコしていた表情で見ていたセラちゃんは切断くんの方を振り返った瞬間、見た事無いくらいに冷めた表情に変わり目の色も黒から真紅に変化していた。威圧という物だろう、切断くんはセラちゃんに睨まれると小刻みに震え出した。離れた僕にも確認出来る程に、草食動物が食物連鎖カーストの頂点に自身が今から喰われるのだと直感した時みたいにその場から動けなくなってしまったように見える。セラちゃんは動けなくなった一瞬を見逃さなかった。僕が切断くんを見たと同時か僕の瞬き2回の開き切った時には切断くんの目の前に立っていて僕に今から何をするか見せない為なのか僕の破れた服の布切れを切断くんの頭から掛けた。そしていつもの可愛い顔に戻って僕の方に振り返りながらマジシャンが摩訶不思議な現象を客にお披露目するかのように、勢い良く外すとそこに居た筈の切断くんは塵一つ残らずに跡形も無く消えていた。一瞬の、本当に刹那だった。布切れを掛けていた時間も合わせての気が付いたらという気持ちで何が起きたのか分からない、超能力に値するショーだった。種も仕掛けも見破れる隙すら与えない異常な時間。
セラちゃんは僕の方を向いて布切れを腕に掛けるとショーを終えたマジシャンの如く深く僕にはお辞儀をしてニコッと微笑む。ずっと見ていた微笑みは何故か普通に受け止めることが出来無くて、喉の奥から冷たくなる。冷や汗が背中を伝って徐々に動悸がして来た。僕の顔色が優れないと思ったのだろう、小走りで僕にセラちゃんが向かってくる。一歩ずつ僕に近付くセラちゃんを見て僕は動悸が大きくなる。息が苦しい…喉奥に冷たい物が引っ掛かっているようで、足は既に動く事が出来無い。平衡感覚が無くなり前のめりに膝から崩れ落ちる僕をセラちゃんが受け止めて僕の顔を見る。
「大丈夫?何かあった?大丈夫だよ、私が全部から緑お兄ちゃんを助けてあげるからね」

曇りの無い底抜けに明るい笑顔でそう言う彼女に僕は今、恐怖を感じた。
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