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クラリス小話① ハハセン登場
しおりを挟むいやー……私、王子様って、もっと優雅で気高い存在やと思ってたんよ。
……せやのに、うちの子らは毎日毎日毎日、こんな喧嘩ばっかりしてる。
「やーいやーい、とったぞー!」
「何してんだよ、クソ兄!」
「クソ兄ってなんだ、クソ弟!」
「クソなんて言うな!」
「お前が先に言ったんやろ!」
「うるさい! 兄貴のくせにクソなんて言うな!」
「……じゃあ、ウンコ!」
「汚ねえなあ!」
……え。
いや、ちょっと待って。これ、王子様の喧嘩?
市井の子供より口悪いやん。誰のせい?
……私のせいやん。
◇
前々から分かってたけど、私はボーッとしたり熱中したりすると、つい口が悪くなる。
それも京都風のお上品な「アレ」じゃなくて、新喜劇のそれ。ギャハギャハ笑いながら見てたあれ。
……あ、あれが、子供らに、うつってもうたんかなぁ…
「お前のかーちゃん、デーベソー!」
「それやったらお前のかーちゃんもデーベソー!」
……いやいやいや、私そんなこと言うてへん!
どこで覚えてきたん、あんたら! ……あ、私やな。絶対私やな。
いつ言うたんやろ。いくらボーッとしてても言うか?
あ。思い出した。
確か、すっごいどうでもいいこと陳情してきた人がいて。その時に確か…ぶつぶつ言うた気が、しないこともない…
いやいや、それはいいとして(?)、これ、外でやったらどうすんの。
「王妃はデベソ」って噂になるやん! 王家の威信が瓦解するわ!
なんとか止めなあかん。でも手でバチン!は違うし……。
その時、私の手にあったのは――破棄予定の大きな地図。
ちょうどいい大きさ、ちょうどいい柔らかさ。しなやかさ。
目の前で繰り広げられる、王子様たちの喧嘩を見ていて思考停止になってしまっていた私は。
そう、私は憑依されていたのだ。土曜昼のあのマジックに。
スパン! スパコーン!!
「お前ら、ええかげんにせんかーーーい!!!」
――伝説の武器、ハリセン登場である。
音はでかいが痛くはない。衝撃よりもビックリさせる。
世のオカンが編み出したであろう究極の武器。理想の武器。ハリセン。
◇
「は、母上……?」
「は、母上?」
「クラリス……」
子供たちと夫の視線が一斉に刺さる。
はっ、我に返った。……え、私いま何持ってる?
フギャッ。
ハハハハ……ハリセーーーン!?
「は、は…は、ハハセンです!」
「ははせん?」
「そ、そうよっ! 母の扇で、ハハセン! 母の愛から生まれる武器よ!」
言い切ってやった!無理やり!
内心焦る私を、いつの間にかやってきていたレオン様がキラッキラの目で見る。
なぜに!?
「すごいなクラリス! 母の愛か! 確かに痛くないし、音に驚いて止まるしな!
こいつらでも止まるな! すごいぞクラリス!」
「すごいです母上!」
「ごめんなさい母上!」
「あ……お、おほほほほ。分かればよろしいのです、分かれば!」
◇
それから――
我が家(王家)では兄弟喧嘩を止めるとき、ときどきこの「ハハセン」が使われるようになったのであった。
おしまい。
……とはいえ、この武器が本当に王家の伝統になるとは、まだ誰も知らない。
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