【完結・番外編更新中】異世界令嬢生活は、思ったよりもしんどいです。

桜野なつみ

文字の大きさ
1 / 24

第1話 ああ無情

しおりを挟む

公爵令嬢クラリスの朝は、遅い。

なぜなら――彼女は毎日、疲労困憊だからだ。

お貴族様のご令嬢が何故と思うそこのあなた。
あなたは彼女の苦悩を知らない。

「お嬢様! お嬢様! 遅刻なさいますよ!!」

部屋付きメイドのモリーが、クラリスを揺さぶる。

――本来なら、令嬢を“揺する”など言語道断。
だがクラリス様は、揺すらねば起きぬ。
ゆえに、モリーは進化したのだ。



部屋付きになったばかりの頃、モリーは思っていた。

「お嬢様」という存在は、
小声でそっと呼びかければ起きるものだと。

だが、クラリス様は違った。



レベル1

「お嬢様、起きてください。朝ですよ」

レベル2

カーテンを開け、朝日を浴びてもらいながら
「お嬢様、朝ですよ」

レベル3

朝日+わざと音を立てて洗面器を運び
「お嬢様、朝ですよ」

レベル4

さらに音量倍増
「お嬢様! 朝ですよ!」

──そこから延々、経験値を取得し。
現在レベル16。

レベル16にて、ようやくクラリス様は“一撃”で目を覚ましてくださるようになった。

※ただし、「一撃」といっても一回のゆすりではない。
約5往復のゆすりでようやく「うっすら目があく」仕様である。



さらにここからは力技。

少しでも持ち上がったお嬢様のお背中のうしろにクッションをエッホエッホと積み上げ、
物理的にお体を「起こして」差し上げる。

これができるのはモリーだけ。
他のメイドには……いや、恐ろしくて無理である。



そして最後の決め技。

耳元で、思いきり叫ぶ。

「おーーーーーじょーーーーーおーーーーーサマーーーーーーー!!」



ぱちっ。

クラリスの目が開く。
天使の微笑みが、そこに咲く。

「……あら、おはようモリー。毎朝ありがとう」



この笑顔を見られるなら、モリーは今日も戦える。
たとえそれが、命懸けの朝の儀式であっても──。



さて──

そもそも、クラリスがここまで疲れているのには、訳がある。

彼女は──転生者なのだ。
それも、よりによって現代日本の「京都と大阪の境」に住んでいた、
大阪人なのか京都人なのか、もはや本人もわからない属性の、ややこしい元女子。



ある日突然、「あはは、うふふ♡」な乙女ゲーム世界に転生してしまい、
なぜか公爵令嬢という、上流階級のお飾りポジションに収まってしまった。

乙女ゲームの住人たちは、みんなテンプレ通りに生きている。

笑顔で紅茶をすする乙女たち、
意味もなくキラキラ光る乙男たち、
そのすべてがクラリスの脳内には、こう響く。



「いや、なんでこの状況で、笑顔で紅茶飲んだら解決やねん」

「今、そのセリフ言う流れちゃうやろ。はよ帰れ」

「テヘッ☆ ちゃうねん。“テヘッ”て。昭和のアイドルでも言わへんで?」



そして、脳内ツッコミが止まらない。

だが表では、“公爵令嬢クラリス”を演じねばならない。

上品に微笑み、目元にだけ感情を宿し、
昔、祖母が母(奈良出身)に使ってたアレを思い出し、相手をじわじわ追い詰める。
いやしかし、だがしかし。追い詰めているつもりだが、相手はわかってくれやしない。
しかし、それでもやらないと、クラリスの脳内がストレスで爆発してしまうのだ。



「まあ、ご機嫌ようステラ。今朝の髪型、とても斬新でお美しいわね。わたくしもどのようにされているのか、教えていただきたいくらいですわ」
(※訳:その縦ロールどうやってねん)

「まぁ殿下、ご挨拶を忘れるほど急がれていたとは……毎日難しいお仕事を抱えてお勉強されるのを忘れるほど大変ですもの、仕方ないことですわね」
(※訳:おい、無視すなや。暇なくせに)



……こうして、クラリスの脳内はツッコミ回転数MAX。
表に出す祖母式応酬を変換するにも、回転擦り切れそう。
一日が終わる頃には、心の中で何十本も漫才が成立している状態。



そら、疲れるわけである。



この日々を何とかやり過ごすために、クラリスは毎夜ベッドに沈む。
「なんでこんな世界に来てしもてんやろ……」と、心の中で叫びながら。



かくして、明日もクラリス嬢の朝は遅いのです。




クラリス文庫

『ああ無情』(ヴィクトル・ユゴー/フランス)
パン一個盗んで19年ぶち込まれる話から始まる。司教の銀の燭台で人生やり直し。人間の救いと赦しを描いた大河小説……なんやけど。
パン一個で19年て長すぎやろ。で、燭台ひとつで許すのも極端すぎひん?


◇◇

スミマセン
大阪京都奈良の皆さま
作者の属性が、大阪京都奈良なので
面白がって書いてます
どうかわろて見逃してください
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

処理中です...