【完結・番外編更新中】異世界令嬢生活は、思ったよりもしんどいです。

桜野なつみ

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第2話 人間失格

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恥の多い乳児期を送ってまいりました。

わたくし、この世界では人間失格なのかもしれません。
けれど、それを認めてしまったら負けのような気がするのです。



まだ言葉も話せぬ赤子の頃から、私は違和感を覚えていました。
言葉が話せぬ故に、ただ泣くのみ。
神さん、転生させるんは一億歩譲って許そう。が、何でこないに早く自我を持たせたんや…たまらんわもう。

泣けばすぐさま、周囲はこう言います。

「まぁ、天使の泣き声ですわ」
「なんと清らかな、真珠の涙でございます」

……お前ら天使見たことあるんか。
真珠の涙ってどんな鉱物学的現象やねん。目ぇからコロっと真珠て。
異世界すげえな、ほんま。

泣くだけでこれ。
ゲップすれば「鈴の音のよう」。
鈴!?
くしゃみをすれば「花びらが舞うよう」。
ホコリは舞うけどな!

あゝ、生理現象にまで、キャッキャウフフの世界が。

ある日、父――公爵殿が私のオムツを替えてくれていました。
このお方、財も権威もありながら育児までこなす、珍しいスーパーイクメン。
現世でも前世でも、なかなかおらんタイプやと思います。
しかも乙女ゲームの定番、お顔もよろしゅうございます。

ふつうは乳母に任せるような案件でも、自ら嬉々として取り組む。
しかも赤ちゃん言葉で。

「くらりしゅちゃーん、今日もかわいいでしゅねえ」

そして感極まったように宣ったのです。

「くらりしゅちゃんはうんちまでウツクシイでしゅねえ」

……。

うんちが美しい。

うんちが、美しい。

……んなわけあるかボケぇぇ!!
だれでもひとしく、うんちは臭いんやっ!!

その瞬間、まだ歩けぬ赤子の私の口から、心の声がはっきり漏れていたようです。
イクメンパパのウフフ暴言に、堂々と赤子がツッコミを入れてしまったのです。

一瞬静まり返った空間ーそしてすぐ。

お父様、腰を抜かす。
メイドたち、泣き出す。
お母様まで失神しかける。

屋敷はたちまち阿鼻叫喚。
美しき天使な赤子の口から「ボケ」が飛び出し、花の館は大混乱となったのでした。

そしてこの日、クラリスはこの人生初の学びを得ます。

『……ツッコミ。口に出したらあかんのや』

最終的に、
「空耳だったことにいたしましょう」
で片付けられましたけどね。

わかってる。
そもそも赤子が喋った時点で混乱するのは。しかもそれが「ボケェ」。

実際には、声帯が発達していないため

「んにゃわけぇありゅぅきゃあ
じゃりぇしぇみょちとそぃく
うんてぃぃはぁくゅちゃぃんじゃ
ボケェ」

である。
最後のボケェだけ上手く発音できていた。

ええ、この世界で人間失格なのは、私自身。異分子は私だ。

でもな――
土曜日の昼からはどのチャンネルにしても新喜劇か漫才ばっかりな環境で育った私からしたら、この世界自体が人間失格に見えてしまうんや。
ボケはツッコミがあってこそ成立する。
ボケだらけのこの世界に、どうせえって言うんやぁ。

両親も侍女たちも、甘い甘い世界に生きている。仕事はまともにしているらしい。
時々父からきな臭いワードが出たりもする。が、基本的には、甘い。
ケーキの上に砂糖とハチミツをかけたくらい甘い。
多分この世にたこ焼きがあったら、きっと中には飴ちゃんが入り、チョコソースがかかっているであろう。

誰も彼もが、愛すべき人間。
優しくキャッキャうふふしてるだけで、ツッコミ不在の世界。
その甘さに、乳児の私はギャン泣きしながらレッテルを貼るのです。

「人間失格」ってな。

……わかってる。
私が、この世界では人間失格やねん。
わかってる、わかってるよ。
でもどうしても言いたい。

私はまともや~!!
お前らおかしいんとちゃうんかぁ~!!

まだ赤子の身、外の世界など知らぬ。
けれど、屋敷の中だけでもう十分。
泣けば天使、ゲップは鈴、くしゃみは花。
そして、うんちは宝石扱い。

「……ああ、私は人間として、あるまじきツッコミばかり犯している。
けれど、この世界に黙って生きていく方が、よほど恥ずかしい。」

そうして今宵も、乳児クラリス嬢は「天蓋付き」布団の中で、脳内ツッコミを胸に眠りにつくのであった。
(ミルクの時間までは、な。)



クラリス文庫

『人間失格』(太宰治/日本)
「恥の多い人生を送ってきました」で始まる、主人公・葉蔵の破滅の軌跡。孤独と人間不信に沈んでいく姿は近代文学の象徴。
……てか正直、自己責任ちゃうん?と思うのは私だけやろか。

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