森と花の国の王子

あーす。

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大国の王子エルデリオンのいらだち

突き返された返事

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 中央王国〔オーデ・フォール〕王城内の、豪華な国王居室で。
エルデリオンはその羊皮紙を、読んだ途端顔色を真っ青に変え、のち顔を上げると、一気に握りつぶした。

羊皮紙を渡した使者も。
そしてエルデリオンからの報告を待っていた王も王妃もが、普段穏やかな貴公子である息子のその怒りの表情に、目を見開く。

エルデリオンは暫く、口も利かず顔を下げる。
そして上げた時、絞り出すような声で両親である国王と王妃に、無茶を突きつける。

「森と花の王国〔シュテフザイン〕に勧告を行ってくれますか?!」

王と王妃は、驚きに言葉を失う。
“勧告”をすれば…万一こちらの申し出を相手が拒絶した時、戦を仕掛ける事を意味していたから。

王妃は長い間同盟を結ぶその国への仕打ちに、慌てて息子に駆け寄り、下がったその手を取って囁く。
「分かって…言っているのですか?
かの国とは大変親しい間柄…。
確かに我が国はかの国に比べれば、圧倒的な武力を誇る大国。
かの国を、ねじ伏せるのは簡単な事。
けれど…!」

エルデリオンは低い声で素早く囁いた。
「かの国の王妃と母君は懇意。
それは、知っています。
けれど拒絶の返事を受け取った今…!」

エルデリオンと同じ髪色。
ヘイゼルの瞳の、理知的で美しい王妃は首を横に振る。
「無理もありません…!
我が国ですら、男の花嫁を迎える事は、まれ。
ましてかの国には、我が国と違い、男を恋人にする風習は、全く無いのですよ…?!
その上あちらは王子なのでしょう…?!
大事な王国の跡取りを…嫁ぎ先が幾ら大国の花嫁であっても…手放すはずが…」

王までが、自慢の一人息子に近寄ると、王妃を助け、たしなめる。
「…少し…頭を冷やし、別の…王女と出会ってみないか?
出会った森と花の王国〔シュテフザイン〕の王子は…確かに美しいかもしれん。
あのたいそうお美しい、王妃の息子だからな。
が、別の美女に出会えば、心も変わる」

だが。
エルデリオンは叫んだ。
「母君と父君がおっしゃった!
花嫁を見つけて来いと!
この国には出会えず、各国を回った!
そしてようやく…花嫁にしたいと切望する相手に、出会ったのです!
その上相手の身分が、王子と分かった途端…無体な扱いは出来ないから、正式な申し出をしなければならないと!
口を揃えておっしゃるから、私はそう致しました!
結果…これです!!!」

王は王子の叫びを聞き、口をつぐむ。

エルデリオンが花嫁を見つけたと報告後、素性を探らせ相手が森と花の王国〔シュテフザイン〕の王子と分かった時点で。
叶わぬ恋だと、周囲の誰もが思った。
だから…諦めさせるため、使者を出すよう命じ…そのかんで、のぼせた恋心も冷めると思った。

“小国とは言え、次期国王を花嫁にするなど。
私はどうかしていましたね”

森と花の王国〔シュテフザイン〕からの返答を見、そう答える事を期待した。
が、期待した答えとは、真逆の反応。

王は顔を下げる。

滅多な事では、我が儘を言わない、物わかりの良い王子。
彼が我を通したのは…まだ幼かった頃。
怪我を負った愛馬をどうしても処分するのは嫌だと懇願し、手元に置き治療したいと言い張った時と、そして…。

チラ…!
と王は、扉近くで控えてる、長身の護衛を見つめる。

まだ年若かったデルデロッテ、彼を。
何としても自分の護衛に。
と…必死で申し出た時だけ。

そして今度が、三度目…。

王妃はそれでも、王を覗った。
が、王は項垂れて呟く。

「好きにしろ。
但し!
相手が同盟国だと言う事を、決して忘れるな!
無体なマネは許さん!
万一森と花の王国〔シュテフザイン〕が、“勧告”しても首を縦に振らず、戦になったとしても。
死人を出す事は許さん!」

扉近くで控え、事の成り行きを見守っていた王子の三人の従者の内、一人。
参謀役のラステルは、肩までの明るい栗毛を軽く振り、王のその言葉に呆れていた。

「(戦をして…死人を出さない?
どれだけ無茶を言われる。
いっそ、『戦は許さん』と言ってくれた方が、どれだけ助かるか…)」

横の、鼻髭を生やし、どっしりとした風格ある濃い栗毛の騎士、ロットバルトもチラ…とそんな、ラステルの様子を伺う。

一番の長身、ウェーブのかかった濃い栗色を背まで垂らす美丈夫、デルデロッテだけが。
拒絶の返答に我を忘れて怒る、エルデリオンをその夜闇のような濃紺の瞳で見つめていた。

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