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大国の王子エルデリオンのいらだち
エルデリオンの決心
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“勧告”したにも関わらず。
森と花の王国〔シュテフザイン〕からの返答は
『聞けませぬ』
王子はその返答のしたためられた羊皮紙を、両手で端を持ち、広げて目前に立つ王と王妃に、突きつけるように見せつける。
そして低い声で告げた。
「これではもう、戦しかありません」
王妃は叫びそうに成りながら、何とか声を堪えた。
そして横に立つ王の横顔を、縋るように見つめる。
が、髭を生やし、気品と威厳に包まれた王は沈黙したまま、顔を俯け囁く。
「…言ったように…」
「死人は出しません」
きっぱり言い切るエルデリオンの返答に、背後。
扉近くで控えていた王子の従者、ラステルがため息を漏らした。
けれどエルデリオンは決然と両親に背を向け、扉近くの三人の従者らに、歩み寄る。
「我が国に一番近い領地を攻める。
怪我人を出さず占領する作戦を立ててくれ」
いつも陽気で爽やかな若者、ラステルが項垂れて頷き、横のロットバルトがそんなラステルを、気の毒そうに見た。
デルデロッテだけが無言で。
扉を控えの者に開けられ、靴音鳴らし出て行くエルデリオンの、その背に続いた。
やがて二週間の準備期間にラステルは偵察隊からの連絡を受け、周囲の地形を確認、石壁で覆われた領地内にある、領主の居城の潜入方法を詳細まで検討し、とうとうエルデリオンに
「計画が出来上がりました」
と告げる。
エルデリオンは準備の間中、ひっきりなしにラステルの元を訪れては進行状況を聞き、戦に必要な物を掻き集めるため、城内を文字道理、駆け回った。
常に付き従うロットバルトもデルデロッテもが。
日に日に頬が削げ、顔付きが鋭くなるエルデリオンの様子に戸惑う。
年上のロットバルトが、期を見て尋ねる。
「昨夜は、良くお眠りで?」
が、エルデリオンは気もそぞろ。
「…夜明け近くに、少し眠れた」
年上の重臣、従者の心配にそう答える。
横でとりすました美丈夫、デルデロッテに頷かれ、濃い栗毛の鼻髭を生やし、威厳すら滲ませる一番年上の従者、ロットバルトは尚も問う。
「お食事は、十分されていますか?」
しかしエルデリオンは口ごもった。
が、じっと見つめる、年少の時からずっと側で仕え、面倒見てくれた年上の男達に心配かけまいと、慌てて呟く。
「腹は膨れてる。
空腹ではないから、大丈夫だ」
ロットバルトは困惑し、デルデロッテはため息を吐く。
そしてやっと、ロットバルトに口を開かせず、デルデロッテは自身の言葉で告げた。
「ロットバルトは『お食べになったのか?』と聞いたんです。
今現在空腹かとは、聞いてない。
それは返事に、なっていません」
エルデリオンは指摘されて頬を染め、俯いて誤魔化そうと試みる。
が、それより先に、デルデロッテにきっぱり言われた。
「…これから同盟国に戦を仕掛けようとなさる張本人が。
眠れもせず食べもせずで、兵らの士気が上がるとお思いですか?」
エルデリオンはデルデロッテを見た。
子供の頃…大人の召使いや教師にばかり囲まれていた。
そんな時、城内に迷い込んだ少し年上のデルデロッテと出会って以来。
彼はかけがえのない唯一、年の近い友人であり、色々な事を教えてくれる、師でもあった。
顔を下げると、少しすねたように呟く。
「…これからは、ちゃんと食べて睡眠を取る」
デルデロッテに頷かれ、ようやく彼らの心配から解放されたように。
エルデリオンは兵の宿舎まで出向き、出撃の準備に足りない物は無いかと、聞いて回り始めた。
「じっと、してられないようだな」
ロットバルトの言葉に、デルデロッテは表情を変えず頷く。
「当然だ。
同盟国に剣を向けるんだからな」
ロットバルトはデルデロッテの言葉に、改めて項垂れる。
「ラステルが苦労してる」
「するだろうさ。
同盟国に侵攻し、王子を略奪する計画中なら」
二人は改めて、兵を捕まえては、備蓄の食料やら移動のための馬の手配を隊長に問い正す、血走った目を兵らに向けるエルデリオンの横顔を見つめた。
「お人が変わられた。
この恋は、良くない」
「良い訳無い」
そっけなく断罪する長身のデルデロッテを、ロットバルトは見上げる。
がそんなデルデロッテの整いきった顔の上、さえも。
エルデリオンを心配する表情が、浮かんでいた。
その一週間後。
一番近い森と花の王国〔シュテフザイン〕の領地に、ラステルの作戦通り、王子の配下らは夜間に忍び入り、こっそり領主の城に潜り込むと寝込みを襲い、人質に取った。
そして城門を開けさせ、中央王国〔オーデ・フォール〕の兵らを入れて、領地を乗っ取った。
たちまち知らせは森と花の王国〔シュテフザイン〕の王の元に届き、王は大国オーデ・フォールの無体なマネに激怒。
再び『王子を花嫁に』の申し出を受け取ったものの、これを断固、拒否した。
デルデロッテとそして、ラステルとロットバルトは再び、歯ぎしりして悔しがる、普段は大人しく穏やかなエルデリオンの、恋に狂った横顔を見つめる。
「この先の領地も同様、襲撃して攻め落とす!」
エルデリオンの言葉に、ラステルは静かに言い諭す。
「けれどエルデリオン。
一度は不意が突けても、二度目も同様にはいきますまい」
エルデリオンは静かに。
けれどきっぱり言葉を返す。
「相手が王子を差し出すまで。
戦を止めるつもりはない…!」
とうとう、今まで表情を変えぬ不動のデルデロッテまでもが、深いため息を吐く。
ラステルは相手が、護りを固める前に行動しなくては成らず、不眠不休で隣領地の地図を見つめ、潜入口を探し当てては配下に作戦を携え、直ぐ様陣取った城から、隣領地に攻め入るために騎乗し、駆け出して行った。
が、直ぐ城に伝令が走る。
「王が…!
森と花の王国〔シュテフザイン〕の王自ら、領地奪回のため、出陣されており…!
これから奪おうとする隣領地に兵を進めれば、王の軍と激突します…!」
エルデリオンは既に騎乗し、隣領地に兵を進めようとして…躊躇う。
が、手を振り上げて叫ぶ。
「進軍しろ!
森と花の王国〔シュテフザイン〕の王軍と出会った時!
再び直接、返事を聞く…!
が、肝に銘じろ!
威嚇だけだ!
敵に怪我人が出るのは、致し方ない!
が、死者を出すのは決して許さん!」
これから戦になると言うのに、その呆れた命令に。
兵達がため息を吐きながらも、槍や剣を携え、馬を進める様子を。
デルデロッテはエルデリオンの背後で、見守った。
森と花の王国〔シュテフザイン〕からの返答は
『聞けませぬ』
王子はその返答のしたためられた羊皮紙を、両手で端を持ち、広げて目前に立つ王と王妃に、突きつけるように見せつける。
そして低い声で告げた。
「これではもう、戦しかありません」
王妃は叫びそうに成りながら、何とか声を堪えた。
そして横に立つ王の横顔を、縋るように見つめる。
が、髭を生やし、気品と威厳に包まれた王は沈黙したまま、顔を俯け囁く。
「…言ったように…」
「死人は出しません」
きっぱり言い切るエルデリオンの返答に、背後。
扉近くで控えていた王子の従者、ラステルがため息を漏らした。
けれどエルデリオンは決然と両親に背を向け、扉近くの三人の従者らに、歩み寄る。
「我が国に一番近い領地を攻める。
怪我人を出さず占領する作戦を立ててくれ」
いつも陽気で爽やかな若者、ラステルが項垂れて頷き、横のロットバルトがそんなラステルを、気の毒そうに見た。
デルデロッテだけが無言で。
扉を控えの者に開けられ、靴音鳴らし出て行くエルデリオンの、その背に続いた。
やがて二週間の準備期間にラステルは偵察隊からの連絡を受け、周囲の地形を確認、石壁で覆われた領地内にある、領主の居城の潜入方法を詳細まで検討し、とうとうエルデリオンに
「計画が出来上がりました」
と告げる。
エルデリオンは準備の間中、ひっきりなしにラステルの元を訪れては進行状況を聞き、戦に必要な物を掻き集めるため、城内を文字道理、駆け回った。
常に付き従うロットバルトもデルデロッテもが。
日に日に頬が削げ、顔付きが鋭くなるエルデリオンの様子に戸惑う。
年上のロットバルトが、期を見て尋ねる。
「昨夜は、良くお眠りで?」
が、エルデリオンは気もそぞろ。
「…夜明け近くに、少し眠れた」
年上の重臣、従者の心配にそう答える。
横でとりすました美丈夫、デルデロッテに頷かれ、濃い栗毛の鼻髭を生やし、威厳すら滲ませる一番年上の従者、ロットバルトは尚も問う。
「お食事は、十分されていますか?」
しかしエルデリオンは口ごもった。
が、じっと見つめる、年少の時からずっと側で仕え、面倒見てくれた年上の男達に心配かけまいと、慌てて呟く。
「腹は膨れてる。
空腹ではないから、大丈夫だ」
ロットバルトは困惑し、デルデロッテはため息を吐く。
そしてやっと、ロットバルトに口を開かせず、デルデロッテは自身の言葉で告げた。
「ロットバルトは『お食べになったのか?』と聞いたんです。
今現在空腹かとは、聞いてない。
それは返事に、なっていません」
エルデリオンは指摘されて頬を染め、俯いて誤魔化そうと試みる。
が、それより先に、デルデロッテにきっぱり言われた。
「…これから同盟国に戦を仕掛けようとなさる張本人が。
眠れもせず食べもせずで、兵らの士気が上がるとお思いですか?」
エルデリオンはデルデロッテを見た。
子供の頃…大人の召使いや教師にばかり囲まれていた。
そんな時、城内に迷い込んだ少し年上のデルデロッテと出会って以来。
彼はかけがえのない唯一、年の近い友人であり、色々な事を教えてくれる、師でもあった。
顔を下げると、少しすねたように呟く。
「…これからは、ちゃんと食べて睡眠を取る」
デルデロッテに頷かれ、ようやく彼らの心配から解放されたように。
エルデリオンは兵の宿舎まで出向き、出撃の準備に足りない物は無いかと、聞いて回り始めた。
「じっと、してられないようだな」
ロットバルトの言葉に、デルデロッテは表情を変えず頷く。
「当然だ。
同盟国に剣を向けるんだからな」
ロットバルトはデルデロッテの言葉に、改めて項垂れる。
「ラステルが苦労してる」
「するだろうさ。
同盟国に侵攻し、王子を略奪する計画中なら」
二人は改めて、兵を捕まえては、備蓄の食料やら移動のための馬の手配を隊長に問い正す、血走った目を兵らに向けるエルデリオンの横顔を見つめた。
「お人が変わられた。
この恋は、良くない」
「良い訳無い」
そっけなく断罪する長身のデルデロッテを、ロットバルトは見上げる。
がそんなデルデロッテの整いきった顔の上、さえも。
エルデリオンを心配する表情が、浮かんでいた。
その一週間後。
一番近い森と花の王国〔シュテフザイン〕の領地に、ラステルの作戦通り、王子の配下らは夜間に忍び入り、こっそり領主の城に潜り込むと寝込みを襲い、人質に取った。
そして城門を開けさせ、中央王国〔オーデ・フォール〕の兵らを入れて、領地を乗っ取った。
たちまち知らせは森と花の王国〔シュテフザイン〕の王の元に届き、王は大国オーデ・フォールの無体なマネに激怒。
再び『王子を花嫁に』の申し出を受け取ったものの、これを断固、拒否した。
デルデロッテとそして、ラステルとロットバルトは再び、歯ぎしりして悔しがる、普段は大人しく穏やかなエルデリオンの、恋に狂った横顔を見つめる。
「この先の領地も同様、襲撃して攻め落とす!」
エルデリオンの言葉に、ラステルは静かに言い諭す。
「けれどエルデリオン。
一度は不意が突けても、二度目も同様にはいきますまい」
エルデリオンは静かに。
けれどきっぱり言葉を返す。
「相手が王子を差し出すまで。
戦を止めるつもりはない…!」
とうとう、今まで表情を変えぬ不動のデルデロッテまでもが、深いため息を吐く。
ラステルは相手が、護りを固める前に行動しなくては成らず、不眠不休で隣領地の地図を見つめ、潜入口を探し当てては配下に作戦を携え、直ぐ様陣取った城から、隣領地に攻め入るために騎乗し、駆け出して行った。
が、直ぐ城に伝令が走る。
「王が…!
森と花の王国〔シュテフザイン〕の王自ら、領地奪回のため、出陣されており…!
これから奪おうとする隣領地に兵を進めれば、王の軍と激突します…!」
エルデリオンは既に騎乗し、隣領地に兵を進めようとして…躊躇う。
が、手を振り上げて叫ぶ。
「進軍しろ!
森と花の王国〔シュテフザイン〕の王軍と出会った時!
再び直接、返事を聞く…!
が、肝に銘じろ!
威嚇だけだ!
敵に怪我人が出るのは、致し方ない!
が、死者を出すのは決して許さん!」
これから戦になると言うのに、その呆れた命令に。
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