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大国オーデ・フォール
国王の願い
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打ちひしがれた王妃よりは、しゃんとした王は囁く。
「ラステルからの報告を受けている。
あなたの父君、シュテフザイン国王は、回復に向かっていて…支えが必要だが、歩く事も出来るようになったと…。
更にその…そんな状況下での、息子のあなたへの無礼は…どう詫びようか、思い悩むほどだ」
レジィリアンスは
“馬車での出来事の事だ!”
と思い当たり、頬を真っ赤に染めて俯いた。
けれど国王は、まだ幼く頼りなく見える少年王子に、心から労る表情を浮かべ、囁く。
「…どうか…。
この国で今暫く、客人として。
どんな我が儘でも、叶えるとお約束する。
滞在頂く事を、貴方に乞うしか無い」
レジィリアンスは大国の国王に、“乞う”と言われ、びっくりして見上げた。
国王は少年王子に見つめられ、温かい眼差しをレジィリアンスに注ぎ、囁く。
「…確かに、少年を愛でる風習の無いあなたには、驚くべきことかも知れぬ。
無理は今後、一切させない。
が今少し時間を頂き…息子の人柄を知って頂きたい。
その上でどうしても…愛せぬとあらば…お国に帰って頂いても構わない。
強制は、一切しないと約束する。
あなたは、拘束されていない。
客人なので…いつでも自由に、どこへでも行く事が出来る。
ただ暫くは…この国に、滞在して頂けないだろうか?」
その丁寧な口調に、レジィリアンスは矢傷を負った父。
心配ではちきれそうな母の事を思い返す。
が、侵略行為をするほど…エルデリオンが自分を欲したのだと分かり、俯く。
そして、思い返す。
“エルデリオン様は…微笑みかけると、とても嬉しそうになさる…”
嫌いには、なりきれなかった。
完璧な貴公子で…馬車での無礼も、謝ってくれた。
まだ…恥ずかしかったけれど…レジィリアンスは覗うエウロペを見つめる。
エウロペは心得たように頷くので、レジィリアンスは囁いた。
「お申し出、感謝致します。
おっしゃる通り、暫くこの国に、滞在させて頂きたいと思います」
王妃は跪いたまま、顔を上げて叫ぶ。
「おお!
ではあなた様の母君に直ぐ、使者を送り、あなたが客人として滞在して頂ける事をお知らせ致します!
私…心を込めて、安心して頂けるよう…貴方のご様子を伝えますから…」
レジィリアンスは王妃のその言葉に、涙が零れそうになった。
「ありがとう…ございます」
愛らしくも美しい…少年王子の、心からの感謝に。
王も王妃もすっかり同情した。
国王ですら少し瞳を潤ませ、語りかける。
「…ありがとう。
ラステルに何でも申しつけてくれ。
彼が貴方がたに必要な物を、何でも調達するし…。
不自由があれば、言って頂ければどんな要望にも応えよう」
部屋の中間の隅の、扉近くに控えていたラステルが、にっこりと微笑みかけるのを見て、レジィリアンスはこくん…と頷いた。
次に王は、レジィリアンスの斜め後ろに立つ、エウロペに視線を向けた。
「シュテフザイン、“国の宝”と呼ばれるルーベリール家のエウロペ。
あなたが付き添ってくれるのは、大変心強い。
どうか…滞在中、貴方の王子が健やかに過ごせるよう…。
あなたの力を、十分発揮できるように。
ラステルに必要な物を、何でも申しつけてくれ」
エウロペは右手を胸に当て、深く頭を垂れた。
エルデリオンは控えの間で、祈るような表情で、椅子にかけていた。
数刻前、父王に呼ばれ、国王私室に訪れた時。
ラステルは既に報告を済ませ、振り向く。
王の前から下がり、横を通り過ぎる。
エルデリオンはソファに座る父王が眉間を寄せ、横の椅子に座る母王妃が、今にも泣きそうに顔を下げるのを見た。
エルデリオンが口を開きかけた時、父王が口を開く。
「…重体と聞いて…たいそう心配したが。
回復に向かってるそうで…一安心だ」
エルデリオンはそれが、レジィリアンスの父の事だと、思い当たる。
ラステルが始終シュテフザイン王宮に居る部下と、連絡を取っていたから…安心しきっていた。
が、改めて聞き、微笑を浮かべ、また口を開く。
が、国王は重い口調で告げる。
「…酷い扱いを、馬車の中で致したとか…」
途端、母王妃が顔を俯けたまま、首を激しく横に振る。
「…なんて…事を!
何も知らぬ少年相手に…!」
エルデリオンは顔を下げ、口を閉じる。
が、父王は告げた。
「…が、和解したそうだな?
誤解が、あったとかで」
エルデリオンはラステルの報告に、ちょっとほっとして、顔を上げる。
また、口を開く。
が、その前に父王は言った。
「…が、無体な侵略。
父王の負傷。
しかも、重体。
更に…」
エルデリオンは顔を下げ、国王も顔を下げる。
母王妃だけが。
叫んだ。
「どうしてそんな事が出来るの?!
酷すぎませんか?!」
が、父王は王妃を、たしなめた。
「エルデリオンは彼が…本当に嫌がってると、気づかなかったんだ」
母王妃は、王に顔を向けて抗議する。
「でも…!
嫌だと…口にされたのでしょう?!」
エルデリオンはようやく、言った。
「でも、その…。
恥ずかしくてそう、口にされたのだと…。
本心では無く、その…」
父王はため息を吐くと、王妃をたしなめる。
「…男には、ありがちな誤解だ。
特に、興奮状態の時は」
エルデリオンは父の言葉に、赤面して顔を下げた。
「が、エルデリオン。
この後、我々は彼の意向を聞こうと思う。
勿論…お前があれ程無茶を通しても…惚れ込んだ相手。
私としても、お前の味方はしたい。
が…」
王は王妃を見つめ、俯く。
王妃は叫ぶ。
「直ぐ、国に帰し、お父様とお母様に会わせて差し上げて!」
王は囁く。
「が、客人としてなら、滞在すると。
そう言われたそうだ」
王妃は涙ながらに王に振り向くと、再び叫んだ。
「では今一度!
私達の目前で、王子の意向を確かめて…その上で!」
控えの間で、事の成り行きを待つしか無いエルデリオンは、本当は立ち上がりたかった。
けれどそうしたら、居ても立っても居られず、謁見の間に飛び込んで行きそうで…。
扉近くのデルデロッテが、気配を感じる度、振り向く。
きっと、彼に抱き止められて…止められる。
それをひしひしと感じたから…じっと、耐えた。
ラステルは自分の出入りする裏扉の、赤紫のビロウドカーテンの影に、隠れるように控えているロットバルトへ、振り向いて頷く。
ロットバルトはカーテン越しに頷き返すと、直ぐ様エルデリオンの居る控えの間に、飛んで行く。
扉を開けた途端、ガタン!と椅子の鳴る音と共にエルデリオンが椅子から立ち上がり、手前の椅子の、むっつりした表情のデルデロッテは振り向き、立ち上がったエルデリオンが蒼白な顔色で、自分を祈るように見つめてるのを、ロットバルトは見た。
「…レジィリアンス殿は、滞在される事を了承された」
言った途端、デルデロッテはガタン!と椅子を鳴らし立ち上がると同時、両腕を差し伸べ、安堵のあまり気絶し、床へ崩れ落ちて行くエルデリオンを、抱き止めるのに間に合った。
「ラステルからの報告を受けている。
あなたの父君、シュテフザイン国王は、回復に向かっていて…支えが必要だが、歩く事も出来るようになったと…。
更にその…そんな状況下での、息子のあなたへの無礼は…どう詫びようか、思い悩むほどだ」
レジィリアンスは
“馬車での出来事の事だ!”
と思い当たり、頬を真っ赤に染めて俯いた。
けれど国王は、まだ幼く頼りなく見える少年王子に、心から労る表情を浮かべ、囁く。
「…どうか…。
この国で今暫く、客人として。
どんな我が儘でも、叶えるとお約束する。
滞在頂く事を、貴方に乞うしか無い」
レジィリアンスは大国の国王に、“乞う”と言われ、びっくりして見上げた。
国王は少年王子に見つめられ、温かい眼差しをレジィリアンスに注ぎ、囁く。
「…確かに、少年を愛でる風習の無いあなたには、驚くべきことかも知れぬ。
無理は今後、一切させない。
が今少し時間を頂き…息子の人柄を知って頂きたい。
その上でどうしても…愛せぬとあらば…お国に帰って頂いても構わない。
強制は、一切しないと約束する。
あなたは、拘束されていない。
客人なので…いつでも自由に、どこへでも行く事が出来る。
ただ暫くは…この国に、滞在して頂けないだろうか?」
その丁寧な口調に、レジィリアンスは矢傷を負った父。
心配ではちきれそうな母の事を思い返す。
が、侵略行為をするほど…エルデリオンが自分を欲したのだと分かり、俯く。
そして、思い返す。
“エルデリオン様は…微笑みかけると、とても嬉しそうになさる…”
嫌いには、なりきれなかった。
完璧な貴公子で…馬車での無礼も、謝ってくれた。
まだ…恥ずかしかったけれど…レジィリアンスは覗うエウロペを見つめる。
エウロペは心得たように頷くので、レジィリアンスは囁いた。
「お申し出、感謝致します。
おっしゃる通り、暫くこの国に、滞在させて頂きたいと思います」
王妃は跪いたまま、顔を上げて叫ぶ。
「おお!
ではあなた様の母君に直ぐ、使者を送り、あなたが客人として滞在して頂ける事をお知らせ致します!
私…心を込めて、安心して頂けるよう…貴方のご様子を伝えますから…」
レジィリアンスは王妃のその言葉に、涙が零れそうになった。
「ありがとう…ございます」
愛らしくも美しい…少年王子の、心からの感謝に。
王も王妃もすっかり同情した。
国王ですら少し瞳を潤ませ、語りかける。
「…ありがとう。
ラステルに何でも申しつけてくれ。
彼が貴方がたに必要な物を、何でも調達するし…。
不自由があれば、言って頂ければどんな要望にも応えよう」
部屋の中間の隅の、扉近くに控えていたラステルが、にっこりと微笑みかけるのを見て、レジィリアンスはこくん…と頷いた。
次に王は、レジィリアンスの斜め後ろに立つ、エウロペに視線を向けた。
「シュテフザイン、“国の宝”と呼ばれるルーベリール家のエウロペ。
あなたが付き添ってくれるのは、大変心強い。
どうか…滞在中、貴方の王子が健やかに過ごせるよう…。
あなたの力を、十分発揮できるように。
ラステルに必要な物を、何でも申しつけてくれ」
エウロペは右手を胸に当て、深く頭を垂れた。
エルデリオンは控えの間で、祈るような表情で、椅子にかけていた。
数刻前、父王に呼ばれ、国王私室に訪れた時。
ラステルは既に報告を済ませ、振り向く。
王の前から下がり、横を通り過ぎる。
エルデリオンはソファに座る父王が眉間を寄せ、横の椅子に座る母王妃が、今にも泣きそうに顔を下げるのを見た。
エルデリオンが口を開きかけた時、父王が口を開く。
「…重体と聞いて…たいそう心配したが。
回復に向かってるそうで…一安心だ」
エルデリオンはそれが、レジィリアンスの父の事だと、思い当たる。
ラステルが始終シュテフザイン王宮に居る部下と、連絡を取っていたから…安心しきっていた。
が、改めて聞き、微笑を浮かべ、また口を開く。
が、国王は重い口調で告げる。
「…酷い扱いを、馬車の中で致したとか…」
途端、母王妃が顔を俯けたまま、首を激しく横に振る。
「…なんて…事を!
何も知らぬ少年相手に…!」
エルデリオンは顔を下げ、口を閉じる。
が、父王は告げた。
「…が、和解したそうだな?
誤解が、あったとかで」
エルデリオンはラステルの報告に、ちょっとほっとして、顔を上げる。
また、口を開く。
が、その前に父王は言った。
「…が、無体な侵略。
父王の負傷。
しかも、重体。
更に…」
エルデリオンは顔を下げ、国王も顔を下げる。
母王妃だけが。
叫んだ。
「どうしてそんな事が出来るの?!
酷すぎませんか?!」
が、父王は王妃を、たしなめた。
「エルデリオンは彼が…本当に嫌がってると、気づかなかったんだ」
母王妃は、王に顔を向けて抗議する。
「でも…!
嫌だと…口にされたのでしょう?!」
エルデリオンはようやく、言った。
「でも、その…。
恥ずかしくてそう、口にされたのだと…。
本心では無く、その…」
父王はため息を吐くと、王妃をたしなめる。
「…男には、ありがちな誤解だ。
特に、興奮状態の時は」
エルデリオンは父の言葉に、赤面して顔を下げた。
「が、エルデリオン。
この後、我々は彼の意向を聞こうと思う。
勿論…お前があれ程無茶を通しても…惚れ込んだ相手。
私としても、お前の味方はしたい。
が…」
王は王妃を見つめ、俯く。
王妃は叫ぶ。
「直ぐ、国に帰し、お父様とお母様に会わせて差し上げて!」
王は囁く。
「が、客人としてなら、滞在すると。
そう言われたそうだ」
王妃は涙ながらに王に振り向くと、再び叫んだ。
「では今一度!
私達の目前で、王子の意向を確かめて…その上で!」
控えの間で、事の成り行きを待つしか無いエルデリオンは、本当は立ち上がりたかった。
けれどそうしたら、居ても立っても居られず、謁見の間に飛び込んで行きそうで…。
扉近くのデルデロッテが、気配を感じる度、振り向く。
きっと、彼に抱き止められて…止められる。
それをひしひしと感じたから…じっと、耐えた。
ラステルは自分の出入りする裏扉の、赤紫のビロウドカーテンの影に、隠れるように控えているロットバルトへ、振り向いて頷く。
ロットバルトはカーテン越しに頷き返すと、直ぐ様エルデリオンの居る控えの間に、飛んで行く。
扉を開けた途端、ガタン!と椅子の鳴る音と共にエルデリオンが椅子から立ち上がり、手前の椅子の、むっつりした表情のデルデロッテは振り向き、立ち上がったエルデリオンが蒼白な顔色で、自分を祈るように見つめてるのを、ロットバルトは見た。
「…レジィリアンス殿は、滞在される事を了承された」
言った途端、デルデロッテはガタン!と椅子を鳴らし立ち上がると同時、両腕を差し伸べ、安堵のあまり気絶し、床へ崩れ落ちて行くエルデリオンを、抱き止めるのに間に合った。
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