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大国オーデ・フォール
王宮の西の客用離宮 オレシニォン
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ラステルはその後、エウロペとレジィリアンスの横に進み出ると
「では国王、王妃様。
これからお二人を、泊まって頂く離宮へと、ご案内したいと思います」
ラステルは丁重にお辞儀をし、レジィリアンスもエウロペも頭を下げた。
王妃は背を向けるレジィリアンスの後を追い、腕に軽く触れてレジィリアンスを振り向かせ、囁く。
「…わたくしに話があれば…いつでも、お聞き致します。
お悩みがございましたら、いつでもおいで下さい」
レジィリアンスはその美しい女性の温かな心づもりが嬉しくて、思わず腕に触れた手を取り、顔を見つめて囁き返す。
「はい。
お言葉、心から感謝致します」
そして深々と頭を下げると、促すラステルとエウロペに続き、王妃に会釈して謁見の間を退出した。
王妃が王に振り向くと、王はため息交じりに告げる。
「エルデリオンもこれで、一安心だな」
けれど美しい王妃の、眉は寄った。
「でもあの子は、あんなか弱い美少年を無理矢理…抱いたのですよ?」
王はもう、どう取りなせばいいのか分からず、王妃より顔を背け、一つ、ため息を吐いた。
豪勢な広い廊下に出ると、先頭を歩くラステルの、明るい声が響く。
「王宮と、庭を挟んだ客用の離宮です。
王宮内は何かと慌ただしいので。
ごゆっくりして頂けると思います」
レジィリアンスとエウロペの背後で、物音も立てず控えていたテリュスとエリューンは、顔を見合わせながらラステルの後に続く、レジィリアンスとエウロペの背を追った。
テリュスは少し背の高い、年下の剣士、エリューンの眉間の皺を見て、囁く。
「…お帰りになると…思ったのか?」
「いずれ私は、王子エルデリオンに不敬な行動を取って、真っ先に帰国しそうだ」
「エウロペ殿が、させないさ」
「…ならいいが」
エリューンがエルデリオンに対し、快く思ってない様子に、テリュスも眉間に皺を寄せ、尋ね返す。
「…つまりエウロペが、庇いきれないほどの不敬か?」
エリューンは黙して、頷いた。
王宮の、西の大扉を抜け、明るく華やかな庭に面した渡り廊下を進むと。
やがて開かれた両扉が、その先に見えて来る。
扉の左右に控えている召使いに、ラステルは会釈して中へと入る。
白石の敷き詰められた、玄関広間。
その奥の、廊下へと進む。
壁は落ち着いた赤茶色で、金の模様が施され、大変洒落て豪華に見えた。
まもなく、とても広い応接間が見えて来る。
高い天井から吊り下がった豪華なシャンデリア。
白石の暖炉。
暖炉の前に、落ち着いた緑が基調の、素晴らしい刺繍の刺されたソファと、かなりの数の一人掛け用椅子。
テーブルの上には、リンゴやさくらんぼの乗った、花に飾られたフルーツ籠が置かれていた。
周囲が窓に面していないので、天井の至る所にステンドグラスの明かり取りの窓が配置され、上から光が降り注いでいる。
真正面に視線を送ると、部屋を仕切るアーチの向こうは食堂のようで、重々しい焦げ茶の、長いテーブルと椅子が並んでた。
レジィリアンスはてっきりあんまり豪華な部屋なので、応接間だと思っていたけど、ラステルは振り向いて告げる。
「この居間には、どの部屋からも直ぐ出入り出来るようになっています。
そちらの…」
と、暖炉の反対側の壁に振り向き、六つの象牙色の扉を指し示して告げる。
「我々従者が、一部屋ずつ使います。
私は…ずっと居る訳にはいきませんが、基本夜は、ここに帰って来るように致します。
至急の連絡でしたら、召使いに告げて頂けたら…直ぐここに、飛んで参りますので」
エウロペは頷く。
「では、なるべく夜に。
貴方に要望を伝えるようにしよう」
その気遣い溢れる回答に、ラステルはにっこり微笑んだ。
「…で、こちらの…」
暖炉のある壁には、白く美しい扉が暖炉を挟んで左右に一つずつあり、ラステルは奥の食堂に近い扉に歩み寄ると、開けて一行を促す。
エウロペはレジィリアンスの背を軽く押し、中へと導き入れた。
そこは…柔らかい山吹色の壁面に、クリーム色の繊細な彫刻の施された、美しい部屋。
左手に象牙色の暖炉があり、その前に寛げる大きな若草色の椅子と長椅子。
右手にはやはり象牙色の、大きな衣装箪笥があり、金の縁飾りの、等身大の大鏡がその横に。
正面は両扉で、ラステルが開けると、真正面に掃き出し窓のある明るい部屋で、右手にはクリーム色のカーテンが垂れ下がる、天蓋付きの寝台が備え付けられていた。
掃き出し窓からは、美しい庭園に出て行ける。
けどラステルは寝台から少し離れた右手の扉を開け、レジィリアンスを案内する。
「こちらが、貴方個人の温泉です」
レジィリアンスは開け放たれた扉の向こうを覗いた。
白石の敷き詰められた、黄金の蔦に縁取られた浴槽。
壁に飾られた金の蔦からは、湯が注がれている。
右手と左手には、大きなステンドグラスの窓。
ピンクと黄色が基調の、美しい飾りのステンドグラスからは、陽が差し込んでいた。
正面にも扉が見え、淡いピンク色の金飾りの扉で、ドアノブも金の蔦を模していた。
「…ああそちらの扉を開けると…食堂に続く、私達従者の浸かる、大浴場があります」
レジィリアンスが振り向くと、エウロペが進み出て、その扉を開けた。
白石と黒石の交互に敷かれた床。
大きな長方形の浴場の、半分は屋根。
けれど半分は屋根無しの屋外で、空が眺められた。
レジィリアンスはそれを見て囁く。
「…外に…通じてるの?」
ラステルは背後で微笑む。
「正確には、庭園に。
この離宮の周囲は、鉄柵で囲まれています。
金に塗られているので、とても優美に見えますが、とても高くて先が尖ってますから。
侵入者を、確実に防ぎます」
エウロペは無言で頷く。
が、背後に取って返し、寝室まで戻ると、暖炉の横の扉を開ける。
するととても大きな…柔らかそうなクリーム色のクッションの置かれた大きなソファのある、優美な居間。
鏡にしろ蝋燭立てにしろ、シャンデリアにしろ暖炉にしろ…。
所々に深紅のアクセントが入り、基本クリーム色に金の飾り模様の、とても洒落た部屋だった。
あちこちに置かれた花瓶には、大きなピンクの薔薇の間に、深紅の小さな薔薇が生けられている。
レジィリアンスもエウロペの背後から覗くが、あんまり居心地良さそうで…思わず部屋を見回す。
が、エウロペは眉間を寄せ、真正面にある扉を見つめ、囁く。
「…あちらの扉は…もしやエルデリオンの、寝室に繋がってるのでは?」
途端、居間を挟んでエルデリオンの寝室と繋がってると知ったレジィリアンスは、目を見開く。
けれどラステルは、にっこり微笑んだ。
「この部屋では、そこと…そこ。
更にそこ。
レジィリアンス殿の寝室にも、かなりの数の、ベルに繋がってる金色の極太紐があります。
引く、だけでいい。
そうすれば…従者と共同の大きな居間で、鐘が鳴り響くので。
私達は部屋に引っ込んでいても、聞こえますから、飛んで行きます」
エウロペはラステルのその気遣いに、目をまん丸に見開いた。
レジィリアンスはほっとしたように両手を胸の前で合わせ、ラステルに微笑みを返した。
「では国王、王妃様。
これからお二人を、泊まって頂く離宮へと、ご案内したいと思います」
ラステルは丁重にお辞儀をし、レジィリアンスもエウロペも頭を下げた。
王妃は背を向けるレジィリアンスの後を追い、腕に軽く触れてレジィリアンスを振り向かせ、囁く。
「…わたくしに話があれば…いつでも、お聞き致します。
お悩みがございましたら、いつでもおいで下さい」
レジィリアンスはその美しい女性の温かな心づもりが嬉しくて、思わず腕に触れた手を取り、顔を見つめて囁き返す。
「はい。
お言葉、心から感謝致します」
そして深々と頭を下げると、促すラステルとエウロペに続き、王妃に会釈して謁見の間を退出した。
王妃が王に振り向くと、王はため息交じりに告げる。
「エルデリオンもこれで、一安心だな」
けれど美しい王妃の、眉は寄った。
「でもあの子は、あんなか弱い美少年を無理矢理…抱いたのですよ?」
王はもう、どう取りなせばいいのか分からず、王妃より顔を背け、一つ、ため息を吐いた。
豪勢な広い廊下に出ると、先頭を歩くラステルの、明るい声が響く。
「王宮と、庭を挟んだ客用の離宮です。
王宮内は何かと慌ただしいので。
ごゆっくりして頂けると思います」
レジィリアンスとエウロペの背後で、物音も立てず控えていたテリュスとエリューンは、顔を見合わせながらラステルの後に続く、レジィリアンスとエウロペの背を追った。
テリュスは少し背の高い、年下の剣士、エリューンの眉間の皺を見て、囁く。
「…お帰りになると…思ったのか?」
「いずれ私は、王子エルデリオンに不敬な行動を取って、真っ先に帰国しそうだ」
「エウロペ殿が、させないさ」
「…ならいいが」
エリューンがエルデリオンに対し、快く思ってない様子に、テリュスも眉間に皺を寄せ、尋ね返す。
「…つまりエウロペが、庇いきれないほどの不敬か?」
エリューンは黙して、頷いた。
王宮の、西の大扉を抜け、明るく華やかな庭に面した渡り廊下を進むと。
やがて開かれた両扉が、その先に見えて来る。
扉の左右に控えている召使いに、ラステルは会釈して中へと入る。
白石の敷き詰められた、玄関広間。
その奥の、廊下へと進む。
壁は落ち着いた赤茶色で、金の模様が施され、大変洒落て豪華に見えた。
まもなく、とても広い応接間が見えて来る。
高い天井から吊り下がった豪華なシャンデリア。
白石の暖炉。
暖炉の前に、落ち着いた緑が基調の、素晴らしい刺繍の刺されたソファと、かなりの数の一人掛け用椅子。
テーブルの上には、リンゴやさくらんぼの乗った、花に飾られたフルーツ籠が置かれていた。
周囲が窓に面していないので、天井の至る所にステンドグラスの明かり取りの窓が配置され、上から光が降り注いでいる。
真正面に視線を送ると、部屋を仕切るアーチの向こうは食堂のようで、重々しい焦げ茶の、長いテーブルと椅子が並んでた。
レジィリアンスはてっきりあんまり豪華な部屋なので、応接間だと思っていたけど、ラステルは振り向いて告げる。
「この居間には、どの部屋からも直ぐ出入り出来るようになっています。
そちらの…」
と、暖炉の反対側の壁に振り向き、六つの象牙色の扉を指し示して告げる。
「我々従者が、一部屋ずつ使います。
私は…ずっと居る訳にはいきませんが、基本夜は、ここに帰って来るように致します。
至急の連絡でしたら、召使いに告げて頂けたら…直ぐここに、飛んで参りますので」
エウロペは頷く。
「では、なるべく夜に。
貴方に要望を伝えるようにしよう」
その気遣い溢れる回答に、ラステルはにっこり微笑んだ。
「…で、こちらの…」
暖炉のある壁には、白く美しい扉が暖炉を挟んで左右に一つずつあり、ラステルは奥の食堂に近い扉に歩み寄ると、開けて一行を促す。
エウロペはレジィリアンスの背を軽く押し、中へと導き入れた。
そこは…柔らかい山吹色の壁面に、クリーム色の繊細な彫刻の施された、美しい部屋。
左手に象牙色の暖炉があり、その前に寛げる大きな若草色の椅子と長椅子。
右手にはやはり象牙色の、大きな衣装箪笥があり、金の縁飾りの、等身大の大鏡がその横に。
正面は両扉で、ラステルが開けると、真正面に掃き出し窓のある明るい部屋で、右手にはクリーム色のカーテンが垂れ下がる、天蓋付きの寝台が備え付けられていた。
掃き出し窓からは、美しい庭園に出て行ける。
けどラステルは寝台から少し離れた右手の扉を開け、レジィリアンスを案内する。
「こちらが、貴方個人の温泉です」
レジィリアンスは開け放たれた扉の向こうを覗いた。
白石の敷き詰められた、黄金の蔦に縁取られた浴槽。
壁に飾られた金の蔦からは、湯が注がれている。
右手と左手には、大きなステンドグラスの窓。
ピンクと黄色が基調の、美しい飾りのステンドグラスからは、陽が差し込んでいた。
正面にも扉が見え、淡いピンク色の金飾りの扉で、ドアノブも金の蔦を模していた。
「…ああそちらの扉を開けると…食堂に続く、私達従者の浸かる、大浴場があります」
レジィリアンスが振り向くと、エウロペが進み出て、その扉を開けた。
白石と黒石の交互に敷かれた床。
大きな長方形の浴場の、半分は屋根。
けれど半分は屋根無しの屋外で、空が眺められた。
レジィリアンスはそれを見て囁く。
「…外に…通じてるの?」
ラステルは背後で微笑む。
「正確には、庭園に。
この離宮の周囲は、鉄柵で囲まれています。
金に塗られているので、とても優美に見えますが、とても高くて先が尖ってますから。
侵入者を、確実に防ぎます」
エウロペは無言で頷く。
が、背後に取って返し、寝室まで戻ると、暖炉の横の扉を開ける。
するととても大きな…柔らかそうなクリーム色のクッションの置かれた大きなソファのある、優美な居間。
鏡にしろ蝋燭立てにしろ、シャンデリアにしろ暖炉にしろ…。
所々に深紅のアクセントが入り、基本クリーム色に金の飾り模様の、とても洒落た部屋だった。
あちこちに置かれた花瓶には、大きなピンクの薔薇の間に、深紅の小さな薔薇が生けられている。
レジィリアンスもエウロペの背後から覗くが、あんまり居心地良さそうで…思わず部屋を見回す。
が、エウロペは眉間を寄せ、真正面にある扉を見つめ、囁く。
「…あちらの扉は…もしやエルデリオンの、寝室に繋がってるのでは?」
途端、居間を挟んでエルデリオンの寝室と繋がってると知ったレジィリアンスは、目を見開く。
けれどラステルは、にっこり微笑んだ。
「この部屋では、そこと…そこ。
更にそこ。
レジィリアンス殿の寝室にも、かなりの数の、ベルに繋がってる金色の極太紐があります。
引く、だけでいい。
そうすれば…従者と共同の大きな居間で、鐘が鳴り響くので。
私達は部屋に引っ込んでいても、聞こえますから、飛んで行きます」
エウロペはラステルのその気遣いに、目をまん丸に見開いた。
レジィリアンスはほっとしたように両手を胸の前で合わせ、ラステルに微笑みを返した。
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