森と花の国の王子

あーす。

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接近

女たらしと酔っ払い

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 テリュスとロットバルトが、三杯目をかっ食らった後、居酒屋の席を立って雑貨屋へと雪崩れ込む。

ラステルとエリューンまでもが立ち上がって、テリュスらの後を追うのを見て、エウロペもレジィリアンスも立ち上がった。

エルデリオンは一緒に雑貨屋の方へと出て行く、レジィリアンスの背を。
椅子に座ったまま呆けて見つめてると、デルデロッテに目配せされ、ため息と共に席を立ち上がった。

雑貨屋には、羽根ペンやらインク壺。
トンカチから針や糸。
火打ち石など、日用に必要な雑多な道具が所狭しと、幾つも立ち並ぶ、棚に並んでた。

エルデリオンがレジィリアンスの横にやって来ると、レジィリアンスは綺麗に磨かされた、ガラスの紙置き(文鎮のようなもの)を幾つか、手に取っていた。

「これが綺麗です」
鮮やかな青に、金の斑点のある石を、エルデリオンが差し出すと、レジィは嬉しそうに笑った。
「本当!凄く綺麗!
…僕、直ぐに無くしてしまって。
いつもエウロペに、新しいの買って貰ってた…」

レジィリアンスが懐かしそうに石を見つめるので、エルデリオンは手渡す。
そうすると、レジィリアンスはまるで宝物のように。
大切に、手に取った。

デルデロッテがふらりと反対側の棚に視線を振ると、エリューンが棚に並ぶ、柄に飾りの入った短剣を見てるのに気づく。
横に並び、手前の棚に並ぶ、綺麗な石の飾りを手に持つと、エリューンに話しかけた。

「お国に思う方がいらしたら、これがお勧めです」

エリューンは横に並ぶ、長身のデルデロッテを見上げた。
けれどデルデロッテは、手に持つネックレスをエリューンに見せる。
エリューンがデルデロッテの手元に視線を落とすと、見た事の無い、琥珀の石が並ぶ綺麗な房飾りの付いた、ネックレスだった。

エリューンは珍しい飾りの、いかにも女性が喜びそうなネックレスを見つめ、ぼそり…と呟く。
「では、母上に」
けれどそれを聞いた途端、デルデロッテは爽やかに笑う。
「おや。お好きな方はいらっしゃらない?」

からかうように言われ、エリューンは
「…恋をしている暇はありませんでした」
そう、静かに告げた。

が、デルデロッテは笑みを浮かべ、エリューンの耳元に囁く。
「でも、あなたにこれを送って欲しいと思う少女は、たくさんいる。
…違ってないでしょう?」

けれどエリューンは、ため息と共に“困った人だ”と言わんばかりにデルデロッテの、洗練された美しい顔を見上げる。
「…それは、貴方の事ではありませんか。
あんまり田舎者をからかうと、バチがあたりますよ」

自分を田舎者と呼ぶ、申し分なく整った、綺麗な顔立ちをした若者の顔を見て、デルデロッテは肩を竦める。
「…貴方には、すっかり女たらしにみられてるようだ」
エリューンは頷くと、視線を店先へと促す。

そこには買い物に来ていた娘達が、デルデロッテに見惚れ、頬を染めていた。
気づいたデルデロッテは、頭を掻いてぼやく。
「…やれやれ」
デルデロッテがネックレスを棚に戻そうとするのを、エリューンは引ったくるように取り上げ
「私はこれを、母のみやげにいたします」
そう告げ、支払いをしにカウンターへ、スタスタと歩く。

エリューンの、涼しげで爽やかな嫌みに。
デルデロッテは思わず腰に手を当て、肩をすくめた。

けれど店先の娘達の数人が、エリューンの後を追うようにカウンターに行くのを見て、ラステルが笑顔でエウロペに囁く。

「…デルデロッテとエリューン殿が居れば、年頃の美女、年若い美少女らを全部、持って行かれそうだ」

エウロペは取り合う気が無く、呟く。
「エリューンは今の所、興味が無い」
「興味が出て来たら…デルデロッテみたいになりますかね?」
ラステルの問いに、エウロペは肩を竦めた。

「エリューンはただ一人の女性を、大切に愛すだろう。
大抵のシュテフザイン森と花の王国の男達同様に」

ラステルはまた、笑った。
オーデ・フォール中央王国宮廷の、爛れた貞操観念に、巻き込むなと?」
エウロペは頷く。
「それから彼を護るのも、私の役目」

ラステルは思わず、肩を竦めた。
「大変な役割だ」

エウロペはエリューンの若さを見つめ、軽く相槌打った。
「…そうかもな」

テリュスはすっかり酔って、デルデロッテに絡む。
「本当は、私より10も年上なんでしょう?」
デルデロッテは眉間を寄せた。
「残念ながら!
本当は貴方と、同い年ですよ!」
「デルデロッテ殿!
嘘はいけません~」

デルデロッテはタコのように、ハズしてもまた別の手で体に絡みついてくるテリュスの腕を掴み、また外しながらぼやく。
「…酔い潰れて毎度私に担がせる、ロットバルトよりタチが悪い!」

デルデロッテの横にエリューンはやって来ると、テリュスに囁く。
「…それ以上騒ぐと。
エウロペにまた、苦~い薬を飲まされますよ」

テリュスは聞くなり、いきなりしゃんとして、デルデロッテに回した手で、ぱんぱん。
とデルデロッテの上着を叩き
「…埃が、付いてました」
そう言い、すまして背を向ける。

エリューンはテリュスの背に続きながら、デルデロッテに視線を向けた。
デルデロッテはエリューンに視線を送って、呟く。
「…助かった」
エリューンは背を向けると
「いつでも」
と言葉を返した。

レジィリアンスは横のエルデリオンが、その一幕を見て、くすくす笑うのを呆けて見上げた。
「…笑ってると…なんだか、可愛い…」
エルデリオンは気づいて、背の低いレジィを見下ろす。

相変わらずの、金の髪が肩を覆う、愛らしい美貌。
けれど頬が赤く染まって、瞳は潤んでた。
「…酔ってます?
可愛い…より、格好いい。
と思って頂けるには、どうすればいいんですか?」

今度はレジィが、くすくす笑い続け、とうとう背後からエウロペに抱き止められた。
エルデリオンは、エウロペに
「酔うと、笑い続けます」
と言われ、後ろから羽交い締めのように抱かれ、引きずられるように連行されていくレジィリアンスが、その間ずっと笑い続けてるのを見て、頷いた。

ラステルとエルデリオンは、エウロペがレジィとテリュスに、丸く固められた薬を手渡してるのを眺めた。
「…飲まなきゃ、ダメ~?」
レジィが異論を唱え、テリュスも。
「…折角、ふわふわな楽しい世界に居るのに」
と文句垂れた。

エウロペに頷かれ、二人はしぶしぶ、飲み込む。
その後、二人揃って、うぇー!
と、思いっきり顔を崩して、しかめてる。

デルデロッテとエリューンまでやって来て、それを見ていると、エウロペは皆に
「さっさと馬で、帰りましょう。
数点鐘しか、効かないから」
と、店の戸口に振り向く。

ラステルはこっそりエウロペに
「一錠、分けて頂けません?」
と囁き、頬を真っ赤に染めてジョッキを煽ってる、ロットバルトに視線を振った。

エウロペは頷くと、ラステルに一粒、手渡した。
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