森と花の国の王子

あーす。

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接近

小さな町の居酒屋

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 二人の門番に開けられた城門を潜り、先頭は後続などまるで見ず、凄い速度で馬を走らせる。
が、馬に乗り慣れたシュテフザイン森と花の王国の一同は、難なく付いて行った。

エルデリオンは巧みな手綱捌きのレジィリアンスを見つめ、微笑む。
「…とても乗馬が、お上手だ」
レジィリアンスは輝くような笑顔を、エルデリオンに向けた。
「だって、馬に乗るのが大好きですから!」
エルデリオンはレジィリアンスに微笑まれ、とても幸福そうな笑顔を浮かべた。

エウロペは少し馬を下げ、最後尾のデルデロッテに馬を並べると、尋ねる。
「…ラステルとロットバルトは、いつも貴方にあんな調子なんですか?」
デルデロッテはまだ不機嫌で、エウロペにぼやく。
「…私が最年少なんで、いつもからかうんです。
いっくら私の神経が、鋼鉄出て来ていようと。
流石に、腹が立ちますね!」

エウロペはそれを聞くなり、くすっ。と笑って尋ねる。
「おいくつでいらっしゃる?」
「18」
言った後、デルデロッテが横のエウロペを見ると、目を見開いていた。
「とても落ち着いて、もっと年上に見える」
「…知らない人には、そうでしょうね。
が、あの二人から見れば私はまだ、小僧らしい」
ぷっ!
エウロペに笑われ、デルデロッテは冷笑した。
「おかしいですか?」
けれどエウロペはまた、ぷっ…と吹き出し
「ああ、失礼」
と言いながら拍車をかけ、レジィリアンスの隣に馬を戻して行った。
デルデロッテはその背を見つつ
「ああとっても、失礼ですよ!」
と声をかけたが、前で馬を走らせてるエウロペの返事は、また、ぷっ…と吹き出す、笑い声だけだった。

間もなく、石畳のゆるやかな坂道に出る。
上がったかと思うと下り、農園が道の左右に広がったかと思うと、小さく可愛らしい家が、そこらかしこに見えて来る。

その先の坂を下ると、店が建ち並び、ラステルとロットバルトは、雑貨屋のような木で吊された看板の下を潜り、店の横の広い馬留めに、馬を寄せた。

馬を止めると、太い丸木の横棒に、手綱を括り付け始めるので、テリュスとエリューンもそれに習った。

エウロペも馬から飛び降りると、駆け込み馬の速度を一気に落とすデルデロッテに向け
「テリュスが18!
エリューンは17です!」
と叫び、目を見開く二人に
「デルデロッテ殿は、18だそうだ」
と告げた。

デルデロッテは馬から降りるなり、横に付くテリュスに
「同い年ですか?
…冗談ですよね?」
と言われ、手綱を丸太に巻き付けながら、憮然と言い返す。
「冗談に、決まってます!」

けれど店へと足を運ぶラステルとロットバルトに、途端爆笑され、テリュスはキョロキョロと、デルデロッテ、エウロペ。
そしてロットバルトとラステルを見回した。

エルデリオンは馬を止め、レジィリアンスが妖精のように軽やかに、馬から降りる姿を、微笑んで見つめた。
レジィリアンスは手綱を巻き付けてる間、横で品良く待ってくれてるエルデリオンに微笑みかけ、先に店へと入って行く、皆の後に続いた。

一同が、開けっ放しの扉を潜り抜ける。
中は木造で、手前に商品が並ぶ棚が置かれた、雑貨屋。
その奥に、テーブル席のある、居酒屋があった。

ラステルはレジィリアンスの横にやって来ると
「ここは、バターを使ったお菓子が、とても素朴で美味しいんです」
と告げ、レジィリアンスをもっと笑顔にした。

ロットバルトは居酒屋のカウンターに付くと、皆に振り向く。
「さて!
地酒を嗜まないお方は?!
いらっしゃるかな?!」

エウロペはレジィリアンスに振り向く。
レジィリアンスは頷き、エウロペは即座に
「軽い林檎酒は、ありますか?」
と尋ねた。

ロットバルトは笑顔で頷く。
「それが地酒です。
が、ご婦人用の、軽い地酒もございますから」
と請負い、カウンターの向こうの、親父に叫ぶ。
「地酒を七つ!
優しい酒を一つ!」

皆、席について酒が来るのを待った。
が、酒より早く、バター菓子がホールでやって来る。

デルデロッテが木皿に乗ったナイフを持つと、切り分け、素っ気無く言った。
「手づかみで食べるのが、美味いんです」

この中で一番身分の高いエルデリオンは、皆に一斉に見つめられ、笑って告げた。
「身分は忘れ、早い者勝ち!」

途端、エリューンもテリュスも笑って手を出し、エルデリオンもデルデロッテもが、さっさと手に取った。

エウロペは素早く、一番大きな塊を手にすると、レジィリアンスに手渡す。
ラステルとロットバルトは、残った小さな塊を見つめ、ため息を吐いた。
「…どう見ても、不公平な切り分け方だ」
ロットバルトのぼやきに、ラステルも頷く。
「明らかに、切り分けがヘタですね」

デルデロッテはさっさと大きな塊を頬張り
「文句があるなら、御自分でされては?」
と、聞く気無し。

テリュスは口にするなり、顔を緩ませた。
「口にすると、幸せになるお菓子に、初めて出会った!」
エリューンも感嘆した表情を浮かべ、頷く。
「…それは言い過ぎですが、確かに美味しい…!」

レジィリアンスは満開の笑顔で、頬張りながら頷く。
「最高に、美味しい!」

エウロペはラステルやロットバルト同様、小さな塊を手にし、嬉しそうなレジィリアンスを、微笑んで見つめてる。

ラステルが、そっと告げる。
「…さては…」
ロットバルトも、頷いた。
「食べた事が、既にお有りなんですな?!」

エウロペは肩を竦めた。
「我が家は、少年の頃から諸国を旅させ、学ばせる方針なので。
大抵の国には、行ってますから」

やがて地酒が、陶器のジョッキで届くと、皆一斉に手を出す。

酒好きのテリュスとロットバルトが、一気に煽って舌鼓を打った。
「最高だ!」
テリュスが叫ぶと、ロットバルトも頷く。
「何杯でも、いけますな!」

けれどデルデロッテは、ロットバルトを睨んだ。
「…酔い潰れて、私に担がせないで下さい」

テリュスとロットバルトは、デルデロッテの言葉など無視し、互いの肩に腕を回し、歌い出す始末。
エウロペはチラ…とラステルの体格を見
「なる程。
重い物を担ぐのは、貴方の仕事のようだ」
と、デルデロッテに同情した。
デルデロッテは頬杖付くと、無言でぶすっ垂れて、頷いた。

エルデリオンは横のレジィリアンスが、軽い酒でも酔ったように頬を赤く染め、話しかける言葉を聞いた。

「こういう場所では。
身分は関係無いんですか?!」
エルデリオンは頷く。
「こんな場所で堅苦しい事は、私も嫌ですから」

レジィリアンスはそれを聞くと、エルデリオンに微笑みかける。
「…こういう場だと…凄く優しい、お兄さんみたい…」
エルデリオンは目を見開き
「…お兄さんは、ちょっと…」
と呟き
「素敵な、彼…ぐらいには、昇格しませんか?」
と真剣に尋ね、エウロペに
「レジィは酒に弱いので。
聞いて、ませんよ」
と言われ、がっくり肩を落とした。
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