森と花の国の王子

あーす。

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誘拐計画

秘密の通路

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 馬は洞窟内を駆けて行く。
洞窟は綺麗な円形にくり抜かれ、障害はほぼ無いも同然。
速度を上げる、配下の馬の駒音の他に。
遠ざかる駒音が、微かに聞こえ続けていた。

が突然、駒音が消える。

「先に、地上に続く出口がある」
エウロペが囁くと、配下は頷いた。

もう少しで通り過ぎかけたが、男は洞窟の横穴を見つけ、手綱を引いて馬の首を横に向け、促すと同時。
馬は横穴へと突っ込んだ。

上がり坂になっていて、馬は土の坂道を駆け上がる。
上がった先はだだっ広い草地で、その先を馬が一頭、駆けて行く姿が見えた。

配下が馬を飛ばし、駆けて行く馬に近づく。
が、月明かりに照らされた馬を見たエウロペは、即座に叫んだ。

「無人だ!
戻れ!!!」

配下はその声が飛んだ瞬間、手綱引き馬の速度を落とし、即座に馬の首を背後に向け、拍車かけて来た道を戻る。

駆け上がって来た洞窟の横道まで戻るものの、月明かりに照らされた草地に、人影は無い…。

配下は草の合間に、壊れた墓石がそこら中に転がる荒れ地を見つめ、ため息を吐く。
「この辺りの地図を、仲間が持っているので…」

けれどエウロペはもう、配下の背後から身を滑り落とし、崩れた墓石の一つ一つを調べ始めた。

配下は馬上で、隠し扉を探すエウロペを見た後。
そこらかしこに地中に続く、壊れた墓石が無数にある景色をため息交じりに見つめ、囁く。
「…探せますか?」
エウロペはかなり大きな、崩れかけた墓石の周囲を回り、調べながら囁く。
「地図があるのか?」

配下は馬上で即答する。
「ええ。
この辺りは網の目のように地下道が張り巡らされてる。
巨大な地下墓地がこの先にあり…。
この辺の三つの屋敷、全ての地下室と通じてるんです。
…だから…。
入り口が見つかったとしても。
どこに消えたか、特定するのは難しい」
「出入り口も、無数?」

エウロペの問いに、男はため息を吐いて呟く。
「…今から、分かってる全ての出入り口の、見張りを配備しましょう」

言いながら、男は懐から鳩を取り出すと、色の付いた足輪を括り付け、空に飛ばした。
エウロペは濃紺の夜空に消え行く、白い鳥を一瞬眺めた。
が直ぐ、次の墓石を調べに戻った。


デルデロッテが川から上がった時。
川上の茂みからテリュスが騎乗し、飛び出して来る。

「!!!」

テリュスがデルデロッテの姿を見、馬で踏みつけまいと思いっきり手綱を引く。
デルデロッテが茂みの中に飛び込んだ瞬間、テリュスは横に避けて馬を止めた。

デルデロッテがほっとして、茂みから元の位置に、戻ろううとした矢先。
今度はエリューンが凄い速度で騎乗して現れ、デルデロッテはその場に踏みとどまった。

エリューンは一気に手綱引き、馬を止める。
「エウロペは?!」
叫んだのは、横に避けたテリュス。
エリューンは通り過ぎて即座に馬の首を背後に回し、テリュスの横に馬を付けた。

ずぶ濡れのデルデロッテは、滴る水を振り落としながらうめく。
「後を追って、ここに来たんだが…。
君達、随分気楽そうだな」

決死の表情のテリュスは歯を剥き、エリューンは肩を竦めた。
「…貴方から見たら、そうかもしれませんね」

エリューンに言われ、デルデロッテはまた、髪から顔に滴る水滴を手で払い退けた。

テリュスは先へと進み、エウロペの後を追おうと少し広い道へ、馬を進める。
デルデロッテはエリューンの背後に乗り込むと
「君まで濡らして、悪いね」
とまた、顔にかかる水滴を手で払い退けていた。

広い道を少し進むと、先に黒塗りの馬車が止まっていて、その周囲に三人の、地味な服装の男が御者に質問していた。

「…だから…。
あっしはここに馬車を止め、人が来たら走らせろと。
命じられただけで…。
ただの、辻馬車の御者です」

テリュスが叫ぼうとした時。
尋問していた一人が振り向く。

「…多分、川沿いの道を行き、この馬車は囮」

テリュスが怒鳴る。
「どの道だ?!」

三人の一人が直ぐ横の馬に騎乗し
「こちらです!」
と先を走る。
テリュスは直ぐ馬の首を背後に回し、案内役の男はエリューン背後のデルデロッテに、通り過ぎ様軽く頷く。

テリュスが案内役の男に続き、馬を走らせ、エリューンも馬の首を回し、テリュスの馬を追い始めた時。
デルデロッテはエリューンの背後で囁いた。

「ラステル配下の男だ」

エリューンは無言で頷き、テリュスの後から、川沿いの細く、曲がりくねった道を走り始めた。


ラステル、そしてロットバルトとエルデリオンが、支流沿いを駆け続ける。
が、道に男が一人、立っていた。

ラステルは速度を落とす。
その男は瞬時に横に回って馬に飛び乗り、背後からボスに告げた。
「その先の、川沿いの道を下りました。
別の道に、囮の馬車を止めてあります。
が、下っ端か一般人で、計画の事は知らない様子」

ラステルは軽く頷くと、直ぐ斜め横、茂みの向こうの細道へと、馬の向きを変えた。

エルデリオンはいつの間にか、茂みから騎乗したラステル配下らしき男が三人姿を現し、背後に護衛のように付き従うのを目にした。

先頭の男はエルデリオンが振り向き、見つめてると見つめ返し、被っていた帽子を少し下げ、見えてる片目でウィンクした。

「…相変わらず、手回しがいい」
前のロットバルトに振り向き、呟くと。
ロットバルトも頷いて、言葉を返す。

「どこからともなく、湧いて出て来ますな。
最高に、ありがたいが」

緊迫した場なのに、いつもと変わらぬロットバルトのその口調に。
エルデリオンはつい、くすっ…と笑いを漏らした。
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