森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

レジィリアンスの動向

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 エウロペは棒を滑りきって、目前に開ける地下洞窟を見つけ、駆け寄る。
地面にトロッコのレールがあるのを見つけ、必死に首を振り、周囲を見回す。


テリュスが棒を滑り降りた時、前には広い洞窟。
両側の土壁がくり抜かれた小さな凹みには、蝋燭が灯り、その先に。

エウロペが必死に円形の巻き取り機の、レバーを回していた。
「…エウロペ!」

エウロペはその声に、振り向く。
テリュスは駆けつけてそのまま抱きついた。
「無事だった!」

「……………」
エウロペは暫く、抱きつくテリュスの温もりに彼の心配を感じ、押し黙る。
そして突然ひらめき、抱きつくテリュスを自分から離し、顔を見つめ、尋ねた。
「…レジィをさらった男は、ロープを切ろうとしてたのか?!」

テリュスは頷く。
「そっちからは、見えなかった?
レジィの声がした。
塔はさほど高くなかったから。
丘に登って見上げたら、男は屈み、レジィは…止めようと争ってる様子だった」

エウロペは俯く。
高く、風が吹き抜け、所々ロープにベルトの皮がひっかかり、速度が落ちかけて…。
幾度もいざって摩擦を避け、速度が上がるようバランスを取り続けていた。

屋上にも幾度も視線を投げた。
が、籠の向こうで黒く蠢く影が見え、まだ二人はそこに居る。
そればかりに気を取られていた。

…ロープを切り始めてると、考えはした。
その前にと、速度を上げる事に全力を尽くした。

が、ロープが切れる前に…。
屋上の蠢く影は、消えたように感じ、気が気でなくて。

今思えば、飛んだ反動でロープが切れたのは、やはり切られていたから。

「レジィは止めようとして…叫んだように思う。
だから…矢を放った。
その後、男は身を起こしてレジィを連れ、場を離れたから…。
多分、当たったと思う」

エウロペはその時、やっと微笑んだ。
「当たったよ。
助かった。
私も、レジィも」

エウロペはそう告げ、トロッコがあったであろう、土床に。
かなりの数の、滴る血飛沫ちしぶきを目で指し示す。

けれど背後から、ラステル配下が一人。
また一人と、二人が駆けつけて来
「これを。
戻すんですね?!」
一人が叫ぶと、もう一人も反対側に付き、レバーを二人向かい合って握る。

そこから、二人は凄い勢いで円形の巻取り機に括り付けられてる鎖を、力尽くで巻き上げ始めた。

ぎぃぃ。
ぎぃぃぃぃぃぃぃ。

トロッコが遠くからこちらに、引き寄せられて来ても。
二人の速度は落ちず。

一人が半分を力込めて回すと、もう一人が残り半分に力込めて回す。
を繰り返し、かなりな遠くに見えたトロッコは、あっという間に引き寄せられた。

皆が立つ位置からそこは、下り坂になっていて。
坂をトロッコが登り切った時。
エウロペはもうトロッコに駆け寄り、ラステル配下の一人はレバーを離し、トロッコに駆け寄る。

テリュスもすかさず、トロッコに乗り込む。
三人が乗ると、一人はそこに残る。

「俺はここから、別の出口を探る」

ラステル配下は頷くなり、直ぐトロッコ内のレバーを引く。

間もなくトロッコは坂を下り始め、三人の体重で一気に加速した。

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォ…。

残ったラステル配下は、遠ざかるトロッコに背を向けると。
直ぐ、地上に続く扉を探し始めた。


レガートは、運ばれてる。
と感じた。
目を開ける。
商品レジィを抱き上げる、アルトバルデを見つめる。
「…残念だが、私の屋敷に彼がいれば。
直ぐ逮捕される」

横に立つ男の顔に、見覚えがあった。
“コルテラフォール侯爵…?!”

女のように見えるアルトバルデと比べると。
背も高く肩幅も広く、男らしい体格。
顔は…甘い色男風だったが、黒に近い焦げ茶の髪が、その甘さを男らしく見せていた。

誰もが見とれる、美男。
が、喰えない男…。

「では私が引き受けるよ。
今はまだ、ここにラステル配下は来ていないんだろう?」

アルトバルデは、焦って言い返す。
シュテフザイン森と花の王国の王子だぞ?!
どれ程稼げると思ってる?!」

けれどコルテラフォール侯爵は笑う。
「金は直ぐ、届けさせる。
金貨より、宝石がいいかな?」

アルトバルデは押し黙って、大きめのグリンの瞳の、甘いマスクの色男を見つめた。
コルテラフォール侯爵はくすり、と笑う。
「約束して、私が破った事が…」
「無い」

言ったものの、まだアルトバルデは探るようにコルテラフォール侯爵の、人を食ったような魅力的な微笑を見つめてる。

「…いいだろう…。
今はそれしか方法が無い。
ラステル配下が、ここに押し寄せるのも直。
一旦来れば。
そこら中をひっかき回して家捜しするはず。
私は早々にここを出ないと。
暫く来てない別宅で、何があったかなんて、知るよしもないと装うために。
が、それでもラステルは私をマークする。
本宅から数ある別宅にまで、探索が入るだろう…。
暫く、催し物は控えないと」

コルテラフォール侯爵は両腕差し出し、アルトバルデは仕方なさげに、気絶したレジィリアンスをコルテラフォール侯爵に、手渡した。

コルテラフォール侯爵は、美少年王子を腕に抱き、微笑む。
「さて。
ここまで包囲される前に。
さっさと抜け出ないとね。
馬車の中を調べられたら、面倒だ」

そう言って、背を向けた。


レガートはその後、傷口を洗われ、薬草を貼られて布を巻かれ…。
粗末な寝台に寝かされた。

…つまり、ラステル配下がここを探索した時。
ここに居れば掴まる…。

けれど気が遠くなる。

遠くで、二台の馬車が駆け出す音が聞こえた。
逃げ出す、アルトバルデとコルテラフォール侯爵…。

が、いい事を聞いた。
アルトバルデは裏切れない。
が、コルテラフォール侯爵は別。

助かる為に。
その名を取引材料に使えば…。
まだ、助かるチャンスはある。

レガートはそう気づくと、意識が遠のく、ままに任せた。
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