森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

進み続けるエウロペ

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 エウロペは先の道が、三つ叉に別れているのに目を見開く。
トロッコはその三つ叉の手前で、ガタン…!
と音立てて止まる。

「……………」
テリュスは目を見開き、暫く固まった。
てっきり三つあるどれかに、トロッコは乗り入れると思っていたから。

が、エウロペはもうトロッコを飛び降り、三つの洞窟の、一つ一つを調べ始めてる。

ラステル配下は三つの内、どのトロッコを引き寄せればいいのか。
思案し、ここから地上に続く通路は無いかと、周囲の壁を見回した。

テリュスはそっ…とトロッコを降り、既に真ん中の道を屈んで調べてる、エウロペの背後に寄る。

「…分かる?」

エウロペは返事をせず、最後の一番左側の空洞に足を運ぶ。
また、屈むとトロッコのレールの周囲を調べ、すっ!と立ち上がると、背後から覗うテリュスに告げた。

「真ん中だ」

「なぜ?」
「ええ、どうしてです?」
ラステル配下もテリュスに続いて尋ね、エウロペは周囲を見回しながら、素っ気無く告げた。
「いちばん、血糊が少ない」

「?」
テリュスは理解出来なかった。
が、ラステル配下は頷く。
「…つまり三つの通路、全てに血が落ちていた?」
エウロペは頷く。
そして尋ねた。
「馬をここに、乗り入れられないか?
広さは十分ある」

「地上への通路を探してますが…。
あるハズなんです」

テリュスが、横に来て告げる。
「真ん中だって分かってたら…トロッコを引き戻す、手伝いするぜ?」

エウロペはため息を吐くと
「今の所、それが一番早いか…」
と言って、真ん中の通路の壁に設置されている、円形の巻き取り機の前へ歩き出す。

テリュスもエウロペの向かい合わせに立つと、ラステル配下らがしてたように。
二人がかりでレバーを回し始めた。

ギィィギィィ…。

手は動かしながら、テリュスはエウロペに問う。
「…なんで、血糊が少ないと正解だ?」
エウロペは思い切り回しながら、囁く。
「三つともに、血が滴ってるって事は。
攪乱かくらんしようと目論んだ。
他の二つは、乗った後飛び降りてるから、血がハデに飛び散ってる。
が、乗ったまま行ったトロッコの周囲は、血が少ない」

テリュスはそれを聞き、感心したようにエウロペを見た。
が、エウロペはレバーを回しながら、微笑む。
「これも君が。
さらった男を、矢で射抜いてくれたお陰」

そう、さり気なく褒めてくれるエウロペから、テリュスは顔を下げて頬を染めた。
嬉しかったけど。
浮かれてる場合じゃ、無い。

その時、ラステル配下は地上に続く、通路を見つける。
左側の暗がりの壁に、木の大きな扉があり、扉を横に避けるとその奥に、斜め上に向かってかなり広い空洞があった。

配下は、空洞の奥に向かって笛を吹く。

ピィィィィィィィィィィィヒュゥゥゥゥゥゥヒィルルルルルル。

暫く後。
ピヨォォォォォォォォピィヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ。
と、頭上の地上から、返答が帰って来た。

ラステル配下はそれを聞いて、エウロペとテリュスに振り向く。
「そちらの努力も買いますが。
賭けてもいい。
馬が届く方が、先だと思います」

テリュスはまだ、遮二無二レバーを握り、円形の巻取機を回していたけれど。
エウロペが突然手を離すので、がくん!と重くなり、手を止める。

「賭けないのか?」

テリュスに問われ、エウロペは苦笑した。
「流石にこれだけ動いてるから。
無駄な動きは避け、体力は温存したい」

テリュスは納得して、頷く。

暫く後。
左横の、壁の奥から。

どどどどどっ!!!
と遠くから馬が駆け来る音と共に、三騎の馬が地下洞窟に飛び込んで来る。

「…とりあえず、三騎!!!
仲間に知らせたから、多分直、もっと押し寄せる!!!」

ラステル配下は、一騎の手綱を受け取る。
乗っていた男は飛び降り、手綱を取ったラステル配下は、エウロペに振り向く。

エウロペはもう、駆け寄って乗り手が降り様、入れ替わって飛び乗っていた。

「賭けは君の勝ちだ。
もし、賭けていたなら」

馬上からそう告げるエウロペに、手綱を手渡し、ラステル配下は笑う。

「賭けて無くて、凄く残念です」

二騎目の乗り手も降りると、テリュスに首を振る。
テリュスは直ぐ、駆け寄った。

三騎目の馬に、一緒に来ていたラステル配下は乗り込む。
がもう、エウロペは真ん中の通路へと馬を乗り入れ、駆け始め。
テリュスも手綱を振って拍車かけ、直ぐ後に続く。

「真ん中にもっと寄越してくれ!
俺はお二人を手助けする!」

付いて来たラステル配下も、残った仲間に告げて拍車かけ、一気に駆け出す。

「左右の通路の行き先も、探索しないとな…」
「呆れるぜ。
こんな巨大地下迷路を作っていたなんて」

馬から降りたラステル配下らはぼやきまくり、真ん中の通路に消えて行く、三騎を見送った。



塔の中へ入ったエルデリオンは、ラステル配下らが中の盗賊らに縄を打ち、捕らえては塔から引き出すのに、すれ違った。

一階は広い円形で、左右の壁には幅広く優美な螺旋階段が、上の階へと続いて行く。
そこらかしこは廃れていたが、装飾が多く、かつては豪華な内装だったのが覗えた。

入って直ぐのエントランスは、優美な彫刻が彫られた柱が幾本も立ち並ぶ。
今や黒ずんで、あちこちが欠けていた。
二階上の天井には、シャンデリアが幾つも下がっている。

先には廊下が広がり、扉が幾つもあった。
殆どの扉は明け放たれ、次々、中に詰めていた賊らがラステル配下に掴まって、後ろ手で縄を打たれ、引き出されて来る。

突然。
背後から突き飛ばす勢いで、配下が飛び込んで来る。
気づいたデルデロッテがエルデリオンの腕を引き、激突するのを避けた。

「…す…すみません!
まさか王子だとは…!」

先にいたラステルは直ぐ振り向き、恐縮する伝令に声かける。
「王子には私から謝っとく。
報告をくれ!」

「こ…この先に、地下通路が…!
入り口を見つけ、乗り込んでます!
エウロペ殿と、同行してる仲間の知らせで…!」

「ではレジィリアンス殿の行方が、分かりそうか?!」

ラステルの直ぐ後ろにいたロットバルトが、振り向き様勢い込んで尋ねる。

その後に、もう一人が馬ごとエントランスに乗り込んで来ると、激しく息を切らしながらも後を継ぐ。
「…三つ叉に別れた地下道に、トロッコが!
エウロペ殿は真ん中を行かれた!
同行した仲間が、辿り着いたら合図を寄越す予定。
が、今続々と地下通路に馬を乗り入れ…」

喋ってる間にラステルは、その男の後ろに乗り込み、叫ぶ。
「案内しろ!」

男は口を閉じると、馬の首を外へと向け、ラステルを後ろに乗せて一気に駆け去った。

ロットバルトが
「馬…馬!」
と叫んで後を追い、エリューンもやって来ると
「そんな先に進んでいたなんて…」
憮然としながら、ロットバルトの後に続く。

エルデリオンは理解が追いつかず、言いあぐね。
デルデロッテが、代わって叫んだ。

「馬を四騎。
大至急用意してくれ!!!」
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