森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エウロペの思惑

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 階段を上がりきると、エウロペは横を歩くラステルに告げる。
「今夜はエルデリオンを、オレシニォン西の客用離宮に泊まらせた方がいい」

が、ラステルは沈んだ声音で囁く。
「誘拐事件に責任を感じ、姿が見られなくとも。
レジィ殿のいる建物内にとどまりたいと、聞かないでしょう」

エウロペはラステルの手を取り、小さな油紙の包みを握らせる。
「…私も付き合う。
オレシニォン西の客用離宮で休憩を取り、お茶の中にこれを」
「…睡眠薬?」
エウロペは頷く。
「よく効くが、体に害が無い。
シュテフザイン森と花の王国にのみ生えてる、ラクサ草で作られてる。
睡眠不足だと、二日は眠り続ける」

ラステルは暫く沈黙すると
「…それは初耳だ。
ウチの薬師に、貴方の知識を教授してもらえます?」
と尋ねた。

エウロペはラステルの肩を掴み、グイと押して囁く。
「早くしないとエルデリオンはコテージに向かう」
ラステルはエウロペを見つめ、突如駆け出し。
ほとんど陽の暮れた正面玄関で、騎乗しようとしてるロットバルトとエルデリオンを呼び止める。
「ちょっと待って下さい!」


すっかり日の暮れたコテージで。
デルデロッテはようやくレジィが眠りに就いて、ほっとしながら寝台から身を起こす。

間もなく居間で話し声が聞こえ、そっ…と扉を開けると、ラステルとエウロペが。
暖炉の前のソファに座って、酒を飲んでいた。

けれど二人同時に振り向くので、デルデも居間に入ろうとして…ガウン姿だと気づく。
「(相手が他なら構わないけど…。
レジィを抱いたばっかだから、生々しいかな?)」

エウロペは心を読んだように呟く。
「別に、気にしない」

デルデロッテは、眉間を寄せる。
「…何が?」
ラステルも見つめて告げる。
「ガウン姿の事ですよね?」
エウロペは頷く。

デルデロッテはエウロペの横の、一人掛け用ソファに腰掛け、酒のグラスを手渡され、呟く。
「…タフですね…。
昨夜一晩中、追跡劇を演じたのに」

ラステルが呆れる。
「年若いテリュスとエリューンを連れ、レジィリアンスを暗殺者から、護り切った男ですよ?
もっと大変だったこと、幾らでもあったでしょう?」

エウロペはデルデのグラスに酒を注ぎ、頷く。
「真冬じゃないだけ、マシだ」

デルデは注がれた酒を、グラスの中で揺らした。
「…つまりレジィを助けるためなら。
真冬の川にも飛び込む?」

エウロペは短く唸り、体の向きを変える。
デルデは尚も問うた。
「もしかして、一度や二度じゃ無い?
まさか、氷の張った池か湖にも、飛び込んだ?」

「敵の気を逸らす為」

エウロペの返答に、デルデは短いため息を吐く。
「貴方の話を聞くと、私だってかなりな体験をしたが。
自分がヤワに思えてくる」

ラステルは吹き出しながら…ふ…と疑問をいだく。
ラステルがそれを問う前に、デルデが口を開いた。

「…けどテリュスは私と同い年。
エリューンはそれより若い」

ラステルも頷く。
「貴方なら…幾らでも腕の立つ仲間を調達できたはず」

エウロペは苦笑した。
「…どの男も、デカくてムキムキなので、レジィが怖がって。
シュテフザイン森と花の王国の有能な男達は、殆どが筋肉自慢。
…それで…選んだ者の中で、一番貧弱で最年少。
レジィと年が近く、目端の効くテリュスに決めた。
会わせた途端、レジィはテリュスに笑顔を見せたので。
エリューンは…若年じゃくねんの者らの中で、一番剣が使えた。
…けど感情をあんまり表に出さず、無愛想だったから。
レジィが気に入るか不安だったが…。
あれでエリューンは子供好き。
レジィは察したんでしょうね。
直ぐ、エリューンに纏わり付いて」

ラステルは呆れた。
「基準は、そこですか」

エウロペはグラスを揺らす。
「が、少年だと敵の警戒心は解けるし、小回りも利く。
どこにでも忍び込めるし」

「だが、手が焼ける」
ラステルの見解に、エウロペは苦笑した。
「…けどその方が。
レジィは笑顔を見せる。
不安そうだったレジィは、二人のお陰でうんと笑った」

デルデロッテはチラ…とエウロペを見る。
「なるほど。
王の信認、厚いはずだ。
ただ身を守ればいいだけじゃない」

ラステルはデルデロッテを見た。
「護衛らしい意見だ。
安心な安全面で言えば、かなり不安だが」

デルデロッテはラステルを見る。
「でも君だって。
身だけ護ればいいなんて、思ってないだろう?」

「けれど君程に。
愛情は持ってない」

エウロペに言い切られ、ラステルはエウロペをチラ見する。
「愛情だけでは。
安全は得られませんからね」

エウロペは頷く。
「君は、それでいい。
欠けたところは、デルデロッテとロットバルトが補ってるから」

デルデはそれを聞いた後、小声で囁く。
「誘拐犯を、見に行ったんでしょう?」

エウロペとラステルは、同時に頷く。
「…エルデリオンも加わって…レガートは自白剤で喋りまくり。
レジィを後ろ手で縛り上げ、四つん這いにして口と尻、両方に同時に突っ込んだと。
嬉しそうに語ってるので…」

ラステルの解説に、エウロペも頷く。
「エルデリオンのショックは、たいそう大きい」

ラステルはエウロペを見る。
「…貴方は冷静だった。
珍しく。
コルテラフォール侯爵への対応を見てるので、私はてっきり…」

デルデにまで見つめられ、エウロペは二人を見ないで囁く。
「…病状を知りたかった。
回復するのか、それとも…。
あれは、くたばりそうにない。
ともかく、正気になって貰わないと」

ラステルは頷く。
「レジィのされた事を、倍返しでどうです?」

エウロペが沈黙するので、ラステルはさらに提案してみた。
「では部屋に入るありったけの男に、強姦させます」

ようやくエウロペが頷き、ラステルは顔を下げる。

「言ってみた、だけなのに…」

途端、“実行しない気か?”とエウロペに睨まれ、デルデに呆れられた。
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