森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
204 / 418
記憶を無くしたレジィリアンス

エウロペの一日 1

しおりを挟む
 明け方。
エウロペが自室の寝台で気配を感じ、目を開けると。
デルデとレジィの声が微かに聞こえた。

その後、抱き合ってる雰囲気だったが、昨日の昼間と違って派手な嬌声は聞こえて来ない。

「(…確かに薬が、抜けてきてる…)」

けれど二人の盛り上がる声が、やっぱり微かに聞こえてきて。
エウロペはレジィがすっかり…男にはまり込んで、この先女性に目が向かなかったらどうしよう…。
と、懸念のため息を吐きつつ、まどろんだ。

朝食の鐘が鳴り、寝台から飛び起きて衣服を着替える。
部屋を出て直ぐ左手の、扉のガラス窓から、井戸があるのが見える。
扉を開けて外に出ると、水を汲み上げ、顔と歯を洗った。

テーブルにはエリューンだけがついていて、女将さんに
「皿まで洗って頂いて!」
と赤ら顔のにこにこ顔で、礼を言われていた。

エウロペが椅子を引いて向かいに腰掛け
「テリュスは?」
と聞く。

エリューンは背後の、南側が全部ガラス窓の廊下を見つめ
「…起こすべきですか?」
と尋ねた。

二人は暫く陽光溢れる廊下を伺った。が。
テリュスとロットバルトが、姿を現す気配が無い。

とうとうエリューンが席を立ち、エウロペも後に続き、北側のテリュスの部屋をノックした後、開けて見ると。

寝台の上で空の酒瓶と共に、テリュスもロットバルトも凄い寝相で寝こけていた。

テリュスは顔を横向け、丸くなり。
ロットバルトは仰向けで大の字で、手足は寝台から、はみ出していた。

エリューンは当然のようにテリュスの横で肩を揺するので、仕方無くエウロペはロットバルトの横に立つと
「朝食の時間です」
と、大国の威厳ある…筈の重臣を起こしにかかった。

ロットバルトはパチ…と目を覚ます。
「何点鐘?!」
と、突然叫ぶので、エウロペは目を見開きながらも答えた。

「…多分…八点鐘?」

エリューンが即座に訂正する。
「いつ朝食にすれば良いかと聞かれたので。
九点鐘と答えました」

「九点鐘だそうです」

するとロットバルトはいきなり、ばっ!と飛び起きる。
「会議が十点鐘からある!」
そして自分の衣服を見
「まずい!」
と叫ぶと、上着を探って尻の下に敷いてるのを見つけ、尻に引いたまま遮二無二引っ張り出そうとし…。
引っ張られて持ち上がる上着に尻を浮かされ、エウロペの真横に
どたっ!
と音立てて転げ落ちた。

「…………………あの…。
朝食の用意が出来てるので…」

エウロペが転がる重臣に、遠慮がちにそう声かけると。
ロットバルトは掴んだ上着を手に、身を起こす。
「…頂く」

エウロペは無言で頷いた。

テリュスが寝ぼけ眼で体を起こす。
ロットバルトはテリュスの顔を目にした途端、ばっ!と後ろに下がった。

テリュスは気づいてぼやく。
「いい加減、見慣れろよ」

けれどロットバルトは、後ろに引いた姿勢のまま、呻いた。
「私の私室に早朝、年若い美少女が、居た例しがない!」

途端、テリュスは歯を剥き喰ってかかる。
「…だから俺は、若い美少女じゃない!」

掴みかかろうとするテリュスを、エリューンが背後から羽交い締めしてやっと取り押さえ、朝食のテーブルに着かせた。

レジィとデルデは出てくる気配も無い。

テリュスはまだ目を見開いて自分を見てる、ロットバルトを睨み付けながら聞く。
「あいつらは、起こさないの?」

エウロペはロットバルトに尋ねた。
「デルデロッテ殿は、御予定は?」

「…ラステルが手配し、予定全部開けさせたと思う」

エウロペは“流石”の代わりに、ため息を吐いた。

ロットバルトは慌ただしく朝食を掻き込むと、一気に飛ぶように席を立ち
「ではこれで失礼する!」
と叫んで、玄関扉をバン!と跳ね返るほど開け、かっ飛んで行った。

エリューンは無言。
テリュスはスープをすすりながら
「五月蠅いヤツ」
とぼやき、エウロペは吹き出すと
「もう重臣扱いしないんだね?」
と尋ねる。

テリュスは憤慨して怒鳴った。
「あいつが俺の事、美少女扱いしなくなったら、ちゃんと重臣扱いするさ!」

エリューンが横に座るテリュスを、目を見開いて見る。
「…だって…無理無いですよ。
私だって護衛に加わった時。
最初は口の悪い、年上の美少女って、思ってたし」
テリュスは睨み付けて怒鳴った。
「俺だって、そうだ!」

言われてエリューンは、無言で顔を下げる。
「…えっ…と…テリュスが私を?」
「大人しくて利発そうな、
って思ってた!!!」

その後エウロペはエリューンに
「私はちゃんと、少年に見えてましたよね?ね?」
と聞かれ、困惑し
「私は二人とも、ちゃんと少年って、知ってたから」
と、誤魔化した。


シュテフザイン森と花の王国の皆は、昼食を取る習慣は無かったが。
女将さんが朝食の皿を片付けがてら、昼食も作って行ってくれた。

ので、テリュスが昼食の鐘を鳴らす。

デルデとレジィがやっと起きてきて、テーブルに着く。
エウロペはレジィが、どんどん艶と色香を増す様子に、また深いため息を吐き出した。

デルデはエウロペの様子を気にし、朝食で出されたスープを手渡されながら、エウロペに囁く。
「文句があるんなら、今の内に聞く」

エウロペは顔を上げず首を縦に振りながら
「…レジィが年頃になって、女性にも関心持ってくれたら。
それで全て水に流せる程度の、杞憂きゆうだ」
と、ぼやいた。

デルデは艶やかな金髪の、横に座るレジィを見る。
「女の子の胸見て…揉みたいと思う?」

ぶっ!
ぶっっ!

エリューンとテリュスがほぼ、同時にスープを吹いて。
エウロペが無言で二人に、ナプキンを手渡す。

テリュスも無言で受け取り、服の染みを拭きながら文句垂れた。
「…言うかな、いきなりそんな過激なこと」

エリューンも襟の染みを拭きつつ、同意する。
「…厚顔無恥って噂は、ホンモノですね」

エウロペはくすくす笑いながら、問われたレジィを見た。

レジィは暫く呆けた後
「…今はデルデの一物思い浮かべると…うっとりなる」
とつぶやくので、テリュスもエリューンも手にしたナプキンを、取り落としそうになった。

デルデは素直なレジィの頭をなぜ、微笑みながら提言する。
「それは大変光栄だけど。
女性の胸も、とってもいいもんだよ?
すごく柔らかくて。
なんとも言えない弾力がある」

年頃のテリュスとエリューンは、思い浮かべたのか。
頬を染めて顔を下げ、二人揃って汚れたナプキンを、エウロペに返した。

エウロペは暫く、手渡された汚れたナプキンを見た後。
横のワゴンの上に放った。

レジィはデルデを見上げる。
「…そうなの?」
デルデはうっとりするような笑顔でレジィを見つめ、更に続ける。
「そう。
それに君、口でされるの、好きだろう?
女性の中って、口より更に気持ちいいから。
一度試してみるといいよ」

またまた。
テリュスとエリューンは頬染めて顔を下げる中、レジィはデルデの笑顔を見つめ
「ホント?!」
と瞳を輝かせた。

デルデは得意そうにエウロペを見つめ、エウロペは顔下げて内心
「(なんて口が上手いんだ…)」
と呟いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...