森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エウロペの一日 2

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 食後、コテージの前に広がる池に、みんなで散歩に出かける。

水面みなもを渡る風が心地よく、池の波紋を見つめ、レジィは横を歩く長身のデルデを見上げる。
「泳げる?」
「まだちょっと水は冷たいかもだけど。
泳げるよ?」

レジィは嬉しそうに、水草と大きめの石だらけの池のほとりを歩く。
エリューンは水から、かなり離れた位置でかなり後から付いて来て、テリュスは二日酔いの頭を押さえてた。

エウロペはそのもっと後ろから、一行を見守った。

間もなくレジィとデルデはブーツを脱ぐと、池の浅い場所に素足で入って行く。

レジィはきらきら光る水面を見つめ
「少し冷たいけど、気持ちいい!」
と叫び、じゃぼじゃぼ音立て、歩き始めた。
けど水中の石で滑って、レジィが転びかけると。
デルデがレジィの手を取り、助けてた。

長身で、栗色の艶やかな巻き毛を背に垂らすデルデの手に掴まり、顔を上げて笑顔を見せる、デルデよりうんと小柄な金髪のレジィは…とても微笑ましく目に映った。

ふ…とエウロペはその時、デルデがもっと若く…線も細く。
その横のレジィが、少年のエルデリオンに成り代わって見え、つい見入った。

よく見ると、ちゃんと青年のデルデと少年のレジィリアンス。

それで気づく。
きっともっと若く無邪気だった頃。
デルデはここで、エルデリオンと今のように、池に入って楽しんだんだと。

やがてレジィは、振り向くとまだブーツはいて池の畔に居るテリュスに、屈んで両手で水をすくって、飛ばす。

テリュスは顔に水がかかって腕で防ぐ。
が、直ぐブーツを脱ぎにかかった。

その間もレジィに水をひっきりなしにかけられ、横のデルデは上がる水飛沫しぶきに、笑顔で後ろに下がる。

エリューンはテリュスのうんと後ろで、やっぱり…と顔を下げていて、水のかからない距離を取って、逃げ切ろうと考えてた。

が、ブーツを脱いだテリュスは、水に入ると直ぐレジィに反撃の水かけをし。
次に背後のエリューンにも、屈んで両手で水を掬い、飛ばした。

折角距離取ってたエリューンは、むっ!とすると、ブーツを脱ぎにかかる。
脱いだブーツを後ろに放り投げ、テリュスに水をかけられながらも突進し、池に入るなり、水をテリュスとレジィ、双方交互に、飛ばし始めた。

レジィはきゃっきゃっ!と子供に返ったみたいにはしゃぎ、テリュスとエリューン、交互に水をかけては反撃の水を被り、かけてはまた、水を被ってた。

やがてデルデも巻き添え食い、テリュスとエリューンに水をかけられ始め…。
デルデは片手でもう片手を握り込み、手で飛ばす水鉄砲で応戦する。

両手ですくってかけるより、デルデの握り込んだ手から飛び出す水は、的確にテリュスとエリューンに命中し、テリュスとエリューンは水しぶき上げて逃げ回った。

「水かけっこは大得意なのに!
私に勝てるなんて思うのは、大間違い!」

デルデは笑ってそう言うと、テリュスとエリューンに次々命中させ、二人ををずぶ濡れにした。
テリュスは更に、笑うレジィに水をばしゃばしゃかけられ、ムキになってレジィにかけ返す。

エリューンは頭からすっかりずぶ濡れになり、いきり立ってザバザバ進み、デルデの真正面まで行くと、思いっきりばしゃばしゃ水をかける。

デルデはずふ濡れになり、しぶきが目に入りかけ、片目つぶって叫んでる。
「こら!
それは反則だ!」
エリューンは水かける両手を休めず、叫び返す。
「手鉄砲だって、反則でしょう?」

デルデはエリューンに至近距離で水をかけられ続け、笑いながら腕で顔を庇い、言い返す。
「手鉄砲は、高等技術だぞ?!」

けれどエリューンが水をかけるのを止めないので。
とうとうデルデも両手で水を掬って、応戦始めた。

エウロペはこの中で一番落ち着いて見える、粋な宮廷貴公子の筈の、デルデの。
応戦する子供っぽさに、呆れけど。
「(…そう言えば、テリュスと同い年だっけ…)」
と思い出した。

が、髭剃ったテリュスは今や、とても童顔に見え、長身で大人っぽいデルデと同い年と言っても、誰も信じないほど、外観の差が出てた。

「(…せめて、顎髭…ダメか…口髭…変だ。
鼻髭…。
どれか一つだと、どうしても少女が髭生やしてるようにしか、見えない…)」

つまりそれでテリュスは、顔の下半分を毛だらけにしたのだけれど。

逆にエリューンは、背も伸びてきて体付きも細身ながら筋肉質。
どんどん青年らしくなってきてる。

最初は、テリュスだった。
レジィが叔父大公の暗殺標的となって、五歳の時、寝室に毒蛇を入れられたことがきっかけで、人の出入りを見張れる、離宮へと移り、自分と部下らが見張りについた。

三年間、離宮でレジィは暮らしたけど、見張る部下らは交代制。
ゴツい男ばかりで、レジィはいつも萎縮いしゅくしていたから…。

腕の立つ男らの中で、初めて若年で仲間入りした、テリュスを見張りに加えてみた。
テリュスはまだ11だったけど。
弓や短剣の腕は相当なもので、機敏で俊敏。
狩人としての腕も、相当なものだった。

レジィはテリュスを見るなり、可愛らしくにっこり笑って。
それ以来、テリュスを見ると纏わり付いてた。

けれど通いで来てる女中の、家族が人質に取られ、レジィの皿に毒を入れられてから。
二度。
住処の離宮を変えた。

それでも見張りの部下の一人を買収したり、やはり部下の一人は、家族を拉致されて脅され、夜中、暗殺者を離宮に入る手引きを、せざるを得なくしたりと。
部下らの家族が狙われ始め…。
それで、旅に出ることとなった。

レジィが9才の頃で、ただでさえ住居が変わり、不安がっていたので…。
テリュスと、そして若年の剣士候補の中でピカ一の腕前の、エリューンに白羽の矢を立てた。

まだ少年の二人と、護衛するレジィを連れて旅するのは…確かに、大変だった。
けれど二人はそれを察し、いつも一生懸命、役に立とうとしてくれた。

レジィは二人と居ると、とても楽しそうで。
ずっと暗殺に怯えていた小さなレジィが、笑顔を見せるから。
他の部下らが、エリューンかテリュスと代わろうと申し出ても、首を横に振って、言い続けた。

「大丈夫だ」

あの二人と一緒だったからこそ。
レジィは明るく、素直な性格になった…。

エウロペが池の畔の大石に腰掛け、思い出に浸っていると。
ついに全員が。
浅い池にお尻を付けて座り込み、互いにばしゃばしゃ、ずぶ濡れになって、笑いながら水を掛け合っていて。

エウロペは呆れた。
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