森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

ミューレアン城に降り立つ一同

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 その少し前。
丁度ミューレアン城の上空に差し掛かった飛行船の中で、赤毛の神聖神殿隊騎士が髭もじゃ丸眼鏡に尋ねた。

“ここで、着陸して良いのか?”

髭もじゃ丸眼鏡は、思っただけだった。
しかも、チラと。
けど飛行船は城の塀の中の、かなり広い草地へと降りて行く。

「助かります!」

塀の近くには、レンガブロックの小屋が建ち並ぶ。
どうやらここは、飛行船発着場の一つだった。

デュバッセン大公も頷く。
「元はここが博士の拠点の城ですからね」

オーガスタスが、腕組みしてぼやく。
「つまりロープ伝いに、飛び降りなくって良いんだな?」

デュバッセン大公と髭もじゃ丸眼鏡が、同時に頷いた。

間もなく、城の横の広い草地に、飛行船はゆっくり降りて行く。
そして、カツン…!と着地した。

「ずっと乗ってたけど、こんなに静かに着陸したの、初めて見た」
デュバッセン大公の感想に、思わず公爵が怖気て尋ねた。
「いつもは、どんな?」

髭もじゃ丸眼鏡は、にこにこして言う。
「目的地から数十メートルはずれるし。
石垣とか壊さず着陸出来たのは、快挙です!」

皆は降り立った船の目前に、なぎ倒された三本の木。
その先の、石垣が砕かれて崩れてるのを見、頷きまくった。

二人の神聖神殿隊騎士は、エドウィンとシュアンに頷く。
“じゃ、俺らはこれで”
“ガンバレよ!”

そう告げた途端、光に包まれ消えて行く。

皆、消え去った二人の神聖神殿隊騎士の後、そこに背景の景色しか見いだせなくって呻く。
「…見慣れないですね」
デュバッセン大公が項垂れて呟くと、エルデリオンもデルデロッテもが同時に頷いた。

ラウールもエディエルゼもが、目を見開いて沈黙する中、ギュンターが首振る。
「その子、俺が運ぼうか?」
ラウールが横のミラーシェンを見る。

エディエルゼはギュンターを、遮ろうとした。
が、寄って来る長身で体格のいいギュンターを見、思わずこっくり、頷いた。

ギュンターが抱き上げると、まるで魂の抜けた人形のように軽い。
船の縁に足を乗せ、一気に飛び降りる。
ラウールもエディエルゼも顔を見合わせ、二人揃って一気に船の縁に手を付き、飛び降りた。

公爵は先に飛び降りると、小柄なデュバッセン大公が不器用そうにへりに掴まるので、慣例に従って手を差し伸べる。
「ああ、ありがとう。流石かつて宮廷第一の貴公子。
…紳士ですね」
そうデュバッセン大公は告げ、公爵の手を支えに、飛び降りた。

髭もじゃ丸眼鏡は船の中から、寄り来る部下らに何か指示を出していた。
デルデロッテはエルデリオンに手を差し伸べる。
エルデリオンはその手に掴まると
「あの…。
別にエウロペがそれ程凄いって事じゃ無くって、その…。
やっぱり私は、デルデが一番好きだから…」
と頬を赤く染めて立ち上がる。

デルデロッテに抱き寄せられ、顔を上げると。
彼が笑っていて、ほっとした。
けど顔を傾け、デルデは軽く唇にキスする。

エルデリオンはその温もりに、心からほっとして、デルデに抱きついてしまった。
デルデは抱きつかれて嬉しくて、つい熱の籠もるキスをする。

先に降りたオーガスタスの、後ろに続こうとしたデュバッセン大公は即、気づくと
「後で!
後でやって下さい!」
と叫ぶ。
更に怒り狂い、船に向かって突進しようとする公爵の腕を、咄嗟掴むオーガスタスに
「こいつ、抑えとくの大変なんだからな!
目の前で刺激するな!」
と怒鳴られ、デルデは凄く不本意だったが、仕方無く腕に抱くエルデリオンを放す。

エルデリオンもしゅんとして顔を下げると、デルデは短い怒り声で呟いた。
「…あいつ、いつかぶっ殺す!」
エルデリオンはびっくりし、思わず顔を上げてデルデを見た。
が、デルデはいつもの余裕の、優しい微笑を浮かべ
「降りましょうか?」
と促した。

エドウィンとシュアンとラフィーレは一番最後に船から飛び降り、三人して心話で何か話してる風で、皆の後からやって来た。

間もなく城から召使い達がやって来ると、皆を城へと案内する。
デュバッセン大公が城の主なのか、彼は次々に指示を出していた。

「ラステル様ご一行が遅れていらっしゃるので、部屋とご馳走を用意して。
エルデリオン王子は当然の事。
銀髪のお二人はエシェフガラン雪の勇者の国の王子でいらっしゃって、こちらはシャロナス公国シャロナス公の国の王子なので、賓客用の客室用意を。
アースルーリンドからいらっしゃった皆様は、大勢で泊まれる蔓の間をご用意して!
後、報告があればいつでも私の書斎に。
直ぐ行くから」

召使い達はそれぞれの王子の前に一人ずつ出て行き
「お世話させて頂きます。
こちらにおいで下さい」
と案内を始めた。

オーガスタスとシュアン、エドウィン、ラフィーレの前にもやって来て
「こちらへどうぞ」
と感じ良く微笑む。

皆は過酷な飛行後だったので、ほっとして寛ぎながら召使い達の後に続いた。

ノルデュラス公爵だけが
「私は君と同室?」
とデュバッセン大公に尋ね、大公に
「貴方確か、罪人じゃありませんでした?」
と言われた途端、懐から恩赦状を出して、ひらひらさせた。
「君の上司、ラステルのサイン入り」

デュバッセン大公はため息吐くと
「あともう一つ。
賓客用客室の用意して」
と告げ、公爵は召使いに付かれ、案内されて。
肩で風切って皆の後に続いた。

陽は陰り始め、オレンジの陽光に包まれる中。
間もなく、クリーム色の壁に青のアクセントの入った城の玄関が見えて来る。
大変広い、数段の階段。
彫刻が彫り込まれて優美な石の手すり。
鋼鉄がはめ込まれ、頑健だけど飾りが彫り込まれた、やはり優美で大きな、両開きの玄関扉。

僅かに開いていたけれど、一同が階段を上がり始めると、両横に大きく広げられ、皆は迎え入れられた。

クリーム色が基調の、広い玄関ホール。
正面には左右に続く大きな階段。
明るい赤絨毯が敷かれ、全体的に優雅で明るい雰囲気がした。

皆は二階に導かれ、階段を上がって行く。
更に上に続く三階の階段を上がった後、廊下を進んで正面の、大きなクリーム色の両扉を開けられ、全員が中へと進み行く。

室内はとても広く、正面奥にはまた階段。
階段へ続く真ん中は通路として開けられ、両横にはクリーム色のソファが並んでる。
上はステンドグラスのはめ込まれた、高い天井。

オーガスタスとル・シャレファ金の蝶らはソファの奥の扉へと導かれ、王子らは正面階段のその上へと導かれた。

ギュンターはミラーシェンを抱き運びながら階段を上がりつつ、ソファの奥の扉に案内される、長身のオーガスタスをチラ見する。

階段を上り、左に曲がった廊下の扉に、エシェフガラン雪の勇者の国の王子らは案内された。
ラウールはその横の扉を開けられ、中へと導かれる。
エルデリオンとデルデロッテはもっと先へ行き、角を曲がり、階段とは反対方向の扉に案内された。

この城に来る時いつも泊まる、一番良い部屋。
クリーム色の壁に映える、柔らかな若草色に金の飾り模様の入った両開きの扉を開けられ、エルデリオンとデルデロッテは中へと足を踏み入れた。

公爵は上がって行くエルデリオンとデルデロッテを見上げながら、オーガスタスらとは反対方向のソファの奥の扉に案内され、ため息を吐いた。

デュバッセン大公は階段後ろの書斎へと入ると、横の緊急通路から押し寄せる、報告のためにやって来た部下らを通すように告げ、つくづく神聖神殿隊騎士ってありがたかったな。
と大きなため息を吐き出した。
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