森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

ミューレアン城目指して

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 ラステルが一階に辿り着くと、デュバッセン大公配下が両開きの玄関扉を開け、皆を外へと促す。

外では既に、階段を降りたところに馬が用意されていた。
庭のあちこちには焚き火が炊かれ、焦げたカーテンやらクッション、木切れなどが燃やされてる。

皆、片付けに忙しく、瓦礫を一箇所に集めたり炊き出しを始めたり。
とにかく大勢の配下らが、そこら中を行き交っていた。

庭の向こう、正面の頑健な門の、片側の塔は崩れていて。
皆レンガを片付け、塔の中へ入れるよう、シャベルで瓦礫を崩していた。

皆が用意された馬に跨がり始めると
「ローフィス様!」
デュバッセン大公配下の呼ぶ声と共に、シャベル持ったローフィスが姿を現す。
「移動するって?!」

ローフィスの側に居たデュバッセン大公配下の一人は、にこにこして
「残って頂いても、全然構いません」
と言う。
が、ローフィスはシャベルをその配下に手渡すと、用意された馬の手綱をひったくり、馬に跨がって言った。
「残念だが、手伝いはこれまで」

レジィを前に乗せ、その後ろに跨がったエウロペも。
ラステルもがそれを聞いて、目を見開いた。
ロットバルトは馬に跨がった後
「…まだ手伝ってたのか?」
とローフィスに尋ね、エリューンも
「直ぐ来るって言ってたのに。
ちっとも来ないから、先に食べてましたよ」
と告げる。

ローフィスは馬に跨がった後、デュバッセン大公配下に大きな包みを馬上から受け取った後、ぽん!ぽん!と、ロットバルトとエリューンに小分けに包まれた一塊を投げる。

「…何です?これ」
ロットバルトが小さな包みを開けてる間、ローフィスはラステルにもテリュスにも包みを投げるので、二人は馬上でキャッチした。

エウロペには二つの包みを投げ、エウロペは片手で一つを受け取り、直ぐ反対側の手に滑り落とした後もう一つを受け取り、一つを前に座るレジィに手渡す。

包みを開けたロットバルトは
「これ…!
洋酒漬けフルーツのバターケーキじゃないですか!!!」
と叫ぶ。

エリューンも尋ねる。
「…隠してあったんですか?もしかして」
テリュスはとっくに頬張り
「ぅんまい、これ!!!」
と叫び、ラステルも口に入れて
「戦闘の後は、胃袋に染みこみますね…」
と感慨深く呻く。

ローフィスは笑顔で頷いた。
「厨房を通りかかったら、見かけて。
交渉したんだ。ここの女将さんと。
厨房の瓦礫を、すっかり退けたらくれるって。
但し、厨房が綺麗にならないと追加が焼けないから。
他には内緒で、こっそり食えって」

「ぼほっ!くぼっ…」
テリュスが途端咽せ返り、ラステルは口に運ぶ手を、ピタリ!と止めて呻く。
「…もっと早く言ってくれないと…」

エリューンとロットバルトは慌てて包みを閉じ、鞍の荷物入れ用革袋に押し込むと、素知らぬ顔をして手綱を握った。

エウロペはくすくす笑うと、とっくに頬張ってるレジィに
「こっそり食べて…って」
と背後から囁く。
けどレジィは振り向いて
「ラフィーレの分も、ある?」
と聞く。

ローフィスは頷くと
「多分合流後、他の全員分は無いだろうけど。
ル・シャレファ金の蝶の三人分は、確保する」
と言って、レジィを笑顔にした。

その後、皆は開けられた正面門を潜り、その先に続く、焼け焦げてあちこち崩れた石橋を渡り、その先の森の横の、小高い丘へと登り始める。

ロットバルトもエリューンも、ローフィスでさえ。
洋酒の染みこんだバターケーキを食べながら、馬を駆った。

テリュスも、食べかけのケーキの包みを取り出し
「美味すぎる…」
と呟くので、ラステルも頷いて言った。
「シャスレ城の女将さんの、名物料理で。
残念ながら私ですら、滅多に口に入りません。
彼女に気に入られないと、口に入らない代物なんです」

レジィはにこにこ笑って、併走するローフィスを見る。
「ローフィスって、凄いねぇ」
ローフィスもレジィに笑顔を向けると
「物品調達は得意なんだ。
けど多分、エウロペも気に入られてたくさん貰ってたよ」
と告げるから、レジィをもっと笑顔にした。

ローフィスはレジィの後ろで馬を駆るエウロペに、前に座ってるレジィへ、顎しゃくって告げた。
「目覚めると、真っ先に『エウロペは?』
で。
その後ずっと、君の話だ」

ロットバルトも頷く。
「…延々と」

エリューンはため息交じりに囁いた。
「レジィに、エウロペはデルデロッテ達を助けに行った…って…迂闊に口滑らせたら…。
もうその後ずっと、エウロペとテリュスは無事かな?
って言い続けられちゃいまして」

テリュスは馬を早め、レジィの横に併走し、言った。
「すんごく元気で、掠り傷一つ負ってないぞ!
よーく見てみろ!」

レジィはいつも通りのテリュスを見、凄くはしゃぐと
「うん!
エウロペもテリュスも元気で、めちゃくちゃ嬉しい!」
と言うので、テリュスは後ろに座るエウロペをチラ見し
「俺らは、お前が目覚めて元気で。
死ぬ程嬉しい」
と言って、レジィを感激させた。

レジィはその後、馬が起伏の激しい岩場とか、細い森の中の道を通る間中、しょっ中後ろに振り向いては、エウロペに告げる。
「シャーレが居ると、僕変になるんだ。
僕が僕で無くなって、うんと小さく、後ろに居る感じ?
でもシャーレはいっつも白い光に包まれてて、僕が変なの。
って言ったら、他の人は違うの?って聞かれた。
凄く嫌なコトされた。
って言うから、僕も!
って教えた。
けどデルデロッテが優しくしてくれて、エリューンも素敵にしてくれたから、もう平気。
って言ったら、僕もそうなりたい。
って言ってた。
エルデリオンは…もう大丈夫?
掴まってたの?
エルデリオンも酷いこと、された?」

最後は小声で、心配そうに告げる。

ラステルは斜め前から見てたけど、足場が不安定な凸凹した森の中の、とても狭い小道を通り、池の縁を進んでるというのに。
エウロペは振り向いて喋り続けるレジィと、いちいち目を合わせて微笑むので、見ていて馬ごと滑り落ちないか、はらはらした。

ロットバルトは少し間違えると滑り落ちそうな、狭い小道を慎重に馬を進め
「神経使いますな」
と呻き、横のローフィスを見る。
が、ローフィスは平然としていて、テリュスもエリューンもこういう道には慣れてて、全然平気。

ロットバルトは思わずローフィスに
「お国でも、こんな場所がたくさんあるんですか?」
と尋ねた。

ローフィスは笑う。
「神聖神殿隊付き連隊騎士、ってのは、地方の見回りが仕事で。
要請があると短時間で駆けつけなくてはならないので。
時間を短縮するタメ、マトモな道は、ほぼ使わないんで。
平地を走れるなんて贅沢、滅多に無いんですよ」

ロットバルトは心から、感心した。
「神聖神殿隊騎士って…空飛ぶ船を操ってた、大男で美形の魔法使いですよね?
アースルーリンドではあんな男達が、しょっ中見られるんですか?」

ローフィスは肩すくめる。
「彼らは光の結界が張られた聖地から、ほぼ出てこないから、我々が見回りに出て。
手に負えない『影』が出ると、召喚する。
召喚は呪文が必要だけど、簡単に発音出来ないから。
我々が重宝されるんですよ」
と言うので、テリュスが振り向き
「ここで呪文唱えたら!
彼らの誰かが、来るって事?!」
と叫ぶ。

ローフィスはうーん。
と項垂れる。
「…光が周囲に満ちてないと、彼らは力が使えない。
今回はル・シャレファ金の蝶が中継して光を送ってくれるから、なんとかなってるけど。
光を届ける回路が無いと、難しいんですよ」

エリューンは思いっきり項垂れた。
「そこら辺りが、全っ然、分からないんですよね」

ローフィスは笑う。
「水路で考えると、分かりやすいかな?
細い水路や途切れがちな水路。
とっても広い、安定して水の流れる水路。
その水を流すのが、この場合だと人…と言うか、神聖神殿隊騎士や能力者達」

テリュスが頷く。
「つまり人の能力によって、途切れがちだったり、細かったりする訳だ」

ローフィスは頷いた。
「酷く疲れてたり消耗したりしてると。
凄い能力者でも、途切れる。
光が減ると、力も存分に使えないから…大ピンチに陥る。
ので彼らは常に、光の通路確保に必死になるんだ」

エリューンは
「なるほど」
と言い、テリュスに
「分かった?」
と聞かれ、自信なさげに
「なんとなく…」
と呟いてた。

「見えましたよ!
ミューレアン城!
近いでしょう?!」

ラステルが、木々の間に姿を見せる、クリーム色に青い屋根の城を指さして叫ぶ。

「…近いけど…」
テリュスが言うと、ロットバルトは項垂れた。
「道が大変ですな。
ローフィス殿の調達したケーキが無きゃ、もっとくたびれてた」

テリュスも頷く。
「あれ食べてたから、かなりゴキゲンに進めたもんな!」
エリューンも相づち打った。
「疲れた時に甘い物ってホント、ありがたいですよね」

レジィは振り向いて喋り続けてたけど、はっ!と気づく。
「…エウロペ、食べた?」
エウロペは、笑顔で告げる。
「後でゆっくり、頂きます」

ロットバルトが
「あれだけ動いて、食べずに笑顔。
なかなか出来る事じゃ無い…。
全くもって、人格者ですな」
と賞賛込めて呟くと、ラステルまでもが
「ホントですよ」
と言うので、ロットバルトは目を見開き、テリュス、エリューン、ローフィスに
「ラステルが認めるなんて、滅多に無い事ですよ!」
と勢い込んで言った。

三人は揃って
『流石エウロペ』
と、レジィの後ろで馬を操るエウロペを、尊敬の眼差しで見つめた。

エウロペはその視線を感じ、項垂れると
「やせ我慢してるんですから。
ケーキにありつけるまで、そんな目で見るの、止めて貰えませんか?」
と内情告げるので、皆はいっぺんに自分らの同類に成り下がったエウロペを、笑顔で見つめ返した。
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