森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

ラウールとエディエルゼの誤解を解きたいオーガスタス

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 結局ラステルは部屋に行かず、エディエルゼの部屋をノックするオーガスタスらの後ろから、様子を伺った。

真っ直ぐの銀髪を胸に流す綺麗なエディエルゼは、扉を開けるとオーガスタスを見、直ぐ扉を大きく開け、中へと通す。
「…どうぞ」

オーガスタスに続き、ギュンターが室内へと入る。
ラステルも続こうとし、横に立つローフィスに気づいた。
ローフィスはラステルに小声で話しかける。
「貴方と少し、話したかったんですが…」
ラステルは、にっこり笑った。
「では、この後で」

室内は、流石王族専用の客室だけあって豪華だった。
壁はクリーム色が基調で、そこらかしこに金の飾り模様が入っていた。

立派な暖炉には火が入り、金の飾り刺繍入り若草色のソファ。
美しく居心地の良い室内。
けれどエディエルゼは皆を先の扉へと導く。

エディエルゼが扉を開けると、そこは寝室。
赤い布で覆われた、天蓋付きの豪華な寝台。
ミラーシェンは寝台に座り、ぼうっとしていた。

扉が開いたことに気づくと、頬を真っ赤に染め、顔を上げる。

エディエルゼは開けた扉の横に立ち、気落ちした様子で俯く。
その横をオーガスタスは通り過ぎ、室内へと歩を踏み入れる。
エディエルゼは背を向けるたいへん長身なオーガスタスを見上げ、囁いた。
「…その…実は…正気が戻って来たようですが…」

オーガスタスの背後からギュンターが入って来、ミラーシェンを見て直ぐ気づく。
「…発情してるな」

オーガスタスがそれを聞いて思わず顔を下げ、ローフィスは
「お前、ほんっとに直接話法だな?!」
と怒鳴り、ラステルは頬を染めて俯く戸口のエディエルゼを、つい見てしまった。

背後から、ラウールも入って来る。
「…様子を知りたくって…」

けれどラウールも、ギュンター同様直ぐ気づいた。

ギュンターは途中で歩を止めるオーガスタスの横を通り過ぎ、ミラーシェンの前へ歩くと、寝台に座るミラーシェンを見つめ、囁く。
「恥ずかしがらなくていい。
散々、弄られたんだろう?
それで発情するのは普通の反応で、君は正常って事だから」

戸口に立つ兄のエディエルゼは、思わずすましきった美貌の、金髪のギュンターを見つめた。
あまりにも美麗な顔立ちだけれど、長身だったからとても頼もしく見えた。
切れ長の紫の瞳。
綺麗な鼻筋。
少し薄い唇。
けれど人をどきっとさせる、独特の色香があった。
彼があまり喜怒哀楽を見せないので、とてもクールに見えたけど、だからこそ余計…。
口元の男の色香は際だって見えて、見てる者を落ち着かなくさせる。

ミラーシェンはそう言った、美貌のギュンターを見上げる。
湖水のような深い青色の瞳を見開いて。

オーガスタスが
「任せて、いいな?」
と聞くと、ギュンターはオーガスタスに振り向き、頷く。

ラステルはローフィスがさっさと背を向け、室内から出て行くのを見て目を見開き…慌ててローフィスの背を追って、部屋を出た。

ラウールだけは扉近くで腕組みし、やって来る一際背の高いオーガスタスを見つめる。
「…貴方で無く…彼?
だって…貴方は普段、彼を抱いてるんでしょう?」

ラステルはそれが聞こえた途端、前を歩いてたローフィスが、ピタ!と歩を止めるので…もう少しで、ローフィスの背に顔をぶつけるところだった。

ローフィスが振り向き、戸口付近でたいそう背の高いオーガスタスを見上げてる、ラウールを見た。

エディエルゼは皆が室内から出た後、扉を閉めるつもりで戸に手をかけてたけど。
扉の手前で歩を止める、オーガスタスに振り向く。

オーガスタスは銀髪巻き毛の、女性と見まごう美貌のラウールを見、ぼそり。と呟く。
「彼…って…?」
親指立て、寝台近くに立つのギュンターへと向ける。

ラウールは無言で頷く。
ギュンターがそれに気づき、ラウールに振り向いた。
「…俺の事、言ってんのか?もしかして?」

オーガスタスは顔を下げた。
「…つまり俺とアイツが、デキてると?」
ラウールに頷かれ、ギュンターはぷりぷり怒って腕組みする。

オーガスタスは暫く、込み上げる感情を殺すのに時間を要し、やっと言った。
「…よく、誤解される。
が、俺はそこまで悪趣味じゃ無い」

ギュンターも頷く。
「俺には絶対、勃たないしな」

ラウールはそう言った、ギュンターを見た。
「貴方が迫っても…靡かないんですか?」

ギュンターはそう言われ、目をまん丸に見開いた。
「…ちょっと待て…。
俺とオーガスタスの事、お前最初からそーゆー目で見てた?」

ラウールはまた、頷く。

オーガスタスの背後のエディエルゼまで
「…実は私も、そう思ってた。
あまりにも似合いで。
貴方方なら、男同士でも容認出来ると…」

ラステルが見てると、とうとうローフィスは肩を揺らし、笑い出す。
声を出してなかったのに、オーガスタスは顔も上げず、ローフィスに怒鳴った。
「笑うな!」
「はーっはっはっはっ!」
叫ばれた拍子に我慢してたらしいローフィスは、とうとう声上げ笑ってる。

ギュンターは腕組みし
「笑うこと無いだろう?」
と文句垂れ、オーガスタスは笑うローフィスをチラと顔上げ見つめ、睨み付けて言った。
「一番弁が立つんだ。
誤解ぐらい解いてくれてもいいだろう?」

ラウールは目を見開くと
「ああ…三角関係ですか?
実は貴方はローフィス殿がお好きとか?」
そうぼそりと尋ねる。

ギュンターは今度、ローフィスを皮肉な笑みを浮かべて見、首振って言い放った。
「笑ってるから、こうなる!」

笑ってたローフィスは、ピタ!と笑い止むと、ラウールを見る。
オーガスタスは顔を下げ
「確かに騎士養成学校時代。
ローフィスなら俺でも勃つかも。
と、チラとは思った。
が…これだけ長くつるんで性格知ってると…一度もソノ気になれない」
「でもギュンター殿には、勃ったんでしょう?」

ラウールに真顔で聞かれ、オーガスタスは額に手を当て、目を閉じた後、言った。
「君はギュンターを、絶対誤解してる。
あいつ、中身は野獣だ。
外見でそうは見えなくても実は気性が荒いから、完全に攻め。
寝室でそんな雰囲気になったら絶対、どっちが上を取るかで殴り合いになって、結局殴り合いで終始し、全然色っぽくならない」

ラステルが見てると、ラウールもエディエルゼも目を大きく見開いた。

オーガスタスは言葉を付け足す。
「確かに俺は体格的に有利だから、あいつをねじ伏せられる。
が、歯を剥き抵抗しまくり、隙あらば噛みつこうとする顔ダケ綺麗なあいつを。
組み強いて犯すほど、あいつに惚れて無いし欲情もしてない」

ギュンターは頷く。
「オーガスタスは年上の色っぽくて品の良い美女にモテるから、相手に不自由した事ない。
今は…生きて近衛を退職したら結婚予定の、付き合ってる女に手綱握られてるから。
バレて言い訳するのが面倒で、ほぼ浮気しない」

ラステルが思わず呟いた。
「…勿体ない…」
ローフィスはそんなラステルを横目で見、ため息交じりに呟く。
「どーして俺とオーガスタス、オーガスタスとギュンターを誤解するかな?
そういう雰囲気、出してます?」

尋ねられたラステルは、大抵どんな質問にも、普段はすらすら答えられた。
が、今回は時間を必要としたので、暫く口閉じてた。
後、顔を上げてローフィスに囁く。
「…いや皆さん美形なので。
つい…邪推してしまうんです。
こっちで綺麗な男って、当たり前に男に口説かれますから」

すかさずローフィスが言った。
「ギュンターを口説く男はまず、いません。
迂闊に口説くと、言葉で言い返すのが面倒で、直ぐ殴るから」

ギュンターは腕組みしたまま、頷く。

オーガスタスは苦笑して、ラウールに告げた。
「ああ見えて、凶暴なんだ。
あの男は。
だが抱ける相手には、限りなく優しい。
で、君は俺が。
ギュンターに抱かれたいように見えるか?」

ラウールは無言の迫力を感じ、首を横に振った。
オーガスタスは更に言う。
「第一ローフィスがマジ惚れしてるのは。
君をもっと小柄で華奢にした妖精のような美少年で、ローフィスの義弟。
確かにギュンターもローフィスも、惚れた相手は男。
が、どっちも抱く方で、抱かれる役はしない。
それに俺は一度も、男に惚れた事無いしな」

ラウールは俯くと、呟いた。
「それは…残念です」
「悪いな。
シたくなったら、ギュンターを誘え。
あいつ、マジ惚れ相手に、相手しきれないから他で発散しろ。
と言われてムキになって他と寝まくってるし、床上手と評判の色男だから」

エディエルゼは感心したようにギュンターを見、オーガスタスに告げた。
「…彼一人見ていたら…誤解しないんですが。
貴方と並ぶと、どうしても…その…」

オーガスタスは頷く。
「確かにギュンターは、外観は美麗だ。
が、普段あいつの地見まくってるから。
絶対、そんな気起きない」

とうとうラステルが
「ミラーシェンをこれ以上待たせると気の毒だから。
部屋を出ませんか?」
と、笑顔で提案した。

一斉に部屋を出ようと進む中、室内に残るギュンターだけが。
「つまり俺とローフィスの二人を、オーガスタス一人で寝室で満足させてる。
って思ってたんだな…」
そう、ぼそりと呟いた。

ラウールとエディエルゼは無意識にその言葉に反応して頷き、オーガスタスとローフィスに見つめられ、はっ!と顔上げ、気まずく顔を背けた。

ギュンターを除く皆が室内を出、扉が閉まった後。
ローフィスは額に手を当て、沈痛な面持ちで尋ねる。

「…もしかして…貴方のお仲間達も、そう誤解してました?」

言われた後、真っ直ぐの鋭い青い瞳でローフィスに見つめられ、ラステルは少し口ごもって答えた。
シュテフザイン森と花の王国の…エウロペ殿らは違うでしょうが…。
ロットバルトとデルデロッテ、ノルデュラス公爵やデュバッセン大公は、多分…」

ラウールとエディエルゼは、横に立つ飛び抜けて長身のオーガスタスが、深く大きなため息を吐き出すのを聞き、揃って見上げた。

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