森と花の国の王子

あーす。

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激突

敵が来ちゃった

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 ラステルが幾ら心話で叫んでも反応が無くて、とうとう皆の集う従者部屋に飛び込んで来る。
「敵が来たって散々怒鳴ったのに!
聞こえてないんですか?!」

その時、テリュスが呻いた。
「うわ…!
最悪のタイミング…」

ロットバルトも顔下げるテリュスを、悲しげに見た。
だれてたスフォルツァは、もたれてるソファから背を跳ね上げ、ラフォーレンも身を起こす。

オーガスタスは無言で部屋を出る。
横を通り過ぎて行くオーガスタスを見上げ、ラステルは言った。
「心話無いと不便ですね。
どちらに?」
一際長身のオーガスタスは、ラステルを見下ろし告げた。
「剣が要る」

ギュンターも直ぐオーガスタスの背を追う。

ソファに座るデルデは表情を引き締め、横のエルデリオンの肩を、きつく抱き寄せた。
エウロペは立ち上がると、涼やかな明るい緑の瞳でラステルを見つめ、尋ねる。
「武器は用意してあるんですよね?」

ラステルは直ぐ頷き、ロットバルトは立ち上がって、壁に張り付く書棚を開いた。

行きかけたオーガスタスとギュンターがピタリと足を止め、戻って来る。

皆が一斉に、壁一面に武器が吊られてるのを目にし、寄り集まって自分に合う武器を吟味し始める。

エディエルゼはオーガスタスの横をすり抜け、自分の部屋へ戻って行く。
エリューンは武器を見つめながら
「…色々ありますねぇ…」
と感心して呟き、横のテリュスも目を見開いて頷いた。

数々の長剣の他、幾つのもの短剣、槍。
半月形の鎌のような剣が、壁一面にほぼ隙間無く、びっしり掛けられてる。

優美な宝石付き鞘に収められた剣を、公爵は持ち上げて鞘から剣を引き抜く。
細い婦人用の華奢な剣と分かり、元に戻した。

エウロペとオーガスタスが、質素な皮の柄の剣に手を同時に出し、互いを見つめ合った。
エウロペはもっと大きな、半月形にカーブした剣を見つめ
「貴方ぐらい長身なら、あちらがいいのでは?」
と尋ねる。

オーガスタスは横の、質素だけどもう少し大きめの剣を見つめながら
「こっちかな。
俺は二刀使いで振り回すから」
と呟く。

エウロペは彼の戦い振りを思い出すと
「では、これは貴方に。
私は短剣も使えるので、もう少し小ぶりでも構いません」
と微笑んだ。

デルデは公爵が、宝石付きの柄のキラキラ系宝剣ばっか、吟味してるのを見
「剣豪二人が、質素な剣で争ってるというのに…」
と顔を下げた。

公爵は控えめだけど、柄にエメラルドの宝石が埋め込まれた剣を手にするデルデをチラと見
「自分のことは棚上げ?」
と言い返す。

エルデリオンも習慣にならい、宝石付きの剣を手にしようとして、両脇からラステルとロットバルトに手で制された。
エルデリオンに振り向かれ、ロットバルトは慌てて言う。
「宮廷とは違いますし、劣勢なので身分を誇示する必要はありません!」
ラステルも、分かりやすく説明する。
「顔を知らない敵も居る。
王子だと極力バレないよう、質素な剣を選んで下さい」

エルデリオンは納得して頷いた。

レジィもテリュスとエリューンの間を押し分け、武器を見上げる。
「…まだ、無理です」
エリューンが苦笑して告げると、テリュスはレジィの肩を抱いて言った。
「いつも通り。
お前が引きつけ、エリューンと俺が殺る。
だから…」
「剣を、持っちゃ駄目?」
テリュスは笑顔で頷いた。
「囮は一番勇敢なヤツの役目」

けれどエウロペは、レジィに短剣を手渡す。
「これを懐に。
どうしても長剣が欲しければ、私を見なさい」

レジィはエウロペを見上げ、頷いた。

横に立つ銀髪巻き毛の美麗なラウールが、無言で長剣をとっくに腰に差し、短剣二本を持ち、更にもっと小ぶりな短剣をブーツに隠し。
それでもまだ、小さな短剣を次々手に取り、服のあちこちにしまうのを見て、皆目をまん丸にした。

ギュンターは金の柄の、宝石の付いてないしっかりした長剣を選び、ローフィスは細めだが折れない剣を腰に差す。
革表紙に包まれた短剣の束を見つけると、次々ポケットにしまい込み始める。

テリュスは小弓の矢を見つけ、やっぱりかなりの数を手に取ったけど。
ローフィスが小さな短剣が束ねられた革表紙を、次々身に隠すのを見、ぼやいた。
「重くて、動けなくならない?」

ローフィスが、革表紙を開いて見せる。
「金属だけど、ほぼ針に近いから」

横のオーガスタスが二本の長剣の他、懐に短剣も入れながらぼやく。
「いつも体中に持てるだけの短剣、仕込んでるから。
慣れてるんだ。
重石付きで動くのに」

テリュスは感心しきって頷いた。

ゼイブンは相変わらずソファにだれきって座り、ラフォーレンに
「…確か武器、持ってないですよね?」
と尋ねられ、スフォルツァが長剣を二本刺してるのを見て
「一本貸して」
と言う。
スフォルツァは
「選んで来たらいいじゃないですか!」
と一応ゼイブンが年上なので、敬語で突っぱねる。

ゼイブンはダルそうに立ち上がると、ローフィスの横に立つ。
ゼイブンまでもが革表紙を次々、懐や尻ポケットにしまうのを見て、エリューンは目を見開いた。
「短剣使い…?」

ゼイブンは頷きながら、今度はしっかりした質素な長剣を手にするのを、テリュスも見る。

ローフィスは気づくと、皆に言った。
「当分ル・シャレファ金の蝶が目覚めないと、心話が使えないだろうから。
今の内に、言っとく。
ゼイブンがキレたら、絶対彼に近寄らないように。
とっても、危険だから」

皆がふてたように武器を手にする、顔だけは凄い美青年だけど、ローフィスと同じ位の身長で、あんまり強そうに見えないゼイブンを一斉に見た。

ローフィスは気づいて顔を上げ、まだ言った。
「あ、キレると冷静になる。
ゼイブンが表情を引きしめ、格好良く見えたら絶対近づくな!
巻き添え食らうから」

みんな、それを聞いて目を見開いた。

「格好いいと…ヤバいのか?」
デルデに聞かれ、ローフィスは頷いた。
「ゼイブンはこの、ダレてる表情が普段の顔だから」

「キレると…格好良くて…危険?」
ラウールの問いに、ギュンターは頷いた。
「周囲への気遣いが、普段以上に無くなる。
俺も散々被害を受けたが。
反射神経で避けまくって、大事に至ってない」

オーガスタスが頷く。
「ギュンターは猫科の獣のように、しなやかで獰猛だ」
ギュンターはオーガスタスを見上げ、ぼやいた。
「お前が、言う?」

ローフィスが、呆けて見てる皆に苦笑して説明した。
「いつも、オーガスタスは獅子。
ギュンターは豹に例えられてる」

皆がだんだんオーガスタス、そして横に立つギュンターの二人が、ライオンと豹に見えて来て、納得した。

背後でスフォルツァが
「アースルーリンドでは常識なんですが、こっちの人は毎度驚きますね。
…アースルーリンドでとびきりの美男…いや女もですけど。
は、もの凄ーーーーく、凶暴です」

ゼイブンが、ギュンターを見て尋ねる。
「俺、凶暴かな?」

横のローフィスが、頷きながら言った。
「キレると半端無く。
しかもキレてると周囲には分からないから、始末に負えない」

ゼイブンは、エディエルゼが室内に戻って来て、自分の使い慣れた銀の宝剣を腰に差し、やはり美しい銀の剣を、ソファに座ってる弟、ミラーシェンに渡してる姿を見た。

「…彼もそうなんだろう?
凄く使えそう。
凄い美人なのに。
アースルーリンドに限ってないじゃないか」
とぼやく。

ラフォーレンがため息交じりに告げる。
「こっちの人はアースルーリンドが美形だらけと聞いて、夢持ってますからね」
スフォルツァも足組んで言い放った。
「…ムダなのに」

ラステルがそんなスフォルツァとラフォーレンを見て、苦笑する。
「こっちでは、貴方方も十分美青年です」

二人は顔を見合わす。
「…そこそこ、良いとは言われてますが…」
スフォルツァが言うと、ラフォーレンは頷く。
「周囲が美形だらけだと、さ程目立ちませんよねぇ…」

スフォルツァも頷き返し、戸口近く立つラステルに言った。
「それよりアースルーリンドから来た、って言う度。
皆が決まって、半端無い美形に取り囲まれ、チヤホヤされる想像するので。
…心底、疲れます」

ラフォーレンも頷く。
「食い殺されなければ、めっけものです。
大抵少年の頃、顔と性格のギャップが半端無いって現実が、分かり始めるので」

ロットバルトもデルデロッテもが、とびきり美形のギュンターとゼイブンをジロジロ見
「…なるほど…」
と項垂れきって、呻いた。

ギュンターがジロリ…とそんな二人を睨み、ゼイブンはふてきってぼやく。
「どんな顔してようが、俺の勝手だ」

ゼイブンの言葉に
「それだけは、同感だ」
と、ギュンターも同意した。
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