森と花の国の王子

あーす。

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決戦

偉大なる助け手

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 ディンダーデンはでこぼこしまくってる岩場を、カンで飛びながらも駆け抜ける。
ローランデも足場の悪い場所を走るのに慣れてる様子で、ぴったり横に付い離れない。

ディンダーデンはチラ…と背後を伺った。
今や城の塔ほどデカくなった黒竜は、ディアヴォロスを踏み潰そうと、上からデカ過ぎる足の裏を、踏み下ろそうとしている。

二人の神聖騎士は宙に浮かび、連続で光弾を放射し、ディアヴォロスとディングレー、シェイルが逃げるのを助けていた。

光の砲弾は、ダッケンダグズほどに傷を負わせることは出来ず、抉られる肌は僅か。
が、深く鋭く抉るのか、浴びせられると黒竜はその都度、痛そうに傷を受けた腕や足を引き、神聖騎士を睨んだ。

執拗に連射され、とうとう巨大黒竜は二つの大きなコウモリの翼広げ
ばさっ!ばさっ!
と強風送り、今や自分の1/8程に縮んで見える、宙飛ぶ二人の神聖騎士を吹き飛ばしにかかる。

二人が一瞬で空間から消え、風の届かぬ上空に避けた途端。
黒竜は岩場を駆け続けるディアヴォロスの背目がけ、巨大な足を踏み潰そうと、振り上げる。

…間違いなく、ディアヴォロスが踏み潰されたら、自分だってローランデだって同様に踏み潰される。
ディンダーデンはそう察した途端、滅多に無い事だったけど、背に冷たい汗が伝うのを感じた。
それっくらいデカい、足の裏。

黒岩のような、ゴツゴツした巨大すぎる足裏に踏み潰されまいと、ディンダーデンは必死で飛び、駆け続ける。
が、相手のデカさを考えると、どれだけ駆けてもヤツの足裏の範囲から、出られそうに無い。
ローランデは崩れた横壁をチラ見し、横に反れようかと背後を伺い見る。

ディングレーはシェイルの手を握り引きながら、蹌踉めくシェイルを助けつつ、自分も足場のうんと悪い、岩場を飛び駆けてる。
シェイルは足元だけを見、必死にディングレーの速度について行く。
ディアヴォロスの両腕にはアイリス。
が、かなりぐったりし、首を下げていた。
ディアヴォロスは足元を少しも見ず、真っ直ぐ前を見、腕にアイリスを抱いてるなど微塵も感じさせない、頼もしい姿で駆けている。

が、ローランデは内心舌打つ。
あの状態では、かなり高さのある横壁を越えるのは無理。

巨大な足裏が間近に迫った時。
二人の神聖騎士はディアヴォロスの上空に突如現れ、両手を巨大な黒くゴツゴツした足裏に向け、二人がかりで風圧で、それ以上足が落ちて来ないよう防ぐ。

ズァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

強風が、駆けるディアヴォロス、ディングレーの背をはたく。
ディンダーデンもローランデもが、前へと背を押されるぐらい強い風に、足を取られまいと視線下げ、足元を気遣いながらも駆ける。

ディングレーもシェイルもが、神聖騎士らがそれだけの“光”使い、アイリスが気絶しないかハラハラし、揃って横へと振り向く。

途端、シェイルが突き出た岩に足を取られかけ、がくっ!と膝を崩す。
すかさず気づいたディングレーが、腕を思いっきり、上に引っ張り助ける。

「お前は足元だけ見てろ!」
口調は強いのに、心配げなディングレーの表情を見て。
シェイルは無言で頷いた。

けれど案の定。
ディアスが心話で叫ぶ。

“アイリスが気絶する!!!”

その言葉は、ワーキュラスに向けられてると。
ディングレーもディンダーデンも、ローランデも思った。

シェイルはぐいぐい先へと腕を引っ張るディングレーに、付いて行こうと足元に視線向け、必死に飛び走る。

その時。
荘厳なワーキュラスの声が脳裏に響く。

“アイリスとディアヴォロスを支えてくれ”

二人の神聖騎士は、踏み潰されようとするディアヴォロスの背の真上に飛び来ると、護るように顔を、恐ろしくデカい化け物の、ゴツゴツした黒い足裏に向けた。

瞬間、足裏に鋭い黄金の光飛び、巨大黒竜は悲鳴を上げ、慌てて足を振り上げる。

ギィヤァァァァァァァォォォォォォォォォォォォォゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

ディンダーデンが、歩を止め振り向くのとほぼ同時。
ローランデも明るく真っ直ぐの栗毛を振って、振り向く。

シェイルは腕を引くディングレーが足を止めるのに気づき、止まろうとして岩につんのめりかけ、ディングレーに腕を引き上げられ、転ぶのを免れた。

顔を上げるけど、真横のディングレーは背後に振り向き、上を見てるので。
シェイルも振り向き、上を見…。

…初めてそれを、目にした。

止まりアイリスを抱いたまま、屈むディアヴォロスの背の斜め上空。
こちらに背を向け、白い隊服をはためかせ。
白い光に包まれた神々しい二人の神聖騎士が、宙に浮き。

そして…更にその上空、透けた金の巨大な…。

シェイルはもっと、顔を上げた。
ディアヴォロスの上の神聖騎士、それを跨ぐ透けた金の超巨大な二本の足。
その更に上の…とてつもなく大きな、黄金の…。

“ワーキュラス…?”

黒竜の化け物の、三倍は大きな…黄金の鱗に包まれた、透ける美しい金色こんじきの竜が、黒竜と対峙していた。

ディンダーデンも、ローランデもが上を見上げる。
ディアヴォロスの両横。
かなり離れた位置に、護るように立つ、巨大な…金に透けた光竜の大きな二本の足。
そして金の鱗が、陽の光弾き、きらきらと輝き渡る、大きな腹。
遙か上に伺い見える、鉤爪の付いた二本の腕。
小さく細長い顔は、顎の下がやっと見える程度。

遙か上空にそびえ立つ、黄金の鱗纏った、とてつもなく大きく透けた金の竜…。

ディングレーは代々、「左の王家」に伝わる光竜ワーキュラスの肖像画を思い出し、思わず呟く。

「…こんな…デカかったのか…?」

宙に浮く二人の神聖騎士から、はっきりした白い光がディアヴォロスとアイリスへと流れ伝い、二人を包み込む。
神聖騎士らは化け物を見据え、こちらに背を向けたまま…。
白い隊服をはためかせ、二人を護っていた。

巨大な黒い靄の顔…『闇の第三』が、黒竜の頭上に突如現れる。
扉ほど大きな顔の筈。
が、デカい黒竜の上に出現すると、大した大きさに見えない。

『闇の第三』は、頭上から眷属に怒鳴る。

ヤツ光竜は実体じゃ無い!!!
実体は絶対、この地には来られない!!!
ただの…幻影だ!!!”

が、透けた黄金の…とてつもなく大きなワーキュラスは、黒竜の化け物と向かい合い、じっ…と睨み付ける。

やがて黒竜が、ぶるぶる震え始めた。
足の裏に負った傷が裂け始め、裂け目はどんどん上へと這い上がり、足が…大きく裂け始め、裂け目の間からは赤い肉が覗き始める。

ギィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

叫びながら、必死に裂ける傷口を塞ごうと、黒竜は気合い込める。
が、たいそう痛むのか…長い顔を上に向け、蛇のように二股に避けた舌を蠢かせ、激痛に身をぶるぶる震わせ…。

暫く、足を伝う傷は上へと向かって裂けて行き…。
けれど止まり…傷は塞がり、僅か下がりかけ…。
押し合いのように、傷は上へと裂けては塞がり、下がり…を繰り返す。

がとうとう、裂け目は一気に上へと駆け昇り始めた。

裂けていく度、肌はぱっくり裂けて真っ赤な肉が覗き、どっ!!!
と大量の血の滝が、流れ落ち始める。

それでも傷は雷土いかづちのようにギザギサの痕を残し、蛇行しながらも腹を割き、更に上へと昇って行く。

やがて右肩の上に届くと

どっすん!!!

重みに耐えかね、大きな音を立て巨大な腕が、岩山に落ちた。
斜めに裂けた肩からは、肉と骨が覗き、滝のような血しぶきが降り振り注ぎ始める。

ローランデもディンダーデンもが。
あまりのその迫力に、固唾を飲んだ。

シェイルはとても大きな、金の透ける光竜を見上げ、囁く。

「ワーキュラス…」

ワーキュラスはその可憐な声を聞いた途端。

ぐっ!!!と黒竜を睨み、肩口で止まっていた裂け目を横へと、伸ばし始める。
一気に左の肩口まで切り裂き、黒竜は…。

声も無く、肩の上に乗る、斜めに斬り裂かれた首と顔を、ゆっくり前へと、滑り落とし始めた。

ディングレーは巨大な黒竜の首が、遙か上空から自分らに向かって、落ちて来るのを見、目を見開く。

ディンダーデンは、走ろうか。
とも思った。
が、落ちれば直撃する筈の、ディアヴォロスの背を護る二人の神聖騎士は。
微動だにせず、その場を動かない。

ディンダーデンは歩を止めたまま、手汗を握り込み、足場を踏みしめた。
横のローランデは確信してるように、そっ…と横に並び、一緒に上を見上げてる。

ディングレーの横のシェイルは。
逃げるどころか、微笑すら浮かべてた。

ズ…ズズズズズ………。

滑り落ちて来る黒竜の巨大な首は…。
神聖騎士らの、遙か上。
彼らの上に護るようにそびえ立つ、透けた金の光竜ワーキュラスに触れた途端。

触れた場所から黒い粉となり、崩れ散り始めた。

落ちて来るデカい黒竜の、長いゴツゴツとした黒い肌の鼻。
死んだようなデカく真っ黒な丸い目。
裂けた口の、大きな牙。
それらは、どんどん近づいて見えたけど…。

金に透けたワーキュラスに触れ始めると、粉となってどんどん崩れ…。
終いには全てが空気中に、塵のように散って行った。

“おのれ!!!”

『闇の第三』は一声叫び、光竜ワーキュラスの標的になる、その前に。
一気に裂け目から、『影の国』へと逃げ帰って行く。

『闇の第三』が消えると。
実体として現れた黒竜の、裂けた下半身は。
突然黒い靄へと変わり、二体の化け物は叫び別れ、二つとなった黒い靄の化け物は、それぞれ裂け目へと逃げ帰って行く。

それと共に

すうっ。

と…遙か上空にあった、黄金の透けた光竜の、姿が消える。

神聖騎士二人は。
宙に浮き、白い隊服をはためかせ、揃って片手を前に付き出す。

そして突き出した手から放射する白い光を、空間の隙間。
『影の国』と繋がる空間の裂け目に向け、放ち始めた。
 
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