孤独な王子と美貌の護衛と、近衛連隊の暗殺

あーす。

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ファントレイユの提案

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 食事を終えるとソルジェニーは、いかにもくつろいだ様子を見せた。
ギデオンはそんな王子の様子に微笑むと、やはりとても優しい声色で尋ねる。
「…怖く、無かったか?」

ソルジェニーは途端弾けるように笑うと
「…だって、ギデオンとファントレイユと一緒なのに?
こんな事を言うと、一生懸命護ってくれたファントレイユに怒られそうだけど…」
そう言って、ファントレイユを伺うので。
ファントレイユは微笑んだ。
「…怒らないから、どうぞ言ってごらんなさい」
ソルジェニーは了承を貰い、微笑んで告げる。
「本当は、もの凄く、わくわくした…」

ギデオンとファントレイユが、揃ってソルジェニーを凝視する。

ファントレイユは気を取り直すと、ナプキンで口元を拭い、口を開く。
「…血筋ですかね…。
ギデオンもそれは、楽しそうだった」

ギデオンはその意見に、かなり困惑した。
が、ぼそりとつぶやく。
「まあ…。気晴らしにはなったな。
軍の部下はやはり、思い切り殴れない…」

ファントレイユの目がこのセリフにいきなりまん丸になり、ナプキンを扱う手が、ピタリ!と止まった。

「………あれで……?
じゃあさっきは一体、何人殴って来たんだ?」
ギデオンは不平を言うように唸る。
「…数なんて、数えてられるか…!
次々に沸いて出て、それはわくわくしたが」

ソルジェニーが、やはり驚いた顔で尋ねる。
「次々に出て来て、拳だけで戦ったの?」
「…最後は剣を抜いて来たな…!
でかい図体して、情けないったら…!
あれだけの体格だ。
さぞ殴り甲斐があったのに、剣を抜くなんて卑劣だと思わないか?」

ギデオンの、その真剣に怒る見慣れた様子に。
ファントレイユは一つ、頷くと、ギデオンの言いたい事を察し、代弁した。
「…つまり、剣だとものの数秒で殺してしまえて。
さぞかし、つまらなかったんだろう…?」

ギデオンは頷くと、落胆をその言葉に滲ませ、つぶやく。
「…そんなに、死にたかったのかな…」
ソルジェニーは目を、まん丸にした。
ギデオンは見慣れていて、意識した事無かったけど。
これ程容姿に恵まれているファントレイユに
『彼に比べたら、私の容姿など、どれほどのものです?』
と言わしめただけあって。
正直、ファントレイユに視線を送る、どのご婦人よりギデオンは、目立って綺麗だと思った。

金の髪に囲まれた色白の整った小顔に、宝石のような碧緑の瞳が。
誰よりも一際、人目を引く。

ファントレイユと居ると彼のそんな様子が時々、輝きを放って綺麗に見えたりするけれど。
ギデオンが口を開くたび、彼がその容姿に反し、どれほど勇猛なのかも伺えた。

ファントレイユは向かいに座るギデオンへ、身を乗り出して言い諭す。
「君、ちゃんと警告したか?」
途端、ギデオンが眉を寄せて異論を唱えた。
「したさ…!私は卑怯者なんかじゃ、無い…!」
「でも、名乗らなかったろう…?」

ファントレイユの言葉に、ギデオンは大人しく俯いた。
「………まあ、確かに。
お前はどうなんだ?剣を抜いたんだろう…?」
ファントレイユは肩を、すくめる。
「私はちゃんと、急所を外してやった」
ギデオンは、肩揺すり笑う。
「相手が解ってやってるのか?
ありゃ、間違いなくお尋ね者共だ。
親切が、仇にならなきゃいいがな…!」

が、ファントレイユはギデオンに向き直ると、彼をじっ。と見つめつぶやく。
「あれが、私にとっての警告だ…。
懲りずに今度また襲って来たら。
ご希望どうり、今度はきっちりカタを付けるさ」

ファントレイユの、自分を見据えるブルー・グレーの瞳の輝きに。
ギデオンは思わずファントレイユの顔を見つめ直す。

ギデオンの、真剣にファントレイユを見入る様子を見て。
ソルジェニーは小声で尋ねた。
「…ファントレイユは…本気じゃ無かったの…?」

ギデオンは碧緑の瞳で、余裕を溢れさせたファントレイユのブルー・グレーの瞳を見据え、言い返す。
「全然、本気なんかじゃ無かったさ…」
ソルジェニーは尚も、ギデオンに尋ねる。
「…本気だと、どうなるの?」

ギデオンの声が、ファントレイユを見つめたまま低くなった。
「…そりゃ思い切り隙を見せて相手を誘い、数秒で仕留める。
私に言わせりゃ真剣にさせると、誰よりよっぽど怖い男だ」

その評価に、ソルジェニーが思わず隣のファントレイユを見上げる。
が、ファントレイユの顔が、笑顔で輝く。
「…冗談だろう…?
君に怖がられるほどの腕じゃ無い」

だがギデオンは、ファントレイユを見据えたまま低い声で唸る。
「…ソルジェニー。
この男の、こういう軽口は絶対信用するな!
こうやって相手を油断させて隙を作らせ、一旦攻撃に出れば一撃で相手の息の根を止める…!
こいつの、いかにも優雅なやさ男風の外観に騙され負けて、何人の近衛騎士が歯噛みして口惜しがっていると思う…?」

ファントレイユはギデオンの、その真剣な表情を見た。
そして
『何を言ってるんだ?』
とばかりに肩をすくめる。
「…るとなったら、ためらったりしたら相手が苦しむだけだろう…?
急所を、思い切り突かれた方が。
相手にとっても親切と言うものだ。
それに…ご覧の通り、私はやさ男だし…。
色々な手を使って隙を狙うのは、私にとっては定石だ。
第一君相手に、剣を抜こうとは一瞬たりとも思わない」

ギデオンが途端、笑う。
「命が、惜しいからか…?」
ファントレイユは顔色も変えず、言い放った。
「当たり前だ。
私に言わせれば君に剣を向けるなんて、自殺願望としか思えないね。
…まあ、死にたくなったら君に、頼むとするか…。
何しろ君の切り口と言ったら。
それは見事でためらい一つないから、それは安心して、一瞬で天国に行ける事、請け合いだ」

ギデオンは、良く言うなとせせら笑う。
「…貴様も、そうだろう?」
だがソルジェニーがそんな二人を見回し、朗らかに笑った。
「…じゃあ二人が一緒なら、もっと危険な場所に行っても、大丈夫なんだね?!」

これにはさすがのギデオンも、慌てた。
「ソルジェニー…冗談だろう…?
君を危険な目に合わせたとタヌキ共に知られたら。
奴らどれだけしつこく、ねちっこく。
嫌味を言ってくるか、解ったもんじゃない…!
こちらが殴れないのを承知で、いつまでもねちねちやられるんだぞ…!」

ファントレイユが、思い切り肩をすくめる。
「…君、少しは言葉での応酬も、覚えた方がいい」
だがギデオンがその綺麗な顔を歪め、直ぐに反論した。
「…あれは覚えたからって、簡単に出来るものじゃ無い…!
第一かっと成ったら、気づいたら殴ってるし…」

ファントレイユが、その言葉を聞いて、俯いて青冷める。
「………やっぱり。
そうだったのか…。
君の沸点は結構低いから、ほんの少しからかうだけでも、かっと成って殴ってないか?
結構バリエーションに飛んでいるから、君に対する禁止ワードを探るのは、とっても大変だ…」

その、思わず覗かせるファントレイユの本音に、ギデオンは笑う。
「…なる程ほど。
一つの言葉を発見すると、みんなにこっそり回すんだろう…?」
ファントレイユは隙を作らず、にこやかに笑い返す。
「そりゃみんな、迂闊に口を開き、君の沸点に触れて突然殴られまいと、それは必死だからな」

ギデオンはだが、それを聞いて思い切りタメ息を吐く。
「…お陰で殴る機会が、減る一方だ………!」

そう、思わず同情を集めるほど肩を落とす。 

ソルジェニーが思わずファントレイユを見ると。
ファントレイユもソルジェニーを見ていた。

「私には、用意がない」
と、ファントレイユが言うので、ソルジェニーの頭の中に、疑問符が湧き上がった。
「王子。
あなたは彼のいとこでしょう?
慰めの言葉の、一つぐらい用意があるんじゃないですか?」

ソルジェニーは、考えたものの。
ひとっ言も思い浮かばず、思わず首を横に、振り続けた。


店を出る時、ソルジェニーがそれは嬉しそうな微笑みを、ファントレイユに向けるのを目にし、ギデオンは尋ねる。
「…良く、眠れそうか?」
ソルジェニーは輝くような笑顔で、頷いた。

ギデオンはそんな可愛いソルジェニーの笑顔を見て、心から安堵し、微笑みを返した。 



 王子を自室に送り、扉を閉めると。
ファントレイユがギデオンに振り向き、こっそり尋ねる。
「…安酒場の件、大臣達の耳に入りそうか?」

ギデオンは伺う彼に目をやり、ため息交じりに告げる。
「…私の耳にも、入ったしな。
だが君が伴って来たのは、あくまで少女だと言い張ってやる」

ファントレイユはそれを聞いて、少し俯き、ささやいた。
「…今の内に王子の護衛を、シャッセルあたりに変更した方が、良くはないか?
彼なら公爵で大貴族だし、周囲の反発も少ない…。
たかが侯爵の私を押して、君だってずいぶん、反発を受けているんじゃないのか?」

が、ギデオンはそう言って職を辞そうと考えるファントレイユの、その美貌の横顔を見つめる。
「…シャッセルにあんな嬉しそうな、ソルジェニーの笑顔が引き出せるか?
私の人選は、間違っていないと確信してる。
そっちは心配するな。
君にはこれからも、ソルジェニーを頼みたい」

ファントレイユが、それは切なげな表情を向けるので、ギデオンは思い切り眉を寄せた。
「…そんなに嫌か?この職務は」

ファントレイユは、困った。
そして、どう言えばいいのかと、言葉を探す。
が、ギデオンは笑った。

「…どう言いつくろったって、無駄だ…!
宮廷中のご婦人の様子で、君がこの職務を心から楽しんでいるのはバレバレだ。
ソルジェニーまで、あんなになついてるんだ…。
君に気遣う気持ちが無けりゃ、ああなったりはしないだろう?
…さあ、どう私を言いくるめるつもりなのかを、聞こうか?」

部下の中でもその気になれば。
一番げんの立つファントレイユの逃げ場を無くし。
ギデオンは少し、嬉しそうだった。

だがファントレイユは真顔で言った。
「…私を推薦した君に世話をかけ、君に借りを作るのが嫌だと言えば…納得するか?」

が、ギデオンはますます楽しげに笑う。
「借り…?!
そんなものはソルジェニーの笑顔で、チャラだ!
あそこまで楽しそうなあの子を見たのは、初めてだ!
杯があったら君に上げ、乾杯したいくらいだ!」

ファントレイユはその快活な様子のギデオンに、一つため息を付いてぼやく。
「…弊害だとか、言っていた癖に…!」

ギデオンは肩をすくめて見せたが、それ以上は聞く気が無いように、さっとその場を後にした。

ファントレイユは少しも動揺を見せない、堂としたその背を見送り。

また一つ、ため息を吐いた。

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