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ギデオンの詳細
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翌日ファントレイユは。
年若い少女のような、儚げで可憐な姿をしたソルジェニーに。
それは心配げな表情で迎えられ、思わず尋ねる。
「…どうなさったんです?」
ファントレイユに凝視するように見つめられ、ソルジェニーは彼に小声で問い返す。
「…ギデオンから何も聞いてない?
大臣達に、知られたりはしていないんでしょう?」
ファントレイユは途端思い当たって、笑った。
そして王子をソファに導くと座らせ、その横に座り。
そっと、覗き込んで告げる。
「ギデオンの言った事を、真に受けていらしてるんですか?
第一ああ見えてもギデオンは、ちゃんと応対しますよ!」
ソルジェニーは一気に、安堵したように胸を撫で下ろした。
「…もう城下へ外出したらいけないなんて言われたら、どうしようかと思った…」
ファントレイユが笑顔になった。
「…とても、楽しかったようですしね…。
ギデオンとご一緒だと貴方はそれは、表情がほぐれるようだ」
「だっていつも、とてもお優しい…。
でも軍の中であんな風に思われているだなんて、全然知りませんでした…」
ファントレイユもつい俯くと、そっと囁く。
「…貴方がご覧になっている時とは、ほぼ、別人ですからね……」
「…軍でギデオンは、あんなに優しくはないの?」
一瞬その『優しい』という言葉に。
ファントレイユの表情が固まった。
「…………あんな穏やかで優しげな彼は。
今まで一度だって、お目にかかった事がありません……」
ファントレイユが俯いたまま、それは固い表情を見せるので。
ソルジェニーはそれ以上の言葉を控え、話題を変えた。
「…ギデオンが強いのは知っていたけど。
軍の中でも、そんなに強いの?」
ファントレイユは途端、笑う。
彼がそんな風に笑うと、ブルー・グレーの透けた瞳がそれは綺麗で。
ふんわりと肩から背まで伸びたたっぷりのグレーがかった明るい栗毛が、とても優しい雰囲気を作り、その美貌が輝きを増して見える。
「気迫が、まず全然違います。
いくら剣の腕がたっても、戦いは気力に左右されますからね…。
それに彼は………」
「?」
そう顔を向ける王子の。
どこか儚げな、あどけない面立ちはギデオンとそれは良く似てはいたものの。
ギデオンの、気の強く勇猛そのもので自信に満ちた様子と、王子の心元無くいつも不安げな様子では、相手に与える印象がまるで違い。
そんな王子に目を止めると、ファントレイユは務めて優しく、顔を傾け告げた。
「ギデオンは体格的には、素晴らしいとは、言い兼ねるでしょう?
確かに、一般的には長身だが。
近衛は皆、長身揃い。
ギデオンや私ですら、近衛では真ん中辺りの身長です」
ソルジェニーはそうつぶやく、美貌の護衛を見上げた。
「…ファントレイユは自分の事、やさ男だって言うけど。
それならギデオンも同じくらいの身長だし、そんなにも変わらない体格でしょう?
…どうしてファントレイユが自分をそう言うのか、解らない…」
ファントレイユはその、ギデオンの言葉を全て鵜呑みにしている微笑ましい年若い王子につい、笑いかける。
「王子。私が一般的なんです。
貧弱とは言わない。
が、近衛の中ではそれほど立派な体格でも無い。
けれどギデオンにとって、ハンデは無いも同然ですから…」
ソルジェニーはそれを聞くと、目を大きく見開いた。
「どうして?」
ファントレイユは少女のような容姿のソルジェニーにそう訊ねられ、彼に視線を残したまま、少し、顔を俯けた。
「…ギデオン…。
彼は多分、他の男達…もちろん私より、うんと体が柔らかい…。
相手を殴る際、拳だけで殴るのと。
腕を思い切り振り入れて殴るのとでは、どっちがダメージが強いと思います?」
ソルジェニーは思い浮かべ、返答する。
「…もちろん、腕を振り入れた方でしょう?」
ファントレイユは美貌の面を王子に向けたまま、頷いてつぶやく。
「…ギデオンは全身使う。
更に、体重まで乗せる。
…そんな事はなかなか、普通の男には出来やしない…。
だから立派な体格なんかじゃ無くっても、問題なんか無いも同然。
同じくらいの体格の私なんかより、うんと強いんです。
その上彼は誰より予測が早い…。
相手がどこに打ってくるか…どう動くか。
まるでとっくの昔に知っている。
だからいつも相手の裏をかける上に、一発の爆発力が凄いから、大抵一撃で相手に大きなダメージを与えられる。
……更にその上……」
ソルジェニーがじっ、と自分を見ているのに気づきながらも。
ファントレイユは言葉を続けた。
「……怖ろしく俊敏だ。
体が柔らかい上、動きがとてつもなく速い…!
殴ろうとしても、あっと言う間に消えてるんです。
そしてびっくりするような場所から、拳が飛び出す…!
大抵の者は避ける間もなく喰らってる。
そんな信じられない体の動きが出来る者なんて、いやしない。
…更に彼は剣を振るうのにそれは熱心で、毎日練習を欠かさない…。
天賦の才能に加え、それを磨く事にも余念が無ければ…。
軍で無敵でも、当たり前だとは思いませんか?」
そう、ファントレイユに優しく問われ。
ソルジェニーは微笑んだ。
だがファントレイユは少しその美貌を曇らせ、つぶやく。
「まあ、だけれどもそんな訳で…。
彼と殴り合う相手は彼の重い拳を何発も浴びたりしたら、とっても、ひどい事になるでしょう?
大抵、一発でどこか骨折しているし…。
それで、直ぐさま降参する。
けれどギデオンの方はそれでは……てんで、物足りない。
体力の塊みたいな男だし、彼が疲れ切った姿なんて、余程の激戦でしか、見た事がありません。
…そんな訳で……。
戦闘が無い時彼はそれは…体力を持て余しているんです」
ファントレイユの、とっても沈んだ言いように、ソルジェニーまでもが、顔を下げる。
「…そう…なんですか…。
でもファントレイユは、そうじゃないんでしょう?
どうしてギデオンだけ、いっつも体力が、余っちゃうのかな?」
ファントレイユは苦笑する。
「大抵の男は私のように、暇な時は情事で体力を発散するものです。
が、ギデオンはあれでとても育ちがいい上、とても道徳的でね………」
ソルジェニーはその、ファントレイユの独り言のようなぼやきについ、言葉を無くした。
「…そういうものなの?」
ファントレイユは隣で尋ねるソルジェニーを見つめ、言葉を続ける。
「彼は私の言う事を鵜呑みにするな。
と言いましたが。
彼の方こそが、一般的で無いんです。
貴方同様、とても特別な存在にもかかわらず………」
そしてファントレイユは深い、深いため息を吐いた。
「ギデオンは全然、その自覚が無い……」
ファントレイユはいつも必ず、余裕を見せた。
その余裕すら無い全い、彼の本音に。
ついソルジェニーは同情し、一緒にため息を吐きそうになった。
ファントレイユは声を落とし…だが真剣な響きを秘め、言葉を続ける。
「……替えが利かない人間は、いるものなんです。
貴方に護衛が付くのも、貴方の代わりがいないからで。
その立場はとても重要な物だ。
ギデオンだって、そうなんです。
…私と違ってね。
私の代わりは誰かが出来るが、ギデオンの代わりとなるとそうはいかない」
そうファントレイユに言われ、ソルジェニーは思わずファントレイユの横顔を凝視した。
ファントレイユはそれに気づかず、つぶやき続ける。
「軍で、ギデオンはそりゃ、いつ誰を殴るか解らなくて。
確かに、皆に恐れられてはいるけれど。
…でも誰より正義感が強く、不正があるといつでも猛烈に抗議する」
ソルジェニーの優しい青色をした大きな瞳を見つめ返し、ファントレイユは言葉を繋ぐ。
「…私が抗議した所で、誰も聞いたりはしない。
が、ギデオンの抗議は彼が誰よりも身分が高いから、皆聞かざるを得ない…。
もしギデオンが居なかったら今の軍は…。
不正が平気でまかり通って、それは居辛い場所に成ってしまうんです……」
ソルジェニーは昨夜、ギデオンがなかなか来なかった時。
ファントレイユが真剣に心配してた事を思い浮かべ、問うた。
「……だから…。
ファントレイユは夕べあんなに、ギデオンの身を心配していたの?」
ファントレイユは一瞬、気づいたように首を傾け。
ソルジェニーを見つめ。
が、少し怒った表情でむっつり言った。
「…まるっきり、無駄な心配でしたがね…!」
ソルジェニーは、自分と相対してるギデオンを思い浮かべ、提案してみる。
「どうしてみんな、ギデオンを大切に思っていて、とても心配してるって、言わないの?
ギデオンならきっと、聞いてくれるよ……」
ファントレイユは素直にそう尋ねる王子に、弱り切ってつぶやいた。
「……そりゃ、貴方相手には彼は、信じられないくらいに素直ですがね…………。
言って聞く相手なら、もうとっくに言ってますよ!
第一貴方だって、その御身がとても大事で、危ない事は一切しないでください。
と言われ、素直に聞きますか?
危険な事が起こると、それはわくわくされるんでしょう?」
ソルジェニーは思い返すと、ギデオンの気持ちがもの凄く、解った。
ファントレイユはそれに気づき、ため息を一つ、吐く。
「…そうでしょう?
あなた方はやはり血縁者だけあって、良く似ていらっしゃる。
貴方も酒場で少女に間違われたが、ギデオンも……。
入隊した当初は、それは素晴らしい美少女に間違われたものです……」
ファントレイユが、タメ息混じりに顎を手の上に乗せた。
「………女性が入隊したと、思われていたの?」
ソルジェニーはくすくす笑うが、ファントレイユはそれは優雅な微笑を返した。
「そうじゃ、ありません…。
前右将軍の子息は、美少女のような容貌だと評判だったんで…。
ちゃんと、男性だと理解されはしていました。
…でもやっぱり男ばかりだったし…ほら。
ギデオンの容姿はそれは、目立つでしょう?
彼の金髪はそれはちょっと無い位の鮮やかで綺麗な色だし。
人目を引かずにはいない。
それに小顔で色白で…美少女のような彼の容貌に、錯覚を起こして彼に惚れ込む者は、それはいっぱい居て………」
ソルジェニーは、やっぱり…。と、昨日の店の中でも群を抜いて綺麗だったギデオンの容姿を思い浮かべた。
がその後、ファントレイユはとても沈んだ、暗い、暗い声でつぶやいた。
「…それでみんな、ずいぶんひどい目に、遭ったんです」
ソルジェニーが、目をまん丸にして問う。
「…どんな?」
ファントレイユは右手を振り上げ、言った。
「…例えば彼を見て。
素直に『綺麗だ』と言おうものなら、間髪入れずに殴られますからね………」
ソルジェニーの目が、もっと。
まん丸になった。
ファントレイユは眉間を寄せると、思い返しぼやく。
「…ああ……後、『可愛い』も駄目だったな…それから……。
夕べごろつきが言ったでしょう?
『別嬪』だなんて女性を形容する言葉なんて、もっての他だ!」
ソルジェニーは、呆けて尋ねた。
「……それが夕べ言っていた、禁止ワードですか?」
ファントレイユが顔を上げる。
「みんな、それは必死ですからね…。
彼の前で口を滑らすまいと……」
ソルジェニーは思わず近衛騎士に同情し、ささやいた。
「………色々、ご苦労がおありなんですね………」
ソルジェニーに労られ、ファントレイユは困ったように、笑った。
年若い少女のような、儚げで可憐な姿をしたソルジェニーに。
それは心配げな表情で迎えられ、思わず尋ねる。
「…どうなさったんです?」
ファントレイユに凝視するように見つめられ、ソルジェニーは彼に小声で問い返す。
「…ギデオンから何も聞いてない?
大臣達に、知られたりはしていないんでしょう?」
ファントレイユは途端思い当たって、笑った。
そして王子をソファに導くと座らせ、その横に座り。
そっと、覗き込んで告げる。
「ギデオンの言った事を、真に受けていらしてるんですか?
第一ああ見えてもギデオンは、ちゃんと応対しますよ!」
ソルジェニーは一気に、安堵したように胸を撫で下ろした。
「…もう城下へ外出したらいけないなんて言われたら、どうしようかと思った…」
ファントレイユが笑顔になった。
「…とても、楽しかったようですしね…。
ギデオンとご一緒だと貴方はそれは、表情がほぐれるようだ」
「だっていつも、とてもお優しい…。
でも軍の中であんな風に思われているだなんて、全然知りませんでした…」
ファントレイユもつい俯くと、そっと囁く。
「…貴方がご覧になっている時とは、ほぼ、別人ですからね……」
「…軍でギデオンは、あんなに優しくはないの?」
一瞬その『優しい』という言葉に。
ファントレイユの表情が固まった。
「…………あんな穏やかで優しげな彼は。
今まで一度だって、お目にかかった事がありません……」
ファントレイユが俯いたまま、それは固い表情を見せるので。
ソルジェニーはそれ以上の言葉を控え、話題を変えた。
「…ギデオンが強いのは知っていたけど。
軍の中でも、そんなに強いの?」
ファントレイユは途端、笑う。
彼がそんな風に笑うと、ブルー・グレーの透けた瞳がそれは綺麗で。
ふんわりと肩から背まで伸びたたっぷりのグレーがかった明るい栗毛が、とても優しい雰囲気を作り、その美貌が輝きを増して見える。
「気迫が、まず全然違います。
いくら剣の腕がたっても、戦いは気力に左右されますからね…。
それに彼は………」
「?」
そう顔を向ける王子の。
どこか儚げな、あどけない面立ちはギデオンとそれは良く似てはいたものの。
ギデオンの、気の強く勇猛そのもので自信に満ちた様子と、王子の心元無くいつも不安げな様子では、相手に与える印象がまるで違い。
そんな王子に目を止めると、ファントレイユは務めて優しく、顔を傾け告げた。
「ギデオンは体格的には、素晴らしいとは、言い兼ねるでしょう?
確かに、一般的には長身だが。
近衛は皆、長身揃い。
ギデオンや私ですら、近衛では真ん中辺りの身長です」
ソルジェニーはそうつぶやく、美貌の護衛を見上げた。
「…ファントレイユは自分の事、やさ男だって言うけど。
それならギデオンも同じくらいの身長だし、そんなにも変わらない体格でしょう?
…どうしてファントレイユが自分をそう言うのか、解らない…」
ファントレイユはその、ギデオンの言葉を全て鵜呑みにしている微笑ましい年若い王子につい、笑いかける。
「王子。私が一般的なんです。
貧弱とは言わない。
が、近衛の中ではそれほど立派な体格でも無い。
けれどギデオンにとって、ハンデは無いも同然ですから…」
ソルジェニーはそれを聞くと、目を大きく見開いた。
「どうして?」
ファントレイユは少女のような容姿のソルジェニーにそう訊ねられ、彼に視線を残したまま、少し、顔を俯けた。
「…ギデオン…。
彼は多分、他の男達…もちろん私より、うんと体が柔らかい…。
相手を殴る際、拳だけで殴るのと。
腕を思い切り振り入れて殴るのとでは、どっちがダメージが強いと思います?」
ソルジェニーは思い浮かべ、返答する。
「…もちろん、腕を振り入れた方でしょう?」
ファントレイユは美貌の面を王子に向けたまま、頷いてつぶやく。
「…ギデオンは全身使う。
更に、体重まで乗せる。
…そんな事はなかなか、普通の男には出来やしない…。
だから立派な体格なんかじゃ無くっても、問題なんか無いも同然。
同じくらいの体格の私なんかより、うんと強いんです。
その上彼は誰より予測が早い…。
相手がどこに打ってくるか…どう動くか。
まるでとっくの昔に知っている。
だからいつも相手の裏をかける上に、一発の爆発力が凄いから、大抵一撃で相手に大きなダメージを与えられる。
……更にその上……」
ソルジェニーがじっ、と自分を見ているのに気づきながらも。
ファントレイユは言葉を続けた。
「……怖ろしく俊敏だ。
体が柔らかい上、動きがとてつもなく速い…!
殴ろうとしても、あっと言う間に消えてるんです。
そしてびっくりするような場所から、拳が飛び出す…!
大抵の者は避ける間もなく喰らってる。
そんな信じられない体の動きが出来る者なんて、いやしない。
…更に彼は剣を振るうのにそれは熱心で、毎日練習を欠かさない…。
天賦の才能に加え、それを磨く事にも余念が無ければ…。
軍で無敵でも、当たり前だとは思いませんか?」
そう、ファントレイユに優しく問われ。
ソルジェニーは微笑んだ。
だがファントレイユは少しその美貌を曇らせ、つぶやく。
「まあ、だけれどもそんな訳で…。
彼と殴り合う相手は彼の重い拳を何発も浴びたりしたら、とっても、ひどい事になるでしょう?
大抵、一発でどこか骨折しているし…。
それで、直ぐさま降参する。
けれどギデオンの方はそれでは……てんで、物足りない。
体力の塊みたいな男だし、彼が疲れ切った姿なんて、余程の激戦でしか、見た事がありません。
…そんな訳で……。
戦闘が無い時彼はそれは…体力を持て余しているんです」
ファントレイユの、とっても沈んだ言いように、ソルジェニーまでもが、顔を下げる。
「…そう…なんですか…。
でもファントレイユは、そうじゃないんでしょう?
どうしてギデオンだけ、いっつも体力が、余っちゃうのかな?」
ファントレイユは苦笑する。
「大抵の男は私のように、暇な時は情事で体力を発散するものです。
が、ギデオンはあれでとても育ちがいい上、とても道徳的でね………」
ソルジェニーはその、ファントレイユの独り言のようなぼやきについ、言葉を無くした。
「…そういうものなの?」
ファントレイユは隣で尋ねるソルジェニーを見つめ、言葉を続ける。
「彼は私の言う事を鵜呑みにするな。
と言いましたが。
彼の方こそが、一般的で無いんです。
貴方同様、とても特別な存在にもかかわらず………」
そしてファントレイユは深い、深いため息を吐いた。
「ギデオンは全然、その自覚が無い……」
ファントレイユはいつも必ず、余裕を見せた。
その余裕すら無い全い、彼の本音に。
ついソルジェニーは同情し、一緒にため息を吐きそうになった。
ファントレイユは声を落とし…だが真剣な響きを秘め、言葉を続ける。
「……替えが利かない人間は、いるものなんです。
貴方に護衛が付くのも、貴方の代わりがいないからで。
その立場はとても重要な物だ。
ギデオンだって、そうなんです。
…私と違ってね。
私の代わりは誰かが出来るが、ギデオンの代わりとなるとそうはいかない」
そうファントレイユに言われ、ソルジェニーは思わずファントレイユの横顔を凝視した。
ファントレイユはそれに気づかず、つぶやき続ける。
「軍で、ギデオンはそりゃ、いつ誰を殴るか解らなくて。
確かに、皆に恐れられてはいるけれど。
…でも誰より正義感が強く、不正があるといつでも猛烈に抗議する」
ソルジェニーの優しい青色をした大きな瞳を見つめ返し、ファントレイユは言葉を繋ぐ。
「…私が抗議した所で、誰も聞いたりはしない。
が、ギデオンの抗議は彼が誰よりも身分が高いから、皆聞かざるを得ない…。
もしギデオンが居なかったら今の軍は…。
不正が平気でまかり通って、それは居辛い場所に成ってしまうんです……」
ソルジェニーは昨夜、ギデオンがなかなか来なかった時。
ファントレイユが真剣に心配してた事を思い浮かべ、問うた。
「……だから…。
ファントレイユは夕べあんなに、ギデオンの身を心配していたの?」
ファントレイユは一瞬、気づいたように首を傾け。
ソルジェニーを見つめ。
が、少し怒った表情でむっつり言った。
「…まるっきり、無駄な心配でしたがね…!」
ソルジェニーは、自分と相対してるギデオンを思い浮かべ、提案してみる。
「どうしてみんな、ギデオンを大切に思っていて、とても心配してるって、言わないの?
ギデオンならきっと、聞いてくれるよ……」
ファントレイユは素直にそう尋ねる王子に、弱り切ってつぶやいた。
「……そりゃ、貴方相手には彼は、信じられないくらいに素直ですがね…………。
言って聞く相手なら、もうとっくに言ってますよ!
第一貴方だって、その御身がとても大事で、危ない事は一切しないでください。
と言われ、素直に聞きますか?
危険な事が起こると、それはわくわくされるんでしょう?」
ソルジェニーは思い返すと、ギデオンの気持ちがもの凄く、解った。
ファントレイユはそれに気づき、ため息を一つ、吐く。
「…そうでしょう?
あなた方はやはり血縁者だけあって、良く似ていらっしゃる。
貴方も酒場で少女に間違われたが、ギデオンも……。
入隊した当初は、それは素晴らしい美少女に間違われたものです……」
ファントレイユが、タメ息混じりに顎を手の上に乗せた。
「………女性が入隊したと、思われていたの?」
ソルジェニーはくすくす笑うが、ファントレイユはそれは優雅な微笑を返した。
「そうじゃ、ありません…。
前右将軍の子息は、美少女のような容貌だと評判だったんで…。
ちゃんと、男性だと理解されはしていました。
…でもやっぱり男ばかりだったし…ほら。
ギデオンの容姿はそれは、目立つでしょう?
彼の金髪はそれはちょっと無い位の鮮やかで綺麗な色だし。
人目を引かずにはいない。
それに小顔で色白で…美少女のような彼の容貌に、錯覚を起こして彼に惚れ込む者は、それはいっぱい居て………」
ソルジェニーは、やっぱり…。と、昨日の店の中でも群を抜いて綺麗だったギデオンの容姿を思い浮かべた。
がその後、ファントレイユはとても沈んだ、暗い、暗い声でつぶやいた。
「…それでみんな、ずいぶんひどい目に、遭ったんです」
ソルジェニーが、目をまん丸にして問う。
「…どんな?」
ファントレイユは右手を振り上げ、言った。
「…例えば彼を見て。
素直に『綺麗だ』と言おうものなら、間髪入れずに殴られますからね………」
ソルジェニーの目が、もっと。
まん丸になった。
ファントレイユは眉間を寄せると、思い返しぼやく。
「…ああ……後、『可愛い』も駄目だったな…それから……。
夕べごろつきが言ったでしょう?
『別嬪』だなんて女性を形容する言葉なんて、もっての他だ!」
ソルジェニーは、呆けて尋ねた。
「……それが夕べ言っていた、禁止ワードですか?」
ファントレイユが顔を上げる。
「みんな、それは必死ですからね…。
彼の前で口を滑らすまいと……」
ソルジェニーは思わず近衛騎士に同情し、ささやいた。
「………色々、ご苦労がおありなんですね………」
ソルジェニーに労られ、ファントレイユは困ったように、笑った。
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