孤独な王子と美貌の護衛と、近衛連隊の暗殺

あーす。

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ファントレイユの苦労

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 ファントレイユはまだ夕方にもならない内に、王子にねぎらいを受け。
「今日は早く休んで下さい」
と早々に退出の許可を貰ったので、近衛の舎に戻る。
その途中の中庭で、ギデオンが彼を見つけ、近寄って来た。

ギデオンを取り巻いていた大貴族の、大柄な黒髪のアドルフェスと狐のようにすまし返った銀髪のレンフィールがその場に取り残され。
ギデオンが親しげに近寄るファントレイユの姿に、思い切り眉をひそめて見やる。

王子の護衛なんて重要な役割を、ギデオンがファントレイユのような下級貴族に配したのを、不満に思っているのは明白だった。
が、ギデオンは背を向けている取り巻きの意向なんかに、まるで気づく様子も無い。

取り巻きの大貴族だろうが、ギデオンは手加減する気は毛頭無いのを彼らも良く知っていて、ギデオンの前で極力それは大人しく、言葉を控えているようだったから。

ファントレイユは、相変わらず中味を知らなければ素晴らしく綺麗なギデオンの姿に目を止め、心の中で一つ、タメ息を吐いた。

…彼の前では大貴族だろうが、下級貴族だろうが。
等しく同じ気苦労をするものだ。
彼は身分等、全くお構いなしだったから。

「…今日は早いな」
ギデオンにそう言われ、ファントレイユは微笑んだ。
「疲れているだろうと、お休みを下さった」
ギデオンは一つ頷くと、笑った。
「…私がわざと店を、間違えたしな」
ファントレイユは肩をすくめる。
「…疑っただけだ。根に持っているのか?」
「…私と一緒だと、ずいぶん疲労するんだろう?
だが、君はか弱そうに見え、どんな時も取りすまして顔色も変えない、丈夫な男だと思ったがな!」

ファントレイユは相変わらず、優雅に微笑むと言葉を返す。
「…か弱いからちゃんと体力配分を、考えているだけの事だ。
それより彼らを置き去りにして、私と話していいのか?」

ファントレイユが離れた場所からこちらを伺い見ている、アドルフェスとレンフィールを目で促した。
が、ギデオンは振り向くと、彼らがまだそこに居たのか。という顔をする。
「用はもう済んだぞ?
…それより君に聞きたいんだが…」
「ああ」
「ソルジェニーはいつもあんなに自室では、食欲が無いのか?」
ファントレイユは一つ、ため息を吐く。
「…そりゃあの年頃で部屋に閉じこめられ、同年代の話相手もいなけれゃ、無理無いんじゃないか?」

ギデオンはファントレイユの顔を、それはじっ、と見た。
「…そうだな………。
君と居るとそれは刺激的で、楽しそうだ」
ファントレイユはギデオンの言葉に
『何を言ってるんだ?』
と眉をひそめる。

「…君と居る時だろう?
それは嬉しそうだったぞ?」
ギデオンが、尋ね顔で問う。
「………いつ?」
「乗馬の時さ。君、王子を前に乗せていたろう?」
「…ああ」
ギデオンは思い出すと、頷いた。
そしてふ、と思い浮かべ、告げる。
「…お前と一緒に、店で食事をしたのは初めてだったが。
あれではソルジェニーが、刺激的で楽しいと言っても、無理は無いと思ったな」

ファントレイユはいかにも心外だという表情で。
小声で促す。
「………刺激的な事をしたのは、どう見ても君のはずだ…。
食事の、前だが」

ギデオンがその言葉に思わず顔を上げ、自分の失態に触れる事は避け、正直な感想を述べた。
「……忘れているのか?ご婦人の注目を集めまくってたろう?
君が浮き名を流しているとは聞いていたが、あれほどとは正直思わなかった……」

ファントレイユは腕組んでため息を付くと、その素晴らしく綺麗な男を見つめる。
「…君がもう少し、ご婦人に柔らかな態度を取ってみろ…。
彼女達の注目はたちまち、君に集まると保証出来る」

それを聞いた、ギデオンの眉が寄る。
「…そういう問題じゃないと思うが?」
が、ファントレイユは肩をすくめる。
「君のような美男で身分の高い男に優しくされたら、彼女達は私に目もくれないさ…!」

ギデオンはそう言い切る、見つめられて微笑まれたりしたら大抵の相手が頬を染めてどきまぎしてしまう、美貌の色男を。
心の底からまじまじと、見つめて言った。
「…それは…………本気でそう、思っているのか?」

ファントレイユは少し、怒ったように眉を寄せた。
「当たり前だろう?」

ギデオンが、一つ吐息を吐く。
ファントレイユは珍しいそんなギデオンの様子を、喰い入るように見つめる。
が、ギデオンが独り言のようにつぶやいた。

「…それは、彼女達が気の毒と言うものだ……。
君のような華やかで相手をどぎまぎさせるような雰囲気の騎士は、近衛に山ほど男がいても、二人と居ないものなのにな…」

ファントレイユはそのギデオンの言葉に、驚愕に目を見開き、思わず声を、掠れさせて尋ねる。
「……………君の方こそ、本気でそう思ってるのか?」

ギデオンは顔を上げてむきになった。
「…身分を気にする相手なら致し方無いが。
男としてどちらの腕に抱かれたいか?
と彼女達に、聞くまでも無く、君だろう?」

「………………………………」

ファントレイユがあんまり真顔でじっと、ギデオンを見つめてるので。
ギデオンは言葉を続ける。
「君っくらい、近衛の似合わない男はいない。
と、宮廷で護衛の任に押したが。
宮廷は君に似合い過ぎるようだな…。
そこら中の知り合いに聞いて回ったが。
どのご婦人も、もうとっくに君の名を知っていて。
知らぬ者はいないほどの有名人になっている」

ファントレイユは苦笑した。
「…それは……ずいぶんと宮廷の紳士達は、自分を磨く事をさぼっていらっしゃるようだ……。
まあたいてい身分で釣れるから、努力なんか必要無いんだろうな」

ギデオンはそれを聞くなり、項垂れた。
「…なんだか耳が、痛いんだが」

ファントレイユは呆れ顔を見せる。
「…だって君は少しも、ご婦人の気を引きたいとか。
注目されたいとか。
思って無いんだろう?」
「……まあ、そうだな」
「じゃあそれは、当然の結果なんじゃないのか?」

ギデオンは顔を上げると、もっとむきになった。
「…なら君はどうなんだ!
注目を集めたいと、思っているようには見えないが」

ファントレイユは呆けたような顔をし、腕を組んで言い放つ。
「…そうか?ちゃんと女性と、遊びたいと思ってるぞ?」

ギデオンは困惑に眉を寄せる。
「……遊びたいと思うと、集まるものなのか?」
ファントレイユは頷く。
「君が、本心からそう思えばな。
一度試してみるといい」

「……………………………………………………」

言われてギデオンが、眉根を寄せ。
真剣な表情で、考え込むように沈黙した。

その間があまりに長かったので、ファントレイユはギデオンの耳元に、そっと顔を寄せてささやく。
「…無理ならお勧めしない」

ギデオンは途端、ほっとしたように顔を上げ、可愛く見えるほどの無邪気な笑みを浮かべた。
「どう考えても、私には無理そうだ。
そういう天分が、無い」

その笑顔が、ソルジェニーと同じで妙に愛らしくて。
ファントレイユは内心、気を許しそうな自分を慌てて抑えた。

王子と違い、ギデオンは。
扱いを誤ると、殴られて顔の形が変わってしまう…。

ギデオンはファントレイユに
『ゆっくり休め』
と言って武人の彼に戻り、肩を揺らしてその場を去った。

その、ファントレイユも普段良く知る、いかにも猛獣のギデオンの姿に。
どれ程ファントレイユが安堵してるか、ギデオンは知らないだろう…。

ファントレイユは夕べ目にした、ソルジェニーに向ける優しい愛情溢れたギデオンの姿が脳裏に浮かぶ度
『あれは幻影だ』
と呪文を唱えるように呟き続け、自制し続けていたのだから。

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