孤独な王子と美貌の護衛と、近衛連隊の暗殺

あーす。

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出撃準備

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 だがその時は、思ったより早くにやって来た。

“都の西に位置する、大貴族達の居城が立ち並ぶ丘陵地帯に。
大挙して『私欲の民』と皆が呼ぶ、盗賊集団が現れ。
次々に城を襲って金品を奪い、女子供までもが殺された"

その知らせは雷鳴のように宮廷中にとどろき渡り、日頃優雅な大貴族達は、一斉に悲鳴を上げた。

盗賊の数は、一軍に匹敵するほど。

アースルーリンドは周囲をぐるりと高い崖で覆われ、天然の要塞だった。
が、西領地シュテインザイン護衛連隊と南領地ノンアクタル護衛連隊が守護する土地の、中間に位置する崖の裂け目から雪崩れ込まれ。
どちらの護衛連隊が駆けつけるか。
で足踏みしてる間に西領地シュテインザインに侵入。
西領地シュテインザイン護衛連隊が駆けつけた頃には、既に略奪は済んで中央テールズキース領地へと、盗賊の一群は進撃。

結果盗賊らは、王都のある中央テールズキース領地の、西丘陵地帯シャウスワースに陣取った。

一時は中央テールズキース護衛連隊が、出動準備に入った。
ものの、西丘陵地帯シャウスワースは大貴族の居城集う地域。
大臣らは、王都の一大事と。
国王軍であり、国内最強である近衛連隊に、討伐の令を下した。

討伐の実質指揮官は、アデン准将が指名された。
准将は二人。
もう一人が、ギデオン。

アデンはギデオンの叔父の右将軍、ドッセルスキの子飼いのような男で。
ドッセルスキ同様、ギデオンを良く思っていなかった。

左将軍とて、ドッセルスキの推挙を得た…。
およそ戦の出来ぬ能無し男で、相変わらず右将軍、左将軍とも自らの出るまでも無いと、戦場には出てこない腹のようだった。

また、彼らに組みする隊長達も同様。
右、左将軍に習い、揃って出陣を見合わせる。

指揮者アデンだけが、ドッセルスキの息のかかった男ではあったものの。
戦は事実上、ギデオンに任されたも同然だった。

大貴族で成り立っている宮廷では、自分達の家族や財産に降り懸かる狼藉ろうぜきに。
それは、浮き足立っていた。

「(地方の領民が襲われても、顔色すら変えず他人事なのに)」

そう思いながら、ソルジェニーは大騒ぎする宮中で、その知らせを聞く。
もう14になるのだから、戦に顔を出す時期だ。
と侍従頭に知らされ、王子は内心
「(宮中を出られる!)」
と、わくわくしていた。

が、侍従頭がその様子を目にし、釘を差す。
「…貴方は大変大切な御身ですから。
戦に行くと言っても、当然後方です。
刀の触れ合う音など、お聞かせしたら。
私を始め、大臣達がそんな指令を出した男を、打ち首にしますからね…!」

ソルジェニーはそれを聞き、一気に項垂れ、肩を落とした。


牢獄のような、豪華な自室の、扉が開く。
護衛のファントレイユが、迎えに来てくれていた。

ファントレイユは近衛連隊の濃紺の隊服でなく、普段通り、光を弾くグレーの、金や銀の刺繍を縫い込んだ洒落た上着を。
それは素晴らしく、優雅に着こなしていて。

ソルジェニーは戦に行くというのに、うきうきした気分を止められなかった。


ファントレイユと一緒に、近衛の兵舎に向かう途中、城内を抜けていく。
玄関に続く大広間を歩いてると、次々とご婦人達が
「これから戦場にお出かけになると聞きました!」
と、ファントレイユに叫び、その歩を止める。

寄って来た婦人の一人は、どさくさ紛れで彼の手を取り
「どうか家族をお守り下さい…!」
と。
…王子の護衛の彼を、それは困惑させた。
が、女性心理とは恐ろしいもので。
一人が手を取ると、もう一人は腕を絡め。
更に大胆なご婦人は、彼の胸に飛び込んですがりつき、家族の無事を訴えた。

大広間の、続き間やポーチにいたご婦人達は、それを目にするなり。
次々、大挙して押し寄せ来ると、ファントレイユを取り囲む。

…ソルジェニーは盗賊との戦いの前の、女の戦いにもみくちゃにされそうな勢いの。
ファントレイユを呆然と、見守った。

が、婦人らの輪の向こうから、声がする。

「…すまないが、彼の役目は王子の護衛だ。
彼が王子と着かないと、近衛連隊は出発出来ない。
貴方方のご家族をお助けするためには。
まず、を放しては頂けまいか?」

その、低く響く透明で真っ直ぐな男らしい声の主に。
一様にそこにいた全員が、振り返る。

ファントレイユよりも背の高く、それは立派な体格の、姿の美しい白碧の騎士が。
そこに立っていた。

ソルジェニーはあんまり素晴らしいその騎士の容貌に、一瞬見惚れる。

白っぽい金髪を背まで無造作に伸ばし、端正で色白な肌に湖のような青い瞳が浮かび上がる。
彫刻のように整いきった顔立ちの騎士は、静かな迫力ある武人に見えた。

立派なその体を、濃紺の、控えめだが素晴らしい刺繍を施した、それは高価そうな上着で包み込み。
静かで透明な存在感を醸し出している。

…彼は大貴族で。
しかも宮廷で、ギデオン同様女性相手にちゃらちゃらしたりはしない、堅物で有名な剣豪で知られた騎士だったりしたから。
ご婦人達は皆、態度を固くしてその武人の言葉に頷き。
次々にしがみついた手を離し。
ファントレイユを、差し出した。

「……シャッセル。すまない……。
ギデオンが君を、寄越したのか?」

並んで歩き始めると、ファントレイユは自分より頭一つほど背の高い、白碧の騎士を見上げ、そっとささやく。

が、シャッセルはぶっきら棒に告げた。
「…急げ…!」

ソルジェニーはつい、ごつい男にいつも『何様だ』と、どつかれている。
って言ってたファントレイユを思い出し。
…少し、はらはらした。

けどファントレイユは、そっとささやき返す。
「…私を迎えに来るなんて役割は、さぞかし…。
大貴族の君には、不本意なんだろうな…」

がシャッセルは、身分は関係無いような表情で、並んで歩く少し背の低いファントレイユを顔を傾けて見つめ、それを打ち消す。
「…ギデオンの、命令だ」

ファントレイユは心からの忠義をギデオンに捧げるその騎士の思惑に。
解った。と、一つ頷いて見せた。

ソルジェニーにも、読み取れた。
あまり表情の無い、シャッセルの真意を測るため。
ファントレイユがカマかけたのが。

けれどシャッセルはギデオンの命なら。
どんな事でも私情を挟んだりしない。
と言うほど忠誠を捧げているのが。
ソルジェニーにも、分かった。

二人が並ぶと、シャッセルは静かで湖のような、澄んで透明な雰囲気があって。
どう見たって騎士としては、シャッセルの方が素晴らしい体格と容貌にも関わらず。
ファントレイユは優雅で輝きに満ち。
少しもシャッセルに劣ることなく。

…むしろ際だって、美しく見えた。

ソルジェニーは思わず心の中で
「(ファントレイユ…って多分、どこにいても人目を引かずには、いられない人なんだ)」
と感嘆した。


 門を潜り、王城に隣接してる、近衛敷地の中庭に入る。
兵がばたばたと、出立の準備でそこら中走り回っていた。

その向こう、数人の騎士と話をしている、ギデオンの姿が目に映る。

…相変わらず、独特の艶のある豪奢な金髪は、恐ろしく目立つ。
男ばかりの近衛で、彼の整った小顔の、色白で美女のような容姿は。
どこに居ようと、視線が引きつけられた。

彼はいつもの、その瞳と同じ色の。
緑がかった青の控えめな刺繍を刺した、素晴らしく高価そうな上着をその身に付け、堂とした態度と高貴な雰囲気で、一際目立っていたから。
一目で彼が身分高い男だと、周囲の者にも解るほどだった。

が、ギデオンは門から現れた三人を目するなり。
少女のように可憐で、明るい青の高価な上着を…意に添わぬようにぎこちなく着こなし。
付き添うファントレイユに、心元無げに視線を送る可愛いソルジェニーに、心からの笑顔を向ける。

ソルジェニーがそれに気づき、満面の笑みを返すと、ギデオンはそれは満足そうな表情で、使いに出たシャッセルに、ご苦労。と丁寧に頷いた。

ソルジェニーはギデオンのその様子で。
この白碧の騎士の事を、ずいぶん信頼しているんだ。
と思った。

ファントレイユがギデオンを見るなり、ギデオンは笑う。

「…やっぱり、迎えが必要だったんだろう…?」

ファントレイユは珍しく返す言葉が無い様子で。
俯いて、返す言葉を探してた。
ギデオンにはそれが解って、告げる。

「…言い訳はいい…。
それよりソルジェニーと馬車に乗ってくれ…!」

ギデオンが背後に顔を向けると、そこには。
既に用意された、それは豪勢な飾りの付いた王室用馬車が、御者に制され待っていた。

「…君の馬は、誰かに引かせるから。
後からゆっくり、来てくれて構わない。
用意は全部出来ているから、もう乗り込んでくれ。
形式上、近衛の最高指揮官である王子、ソルジェニーが先頭を切らねばならない。
が、その後直ぐ我々が追い抜き、馬車は護衛で囲まれる」

ファントレイユが頷き、ソルジェニーに視線をくべ。
ソルジェニーは頷いて、一緒に馬車に歩き始める。
その背に、ギデオンは言葉を投げた。

「…ファントレイユ」

その声に、ファントレイユは振り向く。
王子も同時に、振り向いた。

「…ソルジェニーを、頼む」

ソルジェニーは思わず、言われたファントレイユを見上げる。
ファントレイユはそれは素晴らしい微笑を浮かべ、ギデオンに頷いて見せた。

ギデオンが王子に寄り添うファントレイユに、心からの信頼を寄せる態度を見せたので。
彼の後ろにいた…見覚えのある黒髪のアドルフェス、銀髪のレンフィールら、他数人の。
大貴族の、立派な取り巻き騎士達の。
顔が一斉に歪む。

シャッセルですら、冴えない表情を見せた。

馬車に乗り込むと、すぐ動き出し。
ファントレイユは揺れる室内で、ソルジェニーに顔を傾け、ささやく。

「ね?
ギデオンは背を向け、見えてないが。
私達の方から、後ろの騎士達の表情が。
それは良く、見えるものでしょう?」

ソルジェニーはそんなファントレイユの言葉に、思わず大きく頷き、笑った。 
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