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園遊会
園遊会 6
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笑ってる自分を、困ったように。
けれど親しみを滲ませ、見つめてくれているオーガスタスを見つめ返し。
マディアンはやっと、本当に聞きたかったことを口にする。
「…では…女性は…?
恋人は…いらっしゃらないの?」
マディアンに突然聞かれ、オーガスタスは目を見開く。
マディアンに、その暖かな茶色の瞳で真摯に見つめられ、オーガスタスは咄嗟横を向くと、こほん。と口に拳当て、咳払う。
そして躊躇いながら…口開く。
「残念ながらその…一晩程度の付き合いの出来る女性は…結構います」
近衛の騎士の、普段の行状を知っていたから、それはある程度予測出来た返答。
けれどマディアンは喰い下がった。
「では、真面目にお付き合いされているお方は?」
その素早い切り返しのような質問に、オーガスタスはまた、目をまん丸にした。
そしてマディアンに屈むと、囁く。
「…私は、近衛では“赤い獅子”と異名を取ってる。
飼い慣らすことの出来ない、野性の野獣。
と言う意味です」
「だからご結婚を、考えてはいらっしゃらないと?」
オーガスタスは途端、悲しそうな瞳をした。
「…結婚する前に、戦って戦場で死ねたら名誉だと…そう考えてるので」
それを聞くなり、マディアンは悲しさを通り越して、腹が立った。
「それが…お望みなの?!
家庭や結婚よりも?!」
オーガスタスは怒ってる貴婦人に屈むと、困ったように告げる。
「近衛に進む以上…その覚悟は必要です。
婦人と真面目に付き合うと…未亡人にするのが気の毒で…。
その、未亡人に、なっても平気な女性とは…結婚を、考える気もありませんから」
すっ…と背を伸ばす、長身の立派な体格の若者に、マディアンはつい、喰ってかかってしまった。
「そんなお覚悟は最低だわ!
命を粗末にされるなんて!!!
妻で無くても…その他にも…貴方の訃報(ふほう)を聞いて、心を痛めるお方はそれは大勢、いらっしゃる筈だわ!!!
絶対!!!」
殆ど感情の制御が出来ず、絶叫に近い言葉で叫びながら…。
マディアンは頬に涙が…再び伝うのを感じた。
オーガスタスは無言で、しまったハンケチを再び…差し出し、マディアンはそれを受け取り涙を拭いながら、すっ…とオーガスタスに、背を向けた。
オーガスタスは…マディアンの予想通り、背を向けた肩に、手を置いて振り向かせたりせず…。
音を殺し、その場から、背を向けてそっと、立ち去って行った。
微かな足音が通り過ぎると、マディアンはオーガスタスのハンケチを握りしめ、頬に涙が伝うに任せた。
“初めてマトモに、お喋りしたばかりのお方なのに…!”
言い訳は、無駄だった。
マディアンはもう、認めるしか無かった。
その、ほぼ初対面の相手の、命が失われることが耐えられないくらい、彼に、焦がれてしまってることを…。
そして、分かってしまった。
彼が自分に対し、好意を持っていること。
けれど武人であるために…真剣な付き合いをするような女性を…。
未亡人にするのが忍びがたくて、避けていることも。
“どうしよう…!”
答えはとうに、分かってた。
始まったばかりの想い。
だからさっさと、諦めるべきなんだと。
けれど涙は止まらない。
“…どうしよう…”
それしか、方法が無いと分かってしまっても。
彼女は自分の心が、オーガスタスに深く囚われてしまっていることに動揺しきった。
だって、彼の事を諦める。
それを受け入れられていたら。
涙は止まるはず。
けれど涙は頬を伝い続ける。
自分の体なのに、どうしたって制御できなかった。
そして、思い知った。
オーガスタスを乞う心を、断ち切れる自信がない自分を。
帰りの馬車の中で、口を聞かない長女、マディアンを、次女、三女そして四女の妹達は無言で見つめた。
「…どうしたの?
お姉様…」
四女アンローラが小声で尋ねる。
次女エレイスが囁き返す。
「シェダーズ様に、愛想を尽かされたとか?」
三女ラロッタは、即時却下する。
「お姉様がお帰りになる。
と聞いた時のシェダーズ様のがっかりされた顔からして、それは無いわ」
“じゃあ、何で?”
三人姉妹はそっ…と、窓辺で通り過ぎる景色を見つめる、長女マディアンを揃って伺った。
“…もう…あのお方は二度と…私に心を開かれないばかりか、関心すら持たれないわ…”
マディアンは自覚すら無く恋に落ち、一瞬で恋が終わったことをぼんやり感じながら、放心した。
こんな事って無いわ。
いつかは恋に落ちる。
そうは思ってた。
けど、こんなのって無いわ。
マディアンはまだ、背の高い…誰よりも立派な体格の…チャーミングにすら見える、屈託の無い笑顔を浮かべ、赤毛で整った小顔の男の姿が脳裏から消えず、心の中で呟き続けた。
“きっととても情のお分かりになるお方だから…私が心配する。
そう思って…。
この先出会っても、きっと距離を取られるに違いないわ…。
ああ私も、ヨーンくらい無神経にぶしつけに、ずかずかと私を避けるオーガスタス様に、突っ込んで行けたら…”
そう、考えるけど、それは出来ない。
と解っていたから…。
目が合い、悲しげに顔を背(そむ)けられたりしたらきっと。
心が凍り付いて、一歩も歩けない。
それに思い当たると、また涙が滴るのを感じた。
「お姉様…!」
「どうなすったの?!」
マディアンは手を差し伸べる妹達に、とうとう我慢出来ずに叫んだ。
「失恋したの!!!」
妹達は呆然(ぼうぜん)。と顔を見合わせる。
「だって…シェダーズ様は?」
「まさか…ギュンター様?!」
「ごめんなさい姉様!
例え姉様でも、ギュンター様は譲れないわ!」
慌てる妹達の質問には答えず、マディアンはそのまま、身を折って泣き続けた。
けれど親しみを滲ませ、見つめてくれているオーガスタスを見つめ返し。
マディアンはやっと、本当に聞きたかったことを口にする。
「…では…女性は…?
恋人は…いらっしゃらないの?」
マディアンに突然聞かれ、オーガスタスは目を見開く。
マディアンに、その暖かな茶色の瞳で真摯に見つめられ、オーガスタスは咄嗟横を向くと、こほん。と口に拳当て、咳払う。
そして躊躇いながら…口開く。
「残念ながらその…一晩程度の付き合いの出来る女性は…結構います」
近衛の騎士の、普段の行状を知っていたから、それはある程度予測出来た返答。
けれどマディアンは喰い下がった。
「では、真面目にお付き合いされているお方は?」
その素早い切り返しのような質問に、オーガスタスはまた、目をまん丸にした。
そしてマディアンに屈むと、囁く。
「…私は、近衛では“赤い獅子”と異名を取ってる。
飼い慣らすことの出来ない、野性の野獣。
と言う意味です」
「だからご結婚を、考えてはいらっしゃらないと?」
オーガスタスは途端、悲しそうな瞳をした。
「…結婚する前に、戦って戦場で死ねたら名誉だと…そう考えてるので」
それを聞くなり、マディアンは悲しさを通り越して、腹が立った。
「それが…お望みなの?!
家庭や結婚よりも?!」
オーガスタスは怒ってる貴婦人に屈むと、困ったように告げる。
「近衛に進む以上…その覚悟は必要です。
婦人と真面目に付き合うと…未亡人にするのが気の毒で…。
その、未亡人に、なっても平気な女性とは…結婚を、考える気もありませんから」
すっ…と背を伸ばす、長身の立派な体格の若者に、マディアンはつい、喰ってかかってしまった。
「そんなお覚悟は最低だわ!
命を粗末にされるなんて!!!
妻で無くても…その他にも…貴方の訃報(ふほう)を聞いて、心を痛めるお方はそれは大勢、いらっしゃる筈だわ!!!
絶対!!!」
殆ど感情の制御が出来ず、絶叫に近い言葉で叫びながら…。
マディアンは頬に涙が…再び伝うのを感じた。
オーガスタスは無言で、しまったハンケチを再び…差し出し、マディアンはそれを受け取り涙を拭いながら、すっ…とオーガスタスに、背を向けた。
オーガスタスは…マディアンの予想通り、背を向けた肩に、手を置いて振り向かせたりせず…。
音を殺し、その場から、背を向けてそっと、立ち去って行った。
微かな足音が通り過ぎると、マディアンはオーガスタスのハンケチを握りしめ、頬に涙が伝うに任せた。
“初めてマトモに、お喋りしたばかりのお方なのに…!”
言い訳は、無駄だった。
マディアンはもう、認めるしか無かった。
その、ほぼ初対面の相手の、命が失われることが耐えられないくらい、彼に、焦がれてしまってることを…。
そして、分かってしまった。
彼が自分に対し、好意を持っていること。
けれど武人であるために…真剣な付き合いをするような女性を…。
未亡人にするのが忍びがたくて、避けていることも。
“どうしよう…!”
答えはとうに、分かってた。
始まったばかりの想い。
だからさっさと、諦めるべきなんだと。
けれど涙は止まらない。
“…どうしよう…”
それしか、方法が無いと分かってしまっても。
彼女は自分の心が、オーガスタスに深く囚われてしまっていることに動揺しきった。
だって、彼の事を諦める。
それを受け入れられていたら。
涙は止まるはず。
けれど涙は頬を伝い続ける。
自分の体なのに、どうしたって制御できなかった。
そして、思い知った。
オーガスタスを乞う心を、断ち切れる自信がない自分を。
帰りの馬車の中で、口を聞かない長女、マディアンを、次女、三女そして四女の妹達は無言で見つめた。
「…どうしたの?
お姉様…」
四女アンローラが小声で尋ねる。
次女エレイスが囁き返す。
「シェダーズ様に、愛想を尽かされたとか?」
三女ラロッタは、即時却下する。
「お姉様がお帰りになる。
と聞いた時のシェダーズ様のがっかりされた顔からして、それは無いわ」
“じゃあ、何で?”
三人姉妹はそっ…と、窓辺で通り過ぎる景色を見つめる、長女マディアンを揃って伺った。
“…もう…あのお方は二度と…私に心を開かれないばかりか、関心すら持たれないわ…”
マディアンは自覚すら無く恋に落ち、一瞬で恋が終わったことをぼんやり感じながら、放心した。
こんな事って無いわ。
いつかは恋に落ちる。
そうは思ってた。
けど、こんなのって無いわ。
マディアンはまだ、背の高い…誰よりも立派な体格の…チャーミングにすら見える、屈託の無い笑顔を浮かべ、赤毛で整った小顔の男の姿が脳裏から消えず、心の中で呟き続けた。
“きっととても情のお分かりになるお方だから…私が心配する。
そう思って…。
この先出会っても、きっと距離を取られるに違いないわ…。
ああ私も、ヨーンくらい無神経にぶしつけに、ずかずかと私を避けるオーガスタス様に、突っ込んで行けたら…”
そう、考えるけど、それは出来ない。
と解っていたから…。
目が合い、悲しげに顔を背(そむ)けられたりしたらきっと。
心が凍り付いて、一歩も歩けない。
それに思い当たると、また涙が滴るのを感じた。
「お姉様…!」
「どうなすったの?!」
マディアンは手を差し伸べる妹達に、とうとう我慢出来ずに叫んだ。
「失恋したの!!!」
妹達は呆然(ぼうぜん)。と顔を見合わせる。
「だって…シェダーズ様は?」
「まさか…ギュンター様?!」
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例え姉様でも、ギュンター様は譲れないわ!」
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