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庭園
園遊会 6
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オーガスタスがマディアンを室内へと導くと、お茶の席のその場では、妹達のみならず母親まで混じってギュンターを取り囲み、皆で口々に彼に言葉を投げかけながら、彼の美貌に皆揃って、うっとり見惚れていた。
が、その時だった。
けたたましく扉を叩く音。
近衛の使者は開ける女中を手でさっ!と横にどけ、室内にずかずかと入って来ては、オーガスタスとギュンターの姿を見つけ、厳(きび)しい顔で告げる。
「隣国、ヨーデル二世の敵群(てきぐん)が東領地ギルムダーゼンの山岳に見えたと!
至急近衛の出動が要請(ようせい)された!」
ギュンターはオーガスタスを見る。
オーガスタスは一気に顔を引き締め、ギュンターに低く抑えた声で、ぼそり…と告げる。
「飛ばすぞ」
ギュンターは頷き、二人は揃って、直ぐ背を向け扉に駆け出す使者の背を追い、早足で歩き出し…けれど、オーガスタスはマディアンに振り返る。
不安げな表情の彼女を見ながら、安心させるような大らかな笑顔を浮かべ、言った。
「…戻り次第、お顔を拝見に参ります」
マディアンだけで無くその場の女性達は、オーガスタスのその笑顔に安心感が広がって、一辺に笑顔を輝かせる。
アンローラがギュンターの背に、必死で叫ぶ。
「ギュンター様も、お怪我にはお気を付けになって!!!」
ギュンターは振り向くと、女性達が思わず見とれてしまう程の美貌で、けれど男らしく表情を引き締め、ぼそり。と呟く。
「…俺に出動がかかるかどうかも…不明だ」
言って、横のオーガスタスに見つめられ、再び振り向き、言葉を足す。
「軽い怪我は戦闘に行かなくてもしてる」
くるり。と背を向けるギュンターに、オーガスタスがまだ、目を向けて促す。
ギュンターは俯き、また振り向き、今度は叫んだ。
「怪我したら、這(は)ってでもここに来て手当てして貰う!」
背を向けオーガスタスと共に部屋を出るその背後に、女性達の
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
と叫ぶ嬌声が響き渡った。
屋敷を出て、繋いである馬へ二人揃って歩き出す。
が、オーガスタスの視線をまだ、感じ、ギュンターはぼやく。
「もっとちゃんと言え。
と目で睨んだのは、お前だ」
「あれは言い過ぎだ」
オーガスタスに即座に返され、ギュンターは顔を下げた。
途中、使者の馬を抜き、置き去りにする勢いで、オーガスタスは愛馬、ザハンベクタを飛ばす。
赤毛の大きな元、野生馬は、ギュンターですら愛馬を急かし、歯を食い縛って何とか追いすがるものの。
使者を三馬身、一気に引き離し、それでもまだ、速度を上げる。
ギュンターは一馬身遅れたところで、背後の使者に怒鳴る。
「新兵は!
出撃命令は、まだなんだな?!」
使者は二馬身遅れながら、怒鳴り返す。
「命令があるまで、待機!!!」
ギュンターが、速度を落とそうとした時、オーガスタスがかなり前を、かっ飛びながら怒鳴る。
「…だがディアヴォロスは、お前も作戦の頭数に入れてる!!!
部屋でディアヴォロスの、使者を待て!!!」
ギュンターは速度を落としかけ…それを聞くなり軽く拍車かけ、愛馬、ロレンツォに囁く。
「悪いが、あいつの後を追え」
ロレンツォは歯を剥いて
「ブヒヒヒ…」
と不満げに呻き、が、迫力の大馬、ザハンベクタの後を追い始めた。
近衛宿舎の大門を潜り、ギュンターは一番手前の、新兵宿舎の馬場に駆け込む。
オーガスタスは中央の広い道を一直線に、左将軍補佐官邸へと突っ走って行った。
ギュンターが宿舎内に入ると、兵達でごったがえしていた。
ギュンターは兵達を掻き分け、ともかく自室を目指す。
階段を上がり、廊下の最奥。
辿り着いて、部屋の扉を開けようとした時。
向かいの扉が開き、二つ年上の近衛で知らぬ者はいない、美丈夫の猛者、ディンダーデンが姿を見せて、人の行き交う廊下に、首を振る。
「今度は大規模になる。
と、皆家族に使者を送ってる」
ギュンターは、頷く。
「今度は隣国も、かなり本気な様子か?」
ディンダーデンは戸口で腕組みし、言葉を返す。
「大軍だそうだからな。
もう、道を作って崖をよじ登ってきてる。
上から岩を落とすとかで、力自慢に招集がかかってる」
ギュンターはディンダーデンを、じっ…と見た。
長身と言われてる自分と、ほぼ変わらぬ身長。
肩幅は自分より広い。
「あんたは…行かないのか?」
ディンダーデンはフイ…と顔を背け、呻く。
「俺が振るのは剣だけだ。
岩なんて落とす役、誰が引き受けるか」
ギュンターはドアノブを握り、扉を開けながら尋ねる。
「…だが、招集はかかったんだろう?」
「誰に言ってる」
扉を開けると同時、ギュンターは背後に振り向いた。
青の流し目。
自分よりは男らしい。
が、美麗な顔立ち。
その顔が、綺麗なままなのは。
桁外れに強いからだ。
ディンダーデンはどの勢力にも付かず、誰もが手を焼く、御しがたい剣豪。
あまりにも強いので貴重な戦力な為、誰も文句が言えず。
我が儘し放題。
ギュンターは、ぼそり…と告げる。
「だが俺には、多分近い内に招集がかかる。
岩を落とす方じゃ、無いだろうが…」
ディンダーデンは頷く。
「俺はまだ、どの部隊で俺を引き受けるか。
協議中らしいが…」
ギュンターは昨夜左将軍官邸で、左将軍派と右将軍派の准将達が、笑顔で押しつけ合ってるのを、目撃していた。
ので、顔を下げて感想を述べる。
「…自由気ままで良いな」
「だろう?」
ディンダーデンは美麗な笑顔を残し、背を向け扉を閉めた。
「…まだ居て良いの?!」
中から女の声がし。
ディンダーデンの返答が聞こえた。
「明日までは大丈夫だ」
ギュンターは肩を竦め、自室に戻った。
が、その時だった。
けたたましく扉を叩く音。
近衛の使者は開ける女中を手でさっ!と横にどけ、室内にずかずかと入って来ては、オーガスタスとギュンターの姿を見つけ、厳(きび)しい顔で告げる。
「隣国、ヨーデル二世の敵群(てきぐん)が東領地ギルムダーゼンの山岳に見えたと!
至急近衛の出動が要請(ようせい)された!」
ギュンターはオーガスタスを見る。
オーガスタスは一気に顔を引き締め、ギュンターに低く抑えた声で、ぼそり…と告げる。
「飛ばすぞ」
ギュンターは頷き、二人は揃って、直ぐ背を向け扉に駆け出す使者の背を追い、早足で歩き出し…けれど、オーガスタスはマディアンに振り返る。
不安げな表情の彼女を見ながら、安心させるような大らかな笑顔を浮かべ、言った。
「…戻り次第、お顔を拝見に参ります」
マディアンだけで無くその場の女性達は、オーガスタスのその笑顔に安心感が広がって、一辺に笑顔を輝かせる。
アンローラがギュンターの背に、必死で叫ぶ。
「ギュンター様も、お怪我にはお気を付けになって!!!」
ギュンターは振り向くと、女性達が思わず見とれてしまう程の美貌で、けれど男らしく表情を引き締め、ぼそり。と呟く。
「…俺に出動がかかるかどうかも…不明だ」
言って、横のオーガスタスに見つめられ、再び振り向き、言葉を足す。
「軽い怪我は戦闘に行かなくてもしてる」
くるり。と背を向けるギュンターに、オーガスタスがまだ、目を向けて促す。
ギュンターは俯き、また振り向き、今度は叫んだ。
「怪我したら、這(は)ってでもここに来て手当てして貰う!」
背を向けオーガスタスと共に部屋を出るその背後に、女性達の
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
と叫ぶ嬌声が響き渡った。
屋敷を出て、繋いである馬へ二人揃って歩き出す。
が、オーガスタスの視線をまだ、感じ、ギュンターはぼやく。
「もっとちゃんと言え。
と目で睨んだのは、お前だ」
「あれは言い過ぎだ」
オーガスタスに即座に返され、ギュンターは顔を下げた。
途中、使者の馬を抜き、置き去りにする勢いで、オーガスタスは愛馬、ザハンベクタを飛ばす。
赤毛の大きな元、野生馬は、ギュンターですら愛馬を急かし、歯を食い縛って何とか追いすがるものの。
使者を三馬身、一気に引き離し、それでもまだ、速度を上げる。
ギュンターは一馬身遅れたところで、背後の使者に怒鳴る。
「新兵は!
出撃命令は、まだなんだな?!」
使者は二馬身遅れながら、怒鳴り返す。
「命令があるまで、待機!!!」
ギュンターが、速度を落とそうとした時、オーガスタスがかなり前を、かっ飛びながら怒鳴る。
「…だがディアヴォロスは、お前も作戦の頭数に入れてる!!!
部屋でディアヴォロスの、使者を待て!!!」
ギュンターは速度を落としかけ…それを聞くなり軽く拍車かけ、愛馬、ロレンツォに囁く。
「悪いが、あいつの後を追え」
ロレンツォは歯を剥いて
「ブヒヒヒ…」
と不満げに呻き、が、迫力の大馬、ザハンベクタの後を追い始めた。
近衛宿舎の大門を潜り、ギュンターは一番手前の、新兵宿舎の馬場に駆け込む。
オーガスタスは中央の広い道を一直線に、左将軍補佐官邸へと突っ走って行った。
ギュンターが宿舎内に入ると、兵達でごったがえしていた。
ギュンターは兵達を掻き分け、ともかく自室を目指す。
階段を上がり、廊下の最奥。
辿り着いて、部屋の扉を開けようとした時。
向かいの扉が開き、二つ年上の近衛で知らぬ者はいない、美丈夫の猛者、ディンダーデンが姿を見せて、人の行き交う廊下に、首を振る。
「今度は大規模になる。
と、皆家族に使者を送ってる」
ギュンターは、頷く。
「今度は隣国も、かなり本気な様子か?」
ディンダーデンは戸口で腕組みし、言葉を返す。
「大軍だそうだからな。
もう、道を作って崖をよじ登ってきてる。
上から岩を落とすとかで、力自慢に招集がかかってる」
ギュンターはディンダーデンを、じっ…と見た。
長身と言われてる自分と、ほぼ変わらぬ身長。
肩幅は自分より広い。
「あんたは…行かないのか?」
ディンダーデンはフイ…と顔を背け、呻く。
「俺が振るのは剣だけだ。
岩なんて落とす役、誰が引き受けるか」
ギュンターはドアノブを握り、扉を開けながら尋ねる。
「…だが、招集はかかったんだろう?」
「誰に言ってる」
扉を開けると同時、ギュンターは背後に振り向いた。
青の流し目。
自分よりは男らしい。
が、美麗な顔立ち。
その顔が、綺麗なままなのは。
桁外れに強いからだ。
ディンダーデンはどの勢力にも付かず、誰もが手を焼く、御しがたい剣豪。
あまりにも強いので貴重な戦力な為、誰も文句が言えず。
我が儘し放題。
ギュンターは、ぼそり…と告げる。
「だが俺には、多分近い内に招集がかかる。
岩を落とす方じゃ、無いだろうが…」
ディンダーデンは頷く。
「俺はまだ、どの部隊で俺を引き受けるか。
協議中らしいが…」
ギュンターは昨夜左将軍官邸で、左将軍派と右将軍派の准将達が、笑顔で押しつけ合ってるのを、目撃していた。
ので、顔を下げて感想を述べる。
「…自由気ままで良いな」
「だろう?」
ディンダーデンは美麗な笑顔を残し、背を向け扉を閉めた。
「…まだ居て良いの?!」
中から女の声がし。
ディンダーデンの返答が聞こえた。
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