アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第三章『三人の子供と騎士編』

アイリスがとても答えにくい質問を続けざまにする子供達

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 テテュスの部屋の大きな寝台に、三人は寝ころぶ。
一緒に付いて来ていたアイリスが、テテュスの横に寝ころび、三人は詰めてアイリスを迎えた。
ファントレイユがそっと言った。
「…ギュンター、元気無かった?」
レイファスは頷く。
テテュスも隣のレイファスを見ると、小声で言う。
「…やっぱり、ローランデに思い切り殴られたのかな?」

アイリスは、レイファスに顔を向けるテテュスの横顔を見つめ、大した観察力だ。と、感心した。

ファントレイユが、一番端から二人を覗き込んでささやく。
「…ローランデにされたの?あの頬の痣」
レイファスが、頷いた。
「そうだと思う。
多分ローランデが講義出来なかったのはギュンターのせいで、ローランデはその事を凄く、怒ったんじゃない?」
ファントレイユが目を、ぱちくりさせた。
テテュスが、レイファスの横からそっとささやく。
「…そのせい?
君がいつか…言ってたみたいに、ギュンターが凄く…ヘタだったからローランデが嫌がったんじゃ、なくて?」

アイリスはついテテュスの言葉に、ファントレイユみたいに目を、ぱちくりさせた。
「…どうかな。アイリス。一番上手なのはやっぱり、ゼイブンだと思う?」

レイファスに聞かれた時。
アイリスは、もしかして自分は凄く、まずい状況に居るのかも。と、気づいて青冷めた。
務めて平静に対処しようと思ったけど、男同志だとどうするとか、具体的な話に成ったらどうしよう。と心臓が炙り出した。
ファントレイユがアイリスの様子に気づく。
「…やっぱりアイリスでも、言いにくい事?」
テテュスがアイリスに振り向くと、そっと言った。
「これだけは、教えて。ギュンターはうんと、ヘタだと思う?」

アイリスは吐息を吐き出すと、鎧を脱いだ。
「…剣の扱い同様、激しいとは聞くけど。
ヘタだという噂は聞かないし、第一そんな評判が立ったら絶対モテないのに、ギュンターはいつでもモテモテだから」
テテュスが途端、レイファスに言った。
「じゃあそのせいじゃ、無いんだ」
レイファスの眉が、寄った。
「…でも、ローランデは結構ギュンターが好きみたいなのに、嫌がってる理由が解らないよね?」
アイリスは大きな吐息を吐く。
「それ、間違ってもローランデには聞かないと、約束してくれる?」
レイファスが途端振り向いて、アイリスににっこり微笑んだ。
「アイリスが理由を教えてくれたら、聞かない」
ファントレイユにも同様に見つめられ、アイリスは唾を、飲み込んだ。

「…美味しいお菓子だと、ついしなきゃならない事を放り出して、食べてしまうものだ。
ローランデはここに君達の講習に来ていて、ギュンターと仲良く過ごす為に来ていない」

テテュスが、頷く。が、アイリスはぎょっとした。
「テテュス。意味が、解る?」
「つまり、ギュンターが凄く格好良くて素敵で、二人切りに成ると離れられなくなって講習が出来なくなるから、避けてるって事?」
アイリスは音が鳴る程、ごくん。と唾を飲み込んだ。
テテュスのみならず、ファントレイユにもレイファスにも視線を向けられ、アイリスは続けた。
「ローランデは君達の面倒を見ると、左将軍と約束をし、ここに来ていて。
ローランデは人との約束を、破った事が、無い」
ファントレイユが顔を揺らした。
「じゃあ、ギュンターはローランデがいいって言わないのに、一緒に居ようと無理に誘って、ローランデの約束を破ったから…。
怒られてて…しょげてるの?」
アイリスは頷いた。

子供達は約束を厳しく護るローランデに感心し、だが同時にギュンターに、同情を寄せまくってため息を三人同時に、吐いた。
三人が布団を掛け、潜り込み始め、アイリスがほっとした時、ファントレイユがつぶやく。
「どうして、ギュンターが僕らの前でしょうと言ったら、ローランデは怒ったのかな?」

アイリスは、飛び上がりそうに成った。
テテュスも欠伸を噛み殺しながら、言う。
「何をする気だったの?ギュンター」
レイファスが布団を被ると、言った。
「君たち、見た事無いの?」
レイファスの両端に居た、ファントレイユもテテュスもが身を起こしてレイファスを覗き込み、同時に言った。
「何を?」

レイファスは両脇のファントレイユとテテュスを交互に見つめると、つぶやく。
「ファントレイユは領地から出して貰えないし、テテュスは…アリルサーシャといつも一緒だったから…見かける機会が無いんだ」
ファントレイユの眉が思い切り寄る。
「だから!何を?」
テテュスが思い出したように、布団を口に、当てた。
「女中と下男が、するような事?」
アイリスはぎょっとし、レイファスは頷く。
「多分、それ」

言われてテテュスは、甲斐間見た情事の最中の下男と女中を、ギュンターとローランデにすり替えて想像してしまい、暫く、固まった。
ファントレイユがとうとう怒鳴った。
「僕に解るように教えて!」
レイファスとテテュスは途端、アイリスに振り向く。
どんな時でも冷静さを崩さないと自分を評価した連中は、絶対間違ってると、その時アイリスは思った。
こんなピンチを迎えたのは、激戦の時ですら、無い。

アイリスは思い切り俯くと、ささやくように言った。
「その時に成れば自然に解るもので…」
テテュスはさっ!とファントレイユに向き直ると、アイリスを助けた。
「大人は、する時は恥ずかしく無いのに、子供に説明する時は恥ずかしがるんだ」
アイリスはもっと深く、俯いた。

その時扉が開き、ゼイブンが顔を見せた。
一斉に見つめられ、ゼイブンは
「よぉ…!」
と唸った。
ゆっくり入って来て、寝台の一番端に横たわるファントレイユの、直ぐ側の椅子に座る。
が、顔を上げるとアイリスを含め、子供達に一斉に凝視されてつぶやく。
「俺が来て、まずかったか?」
アイリスが心から、言った。
「その、反対だ」
ゼイブンが、眉を寄せた。

「ゼイブンはいつもしてるから、知ってるでしょう?」
ファントレイユにあどけなく言われ、ゼイブンの眉が寄った。
「いつも、してる?」
アイリスがそっと、ささやいた。
「…情事の事だ」
ゼイブンは、ああ…。と頷いた。
「それが、どうした?」
ファントレイユがいきなり、目をきらきらさせた。
「ギュンターが凄く上手で、レイファスもテテュスも別の人がしてるのを見てるのに僕だけ、見た事無いんだ」
ゼイブンはそれを聞き、項垂れた。
「…そうだな。普通は親がしてるのを、つい見ちまう事故が、よくある筈なのに」
そして、切なげにため息を、吐く。
アイリスは眉を寄せてそっと言った。
「君の家庭事情はどうでもいい。
早くファントレイユの質問に、答えてやってくれ」
ゼイブンは顔を上げてファントレイユを見る。
が、ファントレイユが先に、口を開いた。
「僕の前だと、セフィリアは絶対、嫌って言う?」
「お前の前どころか…。
滅多に、いいと言わない」
レイファスが素朴に、尋ねた。
「ゼイブンはとっても上手なのに、駄目なの?」
ゼイブンはまた、ため息を吐いた。
「セフィリアはアイリスの寝室で見てから、あれを、とても不潔な行為で、子供が欲しいから仕方無くするだけで、不潔な事が大嫌いだから、楽しもうとしない」
ゼイブンがもの凄く、がっかりして見え、皆が言葉を控えた。

テテュスが、そっと言った。
「ディングレーもローフィスも楽しいと思ってるみたいだけど、当然ギュンターも、そう思ってるよね?」
ゼイブンはアイリスをそっくり小さくしたようなテテュスを見つめて、肩をすくめた。
「だろう?じゃなきゃ、誘ってくる相手と取っかえひっかえ、したりしないだろうな」
テテュスがレイファスを見、レイファスも聞いた。
「じゃ、ローランデとも、楽しいと思ってる?」
「当たり前だろう!惚れた相手とすると、最高だもんな!」

アイリスはゼイブンが、どうして子供達がその質問をしてるのか気づかぬ鈍さに兜を脱いだ。

「具体的に、どうするの?!」
自分だけ見た事の無いファントレイユがとうとうじれて尋ね、アイリスは思い切り知らん振りを、決め込んだ。
が、ゼイブンは顔色も変えずに怒鳴った。
「ギュンターがどうやるかなんて、知るか!
女相手は、言ったろう?溜まったもんを、出すんだって」
レイファスが、とうとう聞いた。
「女の人には出す場所があるんでしょ?
じゃ、男同志はどうするの?」
ゼイブンは肩をすくめた。
「さあな。男同志は色々やり方があるし、女の中に出すと子供が出来るが、出すだけなら幾らでも方法がある。
ギュンターがどうしてるかは知らない。
だが話に聞くと凄いらしいから、多分いいんだろうな。
年頃に成ったら、相手して貰え」

途端、無責任男の発言に、アイリスが思わず怒鳴った。
「ゼイブン!」
が、ゼイブンは肩をすくめる。
「仕方無いだろう?
同じオムレツを作っても、料理人が違うと味が変わるのと一緒だ。
食ってみないと、解らないだろう?」
三人は感心したように、ゼイブンに頷いた。
レイファスが、顎に手を乗せて聞く。
「それって、世間の評判はアテに成る?」
「成る。たまに、わざと自分の嘘の評判を、人に頼んで言いふらして貰う奴もいるから、注意は要るが…。
まあ、ギュンターとそこのアイリスは、固(かた)いな」
三人はまたアイリスを見つめ、感心したように、頷いた。

テテュスがつぶらな瞳でアイリスに聞く。
「どうして上手に成ったの?」
アイリスが思い切り言い淀み、ゼイブンが答えた。
「そりゃ、大勢の相手といっぱいしたら上手く成る。
剣と同じだ。
いつも同じ相手ばかりだと、その相手には勝てても別の相手だと勝手が違って、負けるだろう?
たくさんの相手とすればする程、色んな事に対応出来るし、技が増えると相手も喜ぶ」

皆が、ふーん。とつぶやき、アイリスが慌てて言った。
「もう、お休み。私もゼイブンも出ていくから」
三人はもの凄く、つまらなそうにアイリスを見るが、アイリスはさっさとゼイブンにきつい目を向け、部屋を出るよう促した。


扉を閉めるとゼイブンがそっと、安堵の吐息を洩らして俯くアイリスに、屈んで告げる。
「連中の将来に、大事な事だろう?」
アイリスはチラと伺うゼイブンを見つめるが、静かに怒鳴った。
「それは解るが、子供達が興味深々で、迂闊にローランデにギュンターとの事を質問したりして、これ以上ローランデを刺激したく無い」

ゼイブンは、そうか。と、下を向き、はーっと、吐息を吐きだした。
「…ローランデは育ちが、いいんだな?」
アイリスが、頷く。
「…つまりセフィリアも同様だから、俺を獣で下品だと、寝室に入れないのかな?」
アイリスが、つぶやいた。
「多分、そうだ」
ゼイブンは思い切り俯くともう一度、はーっと大きな吐息を、吐きだした。

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