アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第五章『冒険の旅』

巨大ワニとオーガスタス

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 ローフィスが、頭を小刻みに左右に振って、尚も穴から這い出そうとする巨大ワニの、黄色に黒の縦筋の入ったでかい目がギョロリと自分に向くのを、意識する。

頭の横幅が穴の大きさにぎりぎりで、満足に身動き出来ないようだ。
が、そこを抜け出したら真っ先に首を真横に振って、このでかい口に、ばくん!
と最初に飲み込まれるのは、どうやら確実に、自分だった。
それで、巨大な白い皮の向こうの親友に、そっと尋ねる。
「…どうやって、殺す?」

ディングレーも唸った。
「奴の皮は、剣を通すのか?」
ギュンターも同意する。
「…ぶ厚そうだな………」

オーガスタスが大声でシェイルに怒鳴る。
「縄を、俺に戻してくれ!」

ごん!ごん!
ワニは頭の横を、狭い穴の上下左右に散々ぶつけ、なかなかそれ以上は進めない様子で、前足を滑らせながら穴の縁を幾度も引っ掻き、それでも這い出そうとし続ける。

シェイルが、レイファスと一緒に水に散らばる縄を両手で、必死に掻き集める。
ローフィスが松明を揺らし、振り向く。
「早くしてくれ!」
ローランデも手を出して一気に束ね、胸に抱え上げて水を大量に滴らせ、ギュンターに急いで手渡し、ギュンターはそれを受け取るとオーガスタスに向かって放った。

ばさっ!

ローフィスは白い巨大ワニの向こうの、縄を受け取りながら端を探って手に持つ親友の、表情を変えない顔を見つめ、呆けてささやく。
「このとてつもなくでかい口を、縛る気なのか?」
オーガスタスは無言で頷き、ギュンターとディングレーはつい、顔を見合わせた。

縄で丸い輪を作り、引くと締まるように括り、オーガスタスはその端を、近くに居るディングレーで無く、その向こうの斜め前にいるギュンターに向かって、放り投げた。
ギュンターは落ちた水溜まりからその輪を拾い上げ、軽く引いて縄の輪を広げ、ワニの上顎の上に通そうと機会を伺う。
が、幾度か揺れる口先に手を出しかね、仕方成しに近づき、機会を覗(うかが)う。

だがワニはギュンターの目前でいきなりその大きな口をぱっくり開け、いびつに並ぶ歯を曝し、突然ギュンターに襲いかかる。

レイファスはつい、叫びそうになった。
が、ギュンターはさっ!と金髪を振り、胸を開けて後ろに飛びすさび、襲いかかる口を避けた。

ディングレーが冷や汗を滴らせてギュンターの様子を伺いながら、奴がギュンターに向くその隙に、水溜まりに落ちている縄を、頭を下げてそっと近づき、拾い上げようとした途端。
ワニは思い切り首を振り、その大きな口を開けたまま、屈むディングレーめがけ、襲いかかる。

今度はファントレイユが、叫びそうになった。
がディングレーは素早く縄を掴むと、一気に後ろに跳ね飛ぶ。

ゼイブンも内心冷や汗ものだったが、思わず二人のその素早さに拍手を送りそうになった。
最も、考えたくも無いが、もし自分だったら命可愛さに、彼ら同様とんでも無く素早く、逃げるに違いなかったが。

ギュンターが縄を、ワニの開いた口の上に高く放り投げ、いきなり手を、叩く。

パパン!

ワニはいきなりギュンターに振り向く。
その都度、穴の上にワニはごん!ごん!と頭をぶつけ、岩壁を崩し広げながら、それでも口を大きく開け、僅かに動く頭を激しく左右に振り、獲物のギュンターとディングレーを追う。

ワニの口が左のギュンターに向いた隙に、ディングレーは手に持つ縄を、ワニに近寄りながら、下顎のその下へと潜らせた。

見ている皆が一斉にディングレーの、その素早さと勇敢さに感心した。
が、いきなりワニは振り向き、ディングレーは後ろに跳ね飛んだものの、水溜まりの中に尻餅を付いた。

どっぷん!

ワニはまだ穴につかえ、それ以上は前へは進めず、尻餅ついたディングレーの目前で、その大きく開いた口を、揺らすように左右に振っている。
ディングレーは一瞬、視界をそのでかい口に全部塞がれ、絶句したものの。
見つめるオーガスタスに視線を振る。
オーガスタスは一つ頷くと、持っていた縄の端を、手繰り始める。

ローフィスが見ていると、ワニはじりじりとその短い足で縁を引っ掻き、少しずつ、穴から這い出そうとするものの。
オーガスタス寄りの方の頭は、完全に穴から抜け出てはいたが、穴いっぱいに斜めに傾き。
ギュンター側に口を開けたまま、とうとう完全につっかえた。
揺さぶるが、それ以上にっちもさっちも行かない巨大ワニを目にし、ローフィスは思わず叫ぶ。
「奴は今、これ以上は動けないぞ!」

オーガスタスが向こう側で、頷くように頭を振るのが見える。
ディングレーが腰を上げながら見ていると、オーガスタスはワニのいびつに開いた口の、その上顎に足を乗せ、いきなり手繰り寄せた縄を手前に、力一杯引く。

ギュンターは自分に向くでかい口が、オーガスタスが縄を引き絞る度、揺れながらも少しずつ、閉じ始めるのを見た。

が、がっ!と引き絞られる縄を、ワニは跳ね除けるように再び口を大きく開き、ギュンターが慌ててもう一歩、後ろに下がる。

ギュンターの背後に居たシェイルは、咄嗟にレイファスの手を引き、もっと後ろに下がり。
ローランデはオーガスタスとローフィス、シェイルの馬達の前にに立つと、手を振って促し、馬達を来た道の方へと下げた。

先頭近くに居たテテュスとアイリスは、オーガスタスが開いたワニの幅広の上顎から、かけた足をどかさず、もう片足を地にしっかり付いて、再び巨大ワニの口と力比べをする様を、息を飲んで見守る。

アイリスらの背後で、ゼイブンは再びワニの口が、閉まり始めるのを見た。
が、縄が切れるんじゃないかとはらはらする。
ゼイブンの斜め後ろに居たディンダーデンは、ギュンターとディングレーの後ろにいたローランデの馬に駆け寄ると、手綱を握り引き、慌ててアイリスらの背後に避難させる。

ディングレーはオーガスタスが引く、縄の先を水溜まりから拾い上げ、ギュンターに向かって放る。
が縄の端は、開けたワニの口の、真下に落ちる。

「最悪だ…」
ゼイブンのつぶやきに、ギュンターはそれでもワニのいびつな尖った歯の並ぶ、下顎の真下の黒い水溜まりに落ちた縄を見つめ続ける。
ローランデが慌てて束ねた三頭の馬の手綱をシェイルの手に押しつけ、駆け出す。

レイファスは思わず、その素早いローランデの動作にシェイルを見上げると、シェイルは無言で親友が駆け去る背を、見つめていた。

「ギュンター!囮に成ってくれ!」
ローランデは叫んで、ギュンターの左斜め後ろに付く。
ギュンターは振り向き、一つ、頷くと。
大きく口を開けたワニに、腰を屈めそっと近づいて行く。

ローフィスがそのギュンターの勇気に感嘆し、だがあまりにも危険なので思わず叫ぶ。
「避けろよ!」

そして真横のワニの目に、松明の火をさっと、翳した。
熱かったのか、ワニは身震いして口を左右に大きく揺らし、上下に開けられるだけ思い切り大きく、口を開けた後。
一瞬で、ばくん!
と閉じたその機を見逃さず、オーガスタスは縄を一気に手前に引き、ローランデは頭を下げ、駆け込んで縄の端を掴むと、振り向き後ろに下がって縄をギュンターに手渡す。

ワニの口は閉じたまま、オーガスタスの締めた縄に縛り上げられ、ギュンターはローランデから受け取った縄を素早く手繰り寄せて、ワニの頭上高くオーガスタスの方へと、放り投げた。

ばさっ!と水溜まりに落ちる縄の端を、ディングレーは屈んで駆け寄り、掴むとオーガスタスの左背面に回り、オーガスタス同様、思い切り後ろに引いた。

ワニは二重に縄が食い込み、いきなり口が閉じたまま開かないのに思い切り抗って、その長い口を揺すりまくった。
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