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第五章『冒険の旅』
最終対戦と離脱
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ローフィスの狙うワニのでかい目が再び現れ、ローフィスが松明を翳そうとした途端。
ワニは思い切り、その突き出た長い口をローフィスの方へ、ぶん!と振り回す。
ギュンターもローランデも、同時に薙ぎ払う勢いの巨大な口を、目を見開いて咄嗟に後ろに飛び避け、でかい口は遮るもの無く岩壁のローフィスめがけ、速度を増し、叩き着ける勢いで襲いかかる。
「ローフィス!」
レイファスはついその巨大な口の激しい振りに叫んでしまい、アイリスはさっと駆け出し、でかい口を追いかけ、咄嗟に頭近くのいびつな歯が覗くその歯茎へと、松明の炎を突き刺した。
ぐわっ!!!
赤黒い明かりが、ワニの口へと突き刺すアイリスの、シルエットを巨大に映し出す。
が、ワニはいきなりその長い口を、アイリス目がけてぶん回す。
がっっっっっ!!!
明かりは突然大きく揺らめいて、アイリスはその巨大な口に薙ぎ倒され、横へと派手に吹っ飛び、テテュスは叫びそうになった。
が咄嗟にディングレーが駆け寄って、水しぶきを上げながら右足着き、背後に倒れかかるアイリスの腕を掴んで引き上げ、背に腕を差し入れて支えた。
アイリスがディングレーに支えられ、左手に揺れる松明を持ったまま屈む身を起こし、立つ姿を見て。
ファントレイユとテテュスは、ほっとして、同時に吐息を漏らした。
「…当たってないぞ…あれは」
ディンダーデンが言い、ゼイブンも唸った。
「吹っ飛ばされたように見えるが。
あれは、避けてるな」
ディングレーがアイリスを覗き込み、後ろに振り向いて怒鳴る。
「ちゃんと、掠ってる!」
ゼイブンが唸る。
「やっぱり直撃は避けてやがる」
ゼイブンはディンダーデンと目を合わせると、二人はそれぞれ肩をすくめ合った。
ファントレイユが、不安そうにゼイブンを見上げる。
「だって…大きな口がアイリスを、飛ばしたように見えた!」
ディンダーデンが一つ、吐息を吐く。
「俺は奴が、斬られた。と思った瞬間、相手を殺すのを、嫌という程見た」
ゼイブンもまるで『俺もだ』と言う様に大きく頷き、唸る。
「…周囲を欺くのが習性の、奴の得意技だな」
大人達のそのつぶやきに、ファントレイユはテテュスと、目を見交わし合った。
がその隙にローフィスは、狙い澄ましたワニの目に、松明を一気に突き刺す。
ぐわっ!!!
どごん!どごん!
ワニはもんどりうって巨体を盛大に波打たせ、全身這い出しかけた穴の縁を、ギザギザに切り取って崩しながら、派手に体を揺らし、ごん!ごん!と穴の縁にその巨体をぶつけながらも、再び後退を始める。
ローフィスが叫ぶ。
「消えるぞ!」
アイリスが長い栗毛を跳ね上げて振り向き、頷く。
ローフィスが赤く濁る目に松明を思い切り押し当て、ワニが跳ねるのに合わせ追いかけながら、押しつけ続けた。
じゅっ!
ワニの白い体が派手に波打つ中、二つあった明かりの一つが消え、仄赤い明かりの中、白い皮のでかい体は盛大に波打ち、穴の左右にその身をぶつけながらも後退して行く。
ごん!ごん!
その度、周囲を取り巻く皆が、派手に振り回される閉じた口を避け、跳ね飛ぶ。
オーガスタスが剣を、その赤黒い明かりの中銀色にぎらりと光らせ、ゼイブンが短剣を突き刺したもう片方の目を、力任せに思い切り突き刺した。
ぅぎゃぃやぁぁぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………!!!
くぐもるワニの唸りは、地を揺るがすように洞窟内に響き渡り、ワニは縛られた長い口を上下に派手に揺すり、次いでワニの皮に足を当て突き刺した剣を引き抜こうとしているオーガスタスへ向かって、ぶん!と音を立てて振った。
ファントレイユが絶叫する。
「避けて!オーガスタス!」
オーガスタスは襲いかかる巨大な口が近づくのを見、力任せに剣を一気に引き抜いて後ろに吹っ飛び、水溜まりの上に音を立てて倒れ込む。
ずしゃっ!
どごっ!
オーガスタスが水溜まりの上に転がるのと、ほぼ同時。
ワニの口はオーガスタスが立っていた岩壁に音を立てて激突し、ワニはメチャクチャに口を振り回し、ローフィスは慌てて後ずさりしてギュンターにその背を助けられ、ディングレーもアイリスも背を向けて逃げ出した。
ぎゃぁう!ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
レイファスはその巨体が暴れ、唸る様子を見て、地面が揺れてる。
とシェイルの腕の中で感じ、シェイルの足元をつい見つめ、シェイルは縛られたワニのデカい口がこっちに向く度、レイファスを抱いたまま、右に左に逃げていた。
だがくねる白い体が徐々に、それでもごん!ごん!と穴に体をあちこちぶつけながらも、後退して行く様を皆が無言で見送った。
沈黙は、長かった。
後少し、の所でワニは穴から揺れる鼻先を突き出し、なかなか消えて行かない。
ギュンターが、水溜まりに上体起こすオーガスタスを見つめ、つぶやく。
「穴に入って行って、止めを刺すか?」
ゼイブンが唸った。
「あんな狭い場所じゃ、岩肌に叩きつけられるのがオチだぞ!
オマケに暗くて視界が効かない!」
ディンダーデンも頷く。
「謹んで、見送ってやろう」
オーガスタスは水溜まりの上に座り、立てた膝に肘を乗せ、肩をすくめ唸る。
「あんなデカイの相手じゃ、普通の剣で、止(とど)めはさせない。
折れるのがオチだしな…」
ローフィスは馬に戻って、もう一本ある松明に素早く火を付け、その鼻先がそれでも少しずつ、後退して小さくなって行くのを見つめた。
オーガスタスがアイリスを見上げ、叫ぶ。
「帰りもここを、通るか?!」
アイリスも気づいて叫び返す。
「いや!別を通る」
ローフィスが松明を掲げて消えて行く鼻先を見つめ、呻く。
「…奴は餓死するんじゃないのか?」
オーガスタスがそれを聞き、水溜まりの中から腰を上げながら思い切り肩をすくめる。
「な訳無いだろう。
尖った岩にでも擦りつけて、切っちまうに決まってる」
ローフィスもギュンターも、そしてアイリスまでもがそれを聞き、顔を思い切り下げた。
「…じゃまた這い出して、ここを通る人間を襲いかねないな………」
アイリスの言葉に、オーガスタスは顔を上げる。
「殺るにはこんな剣じゃ、時間がかかるし危険もデカい。
本気で仕留める気なら、専用の剣を巨大に作らせ、それを扱える力自慢の男を数名、用意しないと」
ゼイブンとローフィスが見守る中、松明を掲げたアイリスは俯き、頷く。
「この旅が終わった後、手配する」
オーガスタスは頷くと、奴のすっかり消えた穴が盛大に崩れ、大きく広がるのを、吐息混じりに見つめた。
「もう…出て来ない?」
ファントレイユのか細い声がし、ローフィスもディングレーも穴を見つめた後、オーガスタスに振り向く。
ローフィスがそっと親友オーガスタスに、尋ねる。
「どう思う?」
ギュンターが口を開き、言葉にする前に。
ディンダーデンが怒鳴った。
「とっとと馬に乗って、おさらばしようぜ!」
ローランデは無言で顔を揺らし、愛馬に近寄って轡を掴み、皆それぞれが、ばらばらと一斉に、自分の馬に駆け寄った。
テテュスは近寄るアイリスにそっと手を伸ばし、胸に濃い栗色の波打つ髪を垂らすアイリスを迎え、見上げて尋ねる。
「背か腹を、打った?」
アイリスは心配げに見上げるテテュスに視線を落とすと、零れるように笑ってささやく。
「ちょっとお腹を、掠っただけだ」
テテュスはそれでもアイリスの腹に、そっと手を乗せる。
「…痛い?」
アイリスはちょっと考えるように首を傾げ、言った。
「昔ギュンターに殴られた時の方が、十数倍も痛かった」
レイファスがローフィスの馬の前に乗せられ、振り向いて思わず尋ねる。
「ギュンターが、殴ったの?」
ギュンターは手綱を引きながら、俯いて顔を揺らす。
ローランデの視線を背後に感じ、慌てて振り向き、言った。
「俺が殴ろうとした奴の前に、あいつがいきなり現れるから…!
あれは事故だ!」
ローランデの見つめる青い瞳からは疑惑が消えず、ギュンターは更にしどろもどる。
「だから…!あいつを殴ろうと拳を振ったんじゃ、ない!」
オーガスタスはずぶ濡れの自分の衣服の滴を払い、唸った。
「…殴る素振りすら見せず、いきなりで。
思い切り、腹に入ってたな…」
ゼイブンはアイリスの横に並ぶと、ぼそりと言った。
「ギュンターに思い切り殴られて生きてるなんて、あんた丈夫な腹してるな…!」
アイリスは俯き顔を揺らす。
「避けようが無いし、真正面から突き刺すから。
腕で庇う事も出来なかった」
ギュンターはいきなりアイリスに振り向くと、怒鳴った。
「だが瞬間反撃したろう!
俺の顔目がけて!」
アイリスは金髪を振って怒鳴るギュンターに向くと、恨めしげに呻く。
「避けた癖に………!」
ディンダーデンが肩をすくめた。
「顔はな。だが肩に思い切り入ったろう?
あの後暫く、ギュンターは肩が捻れず、体ごと振り向いてた」
アイリスが目を見開く。
「…効いてたのか?」
ギュンターは目を剥くと怒鳴った。
「自分の拳を過小評価するな!」
ローフィスが松明を揺らして馬に跨り、ぼそりとささやく。
「本当にもう、出て来ないだろうな?」
その声に、皆一斉に慌てて馬に跨ると、アイリスの騎乗を待たず次々に拍車を掛け始め、アイリスはテテュスをさっと抱え馬に乗せると、後ろに跨り様拍車をかけ、先頭へと躍り出る。
が背後の皆が無言の圧力で
『もっと速度を上げろ!』
と思い切り馬を飛ばし、せっつくので。
アイリスは手綱を波打たせ、速度を思い切り上げた。
ワニは思い切り、その突き出た長い口をローフィスの方へ、ぶん!と振り回す。
ギュンターもローランデも、同時に薙ぎ払う勢いの巨大な口を、目を見開いて咄嗟に後ろに飛び避け、でかい口は遮るもの無く岩壁のローフィスめがけ、速度を増し、叩き着ける勢いで襲いかかる。
「ローフィス!」
レイファスはついその巨大な口の激しい振りに叫んでしまい、アイリスはさっと駆け出し、でかい口を追いかけ、咄嗟に頭近くのいびつな歯が覗くその歯茎へと、松明の炎を突き刺した。
ぐわっ!!!
赤黒い明かりが、ワニの口へと突き刺すアイリスの、シルエットを巨大に映し出す。
が、ワニはいきなりその長い口を、アイリス目がけてぶん回す。
がっっっっっ!!!
明かりは突然大きく揺らめいて、アイリスはその巨大な口に薙ぎ倒され、横へと派手に吹っ飛び、テテュスは叫びそうになった。
が咄嗟にディングレーが駆け寄って、水しぶきを上げながら右足着き、背後に倒れかかるアイリスの腕を掴んで引き上げ、背に腕を差し入れて支えた。
アイリスがディングレーに支えられ、左手に揺れる松明を持ったまま屈む身を起こし、立つ姿を見て。
ファントレイユとテテュスは、ほっとして、同時に吐息を漏らした。
「…当たってないぞ…あれは」
ディンダーデンが言い、ゼイブンも唸った。
「吹っ飛ばされたように見えるが。
あれは、避けてるな」
ディングレーがアイリスを覗き込み、後ろに振り向いて怒鳴る。
「ちゃんと、掠ってる!」
ゼイブンが唸る。
「やっぱり直撃は避けてやがる」
ゼイブンはディンダーデンと目を合わせると、二人はそれぞれ肩をすくめ合った。
ファントレイユが、不安そうにゼイブンを見上げる。
「だって…大きな口がアイリスを、飛ばしたように見えた!」
ディンダーデンが一つ、吐息を吐く。
「俺は奴が、斬られた。と思った瞬間、相手を殺すのを、嫌という程見た」
ゼイブンもまるで『俺もだ』と言う様に大きく頷き、唸る。
「…周囲を欺くのが習性の、奴の得意技だな」
大人達のそのつぶやきに、ファントレイユはテテュスと、目を見交わし合った。
がその隙にローフィスは、狙い澄ましたワニの目に、松明を一気に突き刺す。
ぐわっ!!!
どごん!どごん!
ワニはもんどりうって巨体を盛大に波打たせ、全身這い出しかけた穴の縁を、ギザギザに切り取って崩しながら、派手に体を揺らし、ごん!ごん!と穴の縁にその巨体をぶつけながらも、再び後退を始める。
ローフィスが叫ぶ。
「消えるぞ!」
アイリスが長い栗毛を跳ね上げて振り向き、頷く。
ローフィスが赤く濁る目に松明を思い切り押し当て、ワニが跳ねるのに合わせ追いかけながら、押しつけ続けた。
じゅっ!
ワニの白い体が派手に波打つ中、二つあった明かりの一つが消え、仄赤い明かりの中、白い皮のでかい体は盛大に波打ち、穴の左右にその身をぶつけながらも後退して行く。
ごん!ごん!
その度、周囲を取り巻く皆が、派手に振り回される閉じた口を避け、跳ね飛ぶ。
オーガスタスが剣を、その赤黒い明かりの中銀色にぎらりと光らせ、ゼイブンが短剣を突き刺したもう片方の目を、力任せに思い切り突き刺した。
ぅぎゃぃやぁぁぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………!!!
くぐもるワニの唸りは、地を揺るがすように洞窟内に響き渡り、ワニは縛られた長い口を上下に派手に揺すり、次いでワニの皮に足を当て突き刺した剣を引き抜こうとしているオーガスタスへ向かって、ぶん!と音を立てて振った。
ファントレイユが絶叫する。
「避けて!オーガスタス!」
オーガスタスは襲いかかる巨大な口が近づくのを見、力任せに剣を一気に引き抜いて後ろに吹っ飛び、水溜まりの上に音を立てて倒れ込む。
ずしゃっ!
どごっ!
オーガスタスが水溜まりの上に転がるのと、ほぼ同時。
ワニの口はオーガスタスが立っていた岩壁に音を立てて激突し、ワニはメチャクチャに口を振り回し、ローフィスは慌てて後ずさりしてギュンターにその背を助けられ、ディングレーもアイリスも背を向けて逃げ出した。
ぎゃぁう!ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
レイファスはその巨体が暴れ、唸る様子を見て、地面が揺れてる。
とシェイルの腕の中で感じ、シェイルの足元をつい見つめ、シェイルは縛られたワニのデカい口がこっちに向く度、レイファスを抱いたまま、右に左に逃げていた。
だがくねる白い体が徐々に、それでもごん!ごん!と穴に体をあちこちぶつけながらも、後退して行く様を皆が無言で見送った。
沈黙は、長かった。
後少し、の所でワニは穴から揺れる鼻先を突き出し、なかなか消えて行かない。
ギュンターが、水溜まりに上体起こすオーガスタスを見つめ、つぶやく。
「穴に入って行って、止めを刺すか?」
ゼイブンが唸った。
「あんな狭い場所じゃ、岩肌に叩きつけられるのがオチだぞ!
オマケに暗くて視界が効かない!」
ディンダーデンも頷く。
「謹んで、見送ってやろう」
オーガスタスは水溜まりの上に座り、立てた膝に肘を乗せ、肩をすくめ唸る。
「あんなデカイの相手じゃ、普通の剣で、止(とど)めはさせない。
折れるのがオチだしな…」
ローフィスは馬に戻って、もう一本ある松明に素早く火を付け、その鼻先がそれでも少しずつ、後退して小さくなって行くのを見つめた。
オーガスタスがアイリスを見上げ、叫ぶ。
「帰りもここを、通るか?!」
アイリスも気づいて叫び返す。
「いや!別を通る」
ローフィスが松明を掲げて消えて行く鼻先を見つめ、呻く。
「…奴は餓死するんじゃないのか?」
オーガスタスがそれを聞き、水溜まりの中から腰を上げながら思い切り肩をすくめる。
「な訳無いだろう。
尖った岩にでも擦りつけて、切っちまうに決まってる」
ローフィスもギュンターも、そしてアイリスまでもがそれを聞き、顔を思い切り下げた。
「…じゃまた這い出して、ここを通る人間を襲いかねないな………」
アイリスの言葉に、オーガスタスは顔を上げる。
「殺るにはこんな剣じゃ、時間がかかるし危険もデカい。
本気で仕留める気なら、専用の剣を巨大に作らせ、それを扱える力自慢の男を数名、用意しないと」
ゼイブンとローフィスが見守る中、松明を掲げたアイリスは俯き、頷く。
「この旅が終わった後、手配する」
オーガスタスは頷くと、奴のすっかり消えた穴が盛大に崩れ、大きく広がるのを、吐息混じりに見つめた。
「もう…出て来ない?」
ファントレイユのか細い声がし、ローフィスもディングレーも穴を見つめた後、オーガスタスに振り向く。
ローフィスがそっと親友オーガスタスに、尋ねる。
「どう思う?」
ギュンターが口を開き、言葉にする前に。
ディンダーデンが怒鳴った。
「とっとと馬に乗って、おさらばしようぜ!」
ローランデは無言で顔を揺らし、愛馬に近寄って轡を掴み、皆それぞれが、ばらばらと一斉に、自分の馬に駆け寄った。
テテュスは近寄るアイリスにそっと手を伸ばし、胸に濃い栗色の波打つ髪を垂らすアイリスを迎え、見上げて尋ねる。
「背か腹を、打った?」
アイリスは心配げに見上げるテテュスに視線を落とすと、零れるように笑ってささやく。
「ちょっとお腹を、掠っただけだ」
テテュスはそれでもアイリスの腹に、そっと手を乗せる。
「…痛い?」
アイリスはちょっと考えるように首を傾げ、言った。
「昔ギュンターに殴られた時の方が、十数倍も痛かった」
レイファスがローフィスの馬の前に乗せられ、振り向いて思わず尋ねる。
「ギュンターが、殴ったの?」
ギュンターは手綱を引きながら、俯いて顔を揺らす。
ローランデの視線を背後に感じ、慌てて振り向き、言った。
「俺が殴ろうとした奴の前に、あいつがいきなり現れるから…!
あれは事故だ!」
ローランデの見つめる青い瞳からは疑惑が消えず、ギュンターは更にしどろもどる。
「だから…!あいつを殴ろうと拳を振ったんじゃ、ない!」
オーガスタスはずぶ濡れの自分の衣服の滴を払い、唸った。
「…殴る素振りすら見せず、いきなりで。
思い切り、腹に入ってたな…」
ゼイブンはアイリスの横に並ぶと、ぼそりと言った。
「ギュンターに思い切り殴られて生きてるなんて、あんた丈夫な腹してるな…!」
アイリスは俯き顔を揺らす。
「避けようが無いし、真正面から突き刺すから。
腕で庇う事も出来なかった」
ギュンターはいきなりアイリスに振り向くと、怒鳴った。
「だが瞬間反撃したろう!
俺の顔目がけて!」
アイリスは金髪を振って怒鳴るギュンターに向くと、恨めしげに呻く。
「避けた癖に………!」
ディンダーデンが肩をすくめた。
「顔はな。だが肩に思い切り入ったろう?
あの後暫く、ギュンターは肩が捻れず、体ごと振り向いてた」
アイリスが目を見開く。
「…効いてたのか?」
ギュンターは目を剥くと怒鳴った。
「自分の拳を過小評価するな!」
ローフィスが松明を揺らして馬に跨り、ぼそりとささやく。
「本当にもう、出て来ないだろうな?」
その声に、皆一斉に慌てて馬に跨ると、アイリスの騎乗を待たず次々に拍車を掛け始め、アイリスはテテュスをさっと抱え馬に乗せると、後ろに跨り様拍車をかけ、先頭へと躍り出る。
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