アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第六章『光の里での休養』

金髪の猛虎の精鋭配下、の呼び名だが実情はアシュアークの子守してるスフォルツァとラフォーレン

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 オーガスタスは廊下を進む目前に二人の騎士の姿を見つけ、それが右将軍アルフォロイス傘下、アシュアークの右腕、それに左腕と呼ばれる手練れの二人だと気づく。



前を歩くディングレーが歩を止め、横のディンダーデンも習い、足を止めて口開く。

「…珍しいな。
お姫様抜きの、お伴二人の登場は」

ディングレーはチラ…。と横の大柄なディンダーデンの、態度のデカさに一つ吐息を吐いた。
確かに彼より年下の若造二人だったが、右将軍傘下の者として、今は抜きん出て目立つ存在だ。

さらりとした真っ直ぐな栗毛を肩で滑らせ、ラフォーレンが俯く。
横の、手入れの良く行き届いた艶やかな癖のある栗毛を肩に流したスフォルツァは大貴族らしく顔を上げ、ディンダーデンを睨め付ける。

「アシュアークがここに、来ている筈だ」

ディングレーは後ろのオーガスタスに振り向いたし、オーガスタスは視線を受けて肩を竦める。
ディンダーデンは、やっぱり『若造』扱いで態度を改める様子なく、素っ気無く告げる。

「俺が隠してる。とでも言いたいのか?」

ディンダーデンの、その威圧的な態度に、スフォルツァはますます張り合うように顎を持ち上げ、手を剣の柄に置き胸を張る。

それを目にずい!と胸を張り片手を腰に、肩を揺らし威嚇するディンダーデンの横で、ディングレーは
『無駄な努力を………』
とスフォルツァの張り合う若い姿に、吐息混じりに視線を床に落とす。

スフォルツァは尊大に、その色男に告げる。
「彼にそう、頼まれなかったか?
監視が直登場するから、匿ってくれ。と」

ディンダーデンはその青の流し目をくべ、フン。と鼻で笑う。
「…だったらどうした?
匿ってくれ。と言うのを探し出して引き擦って行くか?」

オーガスタスがとうとうディンダーデンの腕をぐい!と掴み後ろに引かせて前へ出、右将軍配下の出世頭の若造に視線を落とす。

目前に、赤毛で大柄な左将軍補佐の姿を見つけ、スフォルツァは途端、恐縮するように態度を改めた。

ディングレーはぶすっ垂れるディンダーデンに、小声でささやく。
「…奴は大貴族の中でも、王族に仕える高位の貴族だ」
「だからなんだ!俺も大貴族だ!」

ディンダーデンの言葉に、ディングレーは即座に返す。
「だってあんたは…儀礼的に、マトモな大貴族じゃない
それに比べ、ヤツは生粋だ」

ディンダーデンはかっか来て、黒髪の王族に唸った。
「はっきり言え!臭わせるなんざお前らしくないぞ!!」

ディングレーは吐息混じりにスフォルツァに視線を向け、ささやく。
「…身分至上主義で、自分より地位の低い相手に敬意を払われないと、ムキに成る。
若造なんだ。可愛い虚勢。と、大目に見てやれないのか?」

ディンダーデンはやっぱりブスっ垂れていて、ディングレーは若造と張り合う大人げない駄々っ子の様な年上の男の顔を見、
「(ギュンターが苦労する筈だ)」
と俯いた。

オーガスタスは相手が自分に敬意を払い、発言を控えるのを見たが、素っ気なく告げる。
「アシュアークはここに来てない。
だから奴(振り向いて、ディンダーデンを親指で指す)だろうが、匿えない」

途端、ラフォーレンとスフォルツァは当たりがはずれた。とばかり、呆けたように首を回し、互いの目を見つめあう。
ディンダーデンがそれを見て唸った。
「首輪付けとけ!
逃げられて困るなら!」

スフォルツァとラフォーレンは暇(いとま)の挨拶代わりに左将軍補佐へ、軽く頭を下げ、二人同時に背を向けた。
が、ディンダーデンの言葉にスフォルツァが即座に振り向く。

ラフォーレンがその様子に口を開きかけ、がスフォルツァは断固として言い放った。
「あんたに言われたく無い!
あいつが抜け出す度、あんたにお伺い立てに来る俺達に、こっそり匿ってはすっとぼけ、影であいつと二人で笑ってるんだろう!!!」

ディンダーデンに真っ直ぐ喰ってかかる青いスフォルツァに、オーガスタスは両手を腰につき、俯き、吐息を吐き出す。

ディンダーデンはまたぐい!と胸を張ると笑う。
「そこ迄陰険じゃない。
第一、笑うんならお前の目の前で堂々と笑ってやるさ!
アシュアークの腰を抱いて
『奴はお前とは行かず、俺と居る』
はっきりそう言ってな!
そんな楽しい見物があるのに、どうして匿う必要がある?!」

スフォルツァはとうとう腹を立てて剣の柄に手を添え、身をずい…!と乗り出し、慌てたラフォーレンに肩を掴まれたし、それを目にした途端肩を突き出すディンダーデンの前に、その背をぶつけ入れ、止めたのはオーガスタス。

ディンダーデンが途端、前をそのデカイ背で塞ぐオーガスタスを睨み付ける。
が、オーガスタスも負けない程の野獣の目で睨め返す。

ディングレーが小声でささやく。
「オーガスタスは病み上がりだぞ?」

ディンダーデンはだが、唸った。
「俺のお楽しみの邪魔が出来る程、元気そうだぞ?!」

背後で行列が詰まり、シェイルは肩を助けるローフィスを見たが、ローフィスは取り合う元気は無い。と顔を下げてつぶやく。

「近衛のゴタ付きだろう?」
「管轄外だと、放って置くのか?」

追いついたローランデが、二人の会話を耳に、彼らを追い抜き前へと進む。

尚もスフォルツァは剣の柄に手を掛けたまま、ラフォーレンに掴まれた肩をぐい!と前に迫り出す。

ディンダーデンは真剣にオーガスタスを睨み付け唸る。
「その体で邪魔する気なら、考え直した方が良いぞ。
止めるなら、相手を奴からお前に、変える迄だ」

が、オーガスタスはそのきつい目を崩さない。
ディングレーが慌てて小声でささやく。
「あれだけ暴れて、まだ、喧嘩がしたいのか?!」

ディンダーデンはかっか来て、黒髪の王族に振り向き怒鳴る。
「レッツァディンを沈められず、互角のまま決着が着かなくて寝覚めが最高に悪い!」

が、スフォルツァは両者の間に姿を現す、かつて教練で一年先輩だった端正な騎士、ローランデの姿を見つけると、はっ。と剣を柄から外し、静まる。

ローランデは一触即発の両者と、その二人を諫めるラフォーレン、そしてオーガスタスの様子を見回し、静かにささやく。

「スフォルツァ。
ディンダーデンは確かにギュンターの副隊長で地位こそは低いが、十分尊敬に値する相手だと、私は思うが?」

優しげなローランデにそう言われ、その白面が自分に向くと、恥ずかしい場を見られた。とスフォルツァが頭(こうべ)を垂れる。

ディンダーデンはそれを見て目を丸くしたし、オーガスタスもディングレーもほっとする。

スフォルツァはその剣聖に頭を垂れて尋ねる。
「失礼を、謝罪しろと?」

が、ディンダーデンは即座に怒鳴った。
「いや!
剣の柄に手を添えるのは俺に対しての、最大の賛辞だ!」

「惨事。の間違いだろう…」
ぼそり。とつぶやくオーガスタスのセリフに、ディングレーはこんな場面にも関わらず、思わず吹き出しそうに成った。

ローランデが振り向き、その静かな青の瞳が自分に投げられると、ディンダーデンは仕方なさそうに吐息を吐き出す。
「お前…俺がその目に弱い。と知ってるな。
嫌味な奴だ」

ローランデは笑うと、ディンダーデンに尋ねる。
「若輩の彼からの、謝罪を受けてやってくれないか?」

ディンダーデンはオーガスタスの笑いを含む鳶色の目を、見はしたが憮然、と頷き腕組む。

ローランデの瞳が自分に注がれると、スフォルツァは一礼し頭を下げたままささやく。
「無礼をした。失礼をお詫びする」

がディンダーデンは忌々しげに唸る。
「だからそれは俺に取っては無礼じゃない!」

スフォルツァは真ん中に立つローランデに、困った様に視線を投げる。
「…どう…すれば良いんです?」

ローランデがディンダーデンを見ると、彼はぶすっ垂れて腕を組んだままそっぽ向く。
オーガスタスが、ぶっきら棒にスフォルツァに告げた。
「本心をそのまま言え」

スフォルツァは目を見開いたが、居住まいを正し口を開く。
「本当はあんたに一太刀でも喰らわせて喉の溜飲下げたかったが、そう言う訳にも行かず、残念だ」

ディンダーデンはようやく、頷いた。
「俺もだ」

スフォルツァは素っ頓狂な表情で、ローランデに視線を向ける。
「これが謝罪に成るのか?」

ローランデが困った様にディンダーデンを見つめ、オーガスタスがようやく、朗らかに笑った。
「だが互いの理解を深めたろう?」

スフォルツァは『本当か?』とディングレーを見たが、ディングレーは肩を竦め、ディンダーデンは楽しい悪戯を邪魔された子供みたいにまだ、ふくれっ面をしていた。

ディングレーはその年上の駄々っ子に告げる。
「近衛の仲間に剣を抜くのは御法度だと、知ってるだろう?
幾らあんたが大貴族だってスフォルツァもそうだ。
どっちも相手を傷付けたら処分を免れない」

「…その御法度の筈の仲間と、激しく剣を交えた後だから理性がふっ飛んでるんだ。奴は」

ローフィスの言葉に皆が一斉に、最後尾の彼に振り向く。
ディンダーデンが見つめると、シェイルに肩を支えられたままローフィスも見返す。

「近衛の気に喰わない男を皆叩き切れるんなら、胸が空き、心弾むんだろう?本心は」

ディンダーデンがその青の流し目をローフィスに投げ、唸る。
「レッツァディンに血しぶき上げさせたかったぜ…!
あいつ、思った通りしぶとかったからな!」

シェイルがそれを聞いて俯く。
「どっちも豪速の剣が掠る度、血飛沫(しぶき)飛ばしてたじゃないか…」

ディンダーデンは眉間を寄せ、腕を深く、組み直して怒鳴る。
「あんな雨粒程度が、飛んだ内に入るか!!」

ラフォーレンもスフォルツァもそれを耳に、顔を下げる。
ラフォーレンが顔を上げるとそっと、ローランデにささやく。

「伝え聞いた通り…やったんですか?
ムストレス派と……真剣で?」

ローランデは頷くと、尋ねる。
「アシュアークはそれを聞いて?」

ラフォーレンも頷き返し、答える。
「アルフォロイス殿から書状が。
子細を確かめろと。
この近くの別宅に来ていたので。
だからてっきりここかと………」

そうささやくと、同様の職務を果たす筈の、スフォルツァに顔を向ける。

ラフォーレンからしたらスフォルツァは二つ年上。
その頼りに成る筈の男が、ディンダーデン相手だとこの体たらく。
が、スフォルツァは頑健な態度を崩そうともしない。

確かにディンダーデンが“お姫様”と呼んだ「右の王家」の血を継ぐアシュアークは、右将軍傘下若手の筆頭。
近衛の猛者達の中、小柄とも言える体格だが、その強さは右将軍お墨付きの勇猛さ。

が、戦を離れると強く逞しい剣士の腕に抱かれる事を望む、文字通り“お姫様”に成り下がり、来ても拒まないディンダーデンの元へ出向く事しばしばで、その世話役、自分とスフォルツァはいつも消えたアシュアークの姿を、どこのしとねかと猛者達の間を尋ね歩き、その中にディンダーデンも当然居たから、度々顔を合わした。

だが毎度ディンダーデンは所在を尋ねる自分達にそれはいい態度で、スフォルツァは年上だから。との気遣いはもうあいつには二度としない!

…と前回の顔合わせでもの凄く、憤っていた。

だからこの結果は当然と言えば当然かもしれない…。

ラフォーレンは左将軍補佐オーガスタスと、スフォルツァが良く見知っているローランデが居てくれて、本当に良かった。
と胸を撫で下ろした。

がスフォルツァは散々アシュアークに振り回され、その上こんな嫌味な男のしとね。迄尋ねなきゃならない職務にうんざりしていたから、憮然とした態度を崩さず、低い声で話す。

「ここにはギュンター殿が居る。と聞いた。
それにアイリス。…そして…」
と、ディンダーデンに視線を投げる。

シェイルはアシュアークが名の上がった三人共と、寝ているのを知っていたので呆れた様に顔を背けた。
ローランデが皆の反応を知って、即座に言い返す。
「だが来ていない…。
どこかに、寄り道したんじゃないのか?」

それが言われた途端、ラフォーレンもスフォルツァも顔を見合わせる。
「…もしや………」
「まさか…ここに近い、ムストレス殿の屋敷に殴り込みか?!」

言葉が終わるか終わらない内に背を向け、二人同時に駆け出す。
がその背に、ディングレーが怒鳴った。

「奴が剣を抜こうが、メーダフォーテが早々簡単に応えるか!
王族の奴を傷付けたら幾ら何でも処分だと、ちゃんとメーダフォーテは計算出来てる!
第一お前達の前に出たんなら、とっくの昔に着いてる!
行き違いに成るから、ここで大人しく待て!」

二人は同時に、その黒髪の王族に振り向く。
横でオーガスタスが『そうしろ』と頷き、二人は再び顔を、見合わせた。


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