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第七章『過去の幻影の大戦』
狼を避けるローフィス、ゼイブンと、陵辱されない姫君
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ディングレーは横のシェイルを見る。
正確には、シェイルの入った銀髪の長の若い横顔を。
真っ直ぐの銀の髪。
若く美しい顔立ちでまだ育ちきらぬ青年の肢体を、馬上でしなやかに揺らしている。
が頻りに幾度も、手綱を軽く鞭のように使って馬を急かし、身を倒して全力で疾走してる。
透けて…シェイルの可憐な姿が伺い見える。
不安げに…並走して走る、自分に振り向くのが見える。
「…操れそうか…?」
尋ねると、シェイルが泣き出しそうな声音で囁く。
「…手持ちの短剣が僅かだ…!」
ディングレーは吐息を吐く。
「俺がどっかから、調達してやる…。
俺の入ってるこいつは…俺が持ってるのより余程ごつくていい剣を持ってる」
オーガスタスの、声が頭上で響いた。
「気をつけろ…!
この時代の剣はごつい分、直ぐ折れるらしいからな…!」
途端、ディングレーがぐっ。と喉を詰める。
アーマラスは甲冑を、付け始めていた。
ギュンターが吐息混じりに囁く。
「どうしてそんな史実を知ってる…!」
オーガスタスがぼやく。
「史実じゃない…。
さっき、剣の練習してる連中がそう…ぼやいてた」
ギュンターは少し離れて立つ、背の高く体格良い赤毛の将軍を見つめる。
堂とした姿は、兵達を従えるに足る姿に見える。
一方、アシュアークの入ったアラステスは支度の遅い年長者の長に、腕組みしていらいらと横を向く。
「…アシュアークの声がしない」
ギュンターが言うと、オーガスタスが笑った。
「しゃべれると、分かって無いんだろう」
ゼイブンは必死で手綱を繰る。
「罠に気を付けろ!」
ローフィスの叫びに先を見ると、色違いの草が、盛られてる。
ゼイブンは咄嗟に避ける。
背後の狼が突然どさっ!と穴に落ちた。
ゼイブンはぞっ…とした。
「…やっぱり中には先の尖った竹串が、幾本も頭突き出してるんだろうな…!」
ローフィスが叫ぶ。
「が、狼は減る!」
さっ!とローフィスが避けると、襲いかかる狼が着地、した途端足元の草が崩れ、狼は落ちまいともがいていた。
「…夜行性じゃないのか…!」
ゼイブンの声に、ローフィスも叫び返す。
「森は薄暗いからな…!」
また背後から飛びかかる狼に、ゼイブンは剣を振った。
コト…!
音がして、アイリスは戸口を見つめる。
ノルンディルが、透けてガスパスに浮かび上がって見えた途端、アイリスの瞳がぎん!と眼光を、増す。
ノルンディルはうっ…。と唸った。
『ともかく、ガスパスに任せろ!
アイリスはまだ完全に姫に同化していない。
ガスパスが事を終えれば…お前は抜け出せるから…!』
そう…メーダフォーテに焚きつけられて来たものの…ガスパスが歩を進める度、姫の中に浮かび上がるアイリスの端正な…睨み顔につい、呻く。
『…俺じゃない…。
ガスパスなら、勃つんだ。あの顔を見てないからな…』
が、目を背けようとしても…無駄だった。
ガスパスが避けようとする姫の、華奢な腕を引く。
「恥知らず!
よくもこんな…こんな真似が、出来ますね!」
姫が叫び…ガスパスは頬に姫の平手を喰らう。
ノルンディルは目から火花が散りそうな痛みに、歯を喰い縛った。
姫の平手にアイリスが間違い無く力を乗せて来ていた。
身が、揺れた途端ローランデに負わされた無数の斬り傷が、体中のあちこちで一斉にちくちくと痛みまくり…次いでずきんずきんと鈍く痛み続けてノルンディルは更に歯を、喰い縛る。
華奢な姫を抱き寄せた途端、顔を背ける姫と頬が触れ合い、ノルンディルはアイリスの骨張って冷たい頬の感触から怒気を感じ、ぞっ…。と総毛立つ。
無理だ…!どうしたって…!!!
必死で自分を堪え、ガスパスに従う。
が、真正面から泣きそうな姫の表情に透けた、アイリスの凄まじい形相を見た途端…ノルンディルは思い切り、怯んだ。
ガスパスは姫の頭を後ろからその手で押さえ、唇を、近づける。
泣きそうな姫の表情を、見はしたが、泣き出したいのはこっちだった。
姫の唇に重なる…透けたアイリスの唇に口付ける事を考えると。
咄嗟に、アイリスが業を煮やしガスパスの首に…つまり、自分の首だ。
…に腕を回して来る。
姫の華奢な腕の感触もしたが、がしっ!と首を、掴むように回された、腕の感触は紛うことなくアイリスで、咄嗟にアイリスの方から自分を抱き寄せ口付ける形になって、ノルンディルは呆然とする。
アイリスの、唇の感触。
舌でざらり…と上唇を舐められると、もう逃げようと、体が浮く。
が、ガスパスはのめり込むし、アイリスの腕は力が籠もり、首をぐい!とその腕で引かれ一層…顔が寄る。
自分が恥知らずだったら、泣いていた。
そして直ぐ…股間を掴むアイリスの手の感触。
ノルンディルはもう…総毛立った。
唇を離し、アイリスが殺気を覗かせる妖艶な表情で囁く。
「…どうした…?
勃たないのか?
…剣では強気だが、寝室でこれ程だらしないと、思わなかった…」
言って、再び腕が首を強引に引き寄せ口付けられ…その手が股間をまさぐった時、ノルンディルは自分の手がぴくぴくと蠢くのを感じた。
どんっ!
一メートルも…飛び退(すさ)ってた。
ハア…ハアと、肩で息をする。
姫は安堵の表情だったが、アイリスは嗤っていた。
「…怖いのか?私が?」
ノルンディルは返答せず、脱兎のごとくその部屋を、駆け出した。
ドアを激しく閉め、駆ける。
階段を駆け下りた所でメーダフォーテが入った少年侍従に出会う。
が足が止まらない。
細い手に腕を掴まれ、メーダフォーテが叫んでいた。
「アイリスは怪我を負ってるんだろう?!
君が負わせた!
そうじゃないのか?」
ノルンディルは振り向き、怒鳴ってた。
「なん…何だあいつは…!
自分から顔を寄せ口付けた上!
手で触ろうとした!直にだ!」
「それがどうした…。
それくらい、いつも性奴がしてるだろう?」
「あいつは大貴族だろう…?!
プライドってものが、無いのか?!」
メーダフォーテはノルンディルを見た。
怯え、切っている。
「…性で挑まれた事が無いのか?」
ノルンディルが、両手を激しく振り降ろし叫ぶ。
「どうして寝室で戦える…!
あいつは…アイリスは剣を寝技に変えて…俺に挑む気だ!
どうしてそんな事が、可能かすら解らない!」
メーダフォーテは暫く、呆けた。
「…だって…それが出来るからアイリスなんだ…」
ノルンディルは歯噛みした。
「それが言い訳で通ると思うなよ!」
メーダフォーテが吐息を吐き、囁く。
内心(お膳立てしたお遊びしか、して来なかったからな…)とつぶやいて。
「…ともかく、落ち着け」
「落ち…着けるか!」
「部下にあいつを縛らせて…必要なら傷口を掴め。
左肩だろう?」
「…………………」
だが病み上がりのノルンディルは真っ青で、ぶるぶる震える唇に手を、当てたまま。
「…駄目だ…。
奴の前に俺が痛みで失神する………」
メーダフォーテは呆けた。
これでも歴戦の戦士だ。
「(今迄だって傷が痛もうが、戦って来たじゃないか)」
言おうとした。
が丸っきり想定外の戦いに、痛みはいや増す様子を目に、吐息を吐いて代案を出す。
「…じゃ誰かに代わりに襲わせて…体力を、削ぎ取ってからにするか………?」
ノルンディルはその時ようやく…口を開く。
唇に手を、当てたまま。
「…もう俺を…絡め取ろうとする気力は、無くなるか…?」
メーダフォーテが囁く。
「縛り上げて傷口をさんざ、握ってやったら無く成るさ…!」
ノルンディルは想像したが、怒鳴った。
「ガスパスはどうあっても姫が欲しいんだ!
アイリスに…あいつにもう一度、口づけなんてされたら………」
メーダフォーテはガスパスの首に、ぽつり…ぽつりと赤い発疹が、浮かぶのを見つけてぎょっ!とする。
「…解った…。
解ったから………。
ともかくあいつを別の奴に襲わせ、毒を抜いてからでないと、抱けないんだな?」
ノルンディルは口に手を、当てたまま頷いた。
ディンダーデンは物陰からこっそり…二人の会話を聞いた。
入った、人物の口を使って二人は話していた。
そしてメーダフォーテの入った少年侍従の後を、こっそり付ける。
少年侍従は部下の一人でいかにも色事が得意そうな、体格のいい色男に声を、掛けていた。
「…縛り上げて、左肩を掴みながら入れて揺さぶるようにと…」
色男はその楽しい命令に、笑い混じりに頷いた。
メーダフォーテの少年侍従が姿を消すと、ディンダーデンは塔へ上ろうとする色男の前に、立ち塞がる。
「…タナデルンタス殿」
一応参謀の地位を追われたとは言え、城内にまだ絶大なる影響力のあるその大物に、色男は神妙に頭を垂れる。
ディンダーデンはしめしめ。と内心つぶやいて、おもむろに声を発する。
「…姫の相手は私がする…。
婚約者以外の相手と姫が抱き合うと…毒を出してその相手を殺す。
と言う噂を、確かめたいからな」
色男は一瞬で、楽しい任務が毒味役だったと知って、ぞっ。と青冷める。
そして、タナデルンタスである自分に、命を救われた感謝すら滲ませて、職務を差し出した。
「英知あるタナデルンタス様。
当然、貴方の申し出に、文句はつけません」
ディンダーデンはその男に寄って、こっそり耳打ちする。
「…職務は自分が果たしたと…そう報告、するように…。
無駄な事は言わなくていい」
男はそれは、願ったりだ。と頷く。
生きて毒の無さを証明出来更に、手柄は自分のものだ。
一層の感謝を滲ませ…男はタナデルンタス…自分を見つめるのを見、ディンダーデンはほくそ笑んで男の肩をぽん。と叩いて頷いた。
扉が開くと途端、アイリスは戦闘態勢に入る。
が、奇妙な風体の済ました学者風の青白い顔の整った男前の向こうに、ディンダーデンが透けて見える。
途端、アイリスがふてくされた。
「状況を、見に来たのか?
悪いが君として、体力を削ぎ落とす気は無い」
ディンダーデンが、思い出してくすくすと笑う。
「…ノルンディルの奴、震え上がってたぞ?
刃物を突きつけた訳じゃないんだろう?」
アイリスはぶすっ垂れる。
「口付けただけで震え上がった?
…無礼な男だ」
が、ディンダーデンは目を見開く。
「…剣を…取り上げて突きつけたんじゃなく、股間を潰そうとしたんじゃなくて…あの震えようか?」
アイリスは二度、言った。
「口付けただけだ。
股間には触れたが。
別に全然力は入れて無い」
ディンダーデンは俯いたまま、絶句した。
が、気を取り直し尋ねる。
「…それでどうして震え上がる?」
アイリスは素っ気無く言う。
「こっちが、聞きたい」
「…メーダフォーテが男に命じていた。
縛り上げて左肩を掴み、入れて揺さぶれ。と」
アイリスの、眉間が吊り上がる。
「…余程私が怖いんだな?
…がメーダフォーテはさすがに私の対策に通じている」
そしてディンダーデンを見る。
「…その男がもうじき来る。と警告に来たのか?」
ディンダーデンはようやく、くすくすと笑った。
「もうここに来ている」
アイリスは肩を竦める。
「…で?君が私を縛り上げて揺さぶるのか?」
「…まあ…した事に、してやってもいい…。
あの様子ならノルンディルを落とせるようだしな」
「…せいぜいしおらしく、痛めつけられたフリをするか…」
「礼は後でいい」
そう言ってディンダーデンは扉の前で、腰掛ける。
アイリスは呆れた。
「礼を、要求するのか?」
ディンダーデンは頭を振った。
「…当然だろう?」
正確には、シェイルの入った銀髪の長の若い横顔を。
真っ直ぐの銀の髪。
若く美しい顔立ちでまだ育ちきらぬ青年の肢体を、馬上でしなやかに揺らしている。
が頻りに幾度も、手綱を軽く鞭のように使って馬を急かし、身を倒して全力で疾走してる。
透けて…シェイルの可憐な姿が伺い見える。
不安げに…並走して走る、自分に振り向くのが見える。
「…操れそうか…?」
尋ねると、シェイルが泣き出しそうな声音で囁く。
「…手持ちの短剣が僅かだ…!」
ディングレーは吐息を吐く。
「俺がどっかから、調達してやる…。
俺の入ってるこいつは…俺が持ってるのより余程ごつくていい剣を持ってる」
オーガスタスの、声が頭上で響いた。
「気をつけろ…!
この時代の剣はごつい分、直ぐ折れるらしいからな…!」
途端、ディングレーがぐっ。と喉を詰める。
アーマラスは甲冑を、付け始めていた。
ギュンターが吐息混じりに囁く。
「どうしてそんな史実を知ってる…!」
オーガスタスがぼやく。
「史実じゃない…。
さっき、剣の練習してる連中がそう…ぼやいてた」
ギュンターは少し離れて立つ、背の高く体格良い赤毛の将軍を見つめる。
堂とした姿は、兵達を従えるに足る姿に見える。
一方、アシュアークの入ったアラステスは支度の遅い年長者の長に、腕組みしていらいらと横を向く。
「…アシュアークの声がしない」
ギュンターが言うと、オーガスタスが笑った。
「しゃべれると、分かって無いんだろう」
ゼイブンは必死で手綱を繰る。
「罠に気を付けろ!」
ローフィスの叫びに先を見ると、色違いの草が、盛られてる。
ゼイブンは咄嗟に避ける。
背後の狼が突然どさっ!と穴に落ちた。
ゼイブンはぞっ…とした。
「…やっぱり中には先の尖った竹串が、幾本も頭突き出してるんだろうな…!」
ローフィスが叫ぶ。
「が、狼は減る!」
さっ!とローフィスが避けると、襲いかかる狼が着地、した途端足元の草が崩れ、狼は落ちまいともがいていた。
「…夜行性じゃないのか…!」
ゼイブンの声に、ローフィスも叫び返す。
「森は薄暗いからな…!」
また背後から飛びかかる狼に、ゼイブンは剣を振った。
コト…!
音がして、アイリスは戸口を見つめる。
ノルンディルが、透けてガスパスに浮かび上がって見えた途端、アイリスの瞳がぎん!と眼光を、増す。
ノルンディルはうっ…。と唸った。
『ともかく、ガスパスに任せろ!
アイリスはまだ完全に姫に同化していない。
ガスパスが事を終えれば…お前は抜け出せるから…!』
そう…メーダフォーテに焚きつけられて来たものの…ガスパスが歩を進める度、姫の中に浮かび上がるアイリスの端正な…睨み顔につい、呻く。
『…俺じゃない…。
ガスパスなら、勃つんだ。あの顔を見てないからな…』
が、目を背けようとしても…無駄だった。
ガスパスが避けようとする姫の、華奢な腕を引く。
「恥知らず!
よくもこんな…こんな真似が、出来ますね!」
姫が叫び…ガスパスは頬に姫の平手を喰らう。
ノルンディルは目から火花が散りそうな痛みに、歯を喰い縛った。
姫の平手にアイリスが間違い無く力を乗せて来ていた。
身が、揺れた途端ローランデに負わされた無数の斬り傷が、体中のあちこちで一斉にちくちくと痛みまくり…次いでずきんずきんと鈍く痛み続けてノルンディルは更に歯を、喰い縛る。
華奢な姫を抱き寄せた途端、顔を背ける姫と頬が触れ合い、ノルンディルはアイリスの骨張って冷たい頬の感触から怒気を感じ、ぞっ…。と総毛立つ。
無理だ…!どうしたって…!!!
必死で自分を堪え、ガスパスに従う。
が、真正面から泣きそうな姫の表情に透けた、アイリスの凄まじい形相を見た途端…ノルンディルは思い切り、怯んだ。
ガスパスは姫の頭を後ろからその手で押さえ、唇を、近づける。
泣きそうな姫の表情を、見はしたが、泣き出したいのはこっちだった。
姫の唇に重なる…透けたアイリスの唇に口付ける事を考えると。
咄嗟に、アイリスが業を煮やしガスパスの首に…つまり、自分の首だ。
…に腕を回して来る。
姫の華奢な腕の感触もしたが、がしっ!と首を、掴むように回された、腕の感触は紛うことなくアイリスで、咄嗟にアイリスの方から自分を抱き寄せ口付ける形になって、ノルンディルは呆然とする。
アイリスの、唇の感触。
舌でざらり…と上唇を舐められると、もう逃げようと、体が浮く。
が、ガスパスはのめり込むし、アイリスの腕は力が籠もり、首をぐい!とその腕で引かれ一層…顔が寄る。
自分が恥知らずだったら、泣いていた。
そして直ぐ…股間を掴むアイリスの手の感触。
ノルンディルはもう…総毛立った。
唇を離し、アイリスが殺気を覗かせる妖艶な表情で囁く。
「…どうした…?
勃たないのか?
…剣では強気だが、寝室でこれ程だらしないと、思わなかった…」
言って、再び腕が首を強引に引き寄せ口付けられ…その手が股間をまさぐった時、ノルンディルは自分の手がぴくぴくと蠢くのを感じた。
どんっ!
一メートルも…飛び退(すさ)ってた。
ハア…ハアと、肩で息をする。
姫は安堵の表情だったが、アイリスは嗤っていた。
「…怖いのか?私が?」
ノルンディルは返答せず、脱兎のごとくその部屋を、駆け出した。
ドアを激しく閉め、駆ける。
階段を駆け下りた所でメーダフォーテが入った少年侍従に出会う。
が足が止まらない。
細い手に腕を掴まれ、メーダフォーテが叫んでいた。
「アイリスは怪我を負ってるんだろう?!
君が負わせた!
そうじゃないのか?」
ノルンディルは振り向き、怒鳴ってた。
「なん…何だあいつは…!
自分から顔を寄せ口付けた上!
手で触ろうとした!直にだ!」
「それがどうした…。
それくらい、いつも性奴がしてるだろう?」
「あいつは大貴族だろう…?!
プライドってものが、無いのか?!」
メーダフォーテはノルンディルを見た。
怯え、切っている。
「…性で挑まれた事が無いのか?」
ノルンディルが、両手を激しく振り降ろし叫ぶ。
「どうして寝室で戦える…!
あいつは…アイリスは剣を寝技に変えて…俺に挑む気だ!
どうしてそんな事が、可能かすら解らない!」
メーダフォーテは暫く、呆けた。
「…だって…それが出来るからアイリスなんだ…」
ノルンディルは歯噛みした。
「それが言い訳で通ると思うなよ!」
メーダフォーテが吐息を吐き、囁く。
内心(お膳立てしたお遊びしか、して来なかったからな…)とつぶやいて。
「…ともかく、落ち着け」
「落ち…着けるか!」
「部下にあいつを縛らせて…必要なら傷口を掴め。
左肩だろう?」
「…………………」
だが病み上がりのノルンディルは真っ青で、ぶるぶる震える唇に手を、当てたまま。
「…駄目だ…。
奴の前に俺が痛みで失神する………」
メーダフォーテは呆けた。
これでも歴戦の戦士だ。
「(今迄だって傷が痛もうが、戦って来たじゃないか)」
言おうとした。
が丸っきり想定外の戦いに、痛みはいや増す様子を目に、吐息を吐いて代案を出す。
「…じゃ誰かに代わりに襲わせて…体力を、削ぎ取ってからにするか………?」
ノルンディルはその時ようやく…口を開く。
唇に手を、当てたまま。
「…もう俺を…絡め取ろうとする気力は、無くなるか…?」
メーダフォーテが囁く。
「縛り上げて傷口をさんざ、握ってやったら無く成るさ…!」
ノルンディルは想像したが、怒鳴った。
「ガスパスはどうあっても姫が欲しいんだ!
アイリスに…あいつにもう一度、口づけなんてされたら………」
メーダフォーテはガスパスの首に、ぽつり…ぽつりと赤い発疹が、浮かぶのを見つけてぎょっ!とする。
「…解った…。
解ったから………。
ともかくあいつを別の奴に襲わせ、毒を抜いてからでないと、抱けないんだな?」
ノルンディルは口に手を、当てたまま頷いた。
ディンダーデンは物陰からこっそり…二人の会話を聞いた。
入った、人物の口を使って二人は話していた。
そしてメーダフォーテの入った少年侍従の後を、こっそり付ける。
少年侍従は部下の一人でいかにも色事が得意そうな、体格のいい色男に声を、掛けていた。
「…縛り上げて、左肩を掴みながら入れて揺さぶるようにと…」
色男はその楽しい命令に、笑い混じりに頷いた。
メーダフォーテの少年侍従が姿を消すと、ディンダーデンは塔へ上ろうとする色男の前に、立ち塞がる。
「…タナデルンタス殿」
一応参謀の地位を追われたとは言え、城内にまだ絶大なる影響力のあるその大物に、色男は神妙に頭を垂れる。
ディンダーデンはしめしめ。と内心つぶやいて、おもむろに声を発する。
「…姫の相手は私がする…。
婚約者以外の相手と姫が抱き合うと…毒を出してその相手を殺す。
と言う噂を、確かめたいからな」
色男は一瞬で、楽しい任務が毒味役だったと知って、ぞっ。と青冷める。
そして、タナデルンタスである自分に、命を救われた感謝すら滲ませて、職務を差し出した。
「英知あるタナデルンタス様。
当然、貴方の申し出に、文句はつけません」
ディンダーデンはその男に寄って、こっそり耳打ちする。
「…職務は自分が果たしたと…そう報告、するように…。
無駄な事は言わなくていい」
男はそれは、願ったりだ。と頷く。
生きて毒の無さを証明出来更に、手柄は自分のものだ。
一層の感謝を滲ませ…男はタナデルンタス…自分を見つめるのを見、ディンダーデンはほくそ笑んで男の肩をぽん。と叩いて頷いた。
扉が開くと途端、アイリスは戦闘態勢に入る。
が、奇妙な風体の済ました学者風の青白い顔の整った男前の向こうに、ディンダーデンが透けて見える。
途端、アイリスがふてくされた。
「状況を、見に来たのか?
悪いが君として、体力を削ぎ落とす気は無い」
ディンダーデンが、思い出してくすくすと笑う。
「…ノルンディルの奴、震え上がってたぞ?
刃物を突きつけた訳じゃないんだろう?」
アイリスはぶすっ垂れる。
「口付けただけで震え上がった?
…無礼な男だ」
が、ディンダーデンは目を見開く。
「…剣を…取り上げて突きつけたんじゃなく、股間を潰そうとしたんじゃなくて…あの震えようか?」
アイリスは二度、言った。
「口付けただけだ。
股間には触れたが。
別に全然力は入れて無い」
ディンダーデンは俯いたまま、絶句した。
が、気を取り直し尋ねる。
「…それでどうして震え上がる?」
アイリスは素っ気無く言う。
「こっちが、聞きたい」
「…メーダフォーテが男に命じていた。
縛り上げて左肩を掴み、入れて揺さぶれ。と」
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「…余程私が怖いんだな?
…がメーダフォーテはさすがに私の対策に通じている」
そしてディンダーデンを見る。
「…その男がもうじき来る。と警告に来たのか?」
ディンダーデンはようやく、くすくすと笑った。
「もうここに来ている」
アイリスは肩を竦める。
「…で?君が私を縛り上げて揺さぶるのか?」
「…まあ…した事に、してやってもいい…。
あの様子ならノルンディルを落とせるようだしな」
「…せいぜいしおらしく、痛めつけられたフリをするか…」
「礼は後でいい」
そう言ってディンダーデンは扉の前で、腰掛ける。
アイリスは呆れた。
「礼を、要求するのか?」
ディンダーデンは頭を振った。
「…当然だろう?」
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※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
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