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四年 試合開始後の一騒動
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ざわざわと講堂中央に、体格のいい四年達が雪崩れ込む。
ディングレーは三年見物席に戻りながら、チラ…!と視線を、一際背が高く赤毛を靡かせた、学校一喧嘩の強いその男に走らせる。
オーガスタスは余裕でその長身を見せつけ、自分の真正面の相手に振り向いてた。
さすが四年は慣れたもので、位置に着くと直ぐ互いの相手に向き合い、講師のかけ声を待つ。
が、学校中が見つめるのは唯一人。
中央近くでその頭を突き出すほど長身で目立つ、赤毛のオーガスタス。
広い肩幅。広い胸。長い手足。
そして、引き締まりきった腹。
教練の猛者達は皆、鍛え上げた体格を誇っていた。
が、誰もオーガスタスに勝てる者はいなかった。
リーラスが横のローフィスに囁く。
「お前の相手はちょっと厄介だな」
ローフィスは正面でニヤつく、グーデン配下の一人ジョックソンを見た。
もうじき180に手の届く自分より、更に背の高くガタイのいいその男は、やさ男。とローフィスに見下す笑みを送ってた。
「シェイルにはディアヴォロスが怖くて手が出せないから、俺に嫌がらせするつもりだ」
ローフィスに囁かれ、リーラスは自分の対戦相手、正面に立つラーダルを見、肩を竦めた。
どれだけ頑張っても剣技の才能が無いが、決して諦めず剣を振る、しつこくて面倒な男。
頭がやたらキレて絶対文官が向いてるのに、志願は近衛一直線。
講師共ですら
「近衛に行くなら作戦部門で頭脳を使え」
と勧めるが、本人はあくまで騎士志願だった。
頭がキレるから負けないテだけは研究し尽くし、こすっからい手を使い試合を長引かせるので有名で、腕の立つ男に狙いを定め挑みかかる、手に負えない男。
ローフィスはやる気満々でリーラスの前に立つ、ラーダルに視線を送りながら。
リーラスに小声で耳打ちする。
「ヤツが正面に立つって事は、腕を認められたって事だぞ?」
リーラスは思い切り顔を下げ、ぼそりと言い返す。
「………嬉しくない」
講師が剣を、振り上げる。
四年の男達は一番統制が取れず、かけ声を掛ける前から皆平気で試合を始める、いい加減な男ばっかりだったから。
講師が剣を、振り上げる前に試合を始める者は失格だった。
リーラスは剣が振り上げられた途端、隣のローフィスの肩の衣服をむんず!と握った。
「始め!」
かけ声と共にローフィスはリーラスの立ち位置に引っ張り込まれて呆然と横を見るが、リーラスはさっさとその栗毛を振りながら、剣を構え嬉々としてジョックソンに、突っ込んで行った。
その猛烈に楽しそうなリーラスをやれやれと見、正面を向いたがラーダルはショックを受けたように自分の対戦相手だった筈の男が、ローフィスにすり替わったのを見、顔を泣きそうに歪めていた。
ローフィスはもう一つ、大きなため息を付き、剣を持ち上げる。
がラーダルはまだ、ショックから立ち上がれないようで
『本当に自分の相手は君なのか?』
とローフィスを、泣きそうな表情で見つめていた。
講堂中の視線を浴びたオーガスタスは対戦相手が、順位をかなぐり捨てても一度は自分に勝ちたい。と名乗りを上げる鉄砲野郎ケルスンなのについ、微笑を浮かべる。
ケルスンはその長身の男がいつも余裕の笑みを湛えてるのを、知っていたから剣を握り直して、突っ込んで行った。
オーガスタスは笑いながら突進して来る猛牛のような男を、さっと避けて剣を浴びせる。
ケルスンはいつの間にか背後に回るその図体のデカい男の剣が背中を襲うのに、必死で振り向き剣を合わせ、止めようとした。
がちっ!
が、オーガスタスは剣を、振り切っていた。
止めるどころか激しい勢いで浴びせられるオーガスタスの剣に、手から剣を吹っ飛ばされる。
横のデライラはケルスンの飛ぶ剣を、足を咄嗟に引いて避けたものの、床に叩きつけられ、跳ね返る剣を見、顔を真っ青にした。
慌てて剣を拾いに来たケルスンに、怒鳴りつける。
「ちゃんと握ってろ!」
ケルスンはむかっ腹立てた。
手を思い切りオーガスタスの方に、向けて怒鳴り返す。
「相手を誰だと思ってる!
俺だって渾身の力で握ってたさ!
好きで飛ばすと、本気で思ってんのか?!」
怒鳴るケルスンに、デライラは捲し立てる。
「こっちは!
お前の飛ばした剣のせいで、もう少しでヘナちょこロードスの剣喰らい、負けそうになったんだぞ!!!」
デライラの対戦相手、ロードスがズイ!と進み出て凄む。
「…ヘナちょこって、誰の事だ?!」
三人は口々に自分の主張を喚き始め、オーガスタスは講師の到着を、腕組みして待った。
間もなくして講師が駆けつける。
が、無駄だった。
「剣を、飛ばされた時点で君の負けだ!
とっとと見物席に戻れ!」
叫ぶ講師にケルスンは引かず、唾を飛ばして怒鳴り返す。
「折れてないぞ!
飛んだだけで負けだなんてアリか?!」
横から飛んだ剣を喰らいそうになった、デライラが怒鳴る。
「どうせ相手はオーガスタスだ!
次の一振りで負けるに決まってる!」
彼の対戦相手ロードスも請け合った。
「早いか遅いかだ」
が鉄砲玉ケルスンは二人目がけて殴りかかった。
「何だと?!」
「こいつ…!」
「ヤル気か?!」
一年も、二年でさえも試合中の、剣を放り投げて拳を握っての喧嘩に呆れた。
三年は流石に慣れているのか
『またか…』と首を横に、振り合った。
講師が飛び込むように二人とケルスンの間に、割って入る。
が、邪魔する講師にすら拳を叩きつけようとするケルスンの後ろ襟を、むんず!とオーガスタスは掴み、引き剥がした。
凄い力で後ろに引っ張り出され、ケルスンはつい振り向く。
その赤毛のデカい男は余裕で、笑った。
「対戦相手は俺だろう?とっとと剣を拾え」
ケルスンはオーガスタスに襟を放された途端、床に落ちた剣を、拾おうとしたが講師はケルスンを列から突き飛ばし、怒鳴った。
「お前は負けだ!
戻れ!!!」
ケルスンはその年上の男に怒鳴り返そうとしたが、講師のあまりの凄まじい形相につい二度、肩を弾ませ異論を唱え、突っかかろうとした。
…が講師が睨んだまま凄むのを見、とうとう肩を落とすと顔を下げ、くるりと背を向け見物席に、戻って行った。
講師は笑ってるオーガスタスのデカい背をどんっ!と押して列から弾き出し、怒鳴る。
「お前は外れてろ!」
オーガスタスは肩を竦め、剣が飛んで試合中断した二人に振り向き、怒鳴った。
「悪かったな!
もっと下に叩きつけたつもりだったが」
二人はオーガスタスの言葉に互いに顔を見合わせ、同時に肩を、竦めて背を向け合い立ち位置に戻り。
同時に対戦相手に振り向き、剣を構えた。
ディングレーは三年見物席に戻りながら、チラ…!と視線を、一際背が高く赤毛を靡かせた、学校一喧嘩の強いその男に走らせる。
オーガスタスは余裕でその長身を見せつけ、自分の真正面の相手に振り向いてた。
さすが四年は慣れたもので、位置に着くと直ぐ互いの相手に向き合い、講師のかけ声を待つ。
が、学校中が見つめるのは唯一人。
中央近くでその頭を突き出すほど長身で目立つ、赤毛のオーガスタス。
広い肩幅。広い胸。長い手足。
そして、引き締まりきった腹。
教練の猛者達は皆、鍛え上げた体格を誇っていた。
が、誰もオーガスタスに勝てる者はいなかった。
リーラスが横のローフィスに囁く。
「お前の相手はちょっと厄介だな」
ローフィスは正面でニヤつく、グーデン配下の一人ジョックソンを見た。
もうじき180に手の届く自分より、更に背の高くガタイのいいその男は、やさ男。とローフィスに見下す笑みを送ってた。
「シェイルにはディアヴォロスが怖くて手が出せないから、俺に嫌がらせするつもりだ」
ローフィスに囁かれ、リーラスは自分の対戦相手、正面に立つラーダルを見、肩を竦めた。
どれだけ頑張っても剣技の才能が無いが、決して諦めず剣を振る、しつこくて面倒な男。
頭がやたらキレて絶対文官が向いてるのに、志願は近衛一直線。
講師共ですら
「近衛に行くなら作戦部門で頭脳を使え」
と勧めるが、本人はあくまで騎士志願だった。
頭がキレるから負けないテだけは研究し尽くし、こすっからい手を使い試合を長引かせるので有名で、腕の立つ男に狙いを定め挑みかかる、手に負えない男。
ローフィスはやる気満々でリーラスの前に立つ、ラーダルに視線を送りながら。
リーラスに小声で耳打ちする。
「ヤツが正面に立つって事は、腕を認められたって事だぞ?」
リーラスは思い切り顔を下げ、ぼそりと言い返す。
「………嬉しくない」
講師が剣を、振り上げる。
四年の男達は一番統制が取れず、かけ声を掛ける前から皆平気で試合を始める、いい加減な男ばっかりだったから。
講師が剣を、振り上げる前に試合を始める者は失格だった。
リーラスは剣が振り上げられた途端、隣のローフィスの肩の衣服をむんず!と握った。
「始め!」
かけ声と共にローフィスはリーラスの立ち位置に引っ張り込まれて呆然と横を見るが、リーラスはさっさとその栗毛を振りながら、剣を構え嬉々としてジョックソンに、突っ込んで行った。
その猛烈に楽しそうなリーラスをやれやれと見、正面を向いたがラーダルはショックを受けたように自分の対戦相手だった筈の男が、ローフィスにすり替わったのを見、顔を泣きそうに歪めていた。
ローフィスはもう一つ、大きなため息を付き、剣を持ち上げる。
がラーダルはまだ、ショックから立ち上がれないようで
『本当に自分の相手は君なのか?』
とローフィスを、泣きそうな表情で見つめていた。
講堂中の視線を浴びたオーガスタスは対戦相手が、順位をかなぐり捨てても一度は自分に勝ちたい。と名乗りを上げる鉄砲野郎ケルスンなのについ、微笑を浮かべる。
ケルスンはその長身の男がいつも余裕の笑みを湛えてるのを、知っていたから剣を握り直して、突っ込んで行った。
オーガスタスは笑いながら突進して来る猛牛のような男を、さっと避けて剣を浴びせる。
ケルスンはいつの間にか背後に回るその図体のデカい男の剣が背中を襲うのに、必死で振り向き剣を合わせ、止めようとした。
がちっ!
が、オーガスタスは剣を、振り切っていた。
止めるどころか激しい勢いで浴びせられるオーガスタスの剣に、手から剣を吹っ飛ばされる。
横のデライラはケルスンの飛ぶ剣を、足を咄嗟に引いて避けたものの、床に叩きつけられ、跳ね返る剣を見、顔を真っ青にした。
慌てて剣を拾いに来たケルスンに、怒鳴りつける。
「ちゃんと握ってろ!」
ケルスンはむかっ腹立てた。
手を思い切りオーガスタスの方に、向けて怒鳴り返す。
「相手を誰だと思ってる!
俺だって渾身の力で握ってたさ!
好きで飛ばすと、本気で思ってんのか?!」
怒鳴るケルスンに、デライラは捲し立てる。
「こっちは!
お前の飛ばした剣のせいで、もう少しでヘナちょこロードスの剣喰らい、負けそうになったんだぞ!!!」
デライラの対戦相手、ロードスがズイ!と進み出て凄む。
「…ヘナちょこって、誰の事だ?!」
三人は口々に自分の主張を喚き始め、オーガスタスは講師の到着を、腕組みして待った。
間もなくして講師が駆けつける。
が、無駄だった。
「剣を、飛ばされた時点で君の負けだ!
とっとと見物席に戻れ!」
叫ぶ講師にケルスンは引かず、唾を飛ばして怒鳴り返す。
「折れてないぞ!
飛んだだけで負けだなんてアリか?!」
横から飛んだ剣を喰らいそうになった、デライラが怒鳴る。
「どうせ相手はオーガスタスだ!
次の一振りで負けるに決まってる!」
彼の対戦相手ロードスも請け合った。
「早いか遅いかだ」
が鉄砲玉ケルスンは二人目がけて殴りかかった。
「何だと?!」
「こいつ…!」
「ヤル気か?!」
一年も、二年でさえも試合中の、剣を放り投げて拳を握っての喧嘩に呆れた。
三年は流石に慣れているのか
『またか…』と首を横に、振り合った。
講師が飛び込むように二人とケルスンの間に、割って入る。
が、邪魔する講師にすら拳を叩きつけようとするケルスンの後ろ襟を、むんず!とオーガスタスは掴み、引き剥がした。
凄い力で後ろに引っ張り出され、ケルスンはつい振り向く。
その赤毛のデカい男は余裕で、笑った。
「対戦相手は俺だろう?とっとと剣を拾え」
ケルスンはオーガスタスに襟を放された途端、床に落ちた剣を、拾おうとしたが講師はケルスンを列から突き飛ばし、怒鳴った。
「お前は負けだ!
戻れ!!!」
ケルスンはその年上の男に怒鳴り返そうとしたが、講師のあまりの凄まじい形相につい二度、肩を弾ませ異論を唱え、突っかかろうとした。
…が講師が睨んだまま凄むのを見、とうとう肩を落とすと顔を下げ、くるりと背を向け見物席に、戻って行った。
講師は笑ってるオーガスタスのデカい背をどんっ!と押して列から弾き出し、怒鳴る。
「お前は外れてろ!」
オーガスタスは肩を竦め、剣が飛んで試合中断した二人に振り向き、怒鳴った。
「悪かったな!
もっと下に叩きつけたつもりだったが」
二人はオーガスタスの言葉に互いに顔を見合わせ、同時に肩を、竦めて背を向け合い立ち位置に戻り。
同時に対戦相手に振り向き、剣を構えた。
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