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激突する戦意

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 アイリスは横でスフォルツァが、ローランデ同様挑むような眼差しで食い入るように、学校のボスの姿を見つめてるのに気づく。

「間違いなく、王者に相応しい戦いぶりだ」
呟くと、スフォルツァは頭を揺らし、頷いた。

「戦場で、彼が味方なら心、踊るな」
「挑むとなると?」

スフォルツァは気づいたようにほっ。と吐息を吐いて、自分を見つめるアイリスに視線を送る。
「だがもう俺には、ほとんど対戦の機会は無い。
この先近衛に進み、彼と敵対すれば別だ。
が………」

アイリスはくすり。と笑った。
「彼を敵に回すのは馬鹿?」
スフォルツァはその通り。と言うように、大きく頷いた。


かん!
ローランデの身ごと飛び込む早い一撃を弾き、オーガスタスの左が唸る。
びゅっ!

ローランデは身を下げまた次を繰り出す。
左。
真横に払い、オーガスタスの腹を掠る。
オーガスタスは腹を引きながら右手に握る剣を、手首をくるりと返しそのまま柄を手放し、一瞬で握りを返し逆手で握ると、お返しとばかりローランデの胸を、瞬時にえぐる。

びゅっ!

ローランデは背を後ろに、ななめになるほど倒して掠るぎりぎりでやりすごす。
がオーガスタスは逆手のまま、二度、三度と懐深く入り込むローランデ目がけ、右の剣を立て続けにその上背から振り下ろす。

ローランデは頭を下げしなやかに身を倒し、一歩、二歩と歩を下げながら、それでも避け続けた。

がっ!

ローランデがとうとう、それ以上引くのは嫌だ!と左の剣をぶつけ勢いを止め、右を斜め上からオーガスタスの肩めがけ、思い切り振り下ろすのを、オーガスタスは左肩を後ろに引きながらも左の剣で、やはり咄嗟に握りを返し、逆手に握る剣を真っ直ぐ下に下げ、止めた。

がっっっっっっ!

ローフィスが唸る。
リーラスがすかさず呟く。
「相手がローランデのせいか…あいつ、武闘と言うより剣舞を、踊ってるみたいに見えるな」

それを受けて悪友達も背後から、続けて感想を述べた。

「ああ見えて、あいつ舞踏でも名手だ」
「いい踊り手だな。
見た時はびっくりしたが」
さまに成ってる」

ローフィスがとうとう、苛立いらだちに口を開く。

「…それだけ、奴本来の戦闘が出来てないって事だ!」

皆が一斉に、そう唸るローフィスを見、慌てて視線を、オーガスタスに戻した。

流麗なローランデの素早さに、オーガスタスは引けを取ってないように、見える。

だが確かに荒っぽい技を封じ、小柄なローランデに合わせその高い背を前に倒し、その足運びも、喧嘩と言うより完全に踊りに近い。

床を滑り一瞬で、ローランデに振り向き、が、牙剥く。

びゅんっ!

真上から振り下ろされる剣は鋭く早い。
オーガスタスの赤毛が宙に舞うと、皆そのライオンがどれほど獰猛どうもうか、思い知った気がした。

小柄にさえ見えるローランデは、ライオンが激しくかざす前足のような剣を、瞬時に剣をぶつけ弾きその身を倒し尚もオーガスタスの間合いからは引くまいと、身を滑らせ攻撃の機会を伺う。

もう二度…。
ローランデはオーガスタスの懐に入り込み、退けられそれでも間を開けず果敢に隙を見つけては斬りかかる。

時にはその勇敢な風が大きな猛獣を、なぶるように翻弄ほんろうして見せるのに。
猛獣はその激しい牙を風にぶつけ、勢いを削ぐ。

びゅんっ!

オーガスタスの左が思い切り、風を斬って振り下ろされ、ローランデはその速さにそれでも咄嗟に後ろに肩引き避けた。

講堂中の皆は、よく避けた。そう賛辞を送った。
が、間合いから退けられたのは確か。

ローランデがまた剣を後ろに下げ、身を屈め頭から、突っ込んで行く。
最早獰猛な猛獣を恐れず戦いを挑む小柄な彼に、誰もが…去年ディアヴォロスと、戦った時のような、ぞくり…!とする身震いを感じていた。

誰が見てもオーガスタスは、戦いたくない相手。
強い。等と言う言葉で片付けられない程、勇猛な男だ。

目前で大きな体の彼に、牙を剥かれると竦み上がる。
少しでも動きが硬ければ確実にあの大車輪のような、剣の餌食になる。

左右わずかな時間差で襲い来る剣を。
ローランデはそれでも小柄な身を活かし、素早く避けて見せる。

オーガスタスが、仕留めた!
そう思った瞬間ローランデは身を屈めやいばをすり抜け、もう横に歩を滑らせて、剣を振りかぶる。

今度はとうとうローランデが、斬って捨てた!
そう思わせる瞬間、オーガスタスは振り向き様、がっ!と逆握る剣を立て、瞬時に止めて見せる。

講堂中から、吐息が漏れる。
攻撃だけで無く、防御も優れてる。
オーガスタスのそれを見るのは初めてで、去年の、斬れぬ風に苛立ち、ディアヴォロスとの対戦を睨み据え、一刻も早くこの勝負を終わらせたい。

…そうく彼とは雲泥の差だった。

そう…今思えばあの時オーガスタスの脳裏にあったのは、対戦していたローランデで無く最高峰ディアヴォロス、唯一人。

が、好敵手と今は認めた、ローランデに対する攻撃は少しも手抜き無く、ローランデは時折牙を剥く、早く激しい襲い来る剣に、必ず左を突き入れ弾き、オーガスタスの気鋭きえいいだ。

互いが互いの、波に乗るのをはばみ合い、自分の勢いで相手をそうと、激しくぶつかり合う。

がっ!がっ!がっ!!!

ローランデが突っ込むと、互いの左右の剣が激しく軌道を変え幾度もぶつかり合い、どちらかが入れた一撃でどちらかが引き、そしてまた始まる。

オーガスタスはびゅんっ!と唸る剣をほお間近に感じ、完全に頭に血が、のぼる自分を自覚する。
こんな対戦は…奴隷の見世物試合以降だった。

まだ幼かったから、どの相手も自分より大きかった。

試合だ。と言っても、相手を殺すのは仕方ない。
相手が弱いせいで、殺される方が悪い。

そういう試合だったからこそ、オーガスタスはその剣が戯言ざれごとで無く、自分を仕留めようと襲い来るのをひしひしと、感じていた。

その時同様、この“風”には、殺気があった。
本当に試合で、寸止め出来るのか?
と言う程の剣だったから、オーガスタスもきっちり、忘れた。
寸止めする。なんて決着を。

また滑る!
捉えた!と思った風をまた、掠めただけ。
逃げると思うと襲って来る。
だが襲い来るのは、剣だ。
当たれば止まる。

がちっ!

一瞬の、攻撃が止む間にオーガスタスは左の剣を、手首を返し、一瞬握りを外し順手に戻し握り、そのままぶん!と音を立てて胸の前で回す。
僅かな時間差で右の剣も同様、剣を一瞬手離し順手に戻し、胸の前で回す。

胸元でクロスしたように銀の閃光が二度、びゅんっ!と唸る音と共に光る。

ローランデは肩で息をし、それを見た。
胸元で左右ほんの僅かな時間差で、振り回される二本のライオンの胸を飾る、銀光ぎんこうはなつ剣。

幾度も…幾度もオーガスタスはそうして、左右の剣を僅かな時間差で、胸の前でクロスさせ回し振る。

ローランデはわずかに、目を見開く。
それは自分が、相手に殺気を飛ばすのに似ていた。

“迂闊に突っ込んだら、喰らわすぞ”

それは明らかに、無言の威嚇いかくだった。

オーガスタスの背が高く腕が長く、その剣の軌道は大振りだったから、威力は更に大きかった。

が。
引く、剣術を教わって来なかった。
どんな相手でも、隙を攻め続ければ必ず崩れる。

“自分が先に崩れたら、それで負け。
貴方はもうこの世に居ない”

そう、教わり続けた。
“敵が手練てだれである事を祈りなさい。
下手に傷つけられれば、痛みを負ったまま、後はなぶり殺されるだけ”

そんな死に方は絶対嫌だ。と、剣を振り続けた日々。

“どう剣を振るかは、自分の死にざまを決める事です。

相手を殺し続ければ貴方はいつか、寝台の上で、死ぬ機会が増える。
ただ、それだけの事。

それが無理なら、覚悟が要ります。
出来るだけ…敵への思いやりを持ち一撃で命を断つ手練に、貴方の最期を任せなさい”

…だからローランデはいつも…いつも思い描いた。
寝台の上で…大切な誰かに手を取られ、くその日を。

自分がその、手練になる。
そして誰も自分の前に、立ちはだからせたりはしない。
決して。

そして強く思い描く。
大勢の、護りきった人々の笑顔に満足に、愛する者に看取みとられ寝台の上でこの世を去る、その日の事を。

だから…。
だから!

ローランデが身を、屈める。
圧倒あっとうするように威圧するオーガスタスの銀の車輪を見た後で、それでも突っ込むローランデに、人は悲壮感ひそうかんすら感じ、拳を握り込む。

がローランデに硬さは無くむしろ…そのしなやかさを増し、横に突っ込むなり一撃、風のように更に音なく横に髪を真横に靡かせ背後近くに回り二撃!

二度共、オーガスタスは瞬時の風の牙を身を振り頭を傾け、素早く避けた。
が、威嚇いかくのお返しとばかりのローランデの速攻に、講堂中の熱はいや増す。

アイリスが首を横に、振り続けた。
スフォルツァはそんなアイリスについ、振り向く。
アイリスはスフォルツァに見つめられ、囁く。
「言葉が、出ない」

スフォルツァは微笑った。
「君が?」
「なんの気負きおい無くあんな事が出来るなんて」

スフォルツァは講堂中央に視線を戻す。
同感だ。と言うように。

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