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ディングレー私室にて 愛玩の今後とローフィスの訪問

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 ディングレーはオーガスタスが、セシャルを伴って、戻って来るのを見た。
取り巻き大貴族らはまだそこにいて、オーガスタスはラッセンスを見て、告げる。
「ここに居てくれて良かった。
部屋が、分からない」

ラッセンスはディングレーを見る。
ディングレーが頷くので、ラッセンスはオーガスタスの背後に立つセシャルに寄ると、囁く。
「俺の客室が空いてる。
シャクナッセルは、デルアンダー私室に。
ここには一年が、三人も居るので…」

セシャルは、頷く。

皆は一斉に、セシャルに視線を送る。

モーリアスより僅かに長身で、シャウネスと同じ位。
濃い艶やかな栗色の巻き毛に緑の瞳の麗人。



平貴族とはいえ名家で、あと僅かで大貴族の仲間入りが出来る金持ち。
親しく付き合いのあるコルスティンからグーデンを紹介され、王族に仕え近衛での昇進を夢見ていた…腕の確かな、元剣士。

セシャルはまるで…仲間のように見つめる、取り巻き大貴族らに、戸惑った。

「…あの…。
シャクナッセルが…母親が亡くなり、もうグーデンに仕える意味も無いので、抜けたいと言われ…。
上手く抜け出すから、自分を捕らえようとする間に、逃げるのであれば逃げるようにと…」

セシャルが俯き、そう小声で呟く。

デルアンダーが微笑を浮かべ、寄って頷く。
「シャクナッセルは君は、去年なら喜んで抜けていたと。
けれど…」

そう言って、横のオーガスタスを見上げる。
オーガスタスは顔を下げ、ぼそり…と言った。
「俺だけで無く、ディアヴォロスでさえ…。
君をグーデンの所から、保護したかったが、君はその頃コルスティンと恋仲になって…。
こっちの誘いに、応じなかったな?
なんで…気が変わった?
コルスティンに別の相手でも、出来たか?」

セシャルは顔を下げきる。
そして、頷いた。
「…酷い目に…それは酷い目に合わされたので、去年の私は溺れる者が藁に縋るように…コルスティン様に縋っていました…。
あの方も、グーデンに紹介した責任を感じ、大金払って私を…彼の専属にして下さって…。
そして大切に、扱って下さった。
私はそれを…好意と、勘違いしていた」

皆がそう告げる、セシャルを見つめる。

「…けど…」
横に立つラッセンスが顔傾け、尋ねる。
「けど?」

セシャルは背の高いラッセンスを見上げ、口を開く。
「…シャクナッセルが抜け、後を追う直前。
彼は私達愛玩に言い捨てた。
『シャクナッセルが戻らなければ!
これからはお前達がシャクナッセルの代わりをしろ!』
そして…」

セシャルは辛そうに、顔を下げる。
「『お前もだ!!!』
そう…私を指さした…」

ディングレー始め、大貴族らは一途なセシャルの心を裏切ったコルスティンに腹を立て、セシャルに心からの同情を寄せた。

が、オーガスタスは頷きながら、言って退ける。
「惚れた相手が最低過ぎる。
、不摂生なギュンターですら、大勢の女と寝まくってるものの。
相手にちゃんと情を尽くすから、女達はギュンターにどれだけ相手が居ようが。
構って欲しくて、追いかけて来る。
コルスティンは生涯本当の意味で、惚れてくれる相手は出来ないロクでナシだ。
惚れるんなら、これからは。
モテ無いから金を使い、相手の気と愛情を買おうとする男には、気をつけた方がいい」

ディングレーが顔下げたままそれ聞いて、ぼそり。と言い返す。
「…ここでギュンター、比較に出すか?」

オーガスタスはディングレーを、見ないまま頷く。
「お前、王族で大金持ちだが。
金で女の気は、引いた事無いだろう?」

ディングレーは顔を上げた。
「素性隠し、俺を王族と知らない女の気を引く時。
高値じゃないが、アクセサリーくらいは、プレゼントするぞ?
王族隠してる俺だと、色に長けた熟女か…。
なぜか処女にしか、モテないから」


ディングレーの告白に、大貴族らはこっそり吹き出し、顔を下げたり背けたりして、バレないように笑っていて。

セシャルだけは目をぱちくりさせて、顔下げてるディングレーを、見た。

ディングレーはぼそり、と独り言のように呟く。
「…ともかくグーデン護衛らの怪我が癒える頃には、俺の部屋も幾つか用意出来る。
ラナーンとレナルアン…それに、ミーシャ…か?
引き取れると思う」

そう言うと、顔を上げてオーガスタスを見つめる。

が、オルスリードがそれを聞き、仕方なさそうにぼそりと、提案した。
「レナルアンは俺が引き取れます」

モーリアスはオルスリードの果敢な提言に頷き
「俺は、ミーシャなら」
と続いて買って出る。

シャウネスとテスアッソンはその時初めて
『もしかしてこれは、椅子取りゲーム?!』
と気づき、互いを見る。

結果、テスアッソンが
「…ラナーンは私が引き受けた」
と言って退け、取り巻き大貴族らは、一番高飛車で傲慢我が儘、女王体質の手の焼けるラナーンを請け負うテスアッソンに、内心拍手しまくってた。

ディングレーは進んで引き受けてくれた皆に、感謝の頷きをする。
デルアンダーが頷き返しながら
「では、私はシャクナッセルを残してきているので、これで…」
と、ディングレーに了承を取る。

ディングレーが頷くのを見て、他の大貴族らもデルアンダーに続き、会釈しながら続々と部屋を出て行く。

最後に残ったオーガスタスが背を向けかけるので、ディングレーは慌てて声かけた。
「良い酒がある。
良ければ一緒に…」

オーガスタスは、くるりと満開の笑顔で振り向くと
「その言葉を、待っていた!」
と喜んで相伴しょうばんに預かった。


 ローフィスはやっと何とか、シェイルをなだめた。
唇を塞いで。

つまり、口づけで。

ナニをどう言ってもシェイルは
「だけどあいつレナルアンは!
どう言ったって聞かない!」
を繰り返し
「俺が相手にしないから」
と言っても、首を横に振るし、きつい瞳でレナルアン・ライバルモードを解かないので、仕方無く…。
ふいをついて背を抱き寄せ、被さり唇を塞いだ。

怒っていたシェイルの体から、徐々に力が抜けていく。
そこでようやく、ローフィスは唇を離してシェイルを見つめる。

シェイルの大きなエメラルドの瞳は潤んでいて…ローフィスはもう、シェイルが抱きたくて、困った。

「…いつ、ヤッケルが戻って来るかも分からない」
そうやっと、掠れた声で囁くと、シェイルは顔を下げた。

けれどローフィスはその時。
シェイルが確かに自分に引き止めるため、“寝たい"と切望してるのを感じる。

そしてシェイルにせがまれると…そのまま流される自分が容易よういに、想像出来た。

がその時、廊下で大勢の足音。
皆、やっと騒ぎが収まり、自室に戻っていく途中らしく、口々に騒々しくわめき立ててる。
「グーデンの奴ら、当分大人しいかな」
「オーガスタス一人で、蹴散らしたようなもんだ!」
「ディングレーも、格好良かったな…」
「ギュンターって…オーガスタスとディングレーと一緒に行動してるんだ。
もう、仲間なのかな?」
「以前なら、ギュンターとオーガスタスとディングレーって言ったら…」
「3Pだろ?!」

そこで、どっ!!!と皆が、笑いこける。

ローフィスが固まってると。
シェイルもローフィスを見上げ
「…ムード、ぶち壊し?」
と小声で尋ねる。

ローフィスは頷くと
「またな」
と言って、シェイルに背を向ける。

振り向く気は、無かった。
けれどどうしても後ろ髪引かれ、振り向いてしまう。

頼りげな…悲しそうなシェイルの姿を見ると、取って戻って…抱きしめて、そして…。

けれどローフィスは、扉を開ける。

開けた途端、通り過ぎた二年らに、振り向かれて見つめられ。
ローフィスは顔を下げたまま、廊下の反対方向へと歩を進める。

背後から、声を落として
「…シェイルと、ヤってたな…」
「絶対、シてたと思う」
「ローフィスって…いい男だと思うし、女受けはめちゃいいと思うけどさ…」
「分かる!
シェイルの兄貴愛、異常すぎ」
「俺なら、ディアヴォロスに走る」

そこでローフィスは思わず、振り向いてしまった。

全員が、頷いてた。

一人が振り向くローフィスの視線を感じた途端。
他も一斉に気づき、慌てて背を向け、逃げ出す。
「もうこんな時間だぜ!」
「俺、風呂まだ!」
とか、叫びながら。

ローフィスは
「(絶対、ヤってる?!
ヤって無いのにヤってると、思われるぐらいなら…)」
そこで、がっくり、首下げて思った。

「(ヤっとけば、良かったかも)」

その後、ディングレー私室に出向いたローフィスは、そこで高級酒に舌鼓打ってるオーガスタスと合流し、オーガスタスに
「ヤらなくて、正解だ」
と言われ、ディングレーにまで
「ヤった後あんた…。
暫く自己嫌悪だとか、抱いたシェイルが忘れられなくて悶々しまくりで。
おかしくなるだろう?
一度真剣な顔されて
“シェイル連れ出して、二人っきりでここから逃げ出したら。
マズいと思うか?!"
と問われた時は、気が狂ったかと思ったぜ…」
と、頬杖付いてた手の指で、髪を梳き上げ言われた時。
ローフィスはディングレーをジロリ、と見
「手を焼かせて、悪かったな!」
と嫌味たっぷりの礼を怒鳴った。

けれどオーガスタスに
「マジだから、怖いよな?」
とディングレーに相づち打たれ、ディングレーもオーガスタスを見上げ、思いっきり頷くので。

ローフィスは二人から顔を背けて、ふてきった。
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