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ゼイブンの直感、グーデンの悟り、講義を受けるシャクナッセルとセシャルの心中

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 三年達は講義室に、ディングレー取り巻き大貴族らが、かつてグーデンの愛玩してたシャクナッセルとセシャルを、護るように取り囲んで入って来るのを見た。

講師が訪れ、歴史の講義を始めるのに。
彼らの頂点、ディングレーが姿を見せない。
そして目立つ金髪美貌の、ギュンターもが。

ゼイブンは昨夜も酒場の二階で、美女と夜を過ごしたので、机に半分、突っ伏して寝ていた。
正直サボりたかった。
が、これ以上サボると、単位がアブない。
ふと…不穏な雰囲気に、顔を上げる。



ディングレーがいない他、グーデン配下らの姿も無い。

周囲では、昨夜はオーガスタスとディングレーに軍配が上がったが。
グーデンがどういう手を使い、愛玩らを奪還するのか。
講義そっちのけで、ひそひそと話し込んでいた。

つい…首を振って、騎士然と背筋伸ばした大貴族らに取り囲まれてる、シャクナッセルとセシャルを見る。
二人共が艶を纏って見え、男だと分かっていても、誘われたら押し倒せそう。
これだけ女好きな、自分でさえも。

彼らを見てると、どうしても思い出してしまう。
去年グーデン配下してた銀髪の超男好き、アルシャノンに一年の時から目を付けられ、どれだけ逃げ回ったかを。
捕まっていたら…あの二人同様になってたかも。
そう気づいた途端、ぞっ…と鳥肌が立ち、ゼイブンは首振ってアルシャノンを極力、記憶から閉め出しそうと務めた。

側でちょうど、去年の乱暴極まりない四年らが居なくて、良かった。
の会話が、ひそひそ声で話されてる。

ゼイブンは顔を机に突っ伏して思う。
正直、その前の学年にも怪物が居て。

一年だった時そいつを見たが、筋肉の化け物。
態度はデカくて凶暴。
壁を殴って破壊し、風通し良く出来るほどの豪腕。

確か…びびりまくる一年らの群れに自分もいて、凄まれて金を出せと言われ、震える手でポケットを探っていると…まだ二年のオーガスタスに庇われた。

背はオーガスタスの方が高かったけど。
あきらかに腕も腿も、胸周りもが、怪物の方がデカくて。

誰もが皆、オーガスタスが血みどろになる様しか、思い浮かばなかった。

確かに、オーガスタスは血反吐を吐いた。
が、相手の怪物はもっとで、口からだらだら血を流し、それでもまだ、血しぶき飛ばしながらも激しい殴り合いを展開し…。

結局、現れたディアヴォロスが一撃で倒し、オーガスタスを救い、肋骨あばらぼね折れたオーガスタスに、手を貸そうとした。

オーガスタスは激しくディアヴォロスの手を、振り払ったっけ。
「あんたに助けられたら!
あいつは次回、俺を舐めてかかる!!!」

あれだけ…あの重い拳で殴られて、肋骨も折れてるのに。
最後までやらせてくれなかったと、助けに入ったディアヴォロスに文句を言う様は凄まじく…。

皆、ごくりと唾飲み込んで、思った。
“どれだけ不利な戦いでも。
例え命を賭けようと。
絶対、引けない戦いもある”

無言でオーガスタスはそれを、俺達に教えた。

けれどディアヴォロスは、ほっ…とため息吐くと、告げる。
「それは次回やれ。
機会はある。
…手当てさせてくれ。
その傷は、今後に響く。
君が庇った背後の一年達のためにも。
君には、健常でいて貰いたい」

オーガスタスはその時ようやく、目前の…黒い縮れ毛を肩に背にながす気品の塊、整いきった面立ちの高貴なディアヴォロスが。
千里眼だと、思い出す。

オーガスタスが背を向けたディアヴォロスに続き、去り始めると。
誰とも無く、拍手が湧いた。

ゼイブンは、自分もが拍手してた事に気づいた時。
本当に、びっくりしたけど…あの場で拍手は、自然な流れだった。

あの、壮絶な重量級同士の、激しい殴り合いを見た後では。

確かあの化け物…名前がどうしても思い出せないが…あいつにもグーデンは、金払って用心棒として、使っていたっけ…。

同学年らはみんな、絡まれたら鳥肌立つような乱暴者の上級生を覚えていたから。
同学年なんて、てんで相手にならないな。と笑い、この諍いは、オーガスタスとディングレー同盟軍に軍配が上がると、楽観してる。

ゼイブンも別に、異論は無かった。
が、グーデンは自分が非力でひ弱な分、どれだけでも汚い手を使う。

どうしても…嫌な暗雲が振り払えず、ゼイブンは自分の…危険に対する直感が、外れた事がナイのを思い知っていたので、誰かに忠告すべきかを、思い悩んだ。



 グーデンはいつもの遊びをしようと、習慣に従って部屋の扉を開ける。
けれどそこには…いつもたむろってる、ラナーンや他の愛玩らの姿は無く…配下達は皆、怪我をして項垂れていた。

グーデンはガキのように地団駄じだんだ踏んで、喚き散らす。
「どーして、どーして、どーして!!!
奪還出来てない!!!」

が、配下らは虚ろな瞳を向けるだけ。
グーデンが『教練キャゼ』では、自分らがいなければ、威張っていられないと知っているから…。
言い訳すら、しなかった。

「…オーガスタスか?!
やったのは!!!
…絶対、退学にしてやる!!!
ラナーンは戻って来ないのか?!」

けど誰も
『昨日貴方がやり過ぎたせいで、とうとう愛想を尽かした』
と、言う者すらいない。

「動けるヤツは!!!
居ないのか?!」

またも誰も、返事をしない。

グーデンはかりかりすると、部屋に戻る。
扉が閉まり、ごろつき達が、やれやれ…と吐息吐くと、扉がまた、開く。

チャリン!!!

床に金貨を投げて叫ぶ。
「もっと!!!欲しいなら、くれてやる!!!
シャクナッセルとラナーンを奪還したらな!!!」

けれど誰も。
金貨を拾う者はいない。

そこでようやくグーデンは、彼らの打撃が、深刻なのだと気づく。

「オーガスタスを、起き上がれぬ程、ブチのめすヤツはいないのか?!」

そこでようやく、シーネスデスがぼそりと呟く。
「退学に、しないんで?」

グーデンは、ぐっ!!!と詰まった。
出来ない事は無い。
が、それをしたら必ず…あいつが出てくる。

ディアヴォロス。

折角卒業でいなくなって、顔を拝む必要の無くなった男。

アドラフレンが宮廷護衛の長になって以来、ディアヴォロスとアドラフレン、この二人を敵に回すまいと、一族の大御所ですら行動を控え、二人に愛想良く振る舞ってる。

幾ら「左の王家」の旧家で、多くのツテを持つ母ですら。
今、あの二人と事を構えるのはマズい。
時期を見ないと。
と釘さして来る…。

グーデンは悔し紛れに親指を噛む。
あの、デカい図体。
いかにも大物だと、ひけらかす小憎らしい風情。

けれどあの拳で殴られたら…。
グーデンはそっ…と、自分の頬に両手当てる。

“この美貌が、無残にも崩れ去る…!!!”

ぞっ…とし、背筋が寒くなり、そうさせるオーガスタスを激しく、憎んだ。

ともかく、オーガスタスを退学にするか?
もしかしたら…ディアヴォロスは別事で忙しく、それどころじゃなくて出て来ず…。
オーガスタスは退学したままに、なるかもしれない。

賭けだった。

グーデンはともかく、怪我した手下共に顎をしゃくる。
「仕方無い。
今日は娼館に行く」

普段なら、配下らは尻尾振ってついて来るハズだった。
おこぼれに預かり、好きなだけ女でも男でも抱けるから。

けれどその時配下らは、立ち上がるものの、まるでお通夜のよう…。
沈みきった表情で、痛みをこらえ…。

護衛として、付き従う。

グーデンはそれを見て、今後彼らを幾ら焚きつけても奪還は出来ないと、ようやく悟った。


 シャクナッセルは、横に並ぶデルアンダーをこっそり覗う。
窓から射す朝陽に、端正な横顔が浮かび上がり…一心に羽根ペンを走らせていた。

こんな…間近で。
彼と腕が触れ合うほど近くで。
一緒に座ってるなんて、信じられなかった。

けれど必死に、講義を聴こうと試みる。
一人の時間、配下の一人に図書室から本を借りてきて貰い、本だけは読んできた。
高級娼婦の息子だったから、娼館に居た頃は家庭教師も付けてもらい、読み書きも計算も出来た。

美しく着飾った母は、いつも…。
“貴方はいつかここを出て、会計士か…そんな仕事に就きなさい”
そう言って、幾人もの家庭教師を呼んで…マナーだとかも、教わった。
身分の高い相手に、仕える事が出来るように。
と…。

シャクナッセルは今はもう会うこと叶わぬ、亡き母の描かれたロケットを、そっ…と握りしめた。

セシャルは必死に、羽根ペンを走らせる。
“卒業出来るかもしれない”
その僅かな希望が、かつて『教練キャゼ』に入る前、自宅で家庭教師に講義を受けてた頃の習慣で、勝手に大事だと思う事を書きとめて行く。

横のラッセンスは、大して書く事も無い様子で、タマにぼーっと窓の外を見てるし、反対横のシャウネスはいつも無表情で、感情が読めないけど、すらすらと羽根ペンを走らせていた。

ペンを走らせながら…けれどセシャルは幾度も。
去年の乱暴な四年らの、酷い陵辱が脳裏を掠め、元の自分より突然引き剥がされて…ペンを止める。
その都度、シャウネスが振り向く。

セシャルは気づくと、必死で続きを書き出した。
けどまた…脳裏を掠め、絶望と挫折と、あの時の酷い痛みと引き裂かれた心に、打ちのめされてペンを止める。

シャウネスは、小声で告げる。
「いつか…思う存分、仕返してやる。
言ってみろ。
命乞いをさせ、懇願させ…屈辱の限りを、返してやると誓え」

セシャルは、シャウネスの美麗な顔を、見つめ返す。

シャウネスは視線を本に戻す。
「…七歳の時。
盗賊に捕まり、集団で犯された。
一族が助けに来、俺は俺を犯した男らの男根を、全て切って捨てた」

セシャルは目を、まん丸に見開く。

シャウネスは表情を変えず、言った。
「すかっと、するぞ?」

セシャルはまだ、目をまん丸に見開いていたけれど。

シャウネスにこっくり、頷いた。
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