上 下
64 / 307

救い出された美少年ハウリィ

しおりを挟む
 ギュンターが、振り向くより先に。
背後の小柄な美少年は、ギュンターの背の服の裾を握りしめ…。
振り向くと、その可愛い顔が見上げてた。

「あの…………」

声が震えていて、ギュンターはむっつりして言った。
「俺はあいつと違うぞ。
嫌がる相手を、どうこうする気は無い」

が、美少年はまだ何か言いたげに、その大きな淡いブルーの瞳を見開いていた。
「…あの……僕……僕戻って……。
あの…人を追いかけないと」

ギュンターがぼそり。とつぶやく。
「あいつとしたいのか?」

が美少年が辛そうに目を見開き、眉を思い切り寄せたので、ギュンターは言った。
「したくない事を無理にするな」

けど美少年は、泣き出しそうだった。
「だって…だってそうしないと貴方が……貴方が退学に………」

ギュンターは吐息を吐いて、つぶやく。
「そっちは気にするな。
俺が望んでした事だ。
お前のせいにする気は無いから、安心しろ」

「だっ……て………」

とうとうその美少年の瞳からは、大粒の涙がぽろぽろ滴った。

ギュンターはまた吐息を吐くと、後ろポケットからハンケチを引き出し、一度はたいて伸ばしてから、美少年に差し出す。

美少年は差し出された白いハンケチを見、けど背の高いギュンターを見上げ、しゃくり上げた。

ギュンターは一つ吐息を吐くと屈み、そのハンケチで美少年の頬の涙を拭う。

「僕…は、大丈夫です…。
は…じめてじゃ…無いし……」
「あいつと?」

美少年は首を横に振る。
「じゃ誰と?
惚れた男がいるのか?」

が、美少年はやっぱり首を、横に振った。
俯き、項垂れる顔でギュンターは思い当たってつぶやく。

「………犯されるのが?」

美少年は一瞬震え…そしてそれを、飲み込むように抑え、囁いた。
「……ええ」

かっ!と炎に包まれたように熱く感じ…美少年…ハウリィは、顔を上げた。
表情の余り無い美貌のその人が…眉を寄せ、怒りの表情を見せていて…ハウリィは戸惑った。

「…そいつはここにいるのか?」
「?」
ハウリィは首を横に、振った。

「昔…住んでいた領地にいたごろつきはもう…会わないし…。
それに…母の再婚相手の義兄も…。
ここに来たから、もう会っていません………」

ギュンターはまだ、きつい表情をしたが言った。
「つまり…そのごろつきや義兄の代わりにあいつが…つけ込んだんだな?」

ハウリィは思い出して震えた。

痛みと恐怖だけ、だった。
あの行為のもたらすものは。
そして吐き気。

ギュンターはぐい!とか細い美少年の手首を握る。

「…いいか…!奴がまた現れたら直ぐ逃げろ!
逃げて…例えどんな時でもいいから、俺の所に来るか!
どこか安全な所に鍵を掛けて籠もり、大声で助けを呼べ!
出来るか?!」

ハウリィは震えながら頷く。
「助けを呼んだら、三年のギュンターを連れて来て!と叫べ。
解ったか?!」
「…だって…!」

「解ったのか?!」

その顔が、あんまり真剣で、ハウリィは思わず頷いた。

それを見てその美貌の三年、ギュンターは。
すっと屈む背を伸ばし、そっと、ハウリィの手首を放す。

その表情は無表情で、素晴らしい美貌だった。

「名前を、聞いて無かったな?」

顔を傾け尋ねられると、ハウリィはそっと告げた。
「ハウリィ」
「学年は?」
「一年です」

ギュンターは、頷いた。
そしてそっ…と背に手を当て、促す。
まさか…と思ったのに、ギュンターはハウリィと共に歩き、尋ねる。

「どこに行く気だったんだ?」
「あの………第三講義室へ…。
僕…本を忘れて取りに宿舎へ戻って…」
「本は?」

ハウリィは途端、どこに落ちたのか。と、地面をきょろきょろと探した。

建物近くに落ちているのを見つけ、ギュンターが屈んで拾う。
ハウリィに無言で手渡し、そしてまた、背に手を当てる。

ハウリィは横を並んで歩く、長身の三年生を、幾度も見上げた。
けれどギュンターは表情を崩さず…済ましきって。

見事な美貌を前に向けたまま、無言で歩く。

廊下を抜け…そして講義室の、扉をがらっ!と無造作に開け、壇上の講師がびっくりして視線を注いでも、表情を変えずに。

「彼を、送って来た」

そう言うと、講師は頷く。
「自分の席に着いて」

言われて、ギュンターはハウリィの背をそっと押して促し、ハウリィは本を抱え、段を上りながらギュンターに振り向く。

壇上の講師が、戸口に立つギュンターに告げた。
「君は、授業じゃなかったのか?」
「そうだが、サボってた」

「何があったのか、聞いていいのか?」

講師にそう尋ねられて、ハウリィは階段を上る足を一瞬、止めた。
本を胸に抱え、背を屈め。

講義室中の生徒が、ハウリィと壇上の講師。
そして三年、金髪美貌の編入生を、一斉いっせいに見つめていた。

ギュンターは足を止めるハウリィをチラ。と見上げ、講師に囁く。
「聞きたかったら俺を呼び出せ」
講師は頷く。
「では放課後、講師館の応接間で。
ギュンター、君は授業に戻れ」

ギュンターは目を丸くした。
「名を、覚えてくれてるのか?」

講師は肩を竦めた。
「君くらい目立つ編入生は、他にいないからな」

どっ!
講義室の、皆が一斉に笑った。

ギュンターが講師を見ると、彼は再び、肩を竦めた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

誰かこの暴走を止めてください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:73

錬金術師の性奴隷 ──不老不死なのでハーレムを作って暇つぶしします──

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:1,372

楽しい幼ちん園

BL / 連載中 24h.ポイント:390pt お気に入り:133

スパイだけが謎解きを知っている

ミステリー / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:3

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:240

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,688pt お気に入り:6,435

処理中です...