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1 夏の祭りの、行方不明の男達
しおりを挟む「どこから話す?」
ゼイブンはそう言って、整いきった顔を傾けた。
肩迄在るグレーがかった淡い栗毛の、独特な髪色。
瞳はブルーグレー。
真剣(マジ)な顔だと、大層な美男に見える。
だがついゼイブンより一つ年上、横のローフィスに視線振る。
金に近い明るい色の栗毛。
そして青い瞳。
引き締まると鋭い顔付きに見える。
けれど彼はいつも親しみやすい笑みを浮かべ、爽やかで人好きのする好感持てる青年だ。
が、ローフィスは視線向けられ、素っ気無く肩竦める。
「…奴(ゼイブン)が、話したがってる」
が、ゼイブンはローフィスを睨む。
「別に、話したい訳じゃない」
「聞かれたから?
…あの体験、マジで話す気か?お前」
言われてゼイブンは俯く。
だがそう言われ、私はますます興味を引かれて、促す。
ゼイブンが、仕方なさそうに重い口を開く。
「…俺は、その宿屋に着いた時は疲れ切ってたから、着替えもせず寝台に横たわった途端、寝入った。
目が覚めたのは夜で、腹が鳴るから階下の酒場兼食堂に降りて、食べ物にありつこうと考えた。
…カウンターで酒を注文し、食べ物を頼んでる間、噂話が耳に入る。
神聖神殿隊付き連隊という職業柄、人の会話を盗み聞きするのは、癖に成ってた」
そう言って…物語は幕を開けた。
汚い酒場で小汚い男二人が、横に湾曲したカウンターの向こうで、身を寄せ合い小声で喋ってた。
「…また一人、男が行方知れずだって?」
「ああ…女将さんが尋ねて回ってた。
別嬪に付いてって、その後行方知れずだなんて言えるか?」
「あれだろ?あの女」
「俺は見てない。
すげぇ、いい女だって?」
「すげぇなんてもんじゃ…」
「男が行方知れずになる程、その女別嬪なのか?」
突然背後に立ち、口挟むその色男を。
喋ってた男二人は凝視する。
ゼイブンはその端正な顔立ちで一瞬、安酒場の髭面の汚い男二人を黙らせた。
が、二人は直ぐ、小声で囁く。
「この所、しょっ中だ」
「俺が知ってるだけで、もう五人」
小柄な汚い男は、首を横に振る。
「八人目だ」
ゼイブンはその男に切り込む。
「…全員が全員とも、えらい別嬪のいい女に付いてって?」
男は頷く。
「夏祭りが始まって、まだたった二日の内に、八人だ」
ゼイブンはふと、背後に振り向く。
閑散と…していた。
入った時は疲れ切ってて、気づかなかった。
が、思い起こすと、給仕ですら通れない程混み合っていた去年とは…まるで様子が違う。
夏祭りはこの村の名物で、皆、色とりどり。
思い思いの格好で、夏のアバンチュールを楽しむ。
ゼイブンが仕事帰りの休暇に、この村に立ち寄ったのもそのため。
村の者だけで無く、周囲からも大勢押し寄せ、時には領主の子息令嬢らも混じり、仮装し、踊り、飲み、食い…そして…。
一時(ひととき)、普段の自分を忘れ、別人と成って思い思いの相手と過ごす。
一週間の祭りの間だけの…期間限定の、付き合い。
だからどんな美女をどれだけでも口説けるし、何人と関係したって、責められる事も無い。
…最もゼイブンの城が在る中央テールズキース領の、妻(セフィリア)に知られなければ。
の話だが。
(浮気をしても良い。と妻セフィリアは言ってた。
が、潔癖症のゼイブンの妻は、不特定多数の女と関係したと知れば、ゼイブンが帰宅後(のち)寝室から閉め出し、体中をよーーーく消毒した後でなければ、決して寝室には入れてくれない)
「…その噂、広まってんのか?」
ゼイブンが聞くと、汚い小柄な男は、周囲を見回す。
「…行方知れずの男の死体を見たと言う奴が…酷かったって」
ゼイブンはイラだった。
「どう酷かった?」
もう一人、腹の周りがでっぷりした男が呻く。
「俺も見たが、酷かった」
ゼイブンはほぼ完全に、腹が立った。
が、ゼイブンが怒ると、冷笑に成る。
「…見たんだろ?どんなだ?」
その引きつった笑みを見たものの、男は口を濁す。
「…だから…その…凄く、酷かったんだ」
ゼイブンは怒りに感情が、冷え切るのを感じた。
が、まだ口調に親しみを残してささやく。
「酷いにも色々あるだろう?
血の気が全く無くて干からびてたとか。
切り刻まれて肉の塊になってたとか」
が、腹回りの太い男は、話に乗って来ず、背を向ける。
…よほど、口にしたくないらしい。
ゼイブンは吐息吐くと、カウンターで注文した料理を受け取り、宿に成ってる二階へ上がる、木の階段を上がり、ズラリと並ぶ扉の一つ開け、中に入る。
寝台に腰掛けると、料理の包みを横に置き、胸のシャツを開けて中から神聖神殿隊が配布してる護符付きの金のペンダントを引き出し、呪文を唱える。
一瞬、ペンダントが赤く光った。
そして、待つ。
間もなく返答のようにペンダントが緑に光り、ゼイブンは呪文を唱え続けた。
危険を知らせる呪文の後の、『受け取った』返答に答えるため、場所についてのお知らせ呪文を唱える。
ペンダントは緑に二度続けて光り、ゼイブンは手からペンダントを下ろし、シャツの中にしまう。
このペンダントは、神聖神殿隊付き連隊の身分証のようなもの。
ともかく、連絡は届き、頼りになる同僚ローフィスが、じきここに駆けつけてくれる。
死体の様子がもう少し分かれば、男らを行方不明にしてる、別嬪に取り憑いた『影』が、どんな奴か解るんだが。
『影』と言っても実体で無く“障気”。
黒いもやのような物だが、何人も人間を狩り力を持つと、ほぼ実体並みの強大な力を使うから、厄介だ。
奴らは人を乗っ取り、操り…そして人を苦しめる悪行や殺人をさせ、恐怖のエネルギーを、そして殺された魂を…自分の物にして、力を得る。
元は別世界の『光の国の民』だけあって、人外の力を使う。
人間の彼らでは…護符と呪文が頼りで、大して戦えない。
ゼイブンは『影』の“障気”が大物で無い事を祈り、寝台に寝転がって酒場で手に入れた食べ物を摘まみながら、天井を見た。
それでも夏祭りの楽箏が、窓の外から奏でられ、人々の賑わいを感じる。
むずむずした。
が、ここは我慢だ。
行方不明者が八人じゃ、小手先で“障気”を払い、その後美女と楽しむ。
…には無理がある。
有能なローフィスが来てくれたら『影』を彼に任せ、きっと安心して思う様遊べる。
が、気づいたら楽の音を聞きながらいつの間にか寝入ってた。
朝だ。
周囲は明るかったから、それは解ってた。
解らないのは…目前にローフィスの睨み顔が、寝ている自分を覗き込み。
体を起こした後も、ずっと続け様に愚痴垂れてる事だ。
「ペンダントの光を頼りに、俺がここに辿り着くのにどれ程苦労したのか、解らないか?!
いい加減、鳩か鷹くらい常に持ってろ!
『デスモンテの夏祭り』
そのたった1文で、こんなに苦労して探さなくても居場所が解ったのに!」
ゼイブンはぼりぼり背中描きながら、寝ぼけ眼で呟く。
「(…よくこの部屋が解ったな)
生き物連れてると世話しなきゃならん」
ローフィスが、きっ!と振り向く。
「なら、閃文字(モールス信号のようなもの)くらい、マトモにちゃんと覚えろ!!!
お前、俺より何年先に神聖神殿隊付き連隊に入隊してる?!
確かに年は俺が上だが、連隊ではお前が俺の、先輩じゃないか!!!」
迫力の青の瞳。
背にかかる程長い、金髪に近い栗毛。
背も同じくらい。
自分同様、大層軽い美男。
がローフィスはどう見ても、垂らしには見えないな。
客観的に、やって来た有能な同僚を見つめ、ゼイブンは肩竦める。
が、ローフィスは歯剥き怒鳴った。
「聞いてるのか!!!
お前が楽でも、呼び出される俺が大変だと、言ってるんだ!!!」
…どうやら一晩中馬で駆けて、この居場所に辿り着いた様子だ。
ゼイブンは寝台横の包みの、冷めた芋料理の欠片を、一つ摘まみ
「食うか?」
と芋を口に入れて包みを差し出す。
が、ローフィスの怒り顔は、いや増した。
「駆けつけた礼が、冷え切った残り物か!!!」
ゼイブンは仕方無く包みを下げると、芋の欠片を摘まみ上げて口に入れた。
が、ローフィスの怒りはどうやら収まってない。
(火に油注いだ事をゼイブンは解ってない)
「…さてはペンダントで呼び出せる相手しか、呼ばないのか!
どうして入隊し、まだたった半年の俺なんかじゃなく!
他の奴を呼ばない!!!」
ゼイブンは芋を頬張って、肩を竦める。
「…半年…ったって、覚えは早いし仕事も出来る。
次期神聖神殿隊付き連隊長候補に、もう名前上がってるじゃないか。
…他呼び出したりしたら、皆ほぼ無能だから。
俺が尻ぬぐい、で、余計な手間がかかる。
第一俺は仕事帰りの、休暇中なんだぞ?!」
が、ローフィスの眉が更に、吊り上がった。
「休暇だろうが、『影』見つけたら即!職務復帰だ!!!
休暇中だなんて言い訳は、俺は絶対聞かないぞ!!!」
ゼイブンは肩を竦めた。
ローフィスは幾ら怒鳴ってものれんに腕押しのようなゼイブンの返答に、それでもまだ怒りが消えず、どっか!と椅子に掛け、やっと休憩に入った。
ゼイブンはほっとすると、口開く。
「その横に、酒瓶がある。
途中『影』払った領主に貰った、まあまあの高級酒で…」
が、ローフィスは話の途中でもう瓶を掴み、ラッパ飲みしていた。
「…まだ一口しか飲んでないから、出来れば少しは…」
けれどローフィスは憮然、とした顔で、瓶を逆さに振り下げた。
ゼイブンは慌てた。
が、落ちたのは雫二滴。
ローフィスはまだ
『文句あるか?!』
と睨むので、ゼイブンは項垂れて言った。
「怒りが、少しはおさまったみたいで、良かったな」
ローフィスは返答をしなかった。
ローフィスの憮然とした形相は、連れだって周囲に聞き込みに回り始めても、まだそのままだった。
村の中央広場に続く、横幅の広い道に。
人々は着飾って行き来している。
が、去年に比べると確かに、その人の数は減っている。
その辺の浮かれ男を掴まえて尋ねるが、やっぱり…死体の様子は分からない。
行方不明者の数も、30人だとか3・4人だとか、言ってる事はバラバラ。
「…どうして死体を見た奴が居ないんだ?」
ローフィスは呟いて、自分を呼び出した男(ゼイブン)が通り過ぎる仮装した美女達を、ヨダレ垂らさんばかりに見つめているのに気づき、襟首掴んで引っ張った。
「俺一人に仕事させて自分は遊ぶ気か!
せめて敵の『影』がどんなか、知らせる責務が!
俺呼び出したお前には、あるんだぞ!!!」
ゼイブンは引きずられ、美女から遠ざかって項垂れる。
「…ともかく、酷かったとしか、そいつは言わなかった」
「…どんな『影』か、全然見当付かないのか?」
「付いてたらとっくにお前に、話してる」
ローフィスは投げやりにゼイブンの襟首放すと、思い切り溜息付いた。
「ああ…!
俺の知り合いが、すげぇ美人に付いてって、明け方死体で見つかった。
数人が布被せてやがって…顔だけ見たが、真っ青で明らかに死んでた」
そう話す男を見つけ出したローフィスは、やっぱり有能だ。
とゼイブンは話してる男で無く、横のきりっとした表情(かお)の印象的な青い瞳のローフィスを、しげしげと見ていた。
ローフィスは更に事情を尋ねる。
「…で、どんな死に様だった?」
「布かけられてたし…その男らが『酷いから見せられない』
って隠しちまって…。
死体もそいつらが埋める。
とかで…布に巻いて持って行っちまった」
「どいつらだ?」
男は人波の向こうを顔上げてはっ!と見、指さす。
ローフィスが、振り向く。
フェスティバルには相応しくない、いかつい顔したごろつき風の男が、五・六人。
ローフィスは情報くれた男に背向け、ゼイブンの襟首を掴み、引っ張った。
「おい…!
もういいだろう?!」
ゼイブンは横の美女に色目使われ、引っ張られながらも顔はそちらに向け続け、喚(わめ)く。
「『影』の正体くらい、お前が探索しとけ!
じゃないと俺はここでお前放って、帰るぞ!」
襟首引き寄せられて間近にローフィスに睨まれ、ゼイブンはようやく黙る。
が、やっぱり振り向き、自分に色目送った美女が、まだこっちを見てるかの確認を取った。
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