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ローフィスの追憶
しおりを挟むオーガスタスに酒を注がれて、ローフィスは飲み干す。
ロクに食べてなかったから、回るのは早かった。
酔ったアタマでぼんやり思い出す。
シェイルと会ったのは何歳だったけ?
ああ確か…五つの誕生日を迎えた、数日後…。
親父が嵐の夜、突然連れて戻って来た。
扉がバタンと大きな音を立てて開いて、親父の腕の中には、小さくて…けれど凄く綺麗で可愛い、天使がいた…。
金の混じる銀髪。
大きな緑の瞳。
赤い唇に白い肌…。
なんて綺麗な子だろう…。
見惚れたっけ。
女の人も一緒だったけど、ずぶ濡れで…随分やつれ、親父に叫ばれて俺は彼女を暖炉の側の、ソファに手を引いて座らせたっけ………。
小さな…幼いシェイルは向かいの椅子に、大人しく座ってた。
全然喋らず、ずっと俯いてた………。
それからシェイルは家の子になった。
笑って欲しかったけどシェイルは全然動かない。
まるで人形のように、じっとしてる。
けど女の人は…シェイルの母親は、高熱を出して過労で寝込み。
親父は治療できる療養所に彼女を連れて行き、そして暫く帰ってこなかった。
シェイルは殆ど食べず、俺が横に行っても、俺の事を怖がった。
俺は…凄く綺麗なシェイルにただ、笑って欲しかった…。
親父が療養所からまだ帰らない時だった。
また…嵐の夜で、扉がバタン!と開いて…長身の、まるで悪魔のようなぞっとする形相の男が入って来て…そしてシェイルを見て叫んだ。
「見つけたぞ!
もう逃がさない!」
俺が叫んで押し止めても部屋に強引に押し入って、シェイルの腕を掴む。
その時…人形のようなシェイルは初めて…恐怖の表情を見せた。
それで俺には分かった。
その男が敵なのだと。
俺は突進してシェイルと男の間に入り、シェイルを背に庇って叫んだ。
「出て行け!」
男は…色々言った。
後でシェイルは俺に聞いた。
「いっぱい脅されたのに。どうして怖く無かったの?」
聞かれて俺は苦笑した。
背後に回したシェイルの気配とその温もり。
それが小さくてか弱くて…だからこそ大切で、脅しなんて聞いちゃいなかった。
俺はガキだったから、倍以上背の高い大人の男に簡単に、平手を受けて振り払われそうになった。
けれどぎゅっ!とシェイルが俺の背の衣服をきつく握ったから…顔と上体を思いっきり振られたけれど、踏み止まった。
また…平手張られたし、腹をも殴られ、それでもどかず睨み付ける俺をシェイルからどかそうと…。
肩を掴まれ、引っ張られ…。
後で親父に褒められたが…それでも俺は、踏ん張り続けて退かなかった。
シェイルが唯一示したのが、恐怖の表情。
どれだけこの男が怖いのか。
それが痛い程分かったから…絶対退きたくなかった。
親父が扉から飛び込んで来てくれて…殴って男を家から追い出してくれた。
けれど翌日、家の外はごろつきでいっぱい。
親父が出てくれば殴り、家に押し入ってシェイルを奪おうと…手くずね引いて待ってる。
俺は親父に尋ねたっけ。
「シェイルを、守り切れない?」
窓辺のカーテンの影から外を見つめ、そう聞く俺に…親父は俺のアタマをぐりぐりなぜて言った。
「そんな事、絶対させないさ」
そして俺達は隠し通路から屋敷を出て…旅に出る事となった。
追っ手から、逃げる為に…。
シェイルはずっと人形してたから…旅先での世話は全部、俺がした。
食事の用意や着替えや洗濯。
宿がない時は野宿。
薪も運んで火も炊いた。
鍋に親父が調達してきた野ウサギの肉と、持ってた野菜を入れて、料理もした。
シェイルは…敵から俺が庇って以来、俺にずっと、くっついて回るようになった。
相変わらず小食で、喋りもせず、笑わず…。
それでも俺の事をもう、怖がらない。
親父に聞いたら、親父にとっての親友でシェイルの父親…が、亡くなったからだと。
敵はシェイルの…過労で入院した母親の兄で、シェイルには伯父に当たる。
その男は妹の結婚を許す代わりに、自分の城に住めと言い、同居させてある日、シェイルの父親を監禁した。
その男の妹であるシェイルの母親は…監禁された夫と、例え会えなくなっても兄に何も言えず…シェイルだけが、監禁された父親の部屋によく、行かされた。
繋がれている父親を見せつけられて…口を利かなくなった。
そしてある日、シェイルの父親は監禁場所から逃げ出し、三階のバルコニーから…自殺同然で、落ちて死んだ。
葬儀のどさくさに紛れ、シェイルの母親は幼いシェイルを連れて兄から逃げ出し、夫の親友だった親父に助けを求めた。
そして親父は形だけの結婚を、シェイルの母とし…シェイルを養子にして父親になり、シェイルを護り通すと、療養所にいるシェイルの母に約束した…。
シェイルは父を亡くしたばかり。
そして俺は…三歳の時、母を病で亡くしてた。
俺は…旅をしながらいつかシェイルの笑顔が見たいと…そう願い続けて必死で世話をし続けた…。
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