84 / 171
勝敗の行方
しおりを挟む
カンっ!
手練れのユネックが、早い剣でローフィスの狙い澄ました剣を弾く。
振る度崩れた体勢を戻すユネックが、一気にローフィスの腹に、剣を突き立てた。
案の定。
ローフィスは横に飛んで転がり避ける。
ユネックは素早く、ローフィスの転がる先へと、回り込もうとする。
が、ローフィスは途中転がる先を変え、ユネックから離れた場所で起き上がる。
あちこちからため息が漏れる。
「俺、決まったと思った」
「ホントに、身軽で素早いよな」
「確かにあれ仕留めるの、大変…」
ユネックはゆらり…と剣を握る肩を下げ、威嚇する。
かなりな迫力だった。
が、ローフィスは笑う。
「悪い。日頃オーガスタスと連んでなかったら、ビビってた」
ユネックはもうそのテには乗らない。
とばかり、一歩。また一歩。
凄い気迫で詰め寄る。
なのにローフィスは、棒立ちでため息吐く。
「ああ、分かった。
確かに逃げてても決着つかないしな。
好きなだけ、打ち合って剣の折れた方が負け。
それで、いいか?」
四年席からため息が漏れる。
「ああ睨まれて、普通笑うか?」
「…あいつ、小柄だけど度胸だけはあるな」
ローフィスは返事も聞かず、振り被って突っ込んで行く。
ユネックは柄を握り込み、上から振られるローフィスの剣を、思いっきり横に振り切って払い退ける。
カンっ!
が直ぐ剣を返し、再び横に早い剣で、振り戻した。
ローフィスが、足が床に着く程身を屈め、避ける。
「逃げないと言った癖に!」
叫んでユネックは身を屈めたローフィスに、真上から剣を振り被って振り下ろす。
が、ローフィスは素早く剣を持ち上げ、当てて止める。
カン!
「当たったら痛いじゃ無いか!」
ユネックは再び上から、身を屈めたままのローフィスへ、剣を振り下ろす。
「寸止めするさ!」
ローフィスは避けながら身を起こし、ユネックの腹目がけ剣を突く。
「そう言っといて、俺に当てたヤツを知ってる!
以来俺は、絶対避けると決めている!!!」
ユネックは、さっと避けて剣をローフィスの腹へと突き返す。
「ちゃんと、止める!!!」
ローフィスも、避けて更に突く。
「保証するか?!」
二人はかなり近い距離で、互いに剣を交互に突き入れては引く。
どっちも腹を左右に避けたり引っ込めたりして、立ち位置はほぼ変えない。
「保証する!!!」
ユネックが怒鳴り、二人ほぼ同時に相手に突き、真ん中でがっ!!!と剣がかち合って…。
カラン…カランカラン…。
とうとうローフィスの、僅かな剣先が弾け飛んだ。
「…あ」
ユネックはどさくさ紛れで相手の剣の、先っぽのほんの少しが、欠けて飛ぶのを見て呆然。
ローフィスは講師に振り向くと、見つめて尋ねた。
「…先のたった、これだけでも、折れた方が負け?」
講師は床に転がる2センチほどの折れた剣先を見つめ、頷いた。
「…じゃないとずっとお前らの対戦、見続ける羽目になる」
ローフィスはがっくり項垂れて三年席へと歩き出し、肘を曲げて手を上げ、背後、勝ち列に立ってるオーガスタスに振る。
オーガスタスは同様、肘曲げて手を上げ、少しだけ振り返す。
そしてユネックがまだ俯いているのを見て、声をかけた。
「お前の勝ちだ」
けれどユネックは顔を上げると、思わず叫んだ。
「こんな勝ち方、全っ然!!!
嬉しくないっ!!!」
場内の皆は、互いの顔を見合わす。
「…要はアレだろ?
ユネックの剣の方が高価で、ちゃんとした職人が作って。
ローフィスの剣が、安物だったから…」
「…言うな。
そんな負け方も勝ち方も…寂しすぎる」
「ユネックの気持ち、なんか凄く分かるぜ…」
皆一斉にため息交じりに囁き合った。
シュルツがこそっと、横のフィンスに囁く。
「あれだけ凄い戦いしたってのに。
どーーーして、彼の時って、拍手しづらいんだろう…」
フィンスとヤッケルは気遣ってシェイルを盗み見した。
シェイルが顔を下げてるから、ローランデが残念そうに、声かける。
「…負けちゃったね………」
シェイルはやっぱり顔を下げたまま。
ヤッケルがため息交じりに、シェイルに告げる。
「だとしても会場中はローフィスの事、“油断鳴らない対戦相手”
って、めちゃめちゃ警戒してるぜ?」
シェイルが、顔を上げる。
四年ですら。
“ローフィスとやると厄介”
と、眉間を寄せていた。
シェイルはけど、顔を下げて呟く。
「…でも“強い”っていうのとは…ちょっと違うよね?」
「あの体格であれだけやれれば、十分強いんじゃ無い?」
ヤッケルが言うと、ローランデも頷いた。
「ただ戦うだけじゃ無く、相手の心の動揺を誘って隙を作ったり。
普通振らない場所に剣を振って、びっくりさせて本来の実力が発揮できないようにしたり。
戦術的に、凄く見事だよ?」
ローランデに優しく言われて、シェイルは顔を上げる。
ローランデに微笑まれて、しょげた表情が次第に、微笑みに変わる。
エメラルドの瞳がキラキラ輝き、花がほころぶような、可憐な笑顔。
「俺、やっぱりローランデといる時のシェイルって、男の子に見えない」
ヤッケルのセリフに、フィンスとシュルツも無言で同意し、頷いた。
手練れのユネックが、早い剣でローフィスの狙い澄ました剣を弾く。
振る度崩れた体勢を戻すユネックが、一気にローフィスの腹に、剣を突き立てた。
案の定。
ローフィスは横に飛んで転がり避ける。
ユネックは素早く、ローフィスの転がる先へと、回り込もうとする。
が、ローフィスは途中転がる先を変え、ユネックから離れた場所で起き上がる。
あちこちからため息が漏れる。
「俺、決まったと思った」
「ホントに、身軽で素早いよな」
「確かにあれ仕留めるの、大変…」
ユネックはゆらり…と剣を握る肩を下げ、威嚇する。
かなりな迫力だった。
が、ローフィスは笑う。
「悪い。日頃オーガスタスと連んでなかったら、ビビってた」
ユネックはもうそのテには乗らない。
とばかり、一歩。また一歩。
凄い気迫で詰め寄る。
なのにローフィスは、棒立ちでため息吐く。
「ああ、分かった。
確かに逃げてても決着つかないしな。
好きなだけ、打ち合って剣の折れた方が負け。
それで、いいか?」
四年席からため息が漏れる。
「ああ睨まれて、普通笑うか?」
「…あいつ、小柄だけど度胸だけはあるな」
ローフィスは返事も聞かず、振り被って突っ込んで行く。
ユネックは柄を握り込み、上から振られるローフィスの剣を、思いっきり横に振り切って払い退ける。
カンっ!
が直ぐ剣を返し、再び横に早い剣で、振り戻した。
ローフィスが、足が床に着く程身を屈め、避ける。
「逃げないと言った癖に!」
叫んでユネックは身を屈めたローフィスに、真上から剣を振り被って振り下ろす。
が、ローフィスは素早く剣を持ち上げ、当てて止める。
カン!
「当たったら痛いじゃ無いか!」
ユネックは再び上から、身を屈めたままのローフィスへ、剣を振り下ろす。
「寸止めするさ!」
ローフィスは避けながら身を起こし、ユネックの腹目がけ剣を突く。
「そう言っといて、俺に当てたヤツを知ってる!
以来俺は、絶対避けると決めている!!!」
ユネックは、さっと避けて剣をローフィスの腹へと突き返す。
「ちゃんと、止める!!!」
ローフィスも、避けて更に突く。
「保証するか?!」
二人はかなり近い距離で、互いに剣を交互に突き入れては引く。
どっちも腹を左右に避けたり引っ込めたりして、立ち位置はほぼ変えない。
「保証する!!!」
ユネックが怒鳴り、二人ほぼ同時に相手に突き、真ん中でがっ!!!と剣がかち合って…。
カラン…カランカラン…。
とうとうローフィスの、僅かな剣先が弾け飛んだ。
「…あ」
ユネックはどさくさ紛れで相手の剣の、先っぽのほんの少しが、欠けて飛ぶのを見て呆然。
ローフィスは講師に振り向くと、見つめて尋ねた。
「…先のたった、これだけでも、折れた方が負け?」
講師は床に転がる2センチほどの折れた剣先を見つめ、頷いた。
「…じゃないとずっとお前らの対戦、見続ける羽目になる」
ローフィスはがっくり項垂れて三年席へと歩き出し、肘を曲げて手を上げ、背後、勝ち列に立ってるオーガスタスに振る。
オーガスタスは同様、肘曲げて手を上げ、少しだけ振り返す。
そしてユネックがまだ俯いているのを見て、声をかけた。
「お前の勝ちだ」
けれどユネックは顔を上げると、思わず叫んだ。
「こんな勝ち方、全っ然!!!
嬉しくないっ!!!」
場内の皆は、互いの顔を見合わす。
「…要はアレだろ?
ユネックの剣の方が高価で、ちゃんとした職人が作って。
ローフィスの剣が、安物だったから…」
「…言うな。
そんな負け方も勝ち方も…寂しすぎる」
「ユネックの気持ち、なんか凄く分かるぜ…」
皆一斉にため息交じりに囁き合った。
シュルツがこそっと、横のフィンスに囁く。
「あれだけ凄い戦いしたってのに。
どーーーして、彼の時って、拍手しづらいんだろう…」
フィンスとヤッケルは気遣ってシェイルを盗み見した。
シェイルが顔を下げてるから、ローランデが残念そうに、声かける。
「…負けちゃったね………」
シェイルはやっぱり顔を下げたまま。
ヤッケルがため息交じりに、シェイルに告げる。
「だとしても会場中はローフィスの事、“油断鳴らない対戦相手”
って、めちゃめちゃ警戒してるぜ?」
シェイルが、顔を上げる。
四年ですら。
“ローフィスとやると厄介”
と、眉間を寄せていた。
シェイルはけど、顔を下げて呟く。
「…でも“強い”っていうのとは…ちょっと違うよね?」
「あの体格であれだけやれれば、十分強いんじゃ無い?」
ヤッケルが言うと、ローランデも頷いた。
「ただ戦うだけじゃ無く、相手の心の動揺を誘って隙を作ったり。
普通振らない場所に剣を振って、びっくりさせて本来の実力が発揮できないようにしたり。
戦術的に、凄く見事だよ?」
ローランデに優しく言われて、シェイルは顔を上げる。
ローランデに微笑まれて、しょげた表情が次第に、微笑みに変わる。
エメラルドの瞳がキラキラ輝き、花がほころぶような、可憐な笑顔。
「俺、やっぱりローランデといる時のシェイルって、男の子に見えない」
ヤッケルのセリフに、フィンスとシュルツも無言で同意し、頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる